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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-06
171/226

●第87話【冥土】



 日曜日の朝。


 とても清々しく晴れ渡った空を見つめ、恵は思い切り部屋の窓を開く。

 少しこもった空気が入れ替わり、部屋の雰囲気がみるみるうちに明るく変わっていく。


 只今の時間、午前六時。


「ふにゃ~、今日も絶好調だー☆」


 発声練習を兼ねた、独り言。

 どこから生やしたのか猫耳をぱたしぱたし運動させると、恵は自室を元気に飛び出し、客室へと駆け出して行った。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


   第87話【冥土】

 






「恵お嬢様、おはようございます」


 廊下を曲がったところで、声をかけられる。

 すでに起きて仕事を始めている使用人、所謂“ハウスメイド”の本郷弘子ほんごうひろこだ。


 元科学者という変わった経歴を持っている人物で、現在この相模邸のメイド長。皆からは通称“一号”と呼ばれている。


 その外観はいわゆる「メイド」さんなのだが、とてもそうは思えないような鋭い眼光が特徴だ。

 だが、もう長い付き合いの恵は、そんな彼女の強面な姿にすっかり慣れ親しんでしまっていた。


「おはよー☆

 ねーねー弘子さん、お兄ちゃんのお部屋ってどこだっけ?」


 お兄ちゃんとは、北条凱の事だ。

 父・鉄蔵の依頼した用事の報告とかで、昨日から相模邸に泊り込んでいるのだ。


 本郷は、女性にしては太めの眉をグイッと動かし、まるで睨みつけるかのような視線を向ける。


「むっ…坊ちゃまでしたら、2階の東側、一番奥の部屋でお泊りになられている筈ですな」


「はーい♪ ありがと弘子さん☆」


 そう言いながら、本郷にガバッと抱きつき、頬をスリスリと摺り寄せる。


 突然の頬擦りを受けた本郷は、顔を赤らめながらも必要以上にニヒルな表情をゆるめはしなかった。

 この屋敷に、メイドとしてもっとも長く勤めている(途中数回ヨーロッパへ出張経験有)本郷は、恵が小さい時から毎朝この洗礼を受けてきたのだが、なぜかいまだに慣れないらしい。


「お嬢様、早く行かないと、舞衣お嬢様が先に辿り着きますよ」


「あ、そっか。じゃーね!」


 忠告に従い、手を振りながら階段ホールへと駆け出していく恵を見つめ、本郷は、フッと軽く鼻で笑った。



「どうした本郷?」


 廊下の反対側から、別のメイドが声をかける。

 本郷に次ぐ長期勤務メイドで、彼女にスカウトされてこの屋敷にやってきた元カメラマン・一文字剛美いちもんじたけみだ。


 当然だが、副メイド長の彼女は“二号”と呼ばれている。

 女だてらに力仕事が得意だ。


「おお、一文字」


「彼女、久しぶりに兄貴が泊まりに来てはしゃいでいるようだな」


「そうだな。起こしに行ったついでに、また布団に潜り込むつもりだろう。

 朝から甘えん坊全開のようだ」


 そう呟きつつ、自分の頬を軽く指でなぞる。先ほどの頬擦りの一部始終を眺めていた一文字は、はにかんだ顔でその仕草を見つめた。


「あの子達は、子供の頃から全く変わっとらんな」


「まったくだ。まあその方があの子らしいがな」


「よし、我々も仕事に戻るぞ」


「がってんだ」


 とても女性同士の会話とは思えない言葉を交わし、二人は、それぞれの持ち場へと戻っていった。






「お兄ちゃ~ん、朝だよぉー☆」


 本郷に言われた客室のドアを開けるのと同時に、恵は元気な声で呼びかけた。

 だが室内では、まったく別な人間が二人、びっくりした顔でこちらを見つめていた。


 三番目と四番目に勤務期間の長いベテランメイド、風見洋子かざみようこ結城久江ゆうきひさえだ。


 風見は本郷の大学時代の後輩で、結城はかつて海外の大資本会社に勤めていたという。

 二人の呼び名は、もう言うまでもなかろう。


 恵は結城と風見の間に割り込み、二人の腕を両手で掴むと、子猫のように小首を傾げた。


「はにゃっ!

 ねーねー結城さん、風見さん! お兄ちゃんもう起きちゃったの?」


「ああ、お兄さんでしたら、こちらの部屋ではありませんよ」


「え、そうなの? でも弘子さんがここだって」


 ちょっとうろたえる恵に、風見が笑顔で呼びかける。


「ああ、本郷先輩は知らなかったんでしょう。

 最初こちらにいたようですけど、寝る直前に部屋を移られたみたいですよ」


「ふーん、そなの?」


「多分、じんが知っていると思いますから、探しましょう」


 そう言いながら、風見は腰に備え付けた筒状の機器を取り出し、なぜかそれを真上に高く掲げる。

 しばし目を閉じて精神を集中させると、一瞬目をギラリと輝かせ、ボソリと呟く。


「あいつ、廊下の花瓶に水替えを忘れているな」


 どうしてそんな事がわかるのか全然理解できないが、これは風見の昔からの特技である。

 横では、結城が愉快そうに笑いながら、スマホを腰から取り出してコールした。


「神、三番客室に来てくれ。

 どうせ隠れてコーヒーでも飲んでるんだろ?」


 相模邸メイド軍団の中堅格・神亮子じんりょうこも、この大先輩二人にかかってはまだまだ新人同然の扱いのようだ。


「ふにゃー、なんで神さんのやってる事がわかるのぉ?」


「それはですね、お嬢様。

 私達はもうずっと長い間、共に闘い続けてきたからですよ」


「た、闘い?!」


「そう。共に戦った者同士に通じる何か、とでも申しましょうか」


「いずれお嬢様が大きくなったら、きっとわかりますよ」


 いったいどれくらい大きくなったら教えてくれるのかとっても突っ込みたかったが、もう十年以上こう言われ続けている恵は、あえて何も言わない事にした。

 とりあえず、風見と結城にも挨拶のスリスリをしておく恵であった。



「北条さんなら、三階の西に移ったんですよ。

 一緒に参りましょう」


 頭を掻きながら申し訳なさそうにやってきたメイド・神は、出会い頭にほっぺスリスリ攻撃を受け、たじろきながら返答した。

 もうかなり長い勤務なのに、いまだに新人の時の雰囲気を残している人物だ。


 かつては海洋研究の道を志していたというが、この人の過去もよくわからない。

 かつては婚約者がいたが、インターポールだかなんだかの仕事の関係で離れ離れになってしまったとか。


 恵は、神が子供の頃「父親に甘えて飛びついたら、そのまま投げ飛ばされた」という、にわかに信じがたい体験談を覚えており、よくそれを思い出す。


「なんか、朝からみんなに立て続けに逢うなんて珍しいよね?」


「そうですね、私はいつも恵様のお部屋とは反対側にいますし」


「そういえば、山本さんってもう帰ってきたの?」


 山本というのは、神の後輩にあたる山本徹子やまもとてつこの事だ。

 赤ん坊の頃に飛行機事故に遭い、たった一人生き残り成人するまでアマゾンのジャングルで生活していたという、にわかには信じ難い人生を送ってきた豪傑だ。

 本人はジャングルの長老の「相模に逢うんじゃ~」というお告げを頼りに東京まで密航してきたと言っている。


 もちろん、どこまで本当なのかはわからないが。

 二年前、自立してレストランを経営するために旅立ったのだが、どうもうまくいかなかったらしく出戻りになったらしい。


 どこにいるのかな~などとぼうっと考えていると、背後から「うがぁおぅっ!」という奇声が響いてきた。


「あ、山本さんだっ!」


 振り返り、思わず両手を組み小指を立てる。

 これは、彼女にとって「親友」を意味するサインだ。

 メイド服のまま、器用に天井に張り付いていた山本が、どさっと音を立てて廊下に落ちてきた。


「おい、あまじょん、元気なのはいいがやりすぎだぞ」


 “あまじょん”というのは、山本のあだ名である。

 まだ恵が小さい時、彼女の(一応の)出身地「アマゾン」をうまく発音できなかったという事から付いたもので、今ではメイド仲間は全員この名前で呼びかけている。


「あう、あまじょん、おととい帰った♪」


「おかえりー、山本さーん♪」


 以前は白いスーツで出て行ったのに、また野生化して戻ってきた山本だったが、恵のスリスリを受けてご機嫌な表情を浮かべている。


「舞衣、三階、上がった。凱の部屋、行くかも」


「えっ! じゃあ急がなきゃ!」


「あまじょん、手伝う」


 そう言うが早いか、山本は恵をおぶり、突然猛スピードで三階目指して走り出した。

 後ろで神が何か叫んでいたが、もう聞こえなくなってしまった。


「があおぉぅっ!!」


「うわー♪ 早い早い!

 山本さん、すごいー☆」


 すっかりご機嫌の恵だったが、三階の階段の脇から姿を覗かせた老人に気が付き、山本に静止を呼びかけた。



 ちゅ、ちゅ~



 相模家の古老であり、恵の祖父の代から勤めている執事・槐通洋さいかちみちひろだ。


 もう東京に出て長いのに、いまだ独特の訛りがあり、奇妙な口癖が印象的なおじいちゃんだ。

 恵と舞衣も彼にはとても世話になっており、実質的なおじいちゃん的存在だ。


「おいあまじょん、廊下を走るのは、感心せんぞ~」


「モグラ、すまない。でも、急ぐ」


「モグラっていうなよ~。

 恵お嬢様も、朝からそんな格好ではしたないですぞ」


「はーい、ごめんなさーい」


 そういって、素直に山本の背中から降りる。

 年を取って少し背が曲がり、なんとなくコロっとした体格になった上、ちょっと突き出た鼻先と老眼鏡が動物のモグラを連想させるため、皆に陰で囁かれているあだ名が「モグラ」だ。

 だが今では、彼をそう呼ぶのは山本くらいのものだ。

 尤もそれは、山本から言わせれば「自分をあだ名で呼ぶから、その仕返し」なんだそうだが。


「恵お嬢様高校三年生なんですから、いつまでもそのような子供みたいなはしゃぎ方などせずにですな、年頃の女性らしい立ち振る舞いを」


 またいつものような、お説教が始まろうとしている。

 恵が生まれるずっと前から屋敷にいる槐には、父の鉄蔵すらも歯が立たない。

 なので恵は、独自の方法で彼のお説教を止める術を体得していた。


「えーい♪」


「ちゅ、ちゅちゅ~!?!? な、何をなさいます~っ!」


 かますのは、やっぱり抱きつき&ほっぺスリスリの連携攻撃だ。恵の最大の愛情表現。

 槐は、昔からこれにやたらと弱かった。

 柔らかいほっぺと胸の弾力を、年老いた槐の顔に何度も押し付ける。


「じゃあ、急ぐからまた後でね~!」


「お、お嬢様っ!」


 後ろで声が聞こえるが、もう気にせず、山本と一緒に再び走り出した。 





 三階西側の部屋に辿り着くと、今まさに、入り口のドアを舞衣が開けようとしている所だった。

 間一髪!

 しかも、彼女はすでにパジャマを着替えていた。


 恵は、自分がまだニンジンマークのパジャマ姿である事を思い出し、ちょっと恥ずかしくなった。

 しかし、部屋に入ったらまだ半分眠っているに違いない兄のベッドに潜り込むには、この方がむしろ都合良い。


「おねーちゃーん」


 ドアを開く直前に舞衣に抱きつき、彼女にも朝の挨拶の「スリスリ」を敢行する。

 もちろん、足止めも兼ねているのは言うまでもない。


「え、あ? め、メグちゃん?!

 お、おはよう~」


「おっはにょ~ん♪ 

 お兄ちゃんを起こしに来たんでしょ?」


「え? え、ええ、そうだけど。

 メグちゃんも?」


「そーだよぉ。

 ちょっと遠回りしちゃったけど。

 ね、一緒に起こそうよ」


 やっぱり、どさくさに紛れて凱の布団の中に潜り込み、抱きつく事は不可能かもしれない。

 ならば、ここは先着を争うよりも、共に楽しみを分かち合った方がいい。

 非好戦的・平和主義の恵は、舞衣のほっぺの弾力を楽しみながら、そんな事を考えていた。


「誰か、いる」


 突然、山本が反応する。


「えっ? お兄ちゃんじゃなくて?」


「違う。口笛、聞こえる」


「えっ?」


 言われて耳を澄ますと、確かに扉の向こうから、微かに口笛が響いてくる。

 毎朝この辺りを歩くと、定番のように聞こえてくるこれは…

 山本は、なぜか慌てて扉を開いた。


 部屋の窓が大きく開かれ、外からの空気の流れで遮光カーテンがたなびいている。

 その中で、窓際に腰掛け、のんきに外を眺めているクールなメイドの姿があった。


 口笛の主は、七人目のメイド・城圭じょうけいだ。

 ちょっとガラが悪く、口のきき方も荒っぽい人物だが根は良い人なので、恵も舞衣も大好きだった。


「城、朝っぱらから、サボってる」


「げっ、あまじょん!

 それに、マイちゃんにメグちゃん!」


「あれー、城さん。お兄ちゃんここに泊まってなかった?」


 ベッドの中は空っぽで、城は、すでに空きとなったこの部屋を掃除するためにやって来ていたらしい。


「へへへ、ヤバい所で逢っちゃったなぁ。

 ああ、凱さんならもうとっくに起きて帰っちゃったよ」


「えーっ! そ、そうなの?!」


「そんなに早く、出られたのですか?」


「朝、弱いはずなのに、珍しい」


「なんか仕事があるんで、そんなに長居できないって言ってたよ。

 さっき慌てて出て行ったもの」


「えーっ、じゃあ入れ違いだったのぉ?!」


「そんな事まで、私は知らない」


「ううっ、しょぼ~ん」


「お兄様、せめて声くらいかけていってくださっても良いのにぃ~」


 いきなり塞ぎこむ二人の肩を抱き、城は、優しく微笑んで慰めた。

 七人のメイドの中では比較的若いせいか、城は舞衣や恵と話す時だけは、いわゆるタメ口で話す。

 そのため先輩達からかなり叱られているようだが、まるで治す気はないらしい。


 時々、凱とも飲みに行ってる仲らしいが、ほとんど「男同士の友情」になっているので、姉妹のジェラシーセンサーも反応しないようだ。


「でもねー、実は凱さん、忘れ物してったんだよ。ほらコレ」


 そう言って、城は凱の小さなポーチを取り出した。

 中には特殊行動時に必要なツールが詰まっていることを、二人は良く知っていた。


「あー、どうしよう?

 今から走って追いかけても、ナイトシェイドには追いつかないしぃ」


「携帯で呼び出した方がいいでしょうか?」


「ダメ、また戻ってきたら、急いで出て行った意味、ない」


「あ、そっかぁ。

 でもぉ、どうすればいいかなぁ」


 決定的な手段が見当たらず、四人は、困った顔で思わず見詰め合う。

 だがその時、窓のカーテンがバサッと力強く引き開かれた。


「私が届けますよ!」


 声は、窓の外から聞こえてきた。





「あ、やべえ! 忘れてきちまった!!」


 ナイトシェイドを運転中、もうすぐ恵比寿に入るという所で、凱はようやく忘れ物に気付いた。


「やべ~、こりゃ戻らないとまずいか」


 諦めて近くの交差点で切り替えそうと考えた瞬間、ナイトシェイドが警告した。


『マスター、未確認飛行物体がこちらにやって来ます』


「何? 飛行物体?」


 フロントウインドウをモニターモードに切り替え、空の様子を映し出す。

 そこには……大きなハングライダーに乗った、長身のメイドの姿があった。


「凱坊ちゃま~!!

 わ~す~れ~も~の~で~す~!!!」


「ひぃっ?!」


 画面を見たまま、凱は瞬間的に凍りついた。

 大声で名前を呼びつつ降下してくる“空飛ぶ! メイドさん”は、筑波明子つくばあきこ


 八人目の相模家メイドにして、スポーツ万能の健康優良児。

 かつてはメイドの仕事になじめず、皆の足を引っ張ってばかりいたのだが、七人全員による地獄の特訓の成果で百のメイド技を覚え、今ではメイド服の色まで明るく変わってしまっている。


「とおっ!」


 なんと筑波はいきなりハングライダーから離脱し、上空数メートルの位置から路面に向かってジャンプした。


「どわあっ! あ、危ねえっ!!」


 慌てて急ブレーキを踏むが、筑波はナイトシェイドから少し離れたところにふわりと降り立ち、余裕しゃくしゃくで歩み寄って来る。


「はい、忘れ物ですよ」


 あまりの事に、とっさに言葉が出ない凱に満面の笑みを浮かべると、身長百九十センチの筑波は、まるで上空から振り下ろすかのような雰囲気でポーチを手渡した。


「あ、ああ……ありがとう。

でもな筑波さん。いくらあんたでも飛び降りるってのは」


「それなら心配要りません。

 ほら、ここに“重力低減装置”がありますから」


 腰の上に巻かれている、怪しげな機械をポンと叩き、自慢げに唱える。


「ちょっと待て! そんな機械どっから持ってきた?!」


「気にしないでください。

 例のアレだって、元々誰が開発したものなのかわかんないっていういい加減な物なんですから」


 いったい何の事を言ってるのかわからないが、とにかく、自信満々の筑波は己れの行動に疑問を抱いていないようだ。

 凱は、操縦者のいなくなったハングライターの行方を心配し、青空を眺めた。




 ド・ド・ド・ド・ド・ド…!!



 その時突然、地響きにも似た爆音が迫ってきた。

 ハーレーダビッドソンFLH1340――大型バイクにまたがった、銀色のフリンジもかっこいいメイドが接近して来る。

 筑波の後に入ったメイド・沖俊恵おきとしえだ。

 元・宇宙開発研究所だったかの研究員だったか、レスキュー部隊だったか、とにかく色々な経歴を持つ肉体派な人だ。

 同時に、ナントカ少林拳とかを使う武闘家でもあるという。


 彼女は、見覚えのあるバッグを手にしていた。


「凱坊ちゃま、もう一つ忘れ物ですよ!」


「あ! しまった」


「しっかりしてくださいよー」


 泣く子も黙る巨大バイクから、直接バッグを手渡される。

 さすがの凱も、彼女にはなんとなく迫力負けしてしまう。



「では、私達はこれで。坊ちゃま、またいらしてくださいね!」


「あ、ああ。じゃあ、また……ハハハハ」


 ハーレーに二人乗りで帰っていくメイド達を眺め、凱は強張った笑みを浮かべるのが精一杯だった。




 ちなみに彼女達のさらに後輩で、脳以外のすべてがメイド化しているという通称「パーフェクト・メイド」村雨龍子むらさめりゅうこというのも居るのだが、彼女は別名「忍者メイド」とも呼ばれており、凱はほとんど出会った事がない。

 そんなのが、相模邸のどこかで暗躍しているのかと思うと、凱は言いようのない不安を感じた。





 それから数日後。


 相模家に、新しい専属メイド希望者が面接にやってきた。

 面接を担当する槐の前で、初々しく頭を下げる細身の女の子は、女性らしからぬ力強い眉と鋭く凛々しい眼差しを携えている。

 槐は、その顔付きから強い意志を感じ取り、内心「この子ならイケる」と確信していた。


「ちゅちゅ~。

 では、早速自己紹介をお願いします~」



「はい。みなみテツと申します。

 趣味はツーリングとカラオケと自動車改造です。よろしくお願いします!」


 彼女の微笑みは、若者らしいまぶしさに満ちている。

 否、それ以上の何かを感じさせる魅力を持っていた。


 そう、まるで「太陽の子」とでも呼ぶのが相応しいほどに。




 相模家に、また新しい風が吹き込もうとしていた。




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