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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
195/226

●第107話【渋谷】


 渋谷ぱるるに入店してしばらく後。

 亜紀は、一階フロアで美鈴とばったり出会った。


 美鈴は、まるで最初から彼女がここに来るのを知っていたかのように、驚きもしない。

 それどころか、睨みつけるような鋭い視線を向けて来る。


 その態度が、亜紀の逆鱗に触れる。


「大垣ぃ、どうしたのこんなとこで。

 アンタみたいのが来るとこじゃないよ、ここは」


「……」


「それよりさ、あんたバイトの申し込みしたの?

 約束ちゃんと守ってくれないと困るんだよねぇ~」


 睨め上げるように、美鈴の視線を真向から受け止める。

 大勢の客が出入りする入口の中央で、二人はまるで対峙するかのように見つめ合っていた。


「こんなとこいないで早く行きなよ。

 さもないと、またミッチ達行かせるよ?」


 ミッチとは亜紀の男友達の一人で、以前美鈴をレイプした存在だ。

 その言葉に、美鈴の表情と、目の色が変わる。


「早よ行けって」


 横を通り過ぎようとして、脚を蹴飛ばす。

 それが決定打になった。



「――殺す」



「は?」


 美鈴の呟きに、振り返る。


「あんた、今なんつったん?」


「殺す、と言った」


「はぁ? 誰を? 誰が?」


「お前をだ」


「はぁ~? とうとう頭おかしくなった?

 あんたみたいなザコに、何が出来るっつの。

 いいの、そんな事言って?

 明日からアンタ、もっと酷――」


「今ここで、お前を殺す。

 ――私がだぁ!!」


 美鈴がそう叫んだ瞬間、突然、亜紀の足元に何かが絡みついた。


 それは、植物の蔓のようなもの。


 何処から伸びて来たのか、遠くから瞬時に接近し、一瞬のうちに亜紀を捕らえたのだ。


「ひぃ?! な、なんだこれぇ?!」


「お前は、ここでじっくり時間をかけて殺してやる。

 お前だけじゃない!

 お前の仲間も一人残らず、今日中に皆殺しにしてやる!」


 そう叫ぶと、美鈴は亜紀や、驚いて立ち止まる客を無視して店舗の奥へ歩いて行ってしまう。

 何が起きたのか事態が把握出来ない亜紀は、突然脚に走った激痛に呻いた。


「う、うわぁっ?! だ、誰か助けてぇ!

 お、大垣ぃ~~!!」


 彼女の脚に絡みついた蔓。

 それはどんどん太くなり、巻き付く量も増え、脚全体を覆うように侵攻を開始する。


 亜紀の手から、紙袋が落下した。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第107話【渋谷】

 






 ここは、西新宿。

 あまり良い想い出のないこの場所で、アンナブレイザーはふてくされながらビルの屋上で寝っ転がっていた。


 ビルと云っても、都庁最上部のヘリポートだが。


「あ~~ヒマ、暇だぁ!

 なんかゲーム機かマンガでも持ってくりゃ良かったなぁ」


 その後の更なるSNSへの書き込みで、



“謎のコスプレ集団出現情報 続報でーす

 二十三区内でSが付く場所

 時間はたぶん夕方かな?”



 というものが発見されたため、ありさは新宿を担当することになった。

 舞衣や恵も実装完了後、ナイトクローラーにそれぞれ搭乗して品川、新橋方面へ向かっている。

 遥か上空で待機しているアンナパラディンが、各ナイトクローラーや地下迷宮ダンジョンからの通報を受け、情報を確認後に各メンバーに指示を出す段取りだ。


 しかし未来は昼過ぎから先行で動くと言い出した為、ありさはかなり早いうちから実装を強要され、もう二時間近くも独りぼっちで待たされている状況だ。

 

「お~い、空飛ぶ超巨大おっぱい。

 状況なんか変わったぁ?」


『こういう時に、そういう冗談はやめて!』


 即座に通信が返って来る。


『こっちは寝転がることも出来ずにずっと浮かびっ放しなんだから、もっと辛いわよ。

 私達が暇であればあるほど良いことなんだからね』


「あいあい、わかってますって。

 それにしてもな~……って、うn?」


『やっと――来たわね』


 二人に、同時に通信が届く。

 発信者は、アンナローグと行動を共にしているナイトクローラー一号機だ。


「よっしゃぁ! 行くぜぇ!」


 両腕をブンブン振り回すと、アンナブレイザーは右肩を一瞬触って飛び降りる。

 赤い光の帯が、渋谷方面に向かって飛んで行った。






『大変だ!

 渋谷ぱるるで事件発生! XENO の可能性大!

 アンナローグ、発進出来る?!』


 ナイトクローラーが、沈黙を藪って突然叫ぶ。

 その声に、それまでぼうっと窓の外を眺めていたアンナローグが、即座に反応する。


「わかりました! 上を開けてください!」


『気を付けてね! 行ってらっしゃい!!』


 ナイトクローラーは天井のハッチを展開し、アンナローグの立つ床をリフトアップする。


 夕刻の渋谷の街、フィンガーアベニューと神宮通りが交わる交差点。

 赤信号で停車する一台のタウンエースの上に、ピンク色の髪とコスチュームの少女が立ち上がり、爆音を上げて大空へ飛翔した。






「ひ、ひぃぃ! た、助けてぇ!!」


 亜紀の悲鳴が、店内に響き渡る。

 しかし、誰も彼女を助けることは出来ない。


 彼女は逆さまの状態で、入口のエントランスにある吹き抜けに宙吊りにされていた。

 その高さは、おおよそ五メートル程で、当然誰の手も届かない。

 脚に絡みついた蔓は強靭な「根」のように硬化し、今や下半身全体を包み込んでいる。


 そのような異常な状況を目の当たりにし、店内の客や店員達、警備員達が騒ぎ出す。


「な、なんだありゃ?!」

「おい、誰か助けろ! 梯子はないのか?!」

「救助隊は呼んだのか?! 警察は?!」

「きゃあああああ!!」


 轟く悲鳴、叫び声。

 しかし、誰も手出しが出来ず、ただ眺める事しかできない。


 そんな中、二階のバルコニーから冷静な目で亜紀を見つめる、唯一の人物がいた。

 大垣美鈴だ。


「ねぇ、どんな気持ち?

 あんた、これからここで殺されるのよ?」


「た、助けて……! 許してぇ……!!」


「赦す? 誰が? あんたを?

 ハッ、冗談でしょ?

 あたしの人生をメチャクチャにした奴を、なんで助けなきゃなんないのよ」


「お、お願い……もう……しないから……」


「そう言って、解放したらまた性懲りもなく虐めてくるんでしょ?

 わかってんのよ、あんたみたいなクズの行動パターンって」


「そ……お、お願いだから……! 勘弁してぇ!!」


「やだね」


 そう囁くと、美鈴はパチンと指を鳴らす。

 と同時に、亜紀を縛っていた根が更に力を増して彼女を締め上げる。

 顔色が青黒くなし始め、吐しゃ物が零れ落ちる。


「あう……ぐ……ぇ……」


「あはははは♪ 何そのみっともない顔♪

 そうかぁ、あんたこういう気分をいっつも味わってたんだ、私で」


「ぃ……」


「そろそろ、息の根止めてあげようか。

 ――って」


 美鈴は、ふと意識を周囲に向ける。

 気が付くと、彼女と同じバルコニーからスマホで撮影を始めている者達が集まっていた。

 吊るされた亜紀を取りながら状況を呟いている者、周辺をぐるりと撮り回している者、ただひたすら写真を連射で撮り続ける者……


 その数は十数名はおり、しかも一階や上の階にも点在する。

 その中の一人が、自分にスマホを向けているのに気付いた。


「――この」


 突然、天井から別な蔓が伸びて来て、こちらを撮影していた若い男の首に絡みつく。


「うぐっ?!」


 短い呻き声を上げると、男はスマホを放り出し、そのまま天井へ釣り上げられてしまった。

 途端に、周囲から悲鳴が上がる。


「助けもしないで! 見てばかりで!

 これだからぁ!!」


 美鈴の目の色が、深紅に染まる。

 と同時に、館内の至るところから無数の植物が伸び始め、凄まじい速度で壁や扉を覆い始めた。


 渋谷ぱるるの大きな入口は、自動ドアごと無数の蔓で塞がれる。

 僅か数十秒程度の、短時間で。


「――あら、もう死んだの?」


 いつしか沈黙してぶらぶらと揺れるだけの存在と化した亜紀は、半分飛び出した眼球をこちらに向けてこと切れていた。


 だが次の瞬間、その身体は瞬時に水分を吸い取られ、一瞬でミイラの様に干からびてしまった。





 

「状況を報告しろ!」


 地下迷宮ダンジョンでは、ナイトクローラーの通報で即座に情報収集と分析が行われ始めた。


「現場はJR渋谷駅付近の複合施設・渋谷ばるる。

 突然植物のようなものが大量に発生、一階フロアから店舗内に拡がり始めています!」


 オペレーターの報告を聞き、勇次の眉間に皺が寄る。


「XENO本体は?」


「まだ確認されていません」


「店舗内状況も、映像情報が届きま――いえ、待ってください!

 今、映像情報が届きました」


 画面を見つめ、驚きの声を上げるオペレーター達。

 勇次は何事かと、横から覗き込む。


 そこには、煌びやかな店内の至る所に張り巡らされた、植物の根や蔓のようなものが映し出されている。

 映像の構図から、どうやら監視カメラのようだ。


「この映像情報は、どこから?」


 勇次の質問に、オペレーターが答える。


「AXN-07C、アンナチェイサーの提供です」


「あいつが……」




 渋谷ぱるるの異変に真っ先に駆け付けたのは、アンナローグではなくアンナチェイサーだった。

 彼女はビルの裏手にあたる壁面に、跪くような体勢で真横に張り付くと、右手を壁に付けて目を閉じている。

 まるで、重力を無視しているかのように。


 館内の監視システムに侵入したチェイサーは、監視カメラを駆使して内部の映像を収集、そのデータを送信していた。

 

(この短時間で状況の変化が凄まじい。

 それにしても、妙だな)


 アンナチェイサーは、姿勢を維持したまま更に館内を調査する。

 しかし、本来見つかる筈のものが全く見当たらない。


(何処だ……何処に居る?

 XENOの本体は……?)



 

 アンナチェイサーの送信してきた映像情報は、地下迷宮ダンジョン側での分析に大いに役立っていた。

 勇次をはじめ、今川とティノのコンビも映像情報を必死で見つめる。

 と同時に、今川が自身の端末を高速のタッチタイピングで操作する。


「よっしゃ、おかげで状況が把握出来ましたよ!」


 今川が、ターン! と音を立ててエンターキーを叩くと、研究班ブロックの上に巨大なモニタが展開する。


「うわぉ、でっか!」


 ティノが思わず声を上げる。

 そこには、立体画像で示された渋谷ぱるるの館内状況概略図が映し出されていた。

 研究班ブロックのスタッフ全員が、その映像に見入る。


「一度使ってみたかったんですよね、この一番でかいディスプレイ」


「今川、状況の説明を」


「あ、はい。

 え~とですね、渋谷ぱるる内部に伸びている植物は、どうやら全て“館内の観葉植物”が大元のようです」


「観葉植物ぅ? なんでそんなもんが?」


「詳しくはわからないっす。

 でも、中で伸びまくっている植物の出所っつうか、発生ポイントは全て各所に置かれているプランターですね」


 画面が切り替わり、植物の繁茂状況がフロアマップに重ねられる。

 それを見ると、確かに複数のポイントから放射状に伸びているのが分かる。


「ということは、この植物がXENOそのものの肉体ではないということか!」


 勇次の言葉に、今川が力強く頷く。


「可能性は非常に高いです。

 恐らく今回のXENOは、自身の肉体を使って攻撃するのではなく、普通の植物を操って肥大化や強化を施す能力持ちかもしれないっすね!

 これはめちゃマズいですよ」


「何よソレ! じゃあ、XENOはこの現場にはいないってこと?」


 ティノが声を荒げる。

 しばし腕組みをして考えていた勇次は、もう一度画面を見つめて唸った。


「いや、植物の肥大化がこの建物の中だけに発生している以上、本体も近くに居る筈だ。

 そうでなければ、他の建物や外にも同様の被害が起きていなければおかしい」


「局所的に操作している可能性は?」


「だったら益々、状況を目視確認している可能性も高かろう」


「あ、そうか!

 でも、監視カメラの映像にそれっぽいのが全然映ってないじゃん」


「そうだ、それが一番問題だ」


「どう問題なのよ、ユージ?」


 頭の上に大きなハテナを浮かべているティノに対して、勇次は酷く深刻な表情で呟く。


「XENOの本体が特定できない。

 それはつまり、パワージグラットが使えないということを意味する」


「え?!」


「あ、ティノさん、ようやく事態の深刻さに気付いた」


 少しからかうような口調で今川が呟く。

 そんな彼にヘッドロックをかましながら、ティノは勇次の表情を窺った。


「それじゃあ、まさか今回はこっちの世界のままで闘わなきゃならないってこと?!」


「そうだ。

 しかもXENOが正体を見せないまま逃走を図ってしまったら、その時点でこちらの負けだ」


「Oh……なんてコトなの」


「い、イデデ! て、ティノさん、いい加減放して~!」


 こんな状況にも関わらずじゃれ合う二人をよそに、勇次はオペレーター達に向かって声高に宣言した。



「以降、今回のXENOを“UC-22 ドライアード”と命名呼称する!」 






 JR渋谷駅ハチ公口、スクランブル交差点。

 すぐ近くのぱるるで起きた事態に気付き、大勢の人々が声を上げて逃げ始めた。


 まさに、パニック状態。

 大勢の人々が駅や宮益坂方面に殺到し、路を走る車も進行を妨害される。

 引き起こされる渋滞に、逃げる人で溢れる街並み。

 これが災いし、渋谷ぱるるは“人と車で隔離された事件現場”となってしまった。


 そこに、一筋の光が降り立つ。


「おい! 今の!」

「来たか、コスプレ?!」

「間違いねぇ! 行くぞ!」


 渋谷駅周辺で待機していた“謎のコスプレ集団”ファン達が、一斉に歓喜する。

 彼らは押し寄せる人々を力づくで掻き分け、時には押し流されつつも、懸命に渋谷ぱるるを目指して進んだ。


「あの光、ピンク色だった!

 絶対にピンクちゃんが来たんだ、来てくれたんだぁ!!

 うわおおぉぉおおおおおおお!!!」


 そんな中、一人の中年男性が鬼気迫る表情で突撃を開始する。


 何処から湧いてくるのか、凄まじい馬力を発揮すると、荒波を突き進む魚雷のような勢いで交差点を進んで行った。

 意味不明な奇声を上げながら。


 




 現場に辿り着いたピンク色の髪と衣装の少女・アンナローグは、何故か周囲に増え始める人々を避けるように着地する。

 大勢の人々がカメラやスマホで、その姿を撮影している。

 中には明らかにスカートの中を撮影している者も居たが、そんな事に構っている場合ではない。


「すみません、ここは危険ですので、どうかお下がりください!

 お願いいたします!」


 スピーカーの音量を上げ、かなりの大声で“呟く”。

 しかし、まるで同人イベントのコスプレ撮影のように、次から次へと“カメラマン”が寄って来る。


「お願いです、ここは本当に危険ですから! どうか!」


 力づくで跳ね除ける訳にもいかず、仕方なくアンナローグは、もう一度ゆっくり浮上する。

 高さ二メートルくらいの高さでホバリングすると、またもやカメラのシャッター音が無数に鳴り響く。

 恥ずかしさに耐えながら、アンナローグは渋谷ぱるるの状況を観察する。


 アンナローグの目に、AIが作成した状況分析データとマップが表示される。

 それによると、一階の表入口は植物によって完全に封鎖されているようだ。

 しかもただ押さえているだけではなく、何重にも太い幹が張り巡らされており、明らかに外部からの侵入を拒む目的が窺える。

 建物の構造をスキャンすると、裏口も同様に封鎖されており、更には隣接した別なビルも一部が同じ被害に見舞われている。


「仕方ありません!」


 アンナローグは再び上昇すると、各階の窓の状況も確認しつつ最上階を目指した。



 屋上に、下の階へ繋がる階段の入口を見つけたアンナローグは、右上腕の袖の中に手を伸ばそうとして――止める。

 徐にドアノブを掴むと、


「ご、ごめんなさい! 急いでいますので!」


 と呟きながら、ドアを丸ごと蝶番含めて引き剥がした。




 アンナローグが渋谷ぱるるの入口付近に現れたという情報は、即座にネット上で共有された。

 と同時に、ぱるる店内の状況についても。

 中に閉じ込められている客の何人かが、現状を写真付きでアップしたのだ。


 SNSは、渋谷ぱるるの惨状を伝える書き込みと、ピンク色のコスチュームの少女のパンチラ……というより、お尻のアップ写真が広まる形となった。






 下に降りる階段が伸びている。

 しかし一階分も降りないうちに、大きな隔壁で塞がれている事に気付く。


「まぁ、どうしましょう!」


 アンナローグは右上腕の腕輪を取り外すと、転送兵器・オートマッパーを召喚する。

 ごつい形状のブレスレットに変型した腕輪を見つめると、髪から伸びるエンジェルライナーを隔壁に密着させた。

 オートマッパーの上に、空間投影されたマップが表示される。

 

 その中に、二人の人型の反応が見られた。


(すぐそこに、誰かいる?!)


 アンナローグは、跪くと隔壁を軽くノックしてみた。

 

 コンコンコン、コンコンコン


 アンナローグの聴覚センサーにも、明らかに人の話し声のようなものがキャッチされる。

 しかし、何を言っているのかまではわからない。


 もう一度ノックをすると、


 ドンドン! ドンドン!


 と、反応があった。


「どなたかおられますか?」


 スピーカーの音量を大きめにして、呼びかける。

 すると、女性の声で反応があった。


『います! います!!』


『今、ここに二人居ます!

 でも、下の階にまだ何人か!』


「承知いたしました!

 すみませんが、この壁から離れることは出来ますか?

 もし可能なら、二メートル以上離れて声を掛けてください」


 無事な者がいる事に心踊るが、慎重に行かなければまずい。

 アンナローグは、隔壁の向こうの人物に呼びかけた上、再度オートマッパーを使って向こう側の状況を確認すると――


「たっ!!」


 気合一閃、エンジェルライナーを操り、隔壁を切断した。

 シュピン! という金属音が鳴り響く。

 隔壁を壁から切り離した状態にすると、それをそっとずらして隙間を作り、下に降り立った。


「あっ!!」


「あなたは、もしかして?!」


「良かった、お二人ともご無事だったのですね!」


 隔壁の向こうに居たのは、二人の若い女性だった。

 どちらもお洒落に着飾り、整えられた黒いロングヘアが美しい。

 そのあまりの美しさに一瞬注意を奪われるが、よく見ると二人ともそっくりな顔と体格であることに気付く。


(あれ、双子かな?

 舞衣さんとメグさんみたいな?)


 一瞬呆然としていると、薄ブルーの涼し気なワンピースを着た方の女性が、不思議そうな態度で尋ねて来た。


「あなたは、アンナセイヴァー?」


「え? ど、どうしてその名前を?」


 思わぬ言葉に、思考が停止する。

 女性はアンナローグに向かって慌てて手を振ると、下に続く階段を指差した。


「下の方の階に、まだ沢山人が居るの!

 でも、隔壁の向こうで植物がうねっているみたいで、逃げ場がないわ」


「分かりました。

 この上の屋上から、脱出を試みましょう。

 お二人とも、お怪我などはございませんか?」


「あ、はい、大丈夫です」


 今度は、もう一人のサマードレスをまとった女性が答える。

 アンナローグは優しく微笑むと、彼女に頭を下げた。


「そうですか、それは何よりです。

 お二人は、今しばらくこちらに待機して頂けますか?

 これから下に行って、避難されている方々をここまで誘導いたします」


「わ、わかったわ!」


「あの、どうか、お気をつけて」


「ありがとうございます、ご心配頂き大変光栄です!」


 それだけ言うと、アンナローグは両足首から光の粒子を噴き出して静かに浮かび上がり、そのまま階下へと飛翔していった。




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