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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
193/226

●第105話【予言】


 恨みは、深い。


 亜紀達グループが以前虐めていたクラスメートをかばったが為に、今度は自分がターゲットにされた。


 クラス内での徹底無視から始まり、教科書や靴、弁当を窓から捨てられる。

 裏アカウントによる、SNSでの実名誹謗中傷。

 机や鞄に「死ね」「消えろ」「自殺しろ」などの落書き。

 十数万円に及ぶ金銭の強要。

 それが更にエスカレートして、遂には暴行、自宅への直接的な嫌がらせへ発展。


 更に、その虐めにかばったクラスメート自身を参加させるという状況。


 とどめになったのが、亜紀の男友達数名による性的暴行。

 そしてそれを動画撮影しての脅迫。

 それが半年以上にも及び、大垣美鈴の精神は完全に追い詰められていた。


 校内でのいじめ行為が犯罪であり、直接警察に通報されるケースも増えた昨今に於いて、亜紀達は実に姑息かつ執拗に、尚且つ明確な証拠が表面化しないように美鈴を追い詰めていた。


 もう、生きていたくない。

 美鈴が飛び降り自殺を思い立った背景は、そんなものだった。


 そこに目を付けたのが、デリュージョンリングだった。





「――どう、気分は?」


「え? わ、私……」


「服を汚してしまって悪かったわね。

 でも、おめでとう。

 これであなたは、もう誰にも負けない力を手に入れたのよ」


「負けない、力?」


「そう。

 でも、今はそれがどんな力なのかはわからない。

 それは自分で探して欲しいの」


 そう言うと、デリュージョンリングは小さなナイフを取り出し、突然美鈴の右腕を切り付けた。


「痛っ!

 ――って、えっ?!」


 五センチほどはあった切り傷が、あっという間に治癒してしまう。

 傷みも、全然ない。

 それどころか、流れた血も肌に溶け込むように消えてしまった。


「わ、私の身体……どうなってしまったの?」


「あなたは今“XENOVIA”になったの」


「ぜの……びあ?」


「そうよ、私達と同じXENOVIA。

 人間の上位的な存在、不死身で無敵の生物。

 もうこれで誰も、あなたを傷つけたり殺したりすることは出来ないわ」


 デリュージョンリングは、そう呟くと優しく微笑み、美鈴の頭を優しく撫で、抱きしめた。


「さぁ、復讐に行きましょう。

 あなたを追い詰めた連中を、皆殺しにするために」


「復讐……皆殺し……」


「そう、今のあなたなら、息をするように簡単に殺す事が出来るわ。

 どんな人間でも、ね」


「……」


 美鈴の瞳が、ギラリと輝く。

 その時、近くの床ブロックの隙間から生えていた小さな雑草が、突然三メートル程の長さに伸びた。



 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


   第105話【予言】

 





 未来とありさが、退院した。

 すっかり体調を回復させた二人は、久しぶりに地下迷宮ダンジョンを訪れていた。

 同時に、相模姉妹と凱も。


「未来ちゃ~ん! ありさちゃ~ん! 良かったぁ!」


 姿を現すなり、ドタドタと足音を立てて恵が飛びついてくる。

 二人まとめて抱き締めると、恵は容赦なく頬ずりを仕掛けて来た。


「わ、わ、ちょ、メグぅ~!」


「ま、待ってメグ! ちょ、苦しいって」


「にゃあ! だってぇ、いっぱい心配したんだも~ん」


「わ、わかった! わかったから一旦放してぇ!」


 ありさの懇願に、恵は名残惜しそうに離れる。

 Gカップの乳圧から解放され、ありさは目を白黒させた。


「でも良かったぁ! もう身体は大丈夫なの?」


「おう! もうメチャクチャ元気だぜ!」


「おかげ様でゆっくり休めたわ。

 夜は怖くて眠るのに苦労したけど」


 そう言いながら、何故かジト目で今川の背中を睨む。

 未来の視線を無意識に感じ取ったのか、何やら作業中だった今川は背筋をゾクリとさせて振り返った。


「おー未来ちゃん! どうだったあのh」

「面白い本を“お貸し頂いて”本当にありがとうございました。

 全部読み終えましたので、“お返し”しますね」


「え、いやあの本はプレz」

「お返ししますね、今川さん」


「あ、はい」


 殺気のこもった満面の笑顔というものが、この世には存在する。

 そう理解した今川は、震えながら未来より本を受け取った。


「ひゃん! 何それ、怖い本なの?

 お化けの本~?」


「そうよ、メグ。

 貸してもらう?」


「いや~ん! メグ、怖い話とかお化けの話苦手だも~ん!」


「メグちゃんは、小さい時から怖いお話嫌がってましたからね」


「それがな、結構あなどれないくらいおっとろしい話がいっぱい載っててさぁ。

 こういうの平気なあたしでも、かなりゾクゾクしたよ。

 未来なんか、夜中にうなされてたからな」


「え、ちょっとそれホント?!

 私、うなされてた?!」


「うん、その本来てから毎晩」


「ギロッ」


 鋭い眼光が、今川を捉える。


「やめてぇ、眼鏡越しに睨むのやめてぇ!」


「あの、と、とにかく、お元気になられて本当に良かったですね!」


 不穏な空気にいたたまれなくなったか、舞衣が苦笑いする。

 その横に立っていた凱は、呆れたように肩をすくめると、周囲をきょろきょろと見回し始めた。


「今日は、愛美ちゃんは来てない?」


「ああ、愛美ちゃんなら向こうにずっと居っ放しですよ」


「向こう?

 ああ、ナオトのとこか」


 先日のミーティングの件以来、愛美は迷宮園ラビリンスの方に常駐している。

 それでも相模姉妹との連絡は怠っておらず、向こうでの生活の様子は逐一報告されているという。

 少し寂しい気もしたが、どうやらナオト達の生活が杜撰らしく、彼女の活躍の場が増えているらしいと聞いて安心した。


「それで凱さん、最近のXENOの動向はいかがですか?」


「ああ、四日前の新宿の件以来、特にそれらしい事件は起きていない」


「そうですか、それは良かった」



『――いや、そうとばかりも言ってられないようだ』



 突然、彼方から声が響く。

 見ると、それは勇次からの通信を表示する空間投影モニタだった。


「出た、PC老人会の裏切者」


『誰が老人会だ!

 すまんが今は下のドックの奥にティノと居るのでな、ここから失礼する』


「おう、お疲れさん」


「それで蛭田博士、何か気になることでも?」


 まるで何かのラスボスみたいに空間に浮かぶ顔に向かって、未来が尋ねる。

 それを合図にするように、相模姉妹、凱、ありさ、今川も意識を向ける。


『つい先程だが、奇妙なニュースを見た。

 昨日、代々木公園で三人分の変死体が発見されている。

 いずれも全身を締め付けられた上に体液を吸収され、ミイラのようになっていたとのことだ』


「やっ……!」


「ひでえ」


「それがXENOってことか?」


『わからん。

 だが奇妙なのは、死亡推定時刻通りだと、人通りがそこそこ多い場所で堂々と殺人が行われたことになるんだ。

 しかし皆も知っての通り、この辺りにバケモノが出現したという報告もない』


「その遺体の素性は?」


『そこはわからん。

 もし、知るとしたら――』


 勇次が言葉を濁らせる。

 それを察した凱は、小さく頷いて急ぎ足で席を外した。


「どうやら、何かとんでもない事が水面下で起きてるっぽい感じだな」


 ありさが、上目遣いで呟く。

 それを横目に、未来も深く頷く。

 そして相模姉妹は、怯えたような眼差しで二人を見つめる。


『とにかく、何か異変が起きつつあるようだ。

 警戒して事に当たろう』


「了解しました」


 皆を代表して、未来が返答する。

 不安げな舞衣と恵の頭をそっと撫でると、強い意志のこもった視線をありさに向ける。

 そしてありさも、無言で頷きを返した。


「今、あたし達に出来ることは何かあるかい?」


「悔しいけど、今は様子を見るしかないわね。

 それか、出来る範囲での情報収集かしら」


「それでしたら、私達もやってみますね」

「SNSとか見るのでもいいのかな?」


 舞衣と恵の言葉に頷き、未来は息を吐くと手近に置いた自身の端末を見る。

 すると、凱が少し小走り気味に駆け寄って来た。


「今、司さんと連絡を取った。

 変死体の数は三つじゃない、全部で六つだ」


「「「「「 えっ?! 」」」」」


 五人の声が、重なる。


「後の三人も、同じようにミイラ化した状態で発見されてる。

 しかも今度は、樹に吊るされた状態だ。

 被害者は全員最寄りの如月高校の生徒だって話だが、奇妙なことに六人全員がそうらしい」


「うぇ、如月ぃ?」


 その言葉に、ありさが眉をしかめる。


「知ってるのか、ありさちゃん?」


「うん、あそこ都内でもワーストクラスの、治安が悪いガッコ」


「昔から問題を起こす生徒が多くて話題になっている所ですね。

 まあ、今回の件に直接関係があるとは思えませんけど」


「ふうん、今時まだそういうとこってあるんだな」


「あそこは特殊っていうか……ごく少数のヤバイ奴が全体の評価下げてる印象かな」


「ふむ」


 何か思う事がありそうな未来とありさだが、一旦話を変える。

 凱は勇次に更なる被害者の話を報告することにした。


「き、如月高校の生徒が六人も?

 いくらなんでも、ピンポイント過ぎませんか?」


 舞衣の疑問に、全員が頷く。


「なんかさ、その高校の特定の人間だけを狙ってるとか?」


「今まで無差別に活動していたXENOが、ですか?」


「う~ん、メグわかんないけどぉ、これ本当にXENOなのかなあ?」


「俺も疑問っす。

 なんかXENOってより、特定個人の怨恨絡みの事件にも思えて」


「怨恨、か」


 今川の言葉に、凱が腕組みをしながら唸る。

 確かに、今回の件はXENOが起こした事件としては、あまりにも不自然な気がする。


「しかし、三人もの人間を樹の上から吊るすなんて、普通できないっしょ」


「そういやそうだ。さすがはありさちゃん」


「なんか馬鹿にされてるような気がする~」

 

「そうだな、とりあえず今は解散して、有事に備えよう。

 今川、悪いけど愛美ちゃん達に連絡を――」


 そう言いかけた瞬間、腕時計が反応する。

 ナイトシェイドからの通信だ。


「すまん、ちょっと失礼。

 ――どうした?」


『マスター、LOADRINGの回線に電話が掛かって来ています。

 お繋ぎしますか?』


「相手はわかるか?」


『不明ですが、非通知ではありません。

 携帯電話の番号で、通話記録はないようです』


「わかった、繋いでくれ」


 眉間に皺を寄せながら、凱は離席してナイトシェイドが繋いだ回線に応じた。


「もしもし、北条ですが」


『あ、もしもし北条さん? 俺です、神代卓也です』


「え、神代君? どうしたんだ?」


 電話の相手は、先日猪原家で出会った青年・神代卓也かみしろたくやだった。


 諸事情あり、彼には名刺が渡されている。

 それを頼りに電話を掛けて来たようだが、何故向こうから連絡して来たのか、まるで見当がつかない。


『実は、気になる情報を見つけたんで』


「情報?」


『ええ、SNS上にこんな書き込みがあったんです。

 え~と、ちょっとだけ待ってくださいね。

 ……あ、これこれ。読みますよ。



“明日都内のどこかに、謎のコスプレ集団が現れるという情報GET。

 ヒントは二十三区内、人が集まる場所だよ”



 ――北条さん、これもう知ってました?』


 腕時計から聞こえる神代の声に、凱は顔をしかめる。

 謎のコスプレ集団――アンナセイヴァーの出現予告?

 そんなものは、全く心当たりもなければ、今まで見かけたこともない。


「なんだって? それは本当かい?」


『どっかの馬みたいな事言い出した』


「馬? なんだよそれ?」


『あ、気にしないで。

 一応、北条さんの耳に入れておいた方がいいかなと思って』


 どうやら神代も、彼なりにこの件に違和感を覚えているようだ。

 彼は、並行世界デュプリケイトエリアから猪原かなたをこの世界に連れ戻した功労者であり、元々は異世界の住人。

 その為、つい先日この世界に来たばかりでXENO事件やアンナセイヴァーの事もあまり良く知らない。

 しかし、かなた経由でアンナセイヴァーの情報を一部知ってしまった為、凱が交渉して口止めをしたのだ。


 そんな彼が報告して来てくれた事に、凱は心底感謝した。

 と同時に、猛烈な嫌な予感も覚えたが。


「ありがとう、こちらではまだ気付けなかった。

 情報ありがたく頂くよ」 


『でも見た感じ、な~んか捨て垢っぽいんですよね。

 北条さん、この情報でアンナセイヴァーのファンが動き始めるみたいなんで、よくわかんないですけど気を付けて』


「お? おう……また何かあったら、是非教えて欲しい。

 ひとまずこちらで検討してみる。

 ご協力感謝するよ」


『では、また土曜日に』


「おう!」


 電話は、それで切れる。

 凱は早速、スマホを取り出してそれらしい情報を検索してみる。


 案の定、それはSNS上でトレンドに上がっており、実に簡単に発見出来た。


(まさかこんな怪情報が出回っていたとはなあ……盲点だった)


 この情報が何者による、どういう意図によるものなのかはわからない。

 単なる悪戯の可能性も否めなかったが、凱には何者かのよからぬ企みの臭いが感じられてならなかった。


(とりあえず、勇次と未来には報告しておくべきだな)


 凱はナイトシェイドに連絡し、該当のSNSと書き込み内容、そして情報元のアカウントを伝えると、定時確認と報告を行うよう指示し、皆の許に戻った。






「なんだ、この情報は?」


 同じ頃、このSNSの書き込みに気付いた者が居た。

 鷹風ナオトだ。


 何故か放心状態で戻って来た霞をよそに、ナオトはタブレットで画面を確認している。


「どうしたのですか? なんだか怖い顔をされていますが」


 コーヒーのお代わりを持って来た愛美が、ナオトの顔を覗き込む。

 不意を突かれたのか、珍しくびっくりする。


「ま、愛美」


「大丈夫ですか?」


「ああ、これを見てくれ」


「はい?

 え~っと……謎のコスプレ集団って、これアンナセイヴァーのことですよね、確か?」


「その通りだ。

 何者かが、お前達の出現を予告している」


「えっ? “SAVE.”のどなたかが書き込まれたのでしょうか?」


「んなわけあるか」


「え? じゃあ」


「これは、明らかな“誘い出し”……つまり、罠だろうな」


「ということは」


「ああ……XENOVIA共の策略の可能性が高い。

 急ぐぞ、地下迷宮ダンジョンへ向かう!」


 そう言うと、ナオトは勢いよく立ち上がり、別なテーブルでうなだれている霞を無理矢理立ち上がらせる。

 そしてしばらく後、バイクのある方へ進もうとして――テーブルに戻ってきて、コーヒーの入ったマグカップを一気にあおった。


「あ、そんな急に」


「ぅおわっちゃぁ!」


 彼らしからぬ間抜けな悲鳴に、愛美と、さっきまで元気がなかった霞までもが、盛大に吹き出した。




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