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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
196/226

●第108話【地下】


 JR渋谷駅ハチ公口付近の商業施設・渋谷ぱるるは、正体不明の植物の急速な繁茂により内部から閉鎖され、中には大勢の一般客や従業員、警備員等が閉じ込められた状態だ。

 またSNSで本件を予言するような書き込みがバズった影響もあり、通常ではありえない程の野次馬が集まった為、救急車両やレスキュー車両はおろか一般車両すらもまともに通行が出来ない事態へと発展した。


 当然、警察も現場にやって来たが、ハロウィン時を上回るような人混みに苦戦し、現場封鎖もままならない状況だ。


 しかも、施設の中で何が起きているのか、被害状況も判断が付かない。

 もはや渋谷のスクランブル交差点周辺は、何者も身動き一つ取れない程の超密集状態へと陥っていた。


 その状況をTV放送で観ていた司は、コーヒーを飲みながら思っていた。


(警察のヤマが見事に外れて、現場は渋谷……しかも事前警備が最も困難な場所を突いて来た、か。

 もし、これがXENOVIA達の作戦によるものなら、これだけで済む筈がない。

 必ず、次の手を打って来る筈だ)


 司は、署内の面々の様子を窺うと例のタブレットを持ち出し、人気のない所へ移動しようとする。

 しかし、部屋を出た直後に掴まってしまう。


「課長! どちらへ?」


 高輪翼だ。

 何か報告でもしようとしていたのか、今にも何かを怒涛の勢いで語り出しそうな気配をプンプンさせている。


「おう、どうした?」


「この騒ぎにすみません。

 先日ご指示頂いた、例のUSB関連の調査について追加報告が」


「緊急?」


「ええ、内容が内容なもので! 是非!」


「……わかった、窺おう」


 目をキラキラさせて迫る高輪の意気に圧され、“SAVE.”への連絡をやむなく中断する。

 司は手近の空き室を探すと、そこに高輪を導いた。


 部屋に入る瞬間、高輪が小声で「やった♪」と囁いたような気がしたが、あえて何も聞かなかったことにした。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第108話【地下】

 






『緊急事態よ。

 渋谷ぱるるがXENOと思われる存在に襲撃を受けているわ。

 大至急向かって頂戴』


 アンナパラディンの通信を受け、品川及び新橋周辺を周回していたナイトクローラー二号機・三号機から二つの光が飛び立った。

 アンナウィザードと、アンナミスティックだ。


「ウィザード! やっぱり渋谷だったね!」


「そうですね。でも、渋谷ぱるるってことは一番人が集まるところですよ」


「うん大丈夫、着いたらすぐにパワージグラット使うからね!」


『いや、それなんだが』


 姉妹の会話に、突然凱からの通信が飛び込んで来る。


「ふわ?!」


「お兄様、どうかしたのですか?」


『施設内の監視カメラ映像を入手したんだが、肝心のXENO本体が発見出来ていない。

 さっき送った資料にあった植物の化け物は、XENO本体ではない事が判明してる』


「え? ちょ、じゃあ」


『そうだ、XENO本体がわからない以上、ミスティックのユーティリティで捉えることが出来ないんだ』


「それじゃあ、パワージグラットで並行世界に飛ばすのは――」


『当然不可能になる。

 なので、XENOが特定されるまでは、被害を食い止め救助活動が優先になる』


「ええ~! そ、そうなの~?」


 驚きの声を上げるアンナミスティックに、表情を引き締めるウィザード。

 凱の声にも、緊張感が多分に含まれている。


『いいか、今回は今までみたいには行かないぞ。

 まもなく勇次から作戦指示があるから、それまで二人は現場でアンナローグのサポートを頼む』 


「「 了解! 」」


 青と緑の閃光が、渋谷に向かって飛んでいく。

 そしてそれよりも若干早く、赤い光が現場に到着した。



「よいしょっと、到着! ……って、あれ?」


 渋谷ぱるる上空に到着したアンナブレイザーは、眼下にゾロリと集結している野次馬の数に驚く。

 同時に、自分に向けられるカメラのフラッシュも。


「なんだなんだ? なんでこんなに集まってんだ?!

 お~い、ブレイザーちゃん只今到着ですよ~!」


 通信を送ると、即座に反応したビーコンがある。

 アンナローグだ。


『ブレイザー、すみませんが屋上までお越し戴けませんか?』


「ローグ? どしたん?」


『屋上から避難させたい人達がおりますが、私一人では人手が!』


「おっけ、まかせとけ!」


 素早く屋上に向かうと、そこには数名の男女とアンナローグの姿があった。





 時間は、若干遡る。

 二人の美女と別れたアンナローグは、フォトンドライブを微調整して器用に階段を降りて行く。

 三階に相当する階段に到達すると、そこには思いの外大勢の人がひしめき合っていた。

 アンナローグの姿を見て、皆歓声を上げる。


「皆さん、落ち着いてください!

 屋上から避難が可能ですので、どうかこのまま上への移動をお願いします!」


「ほ、本当に出られるのか?」

「助かったぁ!」

「もしかしてコスプレの人? 来たの?」

「なんで浮かんでるの?!」


 様々な反応をする人々に苦笑しながら、アンナローグは階段に降り立ち、避難を促す。

 人数は、AIの測定で二十八人。

 その中には老人も五人程含まれており、中には妊婦も居るようだ。


「大変なんだ! ね、根っこが外で暴れていて!」

「人が捕まってるんだ! 殺された人もいる!」


 何人かの者が、必死で隔壁の外の状況を伝えようとする。

 ローグはひとまず彼らをなだめて屋上への移動を促すと、隔壁を睨みつけた。


「この向こうに……」


 アンナローグは、左手首に装着している腕時計型のツール・オートマッパーを見つめながら、エンジェルライナーを隔壁に接触させた。




「お~い、こっちだよぉ!」


 アンナブレイザーが屋上に到着すると、彼女の周りに人が集まり出す。

 その中の一人、妙に整った顔つきの女性が話しかけて来た。


「あの、あなたはアンナの……」


「どうして知ってんだよ?」


「あの、それは置いといて!

 すみませんが、安全な所までこの方々を運んで戴けませんか?」


 そう言いながら、身重そうな女性や老人を示す。

 よく見ると、その女性は薄ブルーのワンピースの端をボロボロに汚している。


「うん、わかった!

 じゃあそこの人とそこのお婆さん、あたしに掴まって!」


 身重の女性を軽々と両手で抱き上げ、老婆は背中に背負う。

 首から伸びている二本のリボンが、器用に老婆の身体を支えた。


 屋上に上がった残り数名は、心配そうに三人を見つめる。


「じゃあ、お願いします!」


「おう! じゃあ行くよ、怖かったら目を瞑ってて!」


 抱えた二人にそう呼びかけると、アンナブレイザーは夜の帳が降り始めた空に向かって浮かび上がった。




 アンナブレイザーが二人を救助し降下して来た頃、青と緑の光がようやく到着する。

 空から舞い降りるブレイザーに向かって、一斉にシャッター音が襲い掛かる。


「おい! そこ空けて!

 どんどん下ろすから! おい、どけってば!」


 わざとフォトンドライブを激しく光らせ、野次馬を無理矢理移動させる。

 ようやく路面に着陸すると、アンナブレイザーは近くにいた男性三人組に目を止めた。


「おい、あんたら!」


「へ、お、俺?」


「そうだよ!

 この人達を安全なところに避難させてやって!」


「な、なんで俺らが」


「緊急事態なんだってば! 協力してよ、頼むぜ!」


「お、おう……」


 渋々といった態度で、ブレイザーが下ろした二人を保護する男性グループ。

 しかし、その周囲の人達も見かねてフォローし始めた為、どうにかなりそうな雰囲気だ。

 再び飛び立とうとすると、妊婦が大きな声で呼びかけてきた。


「あ、あの! すみません!」


「あ、どしたん?」


「中に、中にまだ主人が!」


「おっけ! 任せな!」


 それだけ呟くと、アンナブレイザーは妊婦にサムズアップして再び屋上へ飛び上がった。





 屋上では、アンナローグとウィザード、ミスティックが集まっていた。

 三人とも、それぞれ二人ずつ脱出させようとしている。

 階段からは、次々と避難していた人達が上がって来る。

 見ると、さっきの美女ともう一人そっくりな女性が、他の人達を率先して脱出させようとしているみたいだった。


「ブレイザー! 来てくださったんですね!」


「急げ三人とも! どんどん運ぶぞ!」


「うん! じゃあいっくよぉ!」


 アンナミスティックが女性と男性を抱えて飛び立つ。

 その後を追って、ウィザードも。

 続けてアンナローグが子供二人を抱きかかえて飛ぼうとした時、例の美女が話しかけて来た。


「あの、建物が軋む音がしてるんです!

 もしかしたら、倒壊するかもしれません!」


「なんですって?!」


「それに、まだ上がって来てない人がいるんです!」


 よく似たもう一人の美女も、必死な声で報告する。

 アンナローグとブレイザーは、顔を見合わせて頷いた。


「ローグ、ひとまずその子達を!」


「ブレイザーは?」


「あたしは中の様子を見に行く」


「あの、それなんですけど!」


 美女が身を乗り出して提案してくる。


「アンナセイヴァーの皆さんは、そのまま救助を続行してくださいませんか?」


「だからさ、なんでその名前を知ってんだよ?!」


「その件はいずれ!

 他の人達は、ボクがここまで誘導しますから!」


「あ、僕もやります!

 とにかくお二人は一刻も早く!」


 もう一人の美女も、名乗り出る。

 アンナブレイザーは、困り顔で頭を掻いた。


「い、いいのかな~」


「ブレイザー、この方々の仰る通りです!

 確かに今は一刻を争います!」


「た、確かに……そうだな」


「お二人とも、申し訳ありません、ご協力お願いいたします!」


「はい!」


 簡潔に返事をすると、二人はまた階段の方へ戻って行く。

 それを横目に、ローグとブレイザーは再び空に飛び上がった。

 子供達が奇声を上げる。


 入れ替わるように、アンナウィザードとミスティック、そしてもう一体の影が現れた。


「チェイサー!」


「私も加わる。急ぐぞ!」


「ありがとう! ねぇ、パラディンは?」


「パラディンは別行動中だ」


「別行動?」


 アンナミスティックの疑問の声に、チェイサーは表情を変えずに答える。


「いずれわかる。今は救助に専念を」


「うん、そうだね!」


「急ぎましょう!」


 三つの閃光が、屋上へと飛ぶ。

 地上では相変わらずアンナセイヴァー達を撮影しようと野次馬が集まっているが、救助された人達が集まり出した為に多少状況が変わって来た。

 ようやく駆け付けた警察官達が、助け出された人達を逃がす為ルートの確保を行い出し、渋谷ぱるる周辺の人員整理がようやく開始された。


「なぁ、今このビル、軋まなかった?」

「ああ、何か聞こえたよな?」

「どしたん?」

「いやさ、ミシミシって音が聞こえて来たから――」


 次の瞬間、何処からともなく細かい破片のようなものが落ちて来て、一部の野次馬の頭の上に降りかかって来た。




 同じ頃、渋谷ぱるる内部では。

 植物の蔓や根が更に膨張、分裂を繰り返し、もやは全ての階層・フロアが占拠されている状況だった。

 そして各所には、一部が異様に膨らんだ植物が、天井や吹き抜けにぶら下がっている。


  一方、避難者はアンナローグ達が侵入した階段とは別な所にもおり、従業員用のバックヤードでも隔壁が閉じられて植物の侵入を防いでいた。

 そしてその避難者の中には、大垣美鈴の姿もある――


 その中に設置されている監視カメラには黒い蓋状の物体が貼り付き、レンズを覆い隠している。

 それは黒カビのようなものが繁殖したものだったが、美鈴はそれをちらりと眺めてほくそ笑んだ。



「蛭田リーダー、渋谷ぱるる内の植物が肥大化した影響か、建物の耐久性が著しく低下している可能性が考えられます。

 このままでは、最悪の場合倒壊の可能性も出て来ます!」


 オペレーターの報告に、勇次は即座に手近の端末に向かい合う。

 その表情は焦りの色に満ちている。


「パラディン、聞こえるか!

 現場の倒壊の危険が考えられる。

 内部のより詳しい情報が欲しい。中に潜入出来るか?」


『了解、やってみます』


「多少派手にやっても構わん。

 なんとしても中に入り、より詳しい状況を報告してくれ」


『はい、これより突入開始します』


 アンナパラディンは通信を切ると、渋谷ぱるるに向かって一直線に降下した。


(もしこれが陽動だったら、完全に出遅れてしまう事になるけれど……今はそれどころじゃないわ!)


 人が密集する渋谷スクランブル交差点上空に差し掛かると、アンナパラディンは渋谷ぱるるの外観を見るなり、再び地下迷宮ダンジョンに交信した。

  

「蛭田博士、渋谷ぱるるの内部情報をデータで送信願います」


『おっとパラディン、それならこっちから転送するよ!』


 今川の声が飛び込み、間髪入れずに内部マップデータが送信される。

 こちらの意図を汲んでくれたのか、そこには植物が蔓延している状況も付加されていた。


(あらゆる窓や入口は内側から封鎖されているようね。

 だとすると、仮に強行突破したとしても植物が襲い掛かって来る可能性があるわ。

 リスクが高すぎる。だとしたら――)


「今川さん、渋谷ぱるるは、確か地下通路からも入る事が出来ましたよね?」


 「私、行った事ないからわからないんだけど」と心の中で思いながら尋ねる。


『うん、6d出口から行ける筈だよ』


「わかりました。

 ――AI、渋谷駅地下のマップを。

 6d出口までの最短ルートを提示して」


 視界内に、AIが導き出した回答「A7b番出口」からの侵入経路が表示される。

 アンナパラディンは、スクランブル交差点を通過すると、高架手前で着陸する。

 この辺は比較的野次馬の数も多くない。

 驚きの眼差しを向けて来る人々の視線をかいくぐるように、アンナパラディンは「しぶちか」と書かれた地下通路への入口に飛び込んだ。


(まさか、この格好のままで、渋谷を歩くことになるなんて思わなかったわ!)


 顔を真っ赤に染め、スカートの端を手で押さえながら、アンナパラディンは恥ずかしさに耐えて階段を駆け下りる。

 地下通路に降り立った瞬間、フォトンドライブで浮き上がり、一気に目的の出口を目指して飛んだ。


「みんな聞いて!

 今から渋谷ぱるるの地下より内部へ潜入するわ。

 そちらの状況を報告して!」


 パラディンの呼びかけに真っ先に反応したのは、アンナチェイサーだった。


『こちら、現在屋上から避難者を地上に救出中。

 もうまもなく全員退避完了見込みだ。

 パラディン、侵入に成功したら、一階奥のバックヤード付近を重点的に見てくれないか』


「どうしたの? 何かあったの?」


『施設内の監視カメラを確認したが、その一角だけ不自然に映像情報が入らない。

 カメラに細工をされている可能性が考えられる。

 方角は北東の角だ』


「わかったわ、向かってみる!」


 帰社時間と被るせいか、大勢の人が天井ぎりぎりを飛ぶアンナパラディンを見上げる。

 スマホ撮影を行う人々からの恥辱に必死で耐えながら、パラディンは更に速度を上げて飛翔した。

 構内に、ジェット機の飛行音のようなものが響き渡る。





 アンナミスティックが、科学魔法「フォトンディフェンサー」を使い、半球状のバリアをひっくり返すことで一度に大勢運べることが判明した為、避難効率が飛躍的に高まっていた。

 屋上からは殆どの避難者が救出されたが、何故かあの美女二人が上がって来ない。


「おかしいですね、どうして来ないんでしょう?」


「あたしらで様子を見に行こう。

 ミスティックはすぐに降りて、ウィザードはフォローを頼む」


「承知いたしました! お気をつけて」


「じゃあ行くね! よっこらしょっと!」


 ブレイザーの指示に従って、アンナミスティックは巨大なバリアを持ち上げて空に浮かび上がる。

 もうすっかり暗くなった空に舞い上がると、二人は迷うことなく下に降りていく。



 だが、その直後。

 渋谷ぱるる内部から、激しい崩壊音が鳴り響いた。




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