●第78話 【劣勢】
「それでは、いったい、どうやって脱出を?」
アンナローグの質問に、ウィザードは、キッと顔を上げて呟いた。
「科学魔法を使います。
――私にだけ搭載されている、“テレポート”を」
「てれ……ボード?
板を使うのですか?」
「ローグ、テレ“ポート”、だ」
「ひえっ、す、すみません!」
「しかし……そんなことができるのか?
我々全員を、ここから脱出させるほどのものが?」
慌てるローグと、冷静ながらも冷や汗を流すチェイサーに対し、アンナウィザードは、とても神妙な面持ちで語り出す。
「可能ではあります。
ただし、条件がかなり限定されます」
「ど、どういう風にですか?!」
「まず、これは緊急時のみ使用が許可される科学魔法という事です。
その為、こちらの一存だけでは使えません。
ですので、地下迷宮との通信を事前に行うのが、絶対条件となります」
不安げに呟くウィザードに、チェイサーは大きく頷く。
「それなら心配ないだろう。
ここなら電波が届くから、通信が可能だ。
転送兵器も出せたからな」
「そうですか、それであれば、成功の可能性は高まります」
「え、成功の“可能性”って――」
アンナローグの呟きに反応し、ウィザードは更に説明を続ける。
科学魔法“テレポート”は、正しくは緊急帰還用のツール。
今回のような、脱出困難な状況から何としても抜け出さなければならなくなった時に用いる最終手段である。
アンナユニットを一旦データ化し、地下迷宮へ転送してそこで実体化するという、かなり強引なプロセスを要する。
しかし、これはまだテスト段階までの使用しか行われていない為、アンナユニットや搭乗者への影響は未知数であるという。
「――物凄く、危険そうだな」
チェイサーの言葉に、ウィザードが頷きを返す。
「そうです。
それから、この為にアンナウィザードはリソースの大半を割かれてしまいますので、その間、全く他の行動を取ることが出来なくなります」
「ええっ?!
それって、どのくらいの時間ですか?」
「そうですね――今、AIからの回答があったのですが、この人数であれば、六時間ほどではないかと予想されます」
「ろ、六時間も?!」
アンナローグが、喫驚の声を上げる。
「その間、全く動く事が出来ないのか?」
「一応、ウィザードロッドが護衛をしてくれます。
ですが、私が一番最後に転送対象となりますので、最後の方はこれにも頼れず、無防備な状態になります。
勿論、もしこの間にXENOに襲われたら、ひとたまりもありません」
「だ、誰も、ウィザードを護れない……」
アンナローグは、ごくりとつばを飲み込む。
アンナチェイサーは、額の汗を手で拭う。
あまりの内容に、二人とも次の言葉が出て来ない。
「ハイリスクにも程がある科学魔法だな」
「ほ、本当に、それ以外、脱出方法はないんでしょうか?」
「はい……至らず、申し訳ありません」
「そ、そんな! ウィザードが悪いのではありませんから」
「……」
アンナウィザードの更なる補足によると、地下迷宮の側でも受け入れ準備を整える必要があるため、今すぐに施行することは出来ず、推定で更に一、二時間はかかる可能性が高いという。
という事は、問題なく帰還出来たとしても、おおよそ七、八時間後になるということだ。
「不安は残るが、仕方ない。
それしか方法がないのなら」
「わ、私も同意です!
怖いですけど、し、仕方ないと思います」
「わかりました。
では、早速地下迷宮に連絡を行います」
アンナウィザードは、方耳に手を当てるような仕草で、そっと目を閉じた。
美神戦隊アンナセイヴァー
第78話【劣勢】
「蛭田リーダー。
アンナウィザードから、緊急連絡です」
「何?! こんな時にか!」
新宿の惨状を監視していた勇次は、オペレーターの通信に、思わず怒鳴るような声で反応する。
「科学魔法・テレポートの使用承認コールも、同時に届いています」
感情を抑えた女性オペレーターの報告に、声を荒げた事を反省した勇次は、出来るだけ落ち着いた声で返す。
「わ、わかった。通信を繋いでくれ」
「繋ぎます」
『――勇次さん、聞こえますか?』
メイン音声が切り替わり、勇次とティノ、今川の居るスペースに、舞衣の声が響く。
「どうした! お前、テレポートなど何故――」
『状況は、先程データで送信しています。
お願いです、脱出路を断たれてしまいまして、これしか方法がないんです。
どうか、地下迷宮側の受入態勢を』
舞衣の申し出に、三人は思わず顔を見合わせる。
「どうする、ユージ?」
「テレポートっすか?! あの、めっちゃ時間かかるから事実上使用禁止って言ってた?!
あんなの使って、だ、大丈夫なんスかね?」
「レポートを確認するが……相模舞衣がこれしかないと判断したのなら、それを受け入れるしかあるまい」
「わかった!
こっちは任せて!」
「決断早っ!」
勇次の判断に、ティノは間髪入れずに反応し、走り出す。
しばらくすると、下の方から怒号にも似たティノの指示の声が聞こえて来た。
と同時に、各所で機器の起動音が響き始めた。
「今川、アンナウィザードのAIと連携して、テレポートの受入のフォローを頼む。
長丁場になるからな、トイレくらいは先に済ませておけ」
「わ、わかりました!
あ、でも、そろそろハンバーガー切れる……」
「誰かに買いに行かせろ!
俺も、レポートを確認したらフォローに回る」
「う、ウィルコ。
あ、でも、この件どうするんですか?
この状況だと、あの三人、パラディンのフォローに回せないっスけど」
メインモニタを指差す今川に、勇次は真っ直ぐ視線を向ける。
「今川よ。
今、ウィザード達に新宿のことは知らせるな。
動揺してミスでもしたら、取り返しのつかないことになる」
「うっす! じゃあ、俺も持ち場に戻るっス!」
表情を引き締め、今川も走り出す。
勇次は、サブモニタにウィザードAIからのレポートを表示しながら、空間投影型のメインモニタに向き直った。
「アンナパラディンのAIに指示を。
破損と稼動状況のレポートの常時送信と、周辺環境の計測フォローを。
特に、避難した人々が居るエリアを巻き込ませないように、情報供給を徹底しろ!」
オペレーター達に指示を出し、勇次は、腕組みをしながら二つの画面を同時に見つめる。
脇に置かれたマグカップには、既に冷え切ったコーヒーが半分以上残されていた。
(優香がXENOになり、あまつさえアンナユニットを装着した。
ありえない程、最悪の事態だ。
その上、相対するのがアンナパラディンただ一体のみとは。
これは、アンナセイヴァーを分断するための罠と見るべきだろうな……)
勇次の指示で、緊急事態発生の報が、“SAVE.”各員の許へ送られた。
新宿での激戦は、尚も続く。
アンナソニックの謎の攻撃を食らい、上空に打ち上げられてしまったアンナパラディンは、なんとそのまま自力で上昇を始めた。
一気に、高度三百メートルまで飛び上がる。
てっきり姿勢制御し、その場で踏み留まると踏んでいたアンナソニックは、いささか虚を突かれる形となった。
「チッ! あたしの予想を裏切るなんで、生意気ぃ!」
既に目視では見えなくなったアンナパラディンを追い、ソニックも急上昇する。
まるで、眼下に広がる大都市を足場にするように、アンナソニックは高度四百メートル程の位置で制止した。
両耳に手を添え、目を閉じる。
「――未来の奴、何処へ消えた?」
だが次の瞬間、晴天にも関わらず、激しい雷がアンナソニックに襲い掛かった。
「な?!」
目も眩むような閃光と、大気を打ち振るわせる大音響。
突然の事態に一瞬意識を奪われるアンナソニックに向かい、背後から何かが高速接近した。
「!!」
だが、アンナソニックの反応は早い。
異常事態を即座に察し、身を翻すと、その場を高速離脱する。
だが移動を終えた直後、激しい衝撃が脇を通り抜け、ソニックは僅かに姿勢制御を誤った。
「くっ!」
バン! と音を立て、見えない床に手を突くような姿勢で踏み留まる。
その様子を、数十メートル離れた位置から、アンナパラディンが静かに見つめていた。
「アンナユニットがあるとはいえ、その反応速度、対応力……
“人間だった時の”あなたの動きを、遥かに越えているわね」
「……」
「危険な存在になったようね、優香。
――人類の敵に」
「はぁ?! 何、呼び捨てにしてんのよ!
あんたなんか、あたしの足下にも――」
「もう聞き飽きたわ、その言葉」
「は?」
アンナパラディンは、ホイールブレードを掲げ、剣先をソニックに向けながら話し出す。
「駒沢優香。
あなたは、確かに天才だったわ。
頭脳、体力、戦闘技術、そして環境適応能力……あらゆる能力に恵まれていた。
私があなたの足下にも及ばなかったのは、紛れもない事実だわ」
「なんだ、わかってんじゃない。
さすがは後輩、って褒めたげるわ。
呼び捨てってのが、気に食わないけどね」
悪態をつくアンナソニックに、パラディンは、何故か次の攻撃を仕掛けようとはせず、滞空したまま会話を続ける。
「あなたが入院した時、本気で心配したのよ。
でも――まさか、XENOに取り込まれているなんてね。
残念だわ」
「ふん、良く言うわ!
あたし達をほったらかしにして、姉さんが必死で集めたデータを横取りしてアンナユニットを作り上げた癖に!」
「私は、何度もお見舞いに行ったわ」
「ウソつくな!
誰一人あたしの見舞いにも来ないって、姉さんが言ってた!
白状にも程があるってね!」
「駒沢博士が、そんなことを?!」
「フン!
まあ、アンタらがそーいう連中だってのは、前からわかってたから今更だけどね。
ただ……“SAVE.”のそういうところが、あたしは大っっ嫌いだってぇのよ!!」
ボン! という爆発音にも似たブーストを轟かせ、アンナソニックが真っ直ぐ突っ込んで来る。
しかし、アンナパラディンは逃げようとしない。
「てぇっ! とあっ!!」
アンナソニックの、体術を交えたパンチとキックの連撃。
しかし、パラディンはそれを難なくかわし続ける。
攻撃は、掠りもしない。
「くそっ! なんで急に?!」
「それは、あなたの攻撃を全て覚えているからよ」
「何……ぐっ?!」
ドン! という音と共に、ソニックの攻撃が止む。
右ストレートをダッキングでかわし、同時に右ボディフックを叩き込む。
よろめいたアンナソニックの左側面に、捻りの効いたパラディンのローリングソバットが炸裂する。
「がぁっ?!」
「ここで油断すると、次に――」
倒れる間際、アンナソニックが蹴り脚を伸ばしてくる。
だがそれも、右手でがっしりと受け止められた。
「ぐっ!!」
「忘れたの?
私、一度見たものは、絶対に忘れないのよ」
「あっそ」
苦々しい表情を浮かべつつ、アンナソニックは右手を構える。
だが次の攻撃に移行するよりも早く、アンナパラディンは突如、超高速で回転し始めた。
「で? でででででででででで!!」
「はぁっ!」
アンナパラディンは、遥か上空に向かって、アンナソニックを放り投げる。
遠心力にはさすがに逆らえず、ソニックの身体は、遥か上空へと飛ばされ、消えた。
「これで――」
「そこで一息つくとこがあんたの欠点だって、何度言えばわかんのよ」
「!!」
背後から、声がする。
それに反応するよりも早く、アンナパラディンの右腕が後方から掴まれる。
「悪いことする腕は、この腕ぇ―――っ?!」
「きゃああぁぁぁぁっ?!」
形勢逆転。
今度は、アンナパラディンが、片腕ジャイアントスイングで豪快に振り回され始めた。
「さっきのあんたの回転の、十倍マシくらいにしといてやんわ!」
そう言うが早いか、アンナソニックは先程自分が回された時以上の回転力で、倍以上の時間振り回した後、パラディンを地上に向けて放り投げた。
「あんたが、あたしを新宿から遠ざけようとしてんのは、とっくにお見通しなんよ。
でもねえ、そうは行かないんだわ」
そう呟くと、アンナソニックは――忽然と、その場から姿を消した。
まるで、空気に溶け込むように。
(まずい! このままでは、地上に甚大な被害がっ!!)
超高速で地上に向けて落下しつつ、パラディンは懸命に対策を練っていた。
しかし、複雑な回転を伴いながら落ちている為、迂闊な減速はかえって加速を促しかねない。
(考えて、私! 一瞬で、なんとかこの状況の打破をっ!)
「くっ! プラズマティック・イージスっ!!」
アンナパラディンは、一瞬視界に映った路上に向かい、左手を翳す。
その瞬間、路面とパラディンの間に、直径八メートル程の、虹色の輝きを放つ円形の壁が出現した。
一瞬の間を置き、アンナパラディンは、プラズマティック・イージスの内側に落下、激突した。
「あうっ!!」
地上への直接落下こそ防げたものの、今の衝撃で、アンナパラディンのダメージは更に深刻化した。
“Warning! Warning!
More than 90% of the propulsion system was damaged.
It is difficult to stay in the air any longer than this.
Immediately remove the installation, discard the device, and evacuate immediately.”
視界が赤く点灯し、AIの警告メッセージがいつもより大きく表示される。
どうやら、最初に攻撃を受けた左肩から下が殆ど動かないようで、体勢を変えることも難しい。
ゆっくり降下するプリズマティック・イージスの上で、アンナパラディンは、次の行動を模索していた。
だが――
「へぇ、結構ボロボロになっちゃったねぇ」
「!」
なんと、いつの間にか、すぐ傍でアンナソニックが跪いている。
パラディンの顔を覗き込み、ニヤリと笑う。
さすがのパラディン――未来も、これには狼狽するしかない。
「くっ!」
咄嗟にホイールブレードを手に取ろうとするが、動きを察したソニックにより、Pイージスの外へ蹴飛ばされる。
派手な音を立てながら、ホイールブレードは、何処かへ転がって行ってしまった。
「ああっ!!」
「ほらね? やっぱり、あんたじゃあたしの足下にも及ばないでしょ。
わかった? ねえ、改めて判った?
あんたみたいな、生まれつき才能も素質もない奴は、どんなに頑張っても、天才には勝てないって事がさぁ」
「……」
「いいねぇ、その悔しそうな顔!
あたしさぁ、練習とか訓練の時、その顔見るのが楽しくてしょうがなかったんだよねえ。
あんたも、舞衣もメグも、本当にイイ顔してたさぁ♪」
「とんだパワハラ告白ね」
「あれぇ、まだしゃべれるの?
意外にタフじゃん」
がしっ! と激しい音を立て、アンナパラディンにアイアンクローを仕掛け、無理矢理立ち上がらせる。
ミシミシと、不吉な音が頭部から響く。
「あ、あああああああっ!!」
「そろそろお終いにしようか。
あたしさぁ、他にやらなきゃならない事があるからさ、これ以上あんたに構ってらんないんだわ」
その言葉に、ハッとする。
アンナパラディンは、ありったけの力を振り絞って、両脚でアンナソニックを蹴り飛ばそうとする。
だが蹴りに力が込められず、当たってもソニックはびくともしない。
「はは、無駄無駄♪
そんな不安定な体勢で攻撃したって、効く訳ないじゃん」
「あら、そう」
アンナパラディンの胸元に垂れ下がっていたカールが屹立し、肥大化する。
それは巨大な黄金のドリルとなり、高速回転を始めた。
「んな?!」
「ゴールデンドリル!!」
ベアークローを仕掛けるアンナソニックの右腕と頭部が、金色の螺旋に巻き込まれる。
凄まじい金属の掘削音が、周囲に鳴り響く。
「うわあぁぁぁぁぁ!! こ、こんなものがぁっ?!」
「はぁっ!!」
続けて、アンナパラディンは左脚を上げる。
怯んだソニックの右腕に向かって横から蹴りつけるが――
膝当てアーマーの下半分が起き上がり、裏側から機械が露出する。
同時に、足首の装甲も屹立し、透明なフードが展開する。
膝当てと足首の装甲の間から、青白い炎のような閃光が発生し、それが一本に繋がる。
アンナパラディンの左膝から下が、レーザーブレードのように変化した。
隠し武器「キックブレード」だ。
「たあぁっ!!」
気合の声と共に、アンナパラディンは、アンナソニックの右腕にミドルキックで斬りつける。
「ぐ……?!」
右腕は、あっけないほど簡単に、切断された。
得体の知れない、血液とは明らかに異なる粘液が飛び散る。
「が、があぁぁぁぁっっっ!!」
右肘の少し手前から先を切断されたアンナソニックは、さすがに怯み、転がるようにパラディンから離れていく。
その隙に、アンナパラディンはPイージスを解除する。
「ぬぐっ?!」
「ぎゃあっ!!」
ガツン、という轟音と共に、二体のアンナユニットが、東通りの路上に落下した。
機械音を立て、左脚のレーザーブレードが収納される。
軋むボディを無理矢理動かし、アンナパラディンは、AIのサポートを受け、ホイールブレードの位置まで移動を開始する事にした。
「うっ……か、身体が、重い……っ」
満身創痍とは、正にこの事。
アンナパラディンは、異常な程重くなったボディを引きずるように、ホイールブレードの落下地点まで歩いていく。
「はぁ……はぁ……!」
(まだ、決着はついてない!
ホイールブレードで、アンナソニックごと核を破壊しなければ、この闘いは――)
あと少しで、ホイールブレードの落ちた場所に辿り着く。
と思った次の瞬間、目の前に、何者かが立ちはだかった。
「クズの分際で……よくも、あたしの身体を……」
「――ソニック?!」
「未ぃ来ぃぃぃぃいいいいいい!!」
激しい怒りと憎悪が、叩き付けられる。
そのあまりの激しさに、アンナパラディンは無意識に目を閉じてしまった。
それが、命取りになった。
「死ぃねえぇぇっ!!」
「ぐあっ!!」
アンナソニックは、全身の力を振り絞り、アンナパラディンの顔を蹴り上げた。
まるでボロ布でも放ったかのように、くるくると回りながら、遥か彼方まで吹っ飛んでいく。
それを目で追い、アンナソニックは、“両手”を大きく開いた。
東通りの真ん中に佇みながら、斜め上を見上げて口を開く。
声楽団のコーラスのような、透明感のある美しい歌声が、周囲に響き渡り始めた。
『このまま、この街ごと、アンタを消し飛ばしてやるよ!』
アンナソニックからの通信が、アンナセイヴァーのチャンネルに割り込んでくる。
意識を失いかけた未来の耳に、それは、かろうじて届いた。
(ま、まさか、この状況で?!)
「いかん! 急速離脱しろ、パラディン!!」
突然叫び出した勇次に、周囲のオペレーター達がビクッと反応する。
「ダメです!
アンナパラディンの飛行能力は、完全に失われています!
稼働率も13%を下回りました! もう、ほぼ動けません!」
「誰か! 誰か、パラディンを! 未来を助けに行けないのか!!」
「アンナミスティックとブレイザー、未だ異世界から脱出出来ていません」
「くそっ! このままでは……未来がぁっ!」
珍しく、勇次が声を張り上げ、うろたえる。
その異様な光景に、やがてオペレーター達も、怯えて声を止める。
バン! とテーブルを叩いた拍子に、マグカップが落下し、割れた。
「おのれぇ、京子ぉ!! よくもやってくれたな!!」
初めて見るような、怒りの感情を抑え切れない勇次の姿。
その激しい怒号は地下迷宮内に響き渡り、離れた場所に居たティノや今川すらも驚かせた。
「“ソニックキャノン”を使う気だ!
新宿が――壊滅するぞ!」




