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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第2章 アンナウィザード・ミスティック登場編
17/225

●第8話【姉妹】1/2

 美神戦隊アンナセイヴァー


 第8話 【姉妹】




 激しく燃え盛る炎。

 その中で身の毛もよだつ叫び声を上げる、巨大な怪物。

 崩れ落ちる柱、黒く変色していく壁、扉。

 その中に、四人の影が佇んでいる。

 車椅子に座った人物を、護るように。


 必死で、彼女達を追いかけるが、どんなに一生懸命走っても、炎がまとわりついて行く手を阻み、脚を鈍らせる。

 呼び止める絶叫も、届かない。

 そんな時、胸元の「宝石」が、光り輝いた。


 今度は、猛烈なスピードで突進していく自身の身体。

 あまりの勢いに、制御が全く出来ない。

 このままでは、五人に追いつき、それどころか――


「止まってえぇぇぇぇぇぇ!!」





「――ゆ、め?」



 愛美は、目覚めた。


 真っ先に目に飛び込んだのは、真っ白い天井。

 続けて、そこに設置された大きな照明器具と、右手には白い大きなカーテンに覆われた窓に目が行く。

 綺麗に整えられた部屋は、柔らかな光に包まれていた。


「ここは……」


 愛美は、ベッドの上に寝ていることに、ようやく気付いた。

 今まで、こんなに柔らかく温かな寝床で眠った記憶はない。

 白に統一されたその部屋は、10畳くらいの広さがあり、ベッドと照明以外には小さなテーブルと椅子が一つ、それと壁沿いに設置された大きな空の本棚しかない。

 真っ白な部屋の中、違う色彩は、いつの間にか自身が身に着けていた薄蒼色のパジャマだけだ。


(ど、ど、ど、何処?

 ホントに何処なの、此処は?!)


 慌てて飛び起きたものの、どうしていいのか、この先の行動が思いつかない。

 パジャマは、自分にはやや大きめではあるものの、着易くて着心地がとても良い。

 辺りに自分の服は見当たらなかったが、壁に備え付けられていたクローゼットを開けると、見慣れたメイド服がちゃんと掛けられていた。

 洗濯された上、しっかりアイロンまでかけられているようで、一瞬自分のものだと分からなかった程だ。

 メイド服以外のブラウスや下着、タイツなどの装着物は、丁寧に畳まれて籠に収められている。

 それを見た愛美は、一瞬安堵したものの、すぐにズボンの中に両手を突っ込んだ。


(よ、良かった! 穿いてる!)


「えっと、誰の、を?」


 覗いてみると、見覚えのない下着を穿いている。

 途端に不安になった愛美は、きょろきょろと周囲を見回した。


(ちょ、ちょっと待って。えっと、確か、私は……)


 記憶を、辿る。

 館での出来事は、さっきまで見ていた夢もあり、すぐに思い出せる。


 問題は、その後だ。

 凱のナイトシェイドに乗り、東京へ向かった。

 車の中で、ロボットの話とか、凱の妹達の話をした。

 そこまでは、思い出せた。

 だが、それ以降が全く思い出せない。


(えっと、た、確か私はあの時、ずぶ濡れになった服を脱いでて、毛布だけしか身に付けてなくて。

 そ、それなのに、どうして? どうして? 知らないパンツ穿いてるんですか?!)


 テーブルの上に置かれたデジタル時計は、午前10時を指している。

 それを見た愛美は、血の気が引いた。


「た、た、た、大変!!」


 叫び声を上げ、愛美は着ているパジャマを脱ぎ始めた。

 素早い動きで下着を着け、ブラウスをまとい、タイツに脚を通す。

 ガーター、スカート、メイド服と流れるような動きで次々に身に着けていき、髪をまとめようとしたところで、手が止まる。


「えっと、ブラシ、ブラシは何処に……あと、ゴム……っと」


 洗面所はないものかと、愛美は室内を移動する。

 部屋の左手奥にあるドアのノブに手をかけた瞬間、


カチャリ


「え?」


 ドアが、勝手に開く。

 身支度中のメイドは、見知らぬ人物と鉢合わせになってしまった。


「え?」


「あ」


「ひえ?!」


「えっ? あの」


「ひええええええええええ! 申し訳ありません! 申し訳ありません!」


 悲鳴を上げながら、愛美は数十センチほどすり足で後退した。


「申し訳ありません! こんな時間に起きてしまいまして!

 今すぐ身支度を整えますので、どうか、どうかお許しください!」


「えっ? えっ?」


 ドアの向こうに佇む人物は、きょとんとした表情で、愛美を見つめている。

 だが、秒速二回の速度で頭を下げ続けている愛美には、その様子も姿も、ろくに見えていない。


「あの、大変失礼とは存じますが、洗面所は、どちらになりますでしょうか?!」


「は、はい。

それでしたら、この部屋を出て、廊下を真っ直ぐ行った突き当りの左に」


「承知いたしましたぁ! すぐに戻りますので! ――って、えっ?」


 声を聞いて、ようやく我に返る。

 顔を上げた愛美の視界には、自分より少し背が高い、黒髪の少女の姿が映った。

 その少女は薄い笑顔を浮かべ、やや戸惑った感じでこちらを見つめている。

 紺色のワンピースに、上品なフリルのついたブラウス、そして控えめなデザインのネックレス。

 だが、もっとも目を引いたのは、その美しい顔立ちだった。

挿絵(By みてみん)

 切れ長の目、すらりとした鼻筋、整った唇。

 そして何より、全身から漂う高貴な雰囲気。

 普通の人間ではなく、明らかに“選ばれた人々”であることが、愛美には理解できた。

 ならば、間違いない!


「こ、こちらの、お嬢様でございましょうか?

 私、千葉愛美と申します。

 本日より、こちらでお世話になることに……なった、と思うのですが、一生懸命仕事に励ませて頂きますので、何卒よろしくお願いいたします!」


 再び深々と頭を下げ、愛美は少女に挨拶した。

 しばしの、沈黙の後。


「あの、愛美さん?」


 少女は、静かな囁くような声で、呼びかけた。


「は、はい!」


「良かった、お目覚めになられたのですね!

 本当に心配しておりました」


「え?」


「私、相模舞衣さがみ まいと申します。

 先日は、私の兄が、大変お世話になりました」


 そう言うと、少女は、愛美に負けないくらい深々と頭を下げて来た。

 黒い長髪がさらりと流れ、その美しさに一瞬どきりとする。

 だが、


「い、いえいえ! そんなことは!」


 負けじと、愛美は更に頭を上げる。

 まるで傾斜角度を競い合うような雰囲気になった場に、もう一人の声が響いた。


「あーっ! 起きてるぅ!」


「え?」


「やったぁー! 愛美ちゃぁーん♪」


「ひえ?!」


 どたどた、という足音を響かせ、何者かが舞衣と名乗る少女の背後から飛び出して来た。

 そのまま愛美に抱きつき、ぎゅっと腕を回してくる。

 愛美の胸に、大きくて柔らかい感触が伝わった。


(うっわ、おっきい!)


「もーお、メグ、とっても心配したんだよぉ!

 でも良かったぁ! ちゃんと起きれたんだねっ!」


「あ、あの、え~と」


「メグちゃん、愛美さんが困ってるでしょ。

 離してあげて」


「え~っ、せっかく愛美ちゃんに逢えたのにぃ~。

 もうちょっとぎゅ~ってしても、いいでしょ?」


「ほら、愛美さんが戸惑ってらっしゃるでしょ」


「あっ、は~い。

 愛美ちゃん、ごめんね」


「は、はあ」


(な、何? どういうノリ?! 予想と違いすぎる!)


 ようやく乳圧ハグから解放された愛美は、猛スピードで飛び込んできた第二の人物を見て、ハッとした。

挿絵(By みてみん)

 長い黒髪、切れ長の目、すらりとした鼻筋、整った唇。

 全身から漂う、高貴な雰囲気。

 Tシャツに丈の短いベストを合わせ、ショートパンツを穿いた活動的なその姿は、舞衣と対照的だ。

 しかし、それ以外――身長や体型、髪、そして顔、全て同じだ。

 愛美は、一瞬目を疑った。


「えっ? そ、そっくりさん?」


「いえ、私達は双子なんです」


 舞衣が、少し顔を赤らめて告げる。

 愛美は、思わず目をまん丸くした。


「だよー! 私、相模恵さがみ めぐみ

 愛美ちゃん、お友達になってね!」


 そう言うと、恵と名乗った少女は、愛美の両手を握った。


「メグね、愛美ちゃんに早く逢いたかったんだよー♪」


「は、はい……ありがとうございm―-」


 真正面から目線を向け、楽しそうに微笑む恵の顔。

 その後ろで、目を細めてこちらを眺めている舞衣の顔。

 愛美の頭の中で、ナイトシェイドの中で見せられたスマホの写真が蘇った。


(こ、このお二人は! あの写真の方々だ!

 ひ、ひえ! この顔立ち、やっぱり理沙さんタイプだぁ!!)


 またも、血の気が引いていく。

 井村邸で最も苦手をしており、自身にクビ宣告をした理沙の姿が、脳裏に浮かんだ。


(そういえば理沙さんも、最初の頃はとても優しかった……

 いけないいけない! 氣を抜いたらいけない!)

 

「これから、よろしくねっ! 愛美ちゃん♪」


「は、ハイ! 一生懸命勤めさせて頂きます、お嬢様!」


「んにゃ?」


 小首を傾げる恵に、強張った表情を向ける愛美。

 顔が真っ赤になっていく愛美を見かねた舞衣は、優しく声をかけて来た。


「あの、愛美さん?

 私達は、その」


「このお宅が、お二人のお住まいでしょうか。

 とても素敵なお宅でございますね!

 身支度を整えましたら、早速お仕事を――」


「待ぁーって、愛美ちゃん!」


 まくしたてるように話す愛美の両肩に手を置き、恵が話を遮った。


「メグ達、愛美ちゃんの雇い主じゃないよ?」


「は、はい?」


「私達は、ここの住人ではありません。

 愛美さんの……貴女の“仲間”です」


「な、仲間……ですか?

 えっと、では、もしかしてお二人も、メイド……?」


「えーっ、違うよぉ。

 あ、でも、メイドさんはやってみたいかな? ね、お姉ちゃん!」


「そ、そうなの、メグちゃん?」


「ねーねー愛美ちゃん! いつか、メグ達にメイドさんのお仕事教えてー!」


 笑いながら両手をぶんぶん上下に振る恵と、はにかんだ笑顔を向ける舞衣。

 両手を掴まれ揺すられながら、愛美は、物凄い迫力でぶるんぶるん揺れる恵の胸に、思わず目を奪われた。


(お、おっきい! あ、舞衣さんも、良く見たらかなり……)


 目を見開き強張っている愛美に、舞衣が声をかける。 


「どうされましたか? 愛美さん?」


「あ、あの、申し訳ありませんが、だんだん訳が――」


「あっ、失礼しました!

 愛美さん、そのクローゼットの中の引き出しに着替えを用意しましたので、そちらの方をお召しになってください」


 自分以上に丁寧な口調で指示され、愛美は思わず目を剥いた。


「あのね、愛美ちゃん。

 ここはね、メグ達のじゃなくて、愛美ちゃんのおうちなんだよー」


「え?」


「詳しくは後ほど説明いたしますが、ここは、愛美さんがいつでもご自由にお使い頂けるマンションになります」


「ええっ?!」


「そーだよ、だからぁ、メイドさんのお仕事とかしなくてもいいんだよ」


「えええええええっ?!」


 白い室内に、愛美の叫び声がエコー付きで響いた。

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