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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
197/226

●第109話【崩壊】

『こちら、現在屋上から避難者を地上に救出中。

 もうまもなく全員退避完了見込みだ。

 パラディン、侵入に成功したら、一階奥のバックヤード付近を重点的に見てくれないか』


「どうしたの? 何かあったの?」


『施設内の監視カメラを確認したが、その一角だけ不自然に映像情報が入らない。

 カメラに細工をされている可能性が考えられる。

 方角は北東の角だ』


「わかったわ、向かってみる!」


 帰社時間と被るせいか、大勢の人が天井ぎりぎりを飛ぶアンナパラディンを見上げる。

 スマホ撮影を行う人々からの恥辱に必死で耐えながら、パラディンは更に速度を上げて飛翔した。

 構内に、ジェット機の飛行音のようなものが響き渡る。




「――何よ、これ?!」


 渋谷駅地下街、6d出口付近に到着したアンナパラディンは、予想外過ぎる光景に思わず着地した。


 渋谷ぱるるへ通じる6d出口。

 そこからは、まるで数百年もの時を経て成長したような、巨大な“根”が飛び出しており、地下通路の一角を塞いでいたのだ。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第109話【崩壊】

 




 屋上に避難した者達は、あらかた救助された。

 最後に地上に戻された中年男性とその連れの女性、そして彼らを抱きかかえて降り立ったアンナローグとウィザードは、警察の現場隔離を押し切って来た野次馬達に取り囲まれてしまった。


「え? あ、あの~……あわわわ」


「やん、こ、困ります! 撮影は……なさらないでください。

 お願いします……」


「うわ、青い子めっちゃ可愛い♪」

「凄いですね! どうやって空を飛んでるんですか?」

「そのコスプレ可愛いけど過激ですね! そういうの着るの趣味なんですか?」

「あー、すみませんこっち目線ください!!」

「ちょっとインタビューいいですか~?!」

「おいコラ! 入っちゃいかん! 出て行きなさい!!」


 野次馬と警察が入り混じり、渋谷ぱるるの入口付近は一気にカオスな状況に陥る。

 スマホやデジカメのフラッシュの嵐、興奮して顔を寄せて来る男達の荒い息使い。

 まるでイベントにおけるコスプレ撮影の様相となってしまい、二人は顔を真っ赤にして狼狽えるしかない。


「おらぁ! 邪魔だ邪魔ぁっ! 危ねぇぞぉ!」


 そこに、アンナブレイザーが飛び込んで来て野次馬を散らそうとする。

 だが、逆に場は更に盛り上がり始めた。


「うわ、赤いのも来た!」

「今度はボーイッシュキャラか! いいな」

「よく見ると、スゲー美人……」

「だからぁ! 入っちゃダメだっつってるだろーがぁ!」


 またも盛り上がるギャラリーに、アンナブレイザーは指を振りながらチッチッと舌を鳴らす。


「おっとあんたら、こんな所でボゥッとしてていいの?」


「え? なんて?」

「どゆ事?」


「うちらの公式アカウントで、今すっげぇキャンペーンやってんのよ。

 撮影会の参加者募集中で、抽選百人様限り。

 しかも、好きな子を指名して個撮も可能だぜぇ!

 もうすっげぇインプレッションになってるし、リプも募集数もエグいことになってんぜ」


「おおお、マジかぁ!?」

「ちょ、その公式アカウントって何?」

「どうやって検索すればいいの?!」


「あんたらのそのスマホで調べてみりゃいいだろ?

 さぁ、急げ急げぇ!

 とっととアカウントフォローして応募して来いヤー!!」


「「「 うおおおおおおおお!! 」」」


 アンナブレイザーの言葉に乗せられた数十人くらいの男達が、ドドドと煙を立てて何処へともなく散って行く。

 その光景に、警官達とアンナセイヴァー達は唖然とさせられた。


「あの、ブレイザー……今のお話って、本当なんですか?」


「個撮って何でしょう? そういうお話は伺った記憶がありませんが」


 キョトンとするアンナローグとウィザードに、ブレイザーは呆れた顔を向ける。


「そんなん、大ウソに決まってんじゃん」


「えっ、嘘なんですか?!」


「なんだよウィザード?

 もしかしてぇ、アンタってそのえちぃ格好で、目の血走った男共に間近で撮影されたかった感じぃ?」


「そそそ、そんな事ないですっ!」


 顔を真っ赤にしてブンブン頭を振るウィザードと、いつの間にか取り出したシールドで髪ビンタを防ぐローグ。

 「さて、と」と区切りを入れると、ブレイザーは上を指差し表情を引き締めた。


「それよりまだ人が残ってるぞ! ぼやぼやすんなって」


「え? まだ……って、あっ!」


「そうだよ、あの二人!

 ミスティックが捜しに行ってるから、あたしらも行こう」


「そ、そうですね! 承知いたしました」


「皆さん、危ないので少しお下がりください!」


 スカートを押さえながら、アンナローグとウィザードが上昇する。

 それを見届けると、アンナブレイザーは呆然と眺めている野次馬達と警察官に向き直った。


「このままここに居続けると危険だよ。

 あんたらも早く避難して」


「き、君! この中では、いったい何が起こってるんだ?」


 年配の警察官の質問に、アンナブレイザーは腕組みをしながら答える。


「化け物が暴れてる。下手すると、じきにあんたらも巻き込まれんぞ」


「ひぇっ?!」


 それを聞いた警官は、慌てて野次馬達を遠ざけようと動き出す。

 建物を振り返ったブレイザーは、いつの間にか窓にびっしりこびりついた植物の根や蔓を睨みつける。


 その時、急にアンナパラディンからの通信が入った。


「あいもしもし、こちらブレイザー! 今どこ? オーバー」


『大変なことが起きてるわ、ブレイザー!

 地下街に、根っこが生えてる』


「日本語でプリーズ」


『日本語よ! 映像送るから観て!』


 アンナパラディンから送信された画像が、彼女の言葉が終わるより先に届く。

 それを観たブレイザーは、目をまん丸くした。


「え~っと、さすがにコラだろ?」


『なんでそんな暇人みたいな真似しなきゃならないのよ』


「どうなってんだこれぇ!? いやさ、どうすんだよこれ!」


『このままだと、地下街を行き来する人達も危険に晒される可能性があるわ。

 こっちは出来るだけなんとかしてみるけど、ブレイザーも何か異変があったら教えて』


「わかった!

 つうか、あたしが建物の中に入ってフォローすんわ」


『可能そうなら頼むわ。

 でも、無理はしないで。

 あくまで一般の人達の安全確保第一でお願いね』


「うむ、ラジャった!」


 そう言い放つと、アンナブレイザーは空高く飛び上がっっていく。

 警察に押されながらも、野次馬達はそんな彼女の姿をカメラで追い続けていた。




 澪達が居た階段とは違う場所、一階フロア従業員用のバックヤードでも隔壁が閉じられており、植物の侵入を防いでいた。

 その中には三十人以上もの避難者がおり、隅の方に固まっている。


 しかしその中にたった一人、皆から離れて佇む少女が居た。

 大垣美鈴だ。


「ふふ、いい感じ。

 みんな死んじゃえばいいのよ」


 その言葉を耳にした避難者の一人の男性が、顔を真っ赤にして美鈴に詰め寄った。


「おいあんた! この状況で冗談でもそういうこと言うなよ!」


 かなり追い詰められた状況なせいか、男は怒りを押さえながら話しかける。

 だが美鈴は、そんな彼の態度に露骨な舌打ちを返して来た。


「はぁん? あんたから死にたいの?」


「ふざけるな! お前こそ――」


「あんただってどうせ、普段は他人に興味も関心もないんでしょ?」


「? なんの話だ?」


「だから酷い目に遭ってる人が居てもガン無視するし、絶対に助けないし」


「おい、いい加減にしないと」


「こういう時だけは、他人に干渉するんだね。

 都合がいいっていくか、適当っていうか」


「この……!」


 男が美鈴の肩に手をかけたその瞬間、どこからか黒い物が飛んで来て、男の顔にぶち当たった。

 血が飛び散り、もんどり打つ。


「うがあぁっ?! い、痛てぇっ!!」


 顔を押さえて苦しそうにうずくまる男と、それを遠目に見ながら何も動こうとしない避難者達。

 そんな彼らを、美鈴は憎々し気に睨みつけた。


「そういうとこよ!

 困ってる人がいても、助けを求めてる人がいても、あんた達は無視して! 関係ないって顔して!

 そういうのが、許せないっていうのよ!」


 美鈴が、大声で叫ぶ。

 その途端、店舗を隔てていた隔壁がドズンと大きな音を立てて、へこんだ。





「ちょ、ちょっとアンタ、何者だね?」


 駅員と思われる男性が数人、そして彼らの後ろには大勢の野次馬が居る。

 彼らは皆、オレンジ色のコスチュームをまとって突如飛来した女性に注目する。

 殆どの男達の目が、自分のバストに向けられている事を察しながら、アンナパラディンはコホンと咳払いをした。


「申し訳ありませんが、今は説明している時間が。

 それより、ここから離れてください。

 巻き込まれてしまう危険がありますので」


「巻き込まれる?

 この根っこと何か関係が?」


「今、これを除去します。

 恐れ入りますが、この入口に誰も近付けないよう、この周辺一体を封鎖して戴けないでしょうか」


「ふ、封鎖?!」

「いったい何がどうなって……」


「この植物は、動き出したら人間を襲います。

 ですから、離れてください!」


 そう言うが早いか、アンナパラディンは腰のリボンを引き抜き、ホイールブレードを召喚する。

 

「はぁっ!!」


 気合の声を上げて、出口を完全に塞いでいる巨大な根に斬りかかる。

 突然の状況についていけない駅員達の目の前で、アンナパラディンは巨大な根に超振動を発する刃を叩きつけた。

 根がぶるんと大きく震えたかと思うと、まるでスポンジのようにスムーズに切断されてしまう。


「うわっ!」

「ええっ?!」


 驚きの声をバックに、パラディンは次の展開に備えて再び剣を構える。

 切断された根はみるみるしぼんで行き、空気が抜けた風船のようにしなびてしまった。

 出口の方から伸びていた部分は、物凄いスピードで奥へ引っ込んでしまう。

 

「それでは、封鎖の方、よろしくお願いします」


「え? あ、はぁ」


 駅員達に念を押すと、アンナパラディンは素早くホイールブレードを収納し、階段を駆け上がる。

 その光景をボウっと眺めていた駅員達は、すぐにハッとなって周囲の野次馬達に呼びかけた。


「すみません、危ないから下がってください!」

「こちらの出入口は使用しないでください! 危険です!」



 6d出口を駆け上がったアンナパラディンは、ようやく渋谷ぱるるの内部に入り込む。

 だがそこは、既に人間が作り出した建造物の中ではなくなっていた。


 まるで、鬱蒼としたジャングル――


(想像以上の酷さね。

 これが全部、観葉植物が変化したものだっていうの?!)


 余りにも想定外過ぎる状況に、パラディンの思考も一瞬停止する。

 だが、天井からぶら下がっている無数の実のようなものを見て、すぐに気を取り戻す。


「ブレイザー、中に侵入出来たわ。

 こっちのフォローは大丈夫よ」


 通信を送ると、パラディンは素早く低空飛行で店内を移動し始めた。




 その頃、アンナミスティックは単身階段を降り続けていた。

 避難者を誘導していた二人の女性が、まだ上がって来ていない為だ。


「お~い、お~い!

 誰かぁ、返事してぇ~!!

 もぉ~、どこ行っちゃったのぉ?」


 一階まで降りて来たものの、とうとう誰にも逢えなかったミスティックは、困り顔で周囲を見渡す。

 すると、一階フロアに通じる隔壁の扉が、ごく僅か開いているのが見えた。


「も、もしかして、こっから出ちゃったの?!

 にゃあ~! 危ないよぉ!!」


 隔壁の扉に触れると、簡単に開いてしまう。

 確信を得たアンナミスティックは、AIにローグ達との情報共有を指示すると、右脚のリングを抜き取り、マジカルロッドを出現させる。


「タイプ1・メイスっと」


 マジカルロッドが変型し、全長七十センチ程の棍棒型になる。

 静かにドアを開けると、ミスティックは深呼吸をしてフロアに身を乗り出した。


「きゃっ?!」


 思わず、短い悲鳴を上げる。

 一面に拡がる蔓や茎、大きな葉。

 床を覆い尽くす木の根と、そこから触手のように生える繊毛。

 天井からぶら下がる、気味の悪い巨大な実――


 アンナミスティックが見たのは、まるでジャングルのように変貌を遂げた店舗フロアだった。


 と同時に、彼女の耳に男性の悲鳴のようなものが微かに聞こえた。

 続けて、ドズンという大きな衝撃音も。


「えっ? えっ?!

 い、今の何?!」


 激しい音と謎の悲鳴に困惑しながらも、ミスティックはAIが導き出した音源位置を目指して飛ぼうとする。

 だがその時、背後から何者かの飛行音が響いて来た。


「おっ、ミスティックいた!」


「あっ、ブレイザー!

 来てくれたの?」


「ああ、だけどこれから地下への連絡通路へ行くんだ。

 ミスティックは――」


 アンナブレイザーがそこまで言いかけた時、突然、建物全体から激しい崩壊音が鳴り響いた。


「んなっ?!」


「きゃあっ!!」


 二人の上に、無数の瓦礫が降り注ぐ。

 一階の天井が、崩れ始めたのだ。

 建物が斜めに倒れて行くような感覚の中、アンナミスティックとブレイザーは、とてつもない量の粉塵で一瞬にして視界を奪われる。

 次々に降り注ぐコンクリートの破片は、容赦なく二人に襲い掛かる。

 まるで巨大な地震が発生したかのように、渋谷ぱるる全体が揺れた。


 

 植物の膨張がトリガーとなり、渋谷ぱるるの二階と三階に渡る吹き抜けのバルコニーが崩壊、これが更に連鎖を引き起こし、建物全体が前のめりになるように崩れたのだ。


 無論、その崩壊の影響はは外部にも及ぶ。

 幸い、建物全体が崩れたわけではなかったが、前面部は原型を留めていない。

 大量の粉塵と瓦礫は容赦なく野次馬や警官達に襲い掛かったが、現場隔離がぎりぎり間に合ったようで、瓦礫の下敷きになった者はいなかった。


 ――建物の外に、は。




「渋谷ぱるるが崩壊しました!」


 オペレーターの報告を受け、勇次は険しい顔で空間投影画面を見上げる。

 そこには前面部が完全に崩れ、スクランブル交差点にまで瓦礫を飛ばしている無残な建造物の姿があった。


「アンナセイヴァーの状況は?!」


「全員無事です! ですが――」


「どうした?!」


「アンナミスティックとブレイザー、パラディンが一階フロア内で。

 アンナウィザードとローグが二階辺りで行動不能状態です。

 アンナチェイサーは確認が出来ません!」


「なんということだ……」


 戸惑いの色を見せる勇次に、別なオペレーターが声をかける。


「リーダー! 通信です!」


「誰からだ」


「アンナチェイサーです!」


「なんだと?! 繋いでくれ!」


 意外な人物からの通信に、勇次は眉間に皺を寄せる。

 モニタには、アンナチェイサーの顔が映し出される。


『XENOの本体を補足した』


「なんだと?! 今何処にいる?!」


『ここだ。

 一階のバックヤード』


 チェイサーから送られた映像は、北東角にマーキングを施した一階のフロアマップだ。


「どうしてそこだとわかった?」


『このエリアの監視カメラだけ不自然に映像が確認出来なかったが、ついさっき急に確認出来るようになった。

 なのですかさず侵入した』


 そう説明すると同時に、更に映像が送られてきた。

 そこは、見たこともない不気味な物体に壁や天井、床がびっしり埋め尽くされた空間。

 中央部にそそり立つ、真っ黒な樹のようなものから生えている枝の一部に、衣服を纏っていない女性の後ろ姿が見える。

 よく見ると、その女性の長い髪は樹と同化しており、奥の方に居る避難者達と比べると幾分身体も大きいように思える。


「これが――ドライアードの本体か!」


 樹の上の女性が、こちらに意識を向ける。


『通信、終わり!』


「おいちょっと待t――」


 一方的に通信を切られ、勇次は困惑しながらも他のアンナセイヴァー達に呼びかける。


「みんな、一階北東部にドライアードの本体が居る!

 向かえるか?!」


「リーダー、全員行動不能の状態です!

 移動は――」



『何とかやってみらぁ!』

『うん、任せて!!』



 そこに、アンナブレイザーとミスティックからの通信が飛び込む。


「無事か! 二人とも!!」


『ミスティックが、咄嗟に科学魔法を使ってくれたんだ!』

『ゆーじさん! 今からパワージグラットを使うね!』


「パワージグラットだと?!

 馬鹿な、今使っても」


『一旦並行世界に移動して、そこからバックヤードに侵入して戻る!

 これなら、派手に動いても影響は出ないだろ!』

『うんそう! あったまいいねぇ、ブレイザー!』


「――な、なるほど」


 意外なアイデアにキョトンとするも、勇次はすかさず許可を出した。


「頼んだぞ、二人とも!

 位置情報を送る!」


『『 了解っ!! 』』




「じゃあいっくよぉ! パワージグラットぉ!!」


 

“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 100 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.”


“Checking the moving body reaction in the specified range.

--done.

Motion response outside the utility specification was not detected.”



「うりゃああっ!!」


 ド派手な爆発音を立てて、瓦礫の山を吹き飛ばすと、アンナブレイザーとミスティックは北東の角を目指す。

 建物の北側は倒壊を免れたようで、まだ幾分空間が残っていた。

 

「ここだな、行くぞ!

 ファイヤーナックル!」


「マジカルロッドぉ!!」


 大きく歪んだバックヤードの隔壁に向かって、二人はそれぞれの武器を思い切り振り上げた。






 一方、ここは通常世界。

 倒壊したブロックの瓦礫の中、暗黒の空間に一人の男のビジョンが現れた。


 ――キリエだ。


「フッ、おあつらえ向きだな。

 俺が目を付けた逸材よ、お前の抱くどす黒い欲望を叶えるが良い。

 その為の、新たな力を授け――うん?」


 カプセルを握り締めるキリエの手が、止まる。


「な、なんだ? どっちだ?

 同じ顔じゃないか! どうしてこんな瓜二つな奴がこんな傍に居るんだ?!」


 眼下の様子を見て、珍しくキリエは取り乱していた。

 やがて、人差し指を行ったり来たりさせ始める。


「う、う~む……五十パーセントの確率か。

 まぁ、いいだろう。

 どっちであれ、きっと何かしらの欲望は持っているのだろうしな」


 そう呟くと、キリエはカプセルを解放し、その中身を片方の人物に向けて垂らす。


 カプセルの中から、半透明の不気味な物体が零れ落ちていった。




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