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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第2章 アンナウィザード・ミスティック登場編
19/225

●第9話【不安】1/3

 雑居ビルの中の照明が、消えている。

 階段に人の行き来する気配は感じられず、各階のテナントにも、人が居る気配はない。

 開け放たれた四階の表向きの窓からは、白いカーテンがたなびいている。


 店内には、白い糸状の何かが張り巡らされていた。


 天井や、壁だけではない。

 全てが、巨大かつ尋常ではない量の糸で、びっしりと覆われているのだ。

 


 その異様な空間には、軽やかで優しげなBGMが、静かに流れ続けていた。

 


 美神戦隊アンナセイヴァー


 第9話 【不安】





「はい、ど~ぞ♪」


 恵が作ってくれた料理は、リゾットだった。

 事前に炊いておいたご飯を使い、牛乳と少量のチーズ、コンソメで味付けをした簡素なものだったが、本当にささっと手早く作り上げており、愛美はその手際に感心して見とれていた。

 調理をした恵も、それを手伝った舞衣の包丁さばきも、決して付け焼刃ではなく、明らかに扱い慣れた手つきだ。

 良く炒められた玉ねぎの香りが食欲をそそり、愛美の空腹感を刺激する。

 丁寧に礼を述べ、手を合わせていただきますをすると、愛美はありがたく料理を頂くことにした。


「――美味しい!」


 優しい味わいと、深いコクが口の中に広がる。

 それに何よりも、自分の為だけに料理を作ってくれたという事実が、愛美の感動中枢を激しく刺激した。

 丸一日以上何も食べなかったが、これなら消化も良さそうだ。


「本当に、本当に美味しいです! ありがとうございます!」


 一口食べるごとに、感想と礼を述べる。

 恵は、そんな彼女を見て、目を細め喜んだ。


「良かったぁ! お口に合って」


「こんな、いきなり押しかけたような私なんかの為に、ここまでしていただけて……グスッ」


「そんな、愛美さん、泣かないで!」


「わわ、愛美ちゃ~ん!

 お、おかわりもあるからね、もっと食べたかったら遠慮しないで言ってね!」


「はい、ありがとうございます……」


 思わず感動の涙に咽ぶ。

 愛美は、やっぱりこの人達は本当に優しい人に違いない、と実感し、少しでも疑った自分を恥じた。





 空は快晴、気温も丁度良い塩梅で、風も冷たくない。

 まさに、お出かけ日和。

 食事を終えて元気が出てきた愛美は、相模姉妹に連れ出され、外出することにした。

 マンションの外に出て、先程まで自分が居た建物の外観を見て、その大きさと豪華さに驚愕する。


「ポカーン……」


「ここは、“SVアークプレイス”と申します。

 この棟だけでなく、向こうに見える棟まで、全部そうなんですよ」


 舞衣が指差す方向に立ち並ぶ棟は、一つや二つではない。

 都内の真ん中に、こんなに広大なマンション街があるという凄さは、素人の愛美でも容易に理解できた。

 この広さは、かつて居た井村邸の敷地の何倍になるのだろうか。


「す、すごい……もう、なんて言っていいのか」


「ねっ、スゴイおっきいでしょ!」


 愛美の右手を取りながら、恵が笑顔で付け加える。


「こ、こんな所に、わわわ、私が住んで……

 そ、そ、そんなこと、許されるのでしょうか?!」


「大丈夫ですよ、ここは全て、私達“SAVE.”の所有施設ですので。

 どうかお気になさらないでください」


「せ、西部? 西武??」


「愛美ちゃん、“SAVE.”だよ。

 エス、エー、ブイ、イーの、セーブ!」


「ああ、すみません!

 って、私達の、というのは?」


「詳しくは、おいおい説明しますね。

 ただ今は、愛美さんが何も気にされないで、ここをお使い頂けるということだけ分かっていただければ」


(そ、そ、そんなトンでもないこと、急に言われたって!)


 先程から続く混乱に、更に拍車がかかる。

 すると、恵が指を伸ばし、愛美の胸元をツンとつついた。


「あ、でもね。

 ここに居る間は、これは絶対に身に付けておいてね」


「え? これをですか?」


 恵が指したのは、井村邸で愛美が拾った宝石のような物体だ。

 金色の金属で周囲を包んだ半球型の宝石――のように見えるアクセサリー。

 半球の中では、光の角度によって白い模様が浮かび上がる。

 これに、恵がネックレスのチェーンをつけてくれたものを、愛美は首から提げていた。


「これは、いったい何なのでしょう?」


 愛美の問いに、舞衣が笑顔で答える。


「これは、“パーソナルユニット”という物です」


「パーソナル……ユニット?」


「うん、これを持ってないと、このマンションに入れないんだよ」


 そう言うと、恵は左手の甲を向ける。

 薬指には、少々大きめな石座クラウンの付いた指輪が嵌められていた。


「これ、メグのパーソナルユニットぉ♪」


「左の薬指に?」


「ええ、そうです。

 私も」


 続けて、舞衣も左手を見せる。

 その薬指にも、同じような指輪が嵌っていた。


(ということは、お二人とも、結婚前提の彼氏さんがいらっしゃるんだ。

 そりゃあ、こんなに美人さんなら、当然かな)


 妙に納得した愛美は、無意識に頷いた。


「お二人も、持っているのですね?」


「そうです。

 私達だけでなく、このマンションの住人全員が、それぞれ別々の形のものを持っています」


「え? 全員が?」


「うん、そうだよ!

 これ、このマンションの入場許可証みたいなものなの」


「ほ、ほえ~」


(東京って、すごいんだ。

 こういうのがないと、マンションに住むことも許されないんだ……せ、セキュリティというものなのかな)


「それでは、お出かけしましょう」


 マンションの各棟に囲まれている、緑多い公園。

 その中を突っ切るように歩いていくと、やがて大きな道路に出る。

 その脇の停車用エリアに、見覚えのある黒い車が停まっていた。


「あ、ナイトシェイドもう来てる!」


「え? ナイトシェイドさんですか?」


「ええ、今日のドライバーさんです」


 ナイトシェイド。

 井村邸での出来事で、愛美はこの車――の形をした自立AI搭載の装甲車ロボットを良く理解していた。

 トヨタスープラ3.0GTターボAのボディを持ち、光沢のある黒い外装で包み込まれ、足周りはホイールベースまで漆黒に染まっている。

 正直、周辺を走る車と比べると聊か古めかしい感は否めないが、その攻撃的とも云える鋭いノーズとすらりとした全体のシルエットは、独自の美しさと洗練さを感じさせる。

 ……が、これが会話可能で、しかも自力で走ることが出来るスーパーマシンだとは、はたからは知る由もないだろう。

 

『舞衣様、恵様、愛美様。

 おはようございます』


 ナイトシェイドに近付くと、女性の声で挨拶される。

 

「おっはよー、ナイトシェイド!

 今日も元気ぃ?」


『恵様、ありがとうございます。

 システムオールグリーン、状態は完璧です』


「それは良かったです。

 それでは、本日はよろしくお願いします」


『畏まりました、舞衣様』


 助手席側のドアが自動で開き、背凭れが倒れ、シートが前方にスライドする。

 中を覗き込むと、車内には誰も載っていなかった。


「えっ?! ナイトシェイドさん、お一人で来られたのですか?!」


『はい、愛美様。

 その通りです』


「ナイトシェイドはね、自分で判断して一人で走れるんだよ」


「す、すごい……んですけど、お二人は、車の免許はお持ちなのですか?」


 愛美の質問に、姉妹は首を横に振る。


「ナイトシェイドは自動運転レベル5認定車両なので、搭乗者は運転免許不要なのです」


「そ、そうなんですか……なんかすごい」


 正直、舞衣の説明は微塵も理解出来なかったが、愛美は「そういうもんなんだろう」と無理やり納得することにした。


「愛美ちゃん、前から中を見て」


「え? はい」


 恵に促され、愛美はフロントウィンドウから車内を覗き込む。

 すると、運転席には凱が座っていた。

 慌ててドアから中を覗くが、やっぱり運転席は空だ。

 にも関わらず、表から見ると、間違いなく凱が座っている。


 数回これを繰り返した後、愛美は、頭に一杯のハテナを浮かべていた。


「ど、ど、どういうことなんですか?!

 もしかして、が、凱さんの、ゆゆゆ、幽霊?!」


「そんなわけないでしょ~」


「これは、ナイトシェイドがスクリーンにお兄さ……兄の姿を映し出しているのです」


「ほえ~! で、でも、何故なんですか?」


「このお兄ちゃんの映像はね、周りの車の運転手さんを脅かさないようにするためなんだよ」


「へえぇ~!」


 愛美は、ナイトシェイドの“なんだかよくわからない機能”に、改めて感心した。




 都内の、雑居ビル。

 三日前から出しっ放しにされている看板の前を、一人の少女が横切る。

 背の丈から、小学生くらいと思われるその少女は、つばの広い麦藁帽子を目深に被り、水色のワンピースをたなびかせながら、ビル脇の小路に入り込む。

 完全に人気のない細い路地をゆっくり進むと、少女は、足元に転がっている何かに目を止めた。


 それは、半透明の円筒型ケース。

 蓋は少し離れた所に転がっているようだ。

 少女はスカートの裾を膝裏に当てながらしゃがむと、そのケースを手に取った。


 下に向いた開口部から、透明な粘液が滴り落ちる。


 蓋も拾い上げた少女は、頭上を見上げる。

 五階の窓が大きく開かれているのを見て、少女は満足そうに口元を歪めた。




 ナイトシェイドは、くすの木通りを走り、恵比寿通りを山手線沿いに渋谷方面へ向かう。

 愛美を運転席の後ろに乗せ、その横に恵、助手席には舞衣が搭乗した。

 車内では、少女三人の楽しげな会話が繰り広げられていた。

 最初は緊張気味だった愛美も、しきりに話題を振ってくる姉妹に徐々に感化され、積極的に会話に混じるようになってきた。


 やがて愛美と相模姉妹の三人は、渋谷に辿り着いた。

 JR渋谷駅前、渋谷中央街のゲート前で降りた後、ナイトシェイドは何処かに走り去ってしまう。

 残った三人は、晴れ渡った空を見上げた。


「ほわぁ~」


 愛美は、周囲の様子に圧倒されていた。

 大勢の行き交う人々、無数の車の流れ、高いビルの数々。

 いずれも、これまでの愛美の生活では見ることがなかった、想像を超える都会の光景だった。


「ヒカリエ行こうか!」


 スマホを見ながら、恵が提案する。

 同意する舞衣に、ただ促される愛美。

 右も左もわからない以上、ここは二人にお任せするしかなかった。


「では、愛美様♪」


 突然、舞衣がおかしな呼び方で声をかけて来た。


「はい?! 様?」


「ええ、本日は私達、愛美さんお付きのメイドですから」


「そーだよぉ、愛美サマ♪」


「ひえっ?!」


「先に買い物を済ませて、その後は色んなお店をゆっくり回りませんか?」


「は、はい、お任せいたします!」


「承知いたしました、愛美様。

 それでは、ご案内いたしますね☆」


「いこーいこー、愛美サマぁ♪」


「わ、わ、さ、様付けは、勘弁してくださ~い!」


 姉妹に両手を引かれ、愛美は渋谷の街に紛れ込んで行った。

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