●第102話【混乱】
時間は、多少前後する。
ここは、迷宮園。
掃除を一通り終えた愛美は、ベースフロアに戻り今度は買い出しの準備を行っていた。
『愛美チャン、ボクに乗って行きなよ』
「あ、そうですね! よろしくお願いします」
ベースエリアの奥に停車していたグレーのハイエースが、ライトをチカチカさせながら語り掛ける。
自意識型AIを搭載し、会話が可能なアンナセイヴァーサポート用ビークル「ナイトクローラー」である。
『この基地、テレポーターでどこかに飛ばされるみたいだから、飛んだ先で一番近いスーパーを検索してみるね。それでいい?』
「はい、ナイトクローラーさんにお願いしますね」
『了解!
じゃあ、早速乗ってね』
ナイトクローラーは、後部ドアを開くと愛美に搭乗を促した。
『ところで、霞チャンは何処へ行ったの』
「さぁ、いつの間にかお見かけしなくなってしまいましたね」
『愛美チャンに叱られて逃げ出したんじゃない?』
「え、私のせいだったんですか?」
『優しい口調だけど結構クドクド言ってたしw』
「そ、そんな……なんか悪い事しちゃったんでしょうか」
白目でオタオタしている愛美を笑いながら、ナイトクローラーはゆっくりと発進する。
ベースエリアから外部通路へ出て、二股に分かれたトンネルの右手を進む。
しばらくの間、オレンジ色のライトが等間隔で並んでいるが、それがやがてまばらになり、いつしか消えてしまう。
真っ暗闇の中をしばし進むと、ナイトクローラーはいつの間にか普通のトンネルの中を走っていた。
「ここは、何処ですか?」
『え~っと、国道20号線……新宿通りだね。
今、JR新宿駅の南口方面に向かって走ってるみたい』
「い、いつの間に?」
『さぁ、これはボクにもわからないんだ』
「迷宮園って、不思議なんですね。
いったい何処にあるんでしょう?」
『それもわからない。
随分ガッツリ隠してるよねぇ』
「そういえば、地下迷宮も何処にあるのかよくわかりませんね。
ナイトクローラーさんは何かご存じなんですか?」
『ごめん、それについては最重要機密でスタッフにも話せないことになってるんだ』
「そ、そうなんですか」
日中ということもあり、周辺は結構な数の車がひしめき合っている。
愛美は、興味深そうに窓の外を眺めている。
『愛美チャン、北新宿にオリンピックってスーパーがあるよ。
もう少しかかるけど、そこに行ってみる?』
「ありがとうございます!
それでは、そちらへお願いしますね!」
『愛美チャンは本当に礼儀正しいなあ。
いつまでもそんな君で居てね』
「ど、どうしたんですか、突然?」
『いや別に~。なんとなく言ってみただけぇ』
他愛ない会話を楽しみながら、愛美はナイトクローラーに揺られて西新宿方面を経由して、青梅街道を横切るようにして北新宿を目指した。
美神戦隊アンナセイヴァー
第102話【混乱】
一方、ここは新宿歌舞伎町。
行き交う人混みの中を、一匹の猫が駆け抜けていた。
素早い動きで、まるで何かから逃げるかのようにビルの隙間に滑り込む。
ようやく人気のない所に落ち着いた猫は、まるで人間のようにふぅと安堵の息を漏らした。
「はぁ~い♪ 猫ちゃあん」
突然響いた声に、猫はギョッとして顔を上げる。
するといつの間にか、目の間僅か数メートルの場所に、ショートカットの少女が笑顔で立っていた。
「ダメよぉ、逃げちゃあ♪」
笑顔で佇む少女は、袋小路の奥に居る。
猫は、猫とは思えないような憎々し気な表情を浮かべ、少女を睨みつける。
と同時に、その身体を突如膨れ上がらせた。
みるみるうちに巨大化する猫は、やがて猫というよりは虎のような外観へと変貌し、その口腔からは剣の様に伸びる二本の牙が発生した。
威嚇すらもせず、猫――否、今や“サーベルタイガー”と化したその化け物は、素早く少女に飛び掛かった。
だが少女は、そんな事おかまいなしといった態度で、笑顔を崩さない。
巨大な鈍器のようなものが突如振り降ろされ、サーベルタイガーを激しく殴打した。
すかさず、鋭い棘のミサイルが襲い掛かり、サーベルタイガーを串刺しにする。
あっという間に仕留められたサーベルタイガーは、身体を崩壊させ、瞬時にその姿を消滅させた。
「ふぅ。
――えっ?」
少女の動きが、不自然に止まる。
気が付くと、ビルの隙間の細い袋小路の中に、四つの影が出現していた。
人相の悪い反社風の青年とくたびれたサラリーマン風の中年男、水商売風の太った年配女性に大学生風の男。
しかしいずれも目が虚ろで血色も悪く、まるでゾンビのようないで立ちだ。
「何、あんた達?」
自分を取り囲む者達に臆する様子もなく、少女が尋ねる。
すると、年配の女性がうざったそうな口調で語り始めた。
「あんただろぉ? あたしらの仲間をぶっ殺して回ってるのは」
「なんで私達を狙うんだ? 俺達はあんたらの仲間の筈だろう」
「仲間同士で殺し合うなんて、よくねぇよなぁ?」
「返答次第じゃタダじゃすまないよ」
中年男性、若者、学生が続ける。
しかし、そんな彼らの言葉に鼻で笑うと、少女は彼らを見下すような冷たい視線を向けて来た。
「タダじゃすまないって、いったい誰に向かって言ってるつもりなの?」
「はぁ?」
「あんたらは、もう用済みなの」
「なんだとぉ? 用済みぃ?」
「そうよ、あんたらはあたしらの望む進化系統に乗れなかった“失敗作”。
だから淘汰しろって命令が下ってるわけよ」
「なんだぁそりゃあ?!」
「それで、我々の仲間を殺して回ってるというのか」
若者と中年男性の言葉に、少女はッわざとらしいくらいに大きく頷く。
それと同時に、ザクッ、という鈍い音が響いた。
若者の腹に、いつの間にか大きな棘が突き刺さっている。
信じられないものを見るような表情を浮かべたまま、若者は悲鳴すら上げずにボロボロと朽ち果て、衣服だけ遺して崩壊してしまった。
「んわっ?!」
「こ、こいつ!」
「ぎゃあっ!!」
「アンタらさぁ、ハッタリ利かすならもっと派手にやりなよ。
余計な前置きするから、コイツみたいになっちゃうんだよ」
「お、おのれぇ!!」
少女の挑発を受けて、中年男性が身体を膨張させ始める。
それを見て、女性と学生も続く。
全高約三メートルほどのオーク。
同じく、ミノタウロス。
そしてもう一体は、他の二体を圧倒する程巨大な――蟹。
もはやビルの隙間では収まり切らない程の体躯をうねらせ、徐々に膨張する。
「うわっとぉ! でっかぁ!!」
なんだか少し楽しそうな声を上げながら、少女は通りに避難する。
それを追いかけるように、三体のXENOは人混みの中に飛び出して来た。
「うわぁっ?! な、なんだぁ?!」
「きゃああぁぁぁっ!!」
「ば、バケモンだあぁ!!」
「カ〇道楽の看板?!」
大勢の人々が行き交う歌舞伎町セントラルロード。
そこに突如出現した三体のXENOは、悲鳴を上げて逃げ惑う人々などおかまいなしといった態度で暴れ出す。
先の少女をきちんと視認しているのかすら怪しく、大蟹は手近な人々を捕まえようとし始める。
しかして当の少女は、もはや通りにはおらず、近くのカラオケ屋のあるビルの屋上に移動していた。
「へぇ、面白そうじゃん。
じゃあ、あたしも♪」
そう言うが早いか、少女は八階以上はあるビルの上からダイブした。
次の瞬間、彼女の身体も膨張し、一気に数メートル級の大きさに変貌する。
獅子のような体躯にコウモリの翼、蠍の尾、そして老人の顔。
そして五メートルはありそうな巨体。
――XENO・マンティコア。
それは以前、夜の西新宿に出現した複数のXENOのうちの一体だ。
マンティコアは大きな音を立ててアスファルトを砕き着地すると、即座に大蟹に食らいつき、右の大鋏を引き千切る。
大蟹の対抗も硬い装甲も、ものともしない。
それと並行して、蠍の尾の先端から何本もの棘をミサイルの様に射出した。
そのうちの何本かは、逃げる人を貫通し道路に串刺しにしてしまう。
ミノタウロスの頭部に二本程突き刺さるも、そこに核がないせいか、ダメージはさほどでもないようだ。
オークとミノタウロスがマンティコアに襲い掛かり、大蟹が体勢を整え加勢する。
千切られた大鋏は即座に再生し、逆に千切られた方の鋏はボロボロに朽ち果てて消えた。
「うわああぁぁぁ! た、助けてくれぇ!!」
「きゃあああ!!」
歌舞伎町は一瞬のうちにパニックとなり、人々は大声を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃走する。
『愛美チャン、大変だ!』
ぼぅっと外を眺めていた愛美に、ナイトクローラーが慌てた声で呼びかける。
驚いて窓に額をぶつけてしまった。
「あいたたた、ど、どうされたのですか?」
前座席と後部座席の間に、突如空間投影型モニタが表示される。
そこには地図のようなものと、その中に光る赤いポイントが映されていた。
『歌舞伎町に、XENOが出現した!』
「え、ええっ?!」
『現場に一番近いのは僕達だ!
愛美チャン、いける?』
「わかりました! すぐに向かいます!
ナイトクローラーさんは、地下迷宮に連絡をお願いします」
『決断早いね、了解!
じゃあいくよ、実装補助機能展開、フォトンコーティング開始!』
ナイトクローラーの言葉と共に、室内がまるでミラールームのように変化する。
壁も窓も椅子も煌めく銀色に変化し、次々に椅子が畳まれていく。
愛美は表情を引き締め、胸元のペンダントを握り締める。
「コードシフト!
チャージアーップ!!」
愛美の掛け声と同時に、胸のサークレットが展開、光の粒子が巻き上がる。
それに連動し、ナイトクローラーのボディカラーが薄いメタリックピンクに変化する。
ナイトクローラーの天井が左右に開いたと同時に、そこから桃色の閃光が上空に飛翔する。
その速さは、周辺の車を運転する人や通行人の目には止まらない。
一気に百数十メートル程の高さまで上昇した愛美――アンナローグは、AIに正確な位置を調査させた。
「歌舞伎町セントラルロード、ですね!」
情報を即座に理解したアンナローグは、まっすぐそこへ向かおうとする。
しかしその瞬間、通信が入った。
『アンナローグ、聞こえるか!』
勇次の声だ。
「勇次さん! 今、新宿で」
『ナイトクローラーから聞いている! まず先に、周辺の人々に避難勧告をするんだ!』
「避難勧告、ですか?」
『そうだ、アンナミスティックがすぐに出動出来ない!
パワージグラットが使えない以上、今すぐ被害を抑えるにはそれしかない!』
「承知しました!」
勇次の指示を得て、アンナローグは青梅街道に向かい更に飛翔した。
ものの十数秒で現場上空に辿り着いたアンナローグは、歌舞伎町の惨状を目視確認すると、勇次の指示に従い中央分離帯の歩道に向かって降下する。
彼女の姿に気付いた人々が、上を見上げてざわついているのがわかる。
しかし、恥じらっている場合ではない。
反重力フィールドの影響で、スカートのひだが回転するようになびく。
「AIさん、声の音量を最大にしてくださいね!」
視界の端に“OK”の表示を確認すると、着地したアンナローグは信号の向こうからこちらを見つめる人々に呼びかけた。
『皆さん、ここは危険です!
急いで新宿駅の方に退避してください!』
「え? え? なんだ?」
「退避? 逃げろってこと?」
「何言ってんだアイツ?」
「あれって、もしかしてネットで噂になってる――」
周囲の人々が、こちらを指差して騒ぎ立て始める。
だがその直後、歌舞伎町の方向から、大きな叫び声が響いて来た。
と同時に、強烈な破壊音も――
すかさずその状況を確認し、アンナローグは再び飛び上がる。
歌舞伎町方面から姿を現したXENOを迎え撃つために。
(あの時の!!)
アンナローグは、そのXENOに見覚えがあった。
以前アンナミスティックとブレイザーとで闘った相手だ。
エンジェルライナーを展開し、回転しながら急速接近する。
だがアンナローグに気付いたXENO・マンティコアは、その巨体からは想像も出来ないような素早い身のこなしで攻撃をかわした。
「な?!」
建物の壁を攻撃しそうになったローグは、攻撃を急停止させる。
振り返って再度体勢を立て直そうとするが、
「あ、あれっ?!」
マンティコアの姿が、ない。
つい今しがたまでここに居た筈の巨体が、まるで最初から何もなかったかのように消滅していた。
「ど、どういうこと?! AIさん、XENOは何処に?」
まだ逃げ遅れた人々がいる中、歩道に着地して周囲を窺う。
AIが示した情報は、歌舞伎町の更に奥の方向だった。
「ありがとうございます! 行かなきゃ!」
アンナローグは、AIの指し示す方角に向かってもう一度飛ぶ。
逃げ遅れた人々が、その様子を見て驚いているようだ。
セントラルロードでは、何か大きな物体がくすぶりながら崩壊しているのが見える。
その更に奥では、明らかに人間ではない別な巨体が、雄たけびを上げていた。
『UC-18・ミノタウロスだ!
ローグ、倒せるか?!』
「頑張ります! たぁーっ!!」
頭と下半身が牛、上半身が人間、片手には斧のような武器を持つ巨人。
それが、まるで戸惑っているような態度で道路の中央に立ち尽くしている。
周辺に人はいない。
アンナローグは、エンジェルライナーを爪を拡げる様に大きく展開すると、真っすぐミノタウロスに向かって突進した。
ミノタウロスが振り上げた斧が命中するよりも早く、エンジェルライナーはその巨体を包み込んだ。
即座に急上昇する。
「たあぁぁ―――っ!!」
ブモオォォォオオオオ?!?!
XENOの悲鳴が木霊する。
アンナローグは現場から引き離す為、最高速で空の彼方へと上昇を続けた。
上空八千メートルに達した時点で、ミノタウロスを突き放した。
悲鳴を上げて落下を始めるXENOに向かって、アンナローグはキックを放つ。
背中から、光の粒子が噴き出す。
「アンナキィ――ック!!」
落下に加速を加え、超高速で突進する飛び蹴りが、ミノタウロスを貫く。
胴体に大きな穴を開けられ、ミノタウロスは一瞬で砕け散り、あっという間に崩壊した。
一瞬の決着だった。
「ふぅ……後は、もういないですか?」
『よくやった、ローグ。
現場にはもうXENOの姿は確認出来ない。
だが――』
「だが、なんですか?」
『防犯カメラの映像によると、どうやらあの現場には元々四体のXENOがいたらしい』
「よ、四体ですか?!」
勇次の通信に、降下しながら驚く。
「ということは、まだ潜んでいるのでは?!」
『いやそれが、そのうち二体はマンティコアによって倒されている』
「マンティコア……あの、最初に出て来た個体ですね?」
『そうだ。
私にはまるで、XENO同士が殺し合っていたようにしか感じられん』
「どういうことでしょう……」
『どうあれ一体は姿を消しているし、引き続き監視を継続する。
ご苦労だったな、帰還してくれ』
「わ、わかりました!」
通信が終了し、アンナローグはナイトクローラーの位置を検索し、地上に向かって移動を開始した。
『期待外れもいいとこだね、愛美』
アンナローグは、ふと思い返す。
以前新宿でマンティコアと闘い、取り逃がした直後に聞こえて来た謎の声。
(あの声は、あの人に凄く似ていた……でも、そんな筈は……)
アンナローグの――否、愛美の脳裏に、あの日の井村邸が浮かび上がった。
「とんだ失態ね、もえぎ」
暗闇の向こうから、突然罵声が飛んでくる。
それまで高揚した気分だったのが、即座に打ち砕かれ、もえぎは表情に出して睨みつける。
「理沙さん、いきなり嫌みっすか?」
「あんたはホント、あの子と同じで仕事もちゃんと出来ないよね。
なんで一般人を巻き込んだのよ」
「いいじゃないですか、どうせいずれあたし達に喰われる連中でしょ?」
「何を言い出すかと思えば」
理沙とは違う方向から、別な声が響く。
それは聞き馴染んだ、親しみを覚える優しい声。
「夢乃さん!」
「今回はさすがに、理沙さんの言う通りよ。
もえぎ、あなたの仕事は、決して知られてはいけないものなの」
「そ、それは……」
「前にも警察が嗅ぎつけてたみたいだけど。
やるならちゃんと誰の目にも止まらないところで、証拠を残さないでやりなさいよ」
「チッ」
理沙の嫌みな口調には、露骨に舌打ちを返す。
その瞬間、彼女の目がキラリと光った。
身体が、一瞬で硬直する。
「ぐ……!」
「口で言ってもわからないみたいね、この反抗期」
「待ってください、理沙さん」
歩み寄ろうとする理沙を、夢乃が止める。
「どうあれ、今回の件でアンナセイヴァーの現状の動向がおおよそ見当がついたのは収穫です。
今動けるのは、ごく少数のメンバーだけ……せいぜい、一人か二人。
その可能性が見えただけでも、結果オーラ―じゃないですか」
「……あんた、本気で言ってるの?」
「ええ勿論、精一杯の擁護も含まれてますけどね」
「ふん」
「もえぎにも、これからは慎重にやってもらう必要はありますけどね」
そう呟きながら、夢乃が指をパチンと鳴らす。
と同時に、もえぎの全身麻痺が解けた。
「くっ! わ、わかったよ!
ちゃんとやればいいんでしょ、バレないように――」
「いや、もうその必要はない。
これからは、ド派手にやってもらおうか」
突然、どこからともなく男の声が聞こえて来る。
と同時に、天井のライトが激しく点灯した。
「また、廃墟のライトを……無粋ね」
呆れ声を出す夢乃の横に、マントをまとった男性が姿を現す。
――キリエだ。
「どういうことなの?
ド派手にやれって?」
腕組みをする理沙に、キリエは不敵な笑みを向ける。
「言葉の通りだ。
これまでのような隠密行動は、今後しなくて結構。
今日のもえぎのような、派手な……いや、それ以上にド派手にやってくれ」
「はぁ?! それじゃあ、博士のご意向には」
「それに関しては、承諾を得ている」
そう言うが早いか、キリエは何かを三人に投げ渡す。
それは細いブレスレットのような装飾品。
金色に輝くストーンには、宝石のように輝くクリスタルのようなものと、それを囲むようなプレートが施されている。
「これは、何なの?」
「サークレット、というらしい。
それを、右手首に嵌めてもらおう」
自分の右手首を指し示しながら、指示する。
その仕草に、夢乃はハッと顔を上げた。
「もしかして、これって――」
「そうだ、アンナユニットを装着するための端末よ。
お前達専用のな」
キリエの口元が、更に大きく歪む。
その真意を理解したのか、三人の女性も彼の言葉に関心を示し始める。
「こいつを使って、今まで通りに下級XENOの駆除をするのだ。
周辺の被害など、気にすることはない。
好きなように暴れ、好きなように破壊し、殺すがいい!」
キリエの宣言に、もえぎはとても嬉しそうに微笑んだ。
「お前達が派手に暴れれば暴れるほど、アンナセイヴァーは行動しにくくなっていくだろうからな」




