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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
158/226

●第77話 【音響】



「チャージ・アップ!!」



 優香を中心に、突風が巻き起こり、アンナパラディンを遠ざける。

 天を切り裂くような閃光、大気を振るわす轟音。

 真っ直ぐに屹立する光の帯は天使の羽を思わせる細やかな光の粒を撒き散らし、優香を覆い尽くした。

 直視など不可能な程の光量は、やがて少しずつ集束し始める。

挿絵(By みてみん)

 光の竜巻が消え去った後、優香は、美しくも恐ろしい笑顔を湛え、その場に立ち尽くしていた。



「そ、そんなバカな……」


 アンナパラディンは、膝から崩れ落ちる。

 ガコッ、と激しい音が鳴り、石床が砕け散る。



 そこには、あってはならない“者”が、存在していた。




“Switch the system to fully release the original specifications.

 Each part functions normally, and the support AI system is all green.

 Reboot the system.


 ANX-01S ANNA-SONIC, READY.”





「アンナ……ソニック……?」 


 アンナパラディンは、思わずその名を呟いた。


 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第77話【音響】

 






 紫色の髪。

 濃紫色の、メイド服。

 大きく張り出した、両肩のバタフライスリーブと、上腕を覆うパフスリーブ。

挿絵(By みてみん)

 頭部に装着した、大型のマーカー。

 胸部にある、剥き出しになった機械。

 短いスカートから伸びた、すらりとした脚。

挿絵(By みてみん)

 そして、金色の鋭い眼光。

挿絵(By みてみん)

 それは、アンナパラディンがこれまで見た事もない、全く新しいアンナユニットの姿だった。


「まさか、その姿は?!」


 真っ青な顔で、声を震わせながら尋ねる。

 優香は――否、もはや全く別な姿に変貌してしまった“者”は、満足そうに微笑む。


「わかってるでしょ? これが何か」


「……」


「あんたもよぉく知っている筈の、アレだよ」


「――アンナソニック」


「そうよ。

 一番最初に開発された、アンナユニット一号機。

 ANX-01S“アンナソニック”!!」


「――まさか、駒沢博士が……XENO側に付いた、と?」


「これだけハッキリ見せれば、さすがのアンタでも理解出来るよね」


 一歩踏み出し、石畳を砕く。

 髪を掻き上げながら、優香――アンナソニックは、不敵に微笑んだ。

挿絵(By みてみん)




 パラディンと優香の問答は、それを聞いていた地下迷宮ダンジョンのスタッフにも戦慄を覚えさせた。


「なん……だと?!」


「それってまさか、京子が、XENOに味方してるって意味なの?!

 ユージ?」


「認めたくないが、この話を聞く限りでは……」


 青ざめた顔でモニタを眺める二人に、先程から不満顔の今川が食いつく。


「って! ちょ、待って!

 あの女、XENOなの?!

 そもそも、京子とか駒沢とか、誰のことなんスか?

 つかこの女も、何でアンナユニット持ってんですか?!

 うちら以外に、アンナユニット作れる連中いるんスか?」


「アッキー、ちょっとうるさい!」


「ティノさん! ちゃんと答えてくださいよ!」


「その前に、一度にまとめて質問すなっ!」


「――駒沢京子こまざわきょうこは、元“SAVE.”のスタッフだ」


 勇次の呟きに、今川の表情が強張る。


「え」


「お前が加入するのと入れ違いでな。

 奴は、アンナユニットの基本構造を構築し、運用に導いたロボット工学のプロフェッショナルだ。

 あいつがいなければ、アンナセイヴァーはそもそも生み出せなかった」


「そ、そんな人が、なんで?!」


 動揺する今川に、ティノが口を挟む。


「昔、仲間内で色々問題を起こした女でさ。

 あたしらと仲違いして、勝手に飛び出してったのよ」


「なんスか、それ。

 で、今、ソイツが……」


 今川の呟きに、ティノが頷く。

 そのやりとりを横目に、勇次が更に補足する。


「このアンナユニットは、駒沢が最も拘って製作したANX-01S……の、レプリカかもしれん。

 搭乗者は、同じく元“SAVE.”のメンバー、駒沢優香こまざわゆうか

 京子の実の妹にして、初代のアンナユニットパイロットだ」

 

「んな……」


 今まで見た事もないような、悲痛で苦々しい表情を浮かべる勇次。

 その横顔を見つめ、今川は言葉を詰まらせる。


「でもアイツ、いったいどうやって、失われたANX-01Sを?

 いや、つうか、なんでアップデートまでされてるのよユージ?」


「わからん、全くわからん。

 だが――最悪の事態が起きているのは、間違いない」


 次の瞬間、勇次は、搾り出すような声で、呟いた。



「このままでは、アンナパラディンが――いや、未来みきの命が危ない」






 自らを“アンナソニック”と名乗った優香は、ゆっくりと歩み、アンナパラディンとの距離を縮める。

 無意識に、パラディンの足が後退する。


「さて、それじゃあ、始めよっか」


「……」


「あたしの足元にすら及ばなかったアンタが、この三年間でどれだけ成長したか。

 生き延びられた時間で測ってあげるわ♪」


 アンナソニックのその言葉が、ゴングとなった。

 二人は、ほぼ同時にヴォルシューターを点火し、そのまま真っ直ぐぶつかり合った。

 人間大のものがぶつかり合ったとは思えないような、物凄い激突音が鳴り響く。


 一撃目は、アンナソニックが放った右ストレートの炸裂。

 アンナパラディンの左肩に、拳がめり込む。


「ぬぐ……っ!!」


 重装甲が、まるで紙のようにあっさりと破られる。

 破片を撒き散らしながら、アンナパラディンは、そのまま後方に吹き飛ばされた。


 東通の歩道、丁字路の交差点付近から、京王プラザホテルの端まで、およそ80メートル。

 二トンを越える重量にも関わらず、まるで紙屑のように、そこまで圧されたのだ。


 パラディンが倒れたその瞬間、なんと、80メートルの距離を一瞬で飛び越えたアンナソニックが、追撃を仕掛けて来る。

 

「!!」


「ハァアッ!!」


 気合の声と共に、またも右拳が振り下ろされる。

 身をよじり、咄嗟に攻撃を避けたものの――


「な?!」


 次の瞬間、大きな音を立て、路面が陥没した。


「きゃあっ?!」


 姿勢を制御出来ないアンナパラディンは、そのまま地下に落下する。

 もうもうと立ち込める粉塵と、無数に降り注ぐの瓦礫が、視界を覆い尽くす。

 だが、パラディンのAIが、上部にアラートを表示する。


「セヤァッ!!」


 アンナソニックは、畳み掛けるように攻撃を仕掛けてくる。

 周りの状況などお構いなしに。

 飛び蹴りの姿勢で飛来する、紫のシルエットに、パラディンは鋭い眼差しを向けた。


「プリズマティック・イージス!!」


 左手首の宝珠が煌き、前面に七色の光を放つシールドが形成される。

 と同時に、小さな爆弾を破裂させたような音が鳴り響く。


「へぇ、面白いの持ってるねぇ」


 飛び蹴りを阻まれたにも関わらず、アンナソニックは、不敵な笑みを絶やさない。

 それどころか、両肩のアクティブバインダーを更に展開させ、推進剤を噴出しながら更に圧してくる。


「ぐ、ぐうっ?!」


「見た感じ、粒子加速機フォトンサーキット光粒子フォトンパーティクルを高密度集約させたってとこ?」


 一瞬で原理を見抜く洞察力。

 パラディンは、改めて戦慄を覚えた。


「だったら、全方位防御はとても無理だよねえ?」


「ハッ?!」


 アンナソニックはニヤリと笑うと、なんとプラズマティックイージスを足場にして駆け上がり、あっさりと障壁を飛び越える。


「えっ?!」


 アンナソニックは前宙を切ると、両脚で力一杯、パラディンの背面を蹴ろうと試みる。

 だがその瞬間、アンナパラディンの長い髪がブワッと広がり、ソニックの蹴りをガードした。


「ぐぅっ!」


「チッ、フレキシブルガード……!」


 それでも、アンナパラディンに一瞬の隙を与えるだけの効果はある。

 着地したその一瞬で、アンナソニックは素早く身を翻し、強烈なバックスピンキックを放った。

 この間、一秒にも満たない。


「きゃあっ?!」


 攻撃を防ぎはしたものの、衝撃までは拡散出来ない。

 背後から強く圧される形となったパラディンは、瓦礫に足を取られ転倒しながらも、腰の後ろからリボンを引き抜いた。


 地下駐車場と思われる空間に、激しい閃光が迸る。

 リボンを引き換えに、アンナパラディンは、転送兵器「ホイールブレード」を構えた。


「あららぁ? 次は転送兵器ぃ?

 アンタさぁ、まさかそれで、あたしを倒せるつもりぃ?」


「そうね、そのつもりよ」


 冷静な返答に、アンナソニックの眉がピクリと反応する。


「……は?」


「信じ難い話だけど、これで確信出来たわ。

 優香さん、あなたは、もう人間じゃない」


「……」


「だったら、もう敬う必要なんかないわね。

 他のXENOと同様、容赦はしないわ」


「はあぁぁぁぁ?!

 アンタ、誰に向かってタメ口叩いてんのよ?!

 何も出来ない無能のドン亀の分際で、エリート中のエリートのあたしに?

 しかも、容赦しないぃ?

 ハハハハハハ♪ あんた、相変わらずギャグのセンスないね!」


「無駄口を叩く趣味もないわ」


「――あっそ」


 アンナパラディンの物言いが酷く気に食わなかったようで、アンナソニックは、腰に手を当てて露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 だがそんな態度でも、突き刺すような鋭い視線は、アンナパラディンの細かな挙動を監視し続けている。


「はっ!」


「タァッ!!」


 アンナパラディンは、大きくジャンプして地下駐車場から脱出する。

 間髪居れずに、アンナソニックも飛翔した。


 だが駐車場からもうすぐ抜け出す、というぎりぎりの位置で、アンナパラディンは突如急停止した。

 その間、僅かゼロコンマ数秒。

 若干遅れて上昇して来たアンナソニックに、視界を一杯に覆う程の激しい電撃が襲い掛かった。


「ううっ!?」


「風よ!」


 すかさずアンナパラディンは、強力な風を巻き起こす。

 電撃で怯んだアンナソニックは、狭い空間で吹きすさぶ凄まじい突風に煽られ、上手く上昇出来ない。

 そこに、ホイールブレードの剣戟が真一文字に振り下ろされる。


「バーチカルスライド!」


 柄部分に装着されたホイールを最大加速させ、超振動をまとった刀身にありったけの力を込めて叩き付ける、アンナパラディンの必殺技。

 それの垂直バージョンが、地表と地下の境界線で炸裂する。


 ――かに、思われた。


 だが、バーチカルスライドの剣戟は、“何か”によって遮られていた。

 アンナソニックは、無傷だ。


「――!!」


「ざーんねん♪」


 にやりと微笑み、しかして目は獲物を捉えるような鋭さを失わない。

 ホイールブレードは、何もない空間で、不自然に制止させられていた。

 電光が、まるで不可視のカプセルの壁に沿うように流れ、消失していく。


「シールド?!」


「あんたみたいな紛い物に装備されてるようなのが、あたしのソニックに備わってないと思ってた?

 相変わらず、思慮が浅いよねえ! アンタはさぁ!!」


 語尾に、力がこもる。

 アンナパラディンが嫌な予感を覚えたその瞬間、突然、抗い難い強力な衝撃を食らう。


「うぐっ?!」


 何が起きたのか、咄嗟に理解出来ない。

 路面のアスファルトを巻き添えにしながら、アンナパラディンは、“不可視の謎の力”によって、遥か上空まで打ち上げられてしまった。

 

「キャアァァァァァァァ――ッ!!」


 アンナパラディンの悲鳴が、西新宿のビル街に響き渡った。





 何処かで、爆発音のようなものが聞こえる。

 桐沢は、咄嗟にそちらに気を引かれてしまった。


『おお、とうとう動き出したか』


 吉祥寺が、不気味な微笑を浮かべながら呟く。

 

「な、何の話だ?!」


『お前の処刑人が到着したということだよ』


「な、な、なんだと?!」


 桐沢は、窓に駆け寄り、外を眺める。

 北東の方角で、何か煙のようなものがうっすらと立ち上っているのが見えた。

 それを見止めた桐沢の背中に、冷たいものが迸った。


『もう、すぐそこまで来ているな』


「き、貴様ぁ!」


『あの者には、到着次第、この部屋ごとお前を吹っ飛ばすように指示が行っている。

 良かったなぁ、桐沢。

 どうやら邪魔が入って、少しだけ到着が遅れているようだ。

 選択の時間が増えたな』


「ば、バカを言うな!

 ここが攻撃されたら、貴様も巻き添えになるんだぞ?!」


『構わんよ?』


「な――」


 吉祥寺は、全く動ずることなく、更に圧してくる。

 テーブルの上に置かれている、XENOのカプセルに目が行く。

 

『野中は死んだ。

 今頃は、匂坂もお終いだろう。

 残っているのは、もうお前だけだ。

 さぁ――正しい選択を、今こそしようじゃないか』


「う、だ、誰が……!!」


 やけになった桐沢は、室内の椅子を掴む。

 それを両腕で持ち上げると、窓に向かって構えた。


「XENOになるくらいなら、俺はここから飛び降りて死んでやる!

 貴様の思い通りになど、なってたまるかっ!」


『……』


 桐沢は、椅子を窓ガラスに向かって力一杯叩きつけた。

 だが、窓はびくともしない。

 投げ付けられた椅子は、脚の一部を破損して、床にゴロゴロと転がった。


「そ、そんな……」


『強化ガラスだ。投身自殺防止用のな。

 お前の事だから、そのくらいわかっとると思っておったが』


「だ、黙れ!」


 桐沢は、何を思ったのか、転がった椅子を持ち上げ、それを吉祥寺に向かって投げ付けた。

 しかし、椅子は見えない壁に阻まれ、またもゴロンと床に転がり落ちた。

 桐沢の目が、驚きに見開かれる。


「な……なんで……?」


『無駄じゃよ、お前にはもう何も出来ん。

 出来るのは――』


 そこで、不自然に言葉が途切れる。

 吉祥寺は、桐沢ではなく、窓の方を凝視している。

 その視線を追うと、桐沢の視界に、驚くべきものが映った。


 窓の外に、男が立っている。

 いつの間に現われたのだろうか、地上から十数メートルはあるだろう階層にも拘らず、その男はこちらを凝視していた。

 その手には、銀色の棍棒のようなものが握られている。


 黒いコートのようなものをまとった男は、無表情のまま、手に持った得物を構え――窓ガラスを、ぶち破った。


「な……?!」


 窓ガラスは粉々に砕け、大きな穴が開く。

 と同時に、強い風が室内に飛び込んできた。


 男は、ゆっくりと窓から室内に入り込む。

 づかづかと室内に入り込むと、桐沢の襟首を掴み、無理矢理立ち上がらせる。


「や、やめろ!

 こ、殺さないで、くれ! ください!!」


 無様に泣き叫ぶ桐沢にお構いなしをいった態度で、黒コートの男は、軽々と彼を肩に担ぎ上げる。

 吉祥寺を、一瞬睨みつけて。


「動くなよ」


「へ?」


「落ちるからな」


「な? ――って! ギャアア―――ッ!!」


 なんと男は、桐沢を担ぎ上げたまま、窓から飛び降りた。



 男の足首に付けられた装備から、光が放たれる。

 その途端、落下スピードが徐々に緩和し、やがて宙に浮かんでいるような状態になった。

 それでも、地上までまだ数メートルはある。

 眼下の様子に驚く桐沢の視界に、何やらこちらに向かって疾走してくる物体が映った。


 それは、一台のバイク。

 しかし、誰も乗っていない。


 全体が黒一色に染まった無人の大型バイクは、透明人間が運転しているような動きでこちらに接近し、男の真下辺りで自然に停車した。

 その真横に降り立つ。

 何が起きたのか分からない桐沢は、肩から歩道に投げ落とされた。


「痛っ!」


「逃げるぞ」


「はぁ?」


「乗れ! もう時間がない!」


 男は、バイクに固定されていたヘルメットを桐沢に投げ渡す。

 そして自分も、どこから取り出したのかヘルメットを装着した。

 黒いバイクにまたがると、少しイラついたような口調で怒鳴る。


「早くしろ! 死にたいのか!」


「わ、わ、わかった!」


 慌ててヘルメットを被ると、桐沢は男の後ろにまたがる。


「俺にしっかり掴まれ。

 振り落とされたら、それっきりだ」


「い、いったいお前は――」


「話は後だ!」


「お、おう」


 状況のめまぐるしい変化に、桐沢はもう完全に追いつけなくなっていた。

 だが、この男が敵ではないらしいことはわかる。

 バイクが走り出した頃、桐沢は、ようやくこの男に見覚えがあることを思い出した。


「そうだ、思い出したぞ!

 お前は確か、千葉の工場で――」


「黙っていろ」


「は、はい!」


 男の運転するバイクは、甲州街道へ出て十二社通り方面へ向かおうとする。

 

 だがその途中で、アンナパラディンとソニックが戦闘を繰り広げている、東通りに面した交差点を通過する必要があった。


 二人の激戦は、まだ続いている。







 ここは、とある廃墟ビルの一室。

 かつては大きなテナントが入っていただろう様子を窺わせる、荒れ果てたオフィスの一室。

 今も尚並べられたままの、埃を被ったデスクの島を取り囲むように、四人の人影が佇んでいる。


 そのうちの一人、背が低く麦藁帽子を被ったワンピースの少女が、ぼそぼそと語り出した。


「作戦は、現状順調です。

 アンナウィザード、ローグ、チェイサーの三体は、地下研究所内に閉じ込めました。

 地上への出口になりそうな物は、全て塞がっているとの報告が、サイクロプスから届きました。

 もはや、彼女達の脱出は不可能です」


「――新宿の状況は?」


「XENOと、あの緑と赤のアンナユニットが行方を眩ませてる。

 多分、また変な術で姿消してんじゃないの?」


 今度は、黒いフードを被った少女が、めんどくさそうな口調で呟く。


「優香は、活躍しているのかしら?」


「ええ、大丈夫みたいよ。

 京王プラザホテルの辺りで、アンナパラディンに妨害されてるみたいだけど。

 まあ、性能は雲泥の差なんでしょ?

 だったら、問題ないんじゃない?」


 今度は、机に腰掛けたチャイナドレス姿の女性が喋る。

 大きく切り開かれたスリットから伸びた脚を組み、細長い煙管キセルを咥えながら流し目で見つめる。

 それを見た黒いフードの少女が、呆れた溜息を吐き出す。


「ねぇ、デリュージョンリング?

 あんたさぁ、今度はどんな奴喰って来たんよ?

 何そのカッコ? ケバすぎね?」


「大人の女の色気、って感じで、いいじゃない」


 赤に金の刺繍を入れた高級そうなチャイナドレスを、愛しそうに指でなぞる。

 深いアイシャドウを差した眼差しが、島の一番奥に佇む眼鏡の女性を射抜いた。


「それで、駒沢博士?

 この後は、どうするつもりなの?」


「あなた、本当にデリュージョンリングなの?

 前と全然違うじゃない」


「駒沢博士。

 デリュージョンリングは、私達と違って、決まった姿を持たない個体なのです」


「そうそう!

 前は女子高生で、その前はあたしらみたいな背格好で、その前は、確か――」


「おっさん。

 五十台くらいの」


「そう、それそれ!

 って、アンタあの時、よく平気だったよね?

 イヤじゃなかったん?」


「察してよ、その辺は」


 煙管から紫煙を漂わせ、デリュージョンリングと呼ばれたチャイナドレスの女性は、うざったそうに立ち上がる。

 会話が終わったのを確かめるように、眼鏡の女性――駒沢京子が、話を続ける。


「優香は、桐沢と匂坂が保護されているホテルを襲撃するわ。

 “贋作”は、そこまでに出来るだけ潰しておきたいわね。

 そう――まずは、未来みきのアンナパラディンからよ」


「で? その後は?」


「実験の第三段階――というのが、博士のご希望だけど。

 その前に、やらなければならないことがあるわね」


「だから、それが何かって聞いてるんでしょうが」


 ややヒステリック気味に、黒いフードの少女が噛み付く。

 だが京子は、歯牙にもかけないといった態度で、マイペースに話を続ける。



「まず先にやるべきことは、あの贋作共を淘汰すること。

 その後は――“SAVE.”の殲滅よ」


 京子は、まるでとても嬉しそうな態度で、声を弾ませた。


 





「ああ、皆さん!

 良かった、ご無事だったのですね!」


 離れたところから、青い姿の少女が飛来する。



 ここは、吉祥寺研究所の最下層部。

 あの「大樹」が開けた大穴を下った所だ。


 アンナローグとチェイサーは、縦穴を上昇中、ようやくアンナウィザードとの合流を果たせた。


「上で、何かあったのか?」


 アンナチェイサーの質問に、ウィザードは言い難そうに呟く。


「は、はい。

 それが、何者かによって地下施設が爆破されたみたいで」


「ええっ?!

 じゃあ、地上への出口は?!」


「はい、完全に塞がれてしまいました」


「なに……?」


 アンナチェイサーとローグは、絶望に満ちた表情を向き合わせる。

 だがそんな二人に、アンナウィザードは、表情を引き締めて告げた。


「いえ、まだ、脱出の手段はあります」


「あるんですか?! どうすればいいのでしょう?!」


「私のテクニカルポッドは、外部へ通じる穴を発見出来ていない。

 本当に脱出路はあるのか?」


 不安げなアンナローグとチェイサーに向かって、ウィザードは、目を閉じつつ首を振る。


「恐らくですが、脱出路は、ありません。

 私達を、ここに閉じ込めるつもりで、施設を破壊したのではないかと思われますので」


「それでは、いったい、どうやって脱出を?」


 アンナローグの質問に、ウィザードは、キッと顔を上げて呟いた。




「科学魔法を使います。

 ――私にだけ搭載されている、“テレポート”を」



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