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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-06
173/226

●第89話【特捜】


 東京都多摩市。

 ある日の正午、のどかな日差しに包まれたこの平和な町で、事件は突然発生した。


 多摩市役所付近に、身長二メートルを超える半裸の屈強な男が出現。

 しかしてその頭と下半身は人間のそれではなく、牛の姿をしていた。

 何処から持って来たのか、片手には巨大な斧を思わせる凶器を携えており、地響きを伴うような足取りで駐車場の車を次々に破壊して行った。


 圧倒的な破壊力、そして何よりもその奇異な姿。

 突然の化け物の出現に恐れおののいた町の住人達は即座に避難を行ったものの、市役所敷地内にはまだ逃げ切れていない人々が大勢残されている。


 後にUC-18“ミノタウロス”と呼称されることになるこのXENOは、窓から様子を窺う職員の存在を察知。

 遂には屋内にまで入り込もうとしている。


 だがそこに、鋭いエキゾーストノートが響き渡った。


 駐車場に、一台の黒いバイクが入り込んで来る。

 オンロードタイプの大型車、漆黒のボディに所々真っ赤なライトが光っている。

 バイクに乗っていた黒いコートの人物はゆっくり降り立つと、迷うことなくミノタウロスの居る方向へ歩き出した。

 ヘルメットを取ろうともせずに。


 ミノタウロスが気付き顔を向けた瞬間、男はコートの中から銀色の棍棒のようなものを取り出す。

 全長五十センチ程の武器が日の光を乱反射させ、ひと際存在感を放っている。

 それを見て興奮したのか、ミノタウロスは即座に振り返ると、男に向かって突進し始めた。


 だが男はそれをものともせず、武器を前方にかざして佇むのみ。

 回避行動を取る様子もない。


 暴走した自動車のような勢いで突っ込んでくるミノタウロスが接触するその瞬間。

 男は銀色の武器を大きく振り払った。


 バスン! という、何かが爆ぜるような音が響く。


 次の瞬間、窓から様子を窺っていた者達は、空中をくるくると回転しながら舞う棒状の何かを見止めた。

 それがミノタウロスの、武器を持った腕であると分かったのは、駐車場に落下してからだった。

 みるみるうちに崩壊していく腕と武器、そして轟く悲鳴。

 だが、右腕を肩から失った筈のミノタウロスは、あっという間に腕と手持ち武器を復元させてしまった。


 しかし、その隙を突くように、男が動く。


 ミノタウロスの身体を駆け上ると、男はそこから更に飛翔する。

 五メートルほどの高さまでジャンプし、足首に閃光が迸る。



 まるで空を足場にするように踏み切ると、男はそのまま身体を猛回転させダイブする。

 その途端、銀色の棍棒が閃光を放った。


 男を捕捉しようと顔を上げた所に、男の武器から伸びた赤色の光が衝突する。

 まるで剣のように伸びた光は、ミノタウロスの顔面をまっすぐに捕らえ、そのまま垂直に切り裂いていった。


 悲鳴を上げる間もなく、ミノタウロスは、真っ二つに切り裂かれる。

 ドスンという鈍い音を立てて巨体が倒れた直後、男はふわりと降り立つ。

 銀色の武器から伸びている赤い光が消えた次の瞬間、ミノタウロスの身体は崩壊を始め、あっという間に消滅してしまった。


 男は、市役所の方に目をくれることもなく、再びバイクに跨ると、爆音を立てて走り去ってしまった。

  


 XENO出現から撃退までの時間は、僅か十三分だった。 


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第89話【特捜】

 




「お疲れ」


 バイクを停め、ヘルメットを脱いだ男は、声をかけて来た女性にサムズアップをして見せる。

 バイクのスタンドが、自動的に立ち上がる。


 ヘルメットをシートの上に置くと、男――鷹風ナオトは銀色の武器を取り出し、脇にあるホルダーに立てかけた。

 即座にフードが閉じられ、機械に収納される。


「ナオト、身体の調子はもう大丈夫なの?」


「ああ、問題ない」


「再調整したギガブレイカーは?」


「想定以上の使い勝手の良さだ。

 思い切って軽量化を図って正解だった」


「そう、良かった」


 地下迷宮ダンジョンでは決して見せない、明るい笑顔を浮かべる。

 宇田川霞はドアを開けると、男――鷹風ナオトを室内に招き入れた。


 分厚い鉄のドアをくぐると、その先には巨大な空間が広がっている。

 何かの工場を思わせる広いフロアと高い天井、それを横切るように伸びている空中移動通路。

 左右の壁の上部には、下を見下ろすようなガラス張りの出窓が無数に設置されている。

 また床の中央には見上げる程巨大な機器が置かれ、その周囲には極太の配管が幾重にも施されている。


 薄暗いフロアのあちこちにはスポットライトのような照明が配され、奥の方では無骨な機器内に配置されたアンナチェイサーの機体が照らし出されていた。


 ただっ広い空間にぽつんと置かれたテーブルにナオトを招くと、霞はその反対側にある椅子に腰かける。


「今回のXENOは、どうだったの?」


 いつもより明るい声で、霞が尋ねる。

 今日は少し機嫌が良いのか、表情も柔らかい。

 そんな彼女の態度にほっと息を吐くと、ナオトは突然、虚空に手を伸ばす。


 開いた右手で空間をすっと撫でると、そこに空間投影型モニタが出現した。

 映し出されたのは、先程多摩市役所に出現したミノタウロスの姿だ。


「問題ない。力押しだけの知性のない個体だったのが幸いした」


「そう。それなら楽ね」


「しかし、初めて確認された個体だ。

 まだ派生種は多そうだし、注意が必要だ」


 そこまで言うと、ナオトは奥の方に鎮座するアンナチェイサーの機体に目を向ける。


「バックアップとメンテの方は?」


「メンテは完了。

 後は“賢者セージ”のバックアップ完了待ち」


 報告を聞き、更に安堵の声を漏らすナオト。

 しばらくすると、霞がコーヒーを淹れて運んで来た。


「はい」


「ありがとう」


「いつもの、砂糖とミルクたっぷり」


「すまない。

 疲れた時はこれが一番効くんだ」


「ナオトが甘くないコーヒー飲んでたとこ、見た記憶ないけど」


「……」


「そういえば、あの人の方はどうだったの?」


「幸い、命に別条はないようだ。

 今は偽名で入院させている。

 回復したら、当初の話通りここに避難させるつもりだ」


「うん、わかった。

 部屋も整ってるから、いつでも大丈夫」


「そうか」


「少しは賑やかになるかな」


「どうだろうな」


 マグカップを持ち、一口すすったところで、堪らないといった顔つきになる。

 それを眺めながら、霞はふふっと微笑んだ。


「どうした?」


 ナオトの問いに、霞は小首を傾げながら応える。


「私達、ここに来てもう何年だっけ?」


「十二年、だな」


「まだ覚えてる? フェアリーティアのこと」


「忘れるわけがないだろう」


「そう、だよね」


「お前はどうなんだ?」


「正直、もう殆ど忘れてる」


「仕方ないな。

 まだ四歳だったんだし」


「うん、それはそうなんだけど」


 急に、悲しそうな顔つきになる霞。

 ナオトはそれに気付くと、マグカップを静かに置いた。


「やはり、寂しいか」


「それは、大丈夫。

 大丈夫なんだけど……自分が、ちょっと怖くて」


「怖い?」


「うん。

 このままだと、いつか“ママ”との思い出も忘れちゃうのかなって」


「そんなことはないだろ。

 今はすぐ傍に――」


「わかってる。それ以上言わないで」


「すまん」


 普段は見せない、とても悲しそうな表情を浮かべる。

 そんな霞の背中に、ナオトは優しく手を置いた。

 彼も、“SAVE.”では見せたことのない、慈愛に満ちた表情だ。


「霞……」


「大丈夫、わかってるから。

 私は最後まで沈黙を貫くから、心配しないで」


「すまん、俺では何も支えにもなってやれなくて」


「そんな事言わないで、ナオト。

 これまでもずっと私の世話をしてくれてたんだし。

 感謝してる」


「ああ、だが……」


「ナオトって、本当に世話焼きだよね。

 まるで私のママみたい」


「あの人の代役には、とてもなれん。

 あの人は、特別過ぎる」


「そうだよね。

 本当に凄いよ、私達のママは」


「ああ、そうだな」


 ようやく笑顔が戻った霞に安堵し、微笑みを漏らす。

 その時、どこからか“グゥ~”という音が鳴った。


「あっ」


 咄嗟にお腹を押さえた霞を、ナオトがジト目で見つめる。


「まだ食事してないのか?

 待ってろ」


「あ、いいよナオト!

 自分でするから」


「どうせまたコンビニ飯だろう?

 副菜くらい用意する」


「まぁた、おせっかい」


「ちゃんとした栄養を摂れ。

 育ち盛りなんだからな」


「私、あと何年育ち盛り続けるのよ」


「成人まで頑張れ」


「はーい」


 厨房のあるドアへ小走りで向かうナオトを眺め、霞はクスクスと笑った。


 そしてすぐに、真顔に戻る。

 遥かに高い天井を見上げ、霞は目を細めた。


(この迷宮園ラビリンスに、私達はいつまで居なければならないのかな……)






 遅い昼食を終え、食器を片づけると、霞はフロア中央の大型機械の傍へ向かう。

 側面部に設置されている端末を使い、何かを打ち込んでいると、ナオトが黒いバイクを押しながら近付いてきた。


「バックアップは終わったか?」


「終わってるよ。

 どうしたの、ドルージュに何かあった?」


「いや、洗車しようと思って」


「手伝おうか?」


「ありがとう。だが一人で大丈夫だ」


「そう」


 素っ気ない返事を返し、再び端末に向かう。

 ショートパンツから伸びる脚を組み、テーブルに肘を載せると、霞は画面を見つめて呟いた。


「ねえナオト、教えてよ」


「どうした?」


 バイクを洗うための道具を運んで来たナオトが、不思議そうに画面を覗き込んで来る。


「チェイサーのアップデートプログラムなんだけど、このシステムフォルダに加わってる最新の日付の奴がそれ?」


「そうだな」


「いつ、こんなものがインストールされたの?」


「新宿の戦闘の時だ」


「あの、XENOが大量に出た時の?」


 霞の質問に、ナオトが深く頷く。


「あの時、アンナローグの近くで実装させたのはこの為だ。

 アップデートプログラムは、愛美が持っているサークレットからしか送信されないからな」


「そういう事だったのね。

 ってことは、もしかして次のアップデートも?」


「そうなるな。

 恐らくそろそろ、次のアップデートが開始される頃だと思う。

 そうなったら、お前も彼女の傍でまた実装する必要が生じる」


「ふうん」


 興味なさそうに応えると、霞はバックアッププログラムを表示したフォルダを閉じた。


「それも、あの仙川メモに書かれてたこと?」


「いや、違う。

 直接本人から聞いた」


「そうなんだ。

 でも、よく覚えていたね」


「ああ。

 あいつの言葉は絶対に忘れてはいけないと思って、必死で記憶した」


「そう」


 霞のまたも素っ気ない返事を聞き、ナオトはバイクの洗車に向かおうとする。

 だがその時、霞の見ていたモニタに警告画面が表示され、同時にナオトの腕時計が鳴り出した。

 それはアラームというよりも、警告音に近いけたたましさを感じるものだ。


「連発か」


賢者セージ、場所は?」


 霞が、モニタに向かって呟く。

 すると画面にマップが表示され、それと同じものがナオトの眼前の空間にも投影される。


「江東区、有明の辺りか。

 行ってくる」


「ナオトは休んでて。今度は私が」


 バイクを引こうとするナオトを制し、霞が立ち上がる。

 胸元にぶら下がるペンダントを、ぎゅっと握り締めて。


「アンナチェイサーはもうOKだから」


「わかった、すまないが頼む」


「何かあったらフォローよろしく」


「任せろ」


 互いに頷き合うと、それ以上は何も言わず、二人はそれぞれ所定の位置に向かって走り出す。

 ナオトは階段を駆け上がり、頭上に浮かぶ移動通路の一つへ。

 そして霞は、先程ナオトが通過した大きな鉄の扉に向かう。


 扉の前に立つと、霞の全身がスキャンされる。

 僅かな間を置き、ドアが鈍い音を立てて開く。

 と同時に、霞は隙間をすり抜けて走り出す。


 トラックが通れそうな程幅の広い通路を掛けて行くと、やがて何本もの巨大なシリンダー型のメカが配置されたエリアに辿り着く。

 そのうちの一つに迷わず飛び込むと、霞を載せたゴンドラは滑るように上昇して行った。


 胸元のペンダントに両掌をかざすと、霞は表情をキッと引き締め、少し大きな声で詠唱する。


「チャージアップ」


 ペンダントのストーンが展開し、中心部に渦を巻くような光が現れる。

 それと同時に、エレベーターのシリンダー内が煌めく閃光に包まれた。




“チェイサー、聞こえるか。

 XENOの出現位置は、ゆりかもめ有明テニスの森駅西側にある空地だ。

 かなり大型の個体だ、注意しろ”


「了解」


 エレベーターを降りた霞は、漆黒のコスチュームをまとう“アンナチェイサー”に変わっていた。

 黒いまふらーが、風になびく。

 その眼差しは鋭く変わり、まだ見ぬ怪異を射貫かんが如き気配を漂わせる。


 時刻は午後四時、退勤ラッシュが始まるまでにはまだ若干時間がある。

 地面に飛び出したシリンダー状のゴンドラは、アンナチェイサーが降りたと同時にその場からかき消える。

 アンナチェイサーは周囲を見回すと、軽く飛び上がる。

 その瞬間、彼女の姿は空中にかき消えた。



 空地に現れたのは、“樹”だった。

 そこにある筈のない、巨大な一本の樹木。

 大きく太い幹を取り囲むように、無数の蔓がまとわりつくその姿、異様な雰囲気を漂わせる。

 少しずつ少しずつ、それは上へと伸び始め、全高約六メートル程の大きさまで成長していた。

 駅の監視カメラが偶然捉えていなければ、気付けなかったかもしれない怪異。


 その得体の知れない樹木が、周囲に蔓とも根ともつかないものを伸ばし始めたその瞬間、どこからともなく声が響いた。


「ブラックミサイル!!」


 途端に、無数の小型ミサイルが降り注ぐ。

 それらは何もない空間から突如現れ、複雑な軌道を描いて一発残らず命中する。

 爆音が鳴り響き、近くを通る人々が驚いて足を止めるも、煙が晴れた先に見えた異形を見るなり、皆悲鳴を上げて走り去っていった。


賢者セージ、ハルシネーション!

 範囲は百二十メートルかける百八十五メートル!」


『了解』


 男のナビゲーションボイスが響き、空地の外周が一瞬青白く光り輝く。

 空地の外では、突然消滅した巨大な樹木に、大勢の人々が驚いている。

 だが実際には、消えた訳ではない。

 空地の周辺に張り巡らされた光学地形ハルシネーションにより、隠蔽されているに過ぎない。


(このXENO……あそこで観た個体によく似ている)


 ミサイルの攻撃でもびくともせず、切断された蔓を次々に復元していくXENOの姿に、チェイサーは戦慄を覚えていた。

 それはつい先日、吉祥寺研究所地下で観た巨大な「樹」にどことなく似ているからだ。

 人の肌を削ぎ落とし、固めて造形したような巨木は、XENOを生み出す能力を持ち、しかも地面深くに潜り逃走した。

 よく見れば色も形も、そして表面の様相も全然異なるのだが、チェイサーはこのXENOにどこか共通点があるような気がしてならなかった。


 XENOの攻撃が始まる。

 生き残った無数の蔓を唸らせ、まるで鞭のように動かして攻めて来る。

 しかし、アンナチェイサーがステルス機能で姿を消しているため、その攻撃は全て明後日の方向に向けられている。

 とはいえ、命中した地面が一撃で大きく削り取られている為、攻撃力そのものは非常に高そうだ。

 

(接近戦は、無謀だな)


 アンナチェイサーは再度飛翔して距離を取ると、右掌のイクイップメントコンソールのスイッチを入れようとする。

 だがその瞬間、突然通信が飛び込んで来た。


『チェイサー、ブラスターを使用しろ』


 声は、ナオトだ。


「ブラスターを?! そこまでしなくても」


『緊急事態が起きた。

 そいつにそれ以上構っている時間はなくなった。

 一気に吹き飛ばして、すぐに戻って来てくれ』


「了解」


 珍しく焦った口調のナオトに何かを感じ、チェイサーはXENOから距離を取って着地する。

 右手をぐっと握り込み、人差し指から小指までの根元にあるスイッチを、それぞれの指先で押す。

 素早く両腕を交差させ、両拳を腰に引くと、アンナチェイサーは脚を大きめに開く。


 彼女の前方の空間が激しく湾曲し、何やら円柱型のラインがレーザーのようなもので描かれ始めた。


 その時、復元が完了したのか、XENOの蔓が突如うねり出し、襲い掛かってきた。

 百メートル程の間合いを、一気に詰めて来るスピードと伸縮力。

 あと僅かでチェイサーを捕らえられる間合いに、というところで、突如空間が煌めいた。


 アンナチェイサーがゆっくりと両腕を伸ばすと、何処からともなく無数の機械が現れた。

 それはXENOの伸ばした蔓を弾き飛ばし、旋回すると、先程出現したレーザーのラインに沿うように結合を始める。


 数十秒程の時間を経て、アンナチェイサーの前方には、巨大な大砲のようなものが形成された。

 

 チェイサーの両腕は、巨大な砲塔の根本にある機器と一体化しており、全身の力でそれを支えている。

 彼女の眉間に、皺が寄る。


 視界に現れた照準がXENOを捉えた瞬間、アンナチェイサーは、両脚に力を込め、重心を落とす。

 砲塔内部に、光が充填されていく。



「ブラック、ブラスタぁ――っ!!」



 アンナチェイサーの叫びと共に、砲塔から極太の光線が射出された。

 それは一直線にXENOに向かって行き、周囲の大気を激しく震わせ、地面を抉っていく。


 だが、次の瞬間。

 なんとXENOは、突然その場から姿を消してしまった。

 光線が届くよりも先に、テレポートで逃走を図ったのだ。


 それでも光線は、止まることなく一直線に進んで行く。

 先程XENOが居た場所に到達したその瞬間、突如として空間が湾曲し、レーザーが呑み込まれた。


 空間の歪みにかき消されても尚、砲塔からのレーザー照射は途切れない。

 そしてアンナチェイサーも、残念そうな、或いは諦めたような表情を浮かべてはいなかった。





 ここは、埼玉県鴻巣市荊原。

 左右を畑に挟まれた細い農道に、突然巨大な樹のような物体が出現した。

 無数の長い蔓を振り乱し、まるで全身で荒い呼吸をするように蠢く。


 だがそこに、何処からともなく太い光線が飛来し、巨大な樹を包み込む。

 光線はどんどん口径を拡げ、直径八メートル程にまで大きくなると、樹を完全に呑み込んでしまった。

 轟音と共に、光の中で一瞬にして朽ち果てて行くXENO。


 光はやがて掠れるように細まり、完全に消滅する。


 その場に残ったのは、農道に大きく刻まれた「樹の足跡」とも云える浅い孔だけだった。

 目撃者は、誰もいない。




『標的の破壊を確認しました』


 男の声が、耳に届く。

 アンナチェイサーはふぅと息を吐くと、両腕を大きく開く。

 と同時に、巨大な大砲を形作っていた機械は四散し、空間に溶け込むように消滅する。

一瞬空を見上げ、軽やかに飛び上がると、アンナチェイサーは、超高速で夕焼けの空に消えて行った。



 

 現在、アンナセイヴァーは活動出来ない状況にある。


 アンナローグとウィザード、ミスティックの三体は、機体こそ健常なものの“SAVE.”にて精密検査を受けている。

 そしてアンナパラディンとブレイザーは、機体の破損とシステム障害、そして何より搭乗者パイロットが入院状態という有様だ。


 その為現在は、特捜班である鷹風ナオトと宇田川霞が、独立部隊としてXENOの対処に暗躍している。


 現状動けるアンナユニットは、アンナチェイサーしかない。

 鷹風ナオトが協力するも、おのずと限界が生じることは火を見るより明らかだ。

 まして彼は、新宿の一件で脱出したものの、その際に負った負傷がまだ完治していない。


(アンナセイヴァーの、一日も早い復帰を祈らなければ)


 先程のナオトからの通信が気になる。

 アンナチェイサーは、最高速で帰路を急いだ。 

 


(ナオト、用件を通信で教えてくれないかなあ。

 直接会わないと大事な話はしないって癖、お父さんそのまんまじゃないか)




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