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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-06
164/227

●第82話【巨剣】


「ここ……何処?」


 確か、ここは西新宿だった筈だ。

 だが、明らかに景観が違う。


 生い茂る木々、拡がる緑。

 爽やかな空気、燦々と照りつける太陽の輝き。

 正にここは、大自然の中。

 人工物など、何処にも見当たらない。

 高いビルも、アスファルトも、電柱も存在しない。


「どういうことなの?

 私は確か、アンナソニックの攻撃で……」


 地に手を着いて、ゆっくり立ち上がろうとすると――




「――イヤッホオォォォォォ――イ!!」ドヒュ――ン




 何処かで聞いたことのある声が、ドップラー効果付きで頭の上を通り過ぎていった。


「何やってんのよ、ありさ……」 

 


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第82話【巨剣】

 






「ちょっと待ちなさいよ、ブレイザー!!」


 大声で呼びかけながら、空を飛び追いかける。

 遥か前方で、やたら楽しげに飛翔している赤いメイド服の少女は、こちらに全く気付く様子はない。


「AI! 通信して! ブレイザーに!

 ――ねぇ、ちょっと!?」


 必死で呼びかけるが、いつものようにサポートAIが応答しない。

 

(AIが機能しない?

 アンナソニックから受けたダメージのせい?)


 軽く舌打ちをすると、更に速度を上げて追いつこうとする。


「止まりなさい!」

「うわっ?! な、なんだぁ?!」


 なんとか追いついたアンナブレイザーに、背中から抱きつく。

 だがその瞬間、不意に視界に映った自分の腕に、違和感を覚えた。


「わぁっ?! な、なんたてめぇ! 敵かぁ?!」


「何言ってるのよ、ブレイザー!

 私よ!」


「知らねぇよてめぇなんざ! くそっ、放しやがれ!」


「ちょ、飛びながら暴れないでっ!!」


「てめーが掴んでるからだろうが! この怪人灰色マスクが!」


「え、灰色? 何を言って――」


 アンナブレイザーを抱えていた手を放し、改めて自分の手を見る。

 そこには、灰色一色に染まった、マネキンのような手が映った。


「う、うわわわわわわわわ――キャン」


 制御を失ってきりもみ状態で落下したブレイザーは、変な悲鳴を上げて眼下の森に墜落した。


「何よこの姿?!

 アンナパラディンじゃ……ない?!」


 アンナパラディン・向ヶ丘未来は、全く見覚えのない自身の姿に、激しくうろたえた。






「ここ――森、でしょうか?」


「みたいですね。

 あの、移動先を間違われたのですか?」


「いえ、それはない筈なのですが」


「ならば、これはいったいどういうことだ?」


 同じく、深い森の中。

 無数の大木とその枝葉に覆われ、空から光が殆ど届かない。

 そんな中、互いのマーカーを光らせた状態で、アンナウィザード、ローグ、チェイサーが顔を突き合わせていた。


 吉祥寺研究所の地下深くに閉じ込められた三人は、アンナウィザードの科学魔法「テレポート」で緊急脱出を試みたが、今はその転送処理中の筈だった。

 いわば、三人の存在は現実世界の何処にもない状態の筈で、ましてこのような深い森林の中に入り込むようなことなどありえない。


 だが実際に、三人は今こうして、森の中に佇んでいる。

 どうやってここまで来たのか、わからない。

 気付いたら、ここに居たのだ。


「これから、どうしましょう?」


「そうですね、このままじっとしているのもなんですから」


「状況の確認は、しておいた方がいいな」


「承知しました。

 それでは、少し調べてみますね」


 そう言うと、アンナウィザードは両腕を大きく広げ、まるで天に向かって祈るように目を閉じる。

 ローグとチェイサーは、そんな彼女の邪魔をしないよう、少し下がる。


 アンナウィザードに搭載されている、“環境探知機能アトモスフェリック・アナライザー”。

 これを使用することで、通常では感知が困難な状態まで詳しく調べる事が出来る。

 ものの数分で、ウィザードは両腕を降ろし向き直った。


「――おかしいです。

 何も、反応がありません」


「反応がない、ですか?」


「どういうことだ?」


「よくわからないのですが……私のAIが、調査報告をしてくれないのです」


「機能が停止しているということか」


 アンナチェイサーとローグも、それぞれのサポートAIに呼びかけてみるが、やはり反応がない。


「どうしましょう……これでは、状況が全く把握できません」


「やむを得ない。

 一旦上昇して、周辺の様子を見ることにしよう」


「賛成です!

 じゃあ、早速――って、えっ?」


 突然会話をとめると、アンナローグは両手を耳に当て、遠くの音を聞くような仕草をしてみた。


「どうした、ローグ?」


「あの、向こうの方で、誰かの声が聞こえてくるのですが」


「声?

 行ってみるか」


「そうですね、でも、科学魔法で姿を消して参りましょう」


 そう言ってモーションを取ろうとするが、


「――科学魔法のライブラリも展開しません!」


「どうなっているのでしょう?」


「科学魔法も使えないとなると、恐らく転送兵器も使用できなさそうだな。

 飛べは……するようだが、どうする? このまま行くか?」


 フォトンドライブで軽く浮き上がってみせたアンナチェイサーの呼びかけに、二人はハッキリと頷いた。






 

「――というわけなのよ。

 私も、なんでこんな姿になってるのか、わからないわ」


「う~~む謎だなぁ。

 でもまあ、あんたが未来なのはひとまず理解したよ」


「ありがとう、ブレイザー」


「それにしても、その……アンナソニックだっけ?

 やべぇなそれ、どうすんだよ! XENOなのにアンナユニット持ちって、最悪じゃん!」


「そうよ、もし量産なんかされてしまったら、溜まったもんじゃないわ」


「こりゃあもう、あたしらもパワーアップするしかないな」


「ええ、それは同感よ」


「ひとまず、巨大ロボから作ってさ」


「待って」



 アンナブレイザーと、グレー一色の全身スーツのような姿になってしまったアンナパラディンは、地面に座りぼんやりと青空を見上げていた。


「それにしても、ここはいったい何処なのよ」


「わかんねー。

 あたしも、さっきいろんなとこ飛び回ったんだけど、ありえないくらいずっと森が続いてるんだよな。

 日本にこんな広い森あったか? って思うわ」


「とにかく、ここは私達が普段居る世界じゃないことは確かね」


「つうか、そもそもあたしら、意識戻ったん?」


「どういうこと?」


「あ~、実はね――」


 アンナブレイザーは、ミスティックと合流した後のことを話し出す。

 後から駆けつけたアンナミスティックが、パラディンを発見出来ずにパワージグラットをかけたこと。

 二人だけでゴーゴンと闘ったが、最終的にブレイザーの決死の技で倒したこと。

 その際に、意識を失ってしまったこと……


「そ、そんな危険な真似をしたの?!」


 もしいつもの姿なら、きっと目をひん?いて驚くだろう。

 そんな態度で、アンナパラディンは飛び上がって驚いた。


「あ~、もう何やってもアイツの装甲ブチ抜けなかったからさ、もうヤケになった」


 まるで他人事のように呟くブレイザーの肩を、パラディンが真正面から掴む。

 黒いマスクで表情は見えないが、かなり怒っているのは伝わってくる。


「ありさ、お願いだから、もう二度とそんな危ない真似はしないで!」


「で、でも……」


「でも、じゃない!

 あなたの身にもしものことがあったら、どうなるの!」


「えっと、それは……未来が実装出来なくなるから?」


 カンッ! という軽い音が鳴る。

 アンナパラディンが、ブレイザーの頬を軽く叩いたのだ。

 ほんの軽く、ではあるが。


「本当にもう止めて! お願いだから!

 あなたがもし死んでしまったりしたら、私、どうすればいいのよ!!」


「み、未来……?」


 パラディンの声が、歪む。

 俯き、腕を震わせながら、震える声で尚も続ける。


「あなたは……私のパートナーでしょ?

 だったら、ちゃんと約束守って、最後まで一緒に闘い抜きなさいよ!

 途中で脱落なんて、絶対許さないんだからっ!」


「ご、ごめん」


 肩を震わせ、泣いている。

 アンナパラディンの態度に、ブレイザーは、それ以上何も言えなくなった。


「あ……未来、姿が」


「え?」


 アンナパラディンの全身スーツのような姿が薄ぼけ始め、やがて見慣れた衣装が見えてくる。

 グレーの髪とメイド服に、徐々に色が入り始める。

 数十秒程の時間をかけ、アンナパラディンは、いつものあの姿に戻った。


「おお、元に戻った! どうなってんだ、これ?」


「え? あ、ホントだ」


「それにしても、みっともない顔しちゃってまぁ」


「え? ――あっ!」


 指摘され、慌てて背を向ける。

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を背けると、アンナパラディンは、無理矢理顔を拭った。


「み、見ないで!」


「へへへ♪ あんたの泣き顔なんて、久々に見たわ☆」


「今すぐ忘れなさい! 忘れるのよ!」


「へへーん、やなこったぁ♪

 それに映像記録も撮ってるし、後で皆で、でっかい画面で見てやるんだからー♪」


「ちょ、やめてよ本当に!」


「おーいAI! 今の動画消s……って、アレ?」


 アンナブレイザーが、頭を抑えながら不思議そうな顔をする。

 続いて、自分の頭をカンカンと叩き、更にブンブンと揺さぶり出す。


「ちょっと、何してんの?」


「いやさ、AIが反応しなくって」


「あなたも?」


「って、未来もかよ?」


「うん……どうなってるのかしら」


 どうやら、お互いのサポートAIが稼動していないらしい。

 アンナユニットは、AIのサポートなしでは本来稼動など出来ない筈なのだが。



 離れた所から、聞き慣れた声が響いて来たのは、その直後だった。





 アンナパラディン。

 アンナブレイザー。

 アンナウィザード。

 アンナローグ。

 そして、アンナチェイサー。


 ミスティックを除いたアンナユニットが、図らずも集合してしまった。


「驚いたわね、まさかこんなに勢揃いするなんて」


 第一声は、アンナパラディンの一言だった。


「本当に不思議です!

 ここは一体、何処なんでしょう?」


「日本に、ここまで広大な森林が続いている場所はない筈ですし」 


 アンナローグとウィザードが、困惑の表情を浮かべながら反応する。


「まさか、フェアリーティア……」


「ふぇあ……なんですか、チェイサー?」


「いや、なんでもない」


「それにしてもさぁ、これじゃあ地下迷宮ダンジョンにも戻れねーし、まずいぜ。

 パラディン、どうする?」


 肘で軽く小突きながら、アンナブレイザーが尋ねる。

 いつの間にか呼び方が変わっていることにほくそ笑みながらも、アンナパラディンはしばし真剣に考えを巡らせる。 


「ひとまず、手分けしてここを調査しましょう。

 今、何故かAIや通信機能が使えないから、何かあったら“のろし”を上げて」


「のろし?」


「なんでもいいのよ。

 上空に何かを打ち上げて、それで全員に知らせるの。

 大丈夫? みんな出来る?」


「すまないが、転送兵器が使えない今の私には、それは不可能だ」


「あの、私もです!」


「どうやら、チーム分けする必要がありそうですね」


「ってことは、ウィザードチーム、ブレイザーチーム、そしてぼっちの編成か」


「なんでそうなるのよ!

 まあ、それでいいけど」


 ブレイザーとパラディンの、見事に揃った呼吸とやりとりに、三人は思わず吹き出しそうになる。

 しかして、ブレイザーの提案は的確ではあり、結局その通りの編成に分かれる事に決まった。


「ブレイザー、よろしくお願いします!」


「おっさ! まかせなローグ!」


「どうかよろしくお願いいたします、チェイサー」


「え、あ、はい」


「どうかされましたか? お顔か赤いですが」


「え。

 ……なななな、なんでもない! です」


「え? “です”?」


「な、なんでもないったら!

 そんな心配そうな顔で覗き込むなぁ!」


 配分が決定してからの、行動は早い。

 五人は即座に空高く舞い上がった。


「それにしても、アンナミスティックはどうしたんでしょう?」


「だいたい見当は付いているけど……彼女は、ここには居ない気がする」


「そうなんですか? パラディン」


「いや、わからないぞ。

 AIやセンサーも使えない状況で、一人ぼっちになってたりしたら大変だ。

 広範囲で捜索しなくては」


 何故か急に、チェイサーが不安げに喋り出す。

 それを横目に見ると、ブレイザーがずいっと前に出た。


「よっしゃ、だったら機動力の高いあたしとローグで、ミスティックの捜索中心で動こうぜ」


「そうですね、わかりました!」


「あ……そ、その、よろしく頼む」


「え? あ、はい!

 お任せください!」


 ブレイザーの提案に、全員が承諾する。

 次の瞬間、五人は三方向に分かれて飛び立った。

 五色の光が、大空にラインを描いていく。





 アンナローグとブレイザーは、あまりにも広大な森の上空を飛翔していた。

 遥か彼方に山々は連なっているものの、いくら飛んでもそこに辿り着くことはない。

 

「さっきパラディンと話してたんだけどさ、ここ本当に、現実の世界なんかなあ?」


「どういう意味ですか? ブレイザー」


 アンナユニットの通信機能が使えない以上、各々の超感覚で会話が成立する距離をキープしつつ飛行する。

 アンナブレイザーは、額に手を当てながらきょろきょろを眼下を見回す。


「なんかさ、仮想世界っぽいなあって」


「仮想世界……ですか?

 確か、コンピューター上で作った作り物の空間でしたか」


「おっ、詳しいじゃん。

 そうそう、上手く説明できないんだけどさ、なんかこう現実感に乏しいっていうか」


「それ、私も気にしてました!

 これだけ自然に溢れてるのに、さっきから生き物の声も音も、全然聞こえないんですよ」


「あ、そうだそれだ!

 違和感の正体!」


「だとしたら、いったい誰が、何のためにこんな仮想空間を作ったのでしょう?」


「だよなぁ、しかも、どうしてそこにあたしらが迷い込んだのかってね」


「ブレイザーは、あの後どうされたんですか?」


 アンナローグの質問に、ブレイザーは成り行きを説明する。

 途中、スーパーファイヤーキックの件で物凄く心配されたが、続けてのローグの経緯説明を聞き、ブレイザーは眉間に皺を寄せた。


「じゃあもしかして、ここに居るあたしら全員、夢の中にいるような状態って事にならね?」


「夢の中、ですか?」


「うん、全員で同じ夢見れるわけないから、夢とは違うんだろうけど。

 ……ああもう、なんつったらいいのかな」


「わかりますよ、仰りたいことは」


「おお、ありがと!」


「でも、もし仰る通りなら、無闇に動き回るのは無意味なのかもしれないですね」


「ああ、そうだなぁ。

 どうする?」


「それでも、チェイサーが仰ったように、ミスティックがはぐれている可能性もありますから。

 捜査は続けた方が――」


 そこまで話して、アンナローグが突然言葉を止める。


「ん、どしたん?」


「ええ、あの、あっちなんですけど、何か見えませんか?」


「んん?」


 ローグの指差す方向を凝視するが、ブレイザーには何も見えない。


「なんかあった?」


「ええ、今一瞬、向こうで何か光ったような」


「もしかして、ミスティックが何か合図を放ったのかもな。

 よっしゃ行ってみよう! ローグ、案内頼む」


「承知しました!」


 二人は、九時の方角を目指して飛翔した。


 



 二人は森の中に突入し、更に先へと進む。

 やがて、森が唐突に開けた。

 

 その先には、大きな池と、それを取り囲むように並ぶ岩崖があった。


「な、なんだこりゃ?」


「森の中なのに、崖が?」


 二人が驚くのも、当然だった。

 何せ、つい今しがたまで木々に覆い尽くされていた筈の空間が、突如開放的な場所にチェンジしたのだ。

 しかも、見上げんばかりの高い崖まで出現している。


「こんなの、さっき全然見えなかったよな?」


「ですね……この崖、私達がさっき飛んでた高度よりも、明らかに高いです」


「おいおい仮想空間、いきなりバグ吐いてんじゃねーの?」


 崖はビルのように高く聳え立ち、白い岩肌が神殿のようなイメージを感じさせる。

 それに取り囲まれたように開かれた池は、透明感に満ちている。

 その神秘的な光景に、二人はしばらく呆気にとられた。


(なんだろう、この場所は……妙に、親しみを覚えるような)


 アンナローグは、無意識に白い崖を乗り越えようとしていた。

 大きな池の上を飛翔し、その対岸へと降り立とうとする。

 清められたようなすがすがしい大気が鼻腔をくすぐり、それは彼女の心の中からすべての不安と恐れを取り除くようだ。


 だが、ふと見下ろしたアンナローグの眼下に、とんでもないものが飛び込んできた。



「えっ? こ、これは何?」


「どうしたローグ、なんかあったか?!」


「ええ、はい!

 池の中に――」


「今行くわ!」


 アンナローグの許に駆けつけたブレイザーは、彼女の視線を追い、池の中を覗き込む。

 目が、点になった。


「――な、な、な、なんだこりゃあ?!」


 池の中に沈んでいたもの。

 それは、一本の剣だった。

 だが、その大きさが尋常ではない。


 刃渡りは目測で十メートル以上はあり、柄や握りを含めると、十五メートル程の全長になりそうだ。 

 それが透明なケース状の物体に保護され、水底に眠っている。

 あまりにも巨大なその剣は、蒼い水の色すらも霞ませる程の黄金色に輝いていた。



 その異常な光景に目を奪われた二人は、いつしかゆっくりと水面近くまで下降していた。


「なんか、すんげーの出て来たな!

 こんなの、巨大ロボットにでもならなきゃ振れないよ!」


「巨大ロボット、ですか?」


 アンナローグは、突然、不気味なロボットムーブを始める……が、こんな状況では受ける筈もない。

 

 良く見ると、巨大な剣は所謂現実的な外観のものではなく、正にブレイザーが言ったような、ロボットアニメにでも登場しそうな機械的なデザインだった。

 形状は両刃の大剣で、三十メートルくらいの巨体であれば、普通に装備出来そうだ。

 柄にあたる各部にスラスターのようなものが付いており、更には刃の中央にも及んでいる。

 当然、それを保護しているケースは更に大きく、更には太いチューブや配管のようなものが繋げられているのが見えた。


「すっげぇなこれ、どうすんだ?」


「と、とりあえず、このままにしておくしかないでしょうね」


「だ、だよなあ……うわぁ、でっかすぎて、なんか気味悪くなってきた!」


「そうですね、別な場所に行きましょうか」


 そう言って場を離れようとした瞬間、アンナローグの頭の中に、何かが響いて来た。






【 汝の心よ 神と化せ 】





「えっ?」


 それは声ではなく、何かに記された“文字”のようだった。

 

「どうしたん? ローグ」


「あ、あの今、何かが――」






【 神の心で 我を抱け 誇り高き同朋の命と力を駆り 我が眠りを解き放て 】






「ええっ? それは、どういう意味でしょう?」


「おい、ローグ? どうしたんだいきなり?!」






【 我の力は 神の怒りも打ち砕く 】






「誰? 誰なのですか?!

 私に呼びかけているのは、誰ですか?!」


「おい、突然なんだよ! 怖いから止めてくれよぉ!」


 誰かの意識のようなものを感じ、アンナローグは、辺りを見回した。

 だが、ブレイザー以外誰のの姿もそこにはない。

 相変わらず、静寂が支配しているだけだった。


「ここ、なんだかおかしいです!

 ブレイザー、早く撤退しましょう!」


「おっそうだな!」


 薄気味悪くなって来た二人は、早々に上昇を開始する。

 だがその時、突然、空が真っ暗になった。

 陽が落ちたわけではない。

 まるで「空を表示していたもの」の電源が突如切られたような、真っ黒な空間。


 二人は戸惑いながらも、咄嗟に互いの背中を合わせ、周囲に注意を払った。


「こんな所で、敵の襲撃か?!」


「わかりません! でもなんだか、XENOとは違うような――」




『いやぁ、まさか、こんな所まで紛れ込むとは思わなかったわい』




 緊張する二人の頭の中に、いきなり何者かの声が響いて来た。


「え? 誰?!」


「あ、この声は!」



『すまなかったね、二人とも。

 こっちはまだ、君達に渡せない領域だった』



「え? あ! なんだあの爺さん?!」


「やっぱり、あなたはあの時の……」



 暗黒空間の彼方に、一人の男が姿を現す。 

 白衣をまとった白髪の男性は、まるでそこに足場があるようにゆっくり歩み寄る。


「てめぇ、XENOか! おかしな術使いやがって!」


「待ってください、ブレイザー!

 この方は、敵ではありません!」


「知ってんのかよ、ローグ!

 じゃあ、コイツ誰?」


「そ、それは……ええと……」


『ハハハ、いやぁ申し訳ない。

 どうやら電送時にブラックボックスのデータと、君達自身のデータが想定外のリンクをしてしまったようだな』


 バツが悪そうに頭を掻きながら、男はたははと笑う。

 だが、そんな彼の態度を気味悪がっているのか、ブレイザーは少し引いている。


『申し訳ないから、君達はここからフェードアウトさせておくとしよう。

 他のメンバーも一緒にな』


「へ? フェードアウト?」


「あ、あの、ちょっと!」


『じゃあな、皆達者でな』


 男はそう言うと、指をパチンと鳴らした。

 同時に、周囲の映像が完全に途絶える。

 アンナローグもブレイザーも、お互いの姿を認識出来なくなった。


「ぶ、ブレイザー! ありささぁぁん!!」


 何かに引っ張られるような感覚を伴い、アンナローグは落下していく。

 やがて、意識すらも、薄まっていく。

 アンナブレイザーの声も、聞こえては来ない。


(データとか、ブラックボックスとか、どういう意味なんだろう……私達は、どうなって……)


 猛烈な睡魔に襲われ、アンナローグは、そのまま静かに目を閉じた。








「アンナウィザード、アンナローグの送信データダウンロード、完了まであと三十秒です」


「よぉし、皆スタンバイして!

 ドックに戻り次第、速攻でメンテやるよ! 気合入れて行こう!!」


 オペレーターの声に続き、ティノの声が響く。

 地下迷宮ダンジョン最下層のメカニックドックでは、テレポートを終えて転送されてくるアンナユニットの受け入れ態勢が整っていた。

 やがて、アンナウィザードとローグの専用ハンガーに、スパークのようなものが発生し、直後に爆発のような閃光が煌いた。

 軽い爆発音が鳴り響き、ドック全体が軽く揺れると、先程まで何もなかったハンガーの中に巨大な人型メカが出現した。


「ハッチ強制開放! 搭乗者パイロットの安全を確認して!

 救護班、準備いい? 担架ちゃんとある?」


 尚もティノが各員に指示を飛ばし、自らも奔走する。

 アンナローグの機体に飛び付き、本体前面部の隠しスイッチを操作すると、ブシュウという排気音が鳴った。


「良かった! どうやら無事そうだね! マナミ!!」


 油まみれの顔をほころばせ、ティノは、ぼうっとしたままシートに座っている愛美を見つめる。


「ここは――」


地下迷宮ダンジョンだよ! あんた達、無事に戻れたんだよ!」


「あの、ブレイザー……ありささんは?」


「え? ブレイザーは、もうとっくに戻ってるけど……」


「え? あ、あれ?」


 困惑する愛美は、しばらくしてようやく、自分の置かれている状況を認識した。





 テレポートは成功し、愛美と舞衣の二人は、帰還に無事成功した。

 しかし、アンナチェイサーは何処に行ったのかわからず、またアンナブレイザーやパラディン、ミスティックの状態もわからない。




 二人はこの後、ドックから研究班エリアへと上がり、勇次の口から、今回の出動の顛末について、衝撃の事実を幾つも伝えられることになる。




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