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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
156/226

●第75話 【流星】


「うああぁぁぁぁぁぁ―――っ!!!」


 初めて耳にする、生命の危機を感じさせる叫び。

 激痛に身悶えするアンナブレイザーは、ゴーゴンの一撃をまともに食らい、右肩から下を失っていた。


 今、ブレイザーの右腕は、アンナミスティックの目の前に転がっている。


 ミスティックは、あまりの衝撃に、何が起きたのか理解が追い付いていない。


 ゴーゴンは、道路に倒れ込みうずくまるアンナブレイザーに向かって、再度の突進を試みる。

 二本の巨大なツノには、電光のようなものが迸っているようだ。


「ぶ、ブレイザー……

 え? な、何? これ……?」


 アンナミスティックが、ようやく立ち上がる。

 よろよろと、アンナブレイザーの腕を拾おうと歩き出したのと同時に、ゴーゴンがダッシュを開始した。


 完全な無防備状態のアンナブレイザーは、それに気付いていない。


「あ……!!」


 次の瞬間、アンナミスティックの目に、遥か上空へ吹き飛ばされていくアンナブレイザーが映った。



「い、いやあああああああああ!!

 あ、ありさちゃあぁぁぁぁぁん!!」


 目を剥き、必死の形相で、叫ぶ。

 しかしその悲鳴は、ゴーゴンがアスファルトを踏み砕く音で、かき消された。









 美神戦隊アンナセイヴァー


 第75話【流星】

 










 一方、吉祥寺研究所では――



「きゃあっ?!」


 突然激しい衝撃を食らい、アンナウィザードは、壁に叩き付けられた。

 アンナセイヴァーは、一見普通の女の子のように見えるが、実際は3メートル級の大型機体であり、重量は約二トンもある。

 にも関わらず、そんな彼女を数メートルも弾き飛ばす者が居た。


  ――それは突然、何の脈絡もなく、アンナウィザードの目の前に出現した。


 全高約四メートル、大きなツノと爪を持ち、更に巨大な尾を引きずっている。

 禍々しい、正に悪魔が具現化したような姿。

 それは、先程アンナローグが倒した筈の“ベヒーモス”だった。


 唸り声を上げながら、まるで何事もなかったかのように佇む、その異形。

 ベヒーモスは、怯えるような視線を向けるアンナウィザードを眺め、舌なめずりをする。



「ぜ、XENO!!」


 グルルルルル……


 フォトンドライブを起動し、無理矢理立ち上がったアンナウィザードは、気丈な態度でベヒーモスと対峙する。

 ウィザードロッドも、その意志に反応するように、自動的に浮かび上がり彼女の脇に制止した。



 一対一の戦闘は、初体験。

 アンナウィザード・舞衣は、その沈着冷静な物腰とは裏腹に、かつてない程に激しく動揺していた。

 アンナミスティックも、他の仲間も誰も居ない。

 全て自分一人だけで判断し、この凶悪なXENOを仕留めなければならない。

 過去味わったことのない程の重圧。


 しかし、そんな心の負担も……“あること”を思い出すことで、克服する事が出来る。

 舞衣がかつて味わった、人生で最も辛かった時に比べれば。



“Execute science magic number M-006 "Unicorn-head" from UNIT-LIBRARY.”


「ユニコーン・ヘッド!!」


 科学魔法を詠唱すると、アンナウィザードの右前腕に、真っ白な装甲が出現する。

 それは大型のガントレットで、肘の手前辺りに施された大きな機器からは、巨大な槍が伸びている。

 縦と槍が一体化したような装備“ユニコーンヘッド”を構え、アンナウィザードは、一気に距離を詰めた。


 彼女が武器を構えたことで興奮したベヒーモスは、素早い動きで対応する。

 突進してくるアンナウィザードを迎え撃とうと構えた瞬間、目の前に、ウィザードロッドが立ち塞がった。


 目の前に、大きな炎が巻き起こる。

 科学魔法“ファイヤーウォール”だ。

 ベヒーモスの前面を覆い尽くす程の巨大な炎の壁が、アンナウィザードの姿を隠す。

 突然の高熱にうろたえるベヒーモスの背後に、アンナウィザードが姿を現した。


「はぁっ!」


 鋭い金属音が鳴り響き、右腕の槍が煌く。

 バスン! という爆発音と共に右肘部分が火を噴き、その勢いで槍先パイルバンカーが猛烈な勢いで射出される。

 太く鋭利な金属の先端が、ベヒーモスの背中を貫いた。


 ギャアアァァァァ!!


 鎧のような外皮をあっさりと突き破り、肉片と血しぶきが飛び散る。

 アンナウィザードは即座に槍rを抜き、離脱。

 その隙に、宙に浮かぶウィザードロッドが更なる攻撃を自動的に行った。


 科学魔法“マジカルショット”。

 大きな光球を発生させると、そこから無数の光弾が発射された。

 しかし、


 グオオォォォォ!!


 なんとベヒーモスは、その光弾を両腕で弾き飛ばし、それどころか更に前進した。

 ウィザードロッドを爪で強く払いのけると、中央から“く”の字にひん曲がり、壁に激突する。

 途端に、炎の壁と光球が消え失せる。


 だが、その間隙を縫うように、魔法陣が上空に拡がる。

 やがてそれは収縮し、真っ赤な火球が浮かび上がった。


“Execute science magic number M-012:Explosion-bomb from UNIT-LIBRARY.”

 

「エクスプロージョン・ボム!」


 自動詠唱と、アンナウィザードの声が重なる。

 魔法陣を照準に見立て、アンナウィザードの手の中から火球が撃ち出された。


 視界が真っ白に染まり、凄まじい爆発音が鳴り響く。

 と同時に、通路全体に衝撃波が充満し、アンナウィザード自身も吹き飛ばされてしまった。


「くっ!!」


 姿勢を崩し、回転しながら吹き飛ばされたウィザードだが、壁に激突する寸前で一回転し、体勢を立て直す。

 だが、そこに――


 グエゲエェェェェェ――ッ!!!


 全身にマグマでも浴びたような、酷い大火傷を負ったベヒーモスが、迫っていた。

 まだ消えぬ爆風を突っ切って、アンナウィザードに巨大な爪を振り下ろす。


 ベヒーモスの一撃を食らい、アンナウィザードの身体は、粉々に砕け散った。


 破片すら残らず、粒のようになって、それも空中に溶けていく。


 だが次の瞬間、ベヒーモスの背後に、もう一人のアンナウィザードが突如姿を現した。



「――薄氷の傀儡かいらい



 薄い氷の膜を空間に瞬間形成し、そこに自身の姿を投影することで“質量のある幻影”を生み出す。

 まんまと術中に嵌ったベヒーモスは、完全に背後に対して無防備となった。


 アンナウィザードの身体が、一瞬、黄色に変化する。


“Thunder-cartridge has been connected to the MAGIC-POD.”


 だがアンナウィザードは、ベヒーモスの背を軽く蹴り、何故か後方に退避した。


“Execute science magic number M-031:Plasma-ball from UNIT-LIBRARY.”


「プラズマ・ボール!」


 すかさず、科学魔法を詠唱する。

 腕を交差させ、両手の甲を向かい合わせると、そこに青白く輝く光の玉を発生させる。

 20センチくらいの直径に肥大化したそれを、ウィザードは手で押すように放った。


 そのまま目を閉じ、後方に飛んで行く。

 光の玉は、バチバチと激しいスパークを放ちながら、振り返ったベヒーモスの喉元辺りに吸い込まれる。

 次の瞬間、周囲が一瞬真昼になったかのような、激しいスパークと破裂音が発生した。


 ゴ―――………



「うっ!」


 鈍い衝突音が、衝撃と共に背後から伝わる。

 アンナウィザードが背中を壁に激突させたのとほぼ同時に、ベヒーモスは、首から胸辺りをすっぽりと失い、崩れ落ちた。

 みるみるうちに、身体が崩壊していく。

 どうやら「球電」が、ベヒーモスのコアを丸ごと消失させたようだ。


 恐る恐る目を開けたアンナウィザードは、ボロボロに崩壊していくベヒーモスの様子を見て、ようやく息をついた。


「や、やりました……」


 だが、すぐに視界内に様々なアラートが表示される。

 どうやら背面装甲とアクティブバインダーが損傷したようで、機動出力が著しく低下している事が窺える。


「ウィザードロッド……ありがとうございます!」


 アンナウィザードは、弱々しい動きでウィザードロッドを拾い上げようとして、手を止める。


 先程、ベヒーモスの攻撃で中間から折れ曲がった筈のウィザードロッドは、無傷のまま滞空し続けていたのだ。

 まるで、何事もなかったかのように。


「え……?

 み、見間違いだったのでしょうか?」


 納得が行かなかったが、装備が無事であれば、それに越した事はない。


「後は、ウィザードアイを回収しないと――って、アレ?」


 ふと、ある違和感に気付く。

 ここは現在、強いジャミング効果により、通信機能が使えない状態にあった筈だ。

 にも関わらず、先程ウィザードアイがベヒーモスの映像を送信して来た――ものだと思い込んでいた。


 しかし通信が行えない今、アンナウィザードが映像情報を受け取るには、ウィザードアイを回収し、イヤリングに再接続するしか方法がない筈だ。


「え……じゃあ私が、あの時見たのは、いったい?!」


 慌ててAIにデータの確認を行わせるが、そのような映像情報が送信された記録が見当たらない。

 アンナウィザードは、まるで冷や水を浴びせられたような気分に捉われた。


「えっ、いったい何が――?」


 その途端、遠く離れた所で、何かが爆発するような轟音が響いて来た。









「――アンナローグ、止まれ」


「えっ?」


 ここは、研究所地下二千メートル以下の最深部。

 巨大な「樹」が潜り込んだ先の洞穴に入り込んでいたアンナローグは、アンナチェイサーと共に一番大きな洞穴を進んでいたのだが、不意に呼び止められた。


「どうしたのですか?」


「ナオトからのメッセージだ。

 新宿でまずいことが起きている」


「新宿で?! いったい何が?!」


「XENOが出現して、多くの被害が出ているらしい。――が、それ以上はわからない。

 例のジャミングで、かなり間を置いて届いたみたいだ、クソッ」


 着地したアンナチェイサーは、悔しそうに地面を蹴る。

 アンナローグも、先が気にはなるものの、一旦地に降り立った。


「そんな、ここまで来て……」


 無念そうに、先の道を見つめるアンナローグに、チェイサーは叱咤する。


「優先順位を考えろ、ローグ!

 私達の使命は、XENOの殲滅と、被害をこれ以上拡大させないことだ」


「え、ええ……確かに、そうです」


「東京に戻るぞ」


「――はい!」


「この洞穴は、私のテクニカルポッドが情報を集めてくれる」


「そ、そうですね! はい、分かりました。

 急いで戻りましょう」


「急ぐぞ!」


 即座に滞空し、向きを変えると、二人は高速で上階への縦穴を目指して飛ぶ。

 アンナローグは、まだ果ての見えない洞穴の先に思いを馳せながらも、今は多くの人々を救う為にと、懸命に飛ぶことにした。




『ワシは、知っているのじゃ。

 君達がやがて世界を救い、邪悪な意志に苛まれていく世の中を、浄化していくのをな』




 夢の中に現われた、謎の男の言葉を、ふと思い出す。


(そういえば、あの人はいったい、誰だったんだろう?

 私を良く知っているみたいだったけど……そして私も、何故か、あの人を知っていたような――)



 そんな事を考えながら飛んでいると、遥か彼方から、何か振動音のようなものが聞こえてくるのを感じた。

 急激に、嫌な予感に苛まれる。


「チェイサー、なんだか変です!」


「何?」


「遠くで、何かおかしな音が――」


「待て、私にも聞こえる。

 上の方から?」


 縦穴の途中で滞空した二人は、耳に手を当てる。


「これは……ずっと続いてる、この音は……」


「――爆発音?!」


 やがて、超音感センサーを使用するまでもなく、大きな音が上から響いて来た。


「ん? あれは」


 ふと見上げると、アンナチェイサーの数メートル上で、何かキラキラしたものが浮かんでいるのが見える。

 映像を拡大すると、それは小さな金色の装飾具のようなものだった。

 まるで自分達を導くように滞空するそれは、ローグが気付いたのを認知したように、再びゆっくりと浮上を始めた。


「アンナウィザードの、ウィザードアイだ」


「えっ?」


「彼女が、私達を捜しているんだ。

 後を追うぞ!」


「は、はい!」


 謎の轟音を気にかけながら、二人はウィザードアイを追跡し、先を急いだ。





 

 

「ありさちゃん! ありさちゃぁん!

 うわああああん! 大丈夫? ねえ、大丈夫?」


 ゴーゴンの猛烈なタックルを食らい、錐揉み状態で路面に落下したアンナブレイザーは、もはや満身創痍の状態だった。

 必死で彼女を助け出したアンナミスティックだったが、片腕を奪われ、全身の装甲がひび割れ、所々スパークが起きているボディを見て、もはや冷静ではいられなかった。


「い、今、直してあげるからね! お願い、死なないで、ありさちゃん!」


 そう言いながら、片手を構えようとすると――ブレイザーの左手が、それを拒んだ。


「――アイツは、どこに、いる……?」


「あ、ありさちゃん!

 だ、ダメだよ、すっごいケガしてるんだから、動いちゃダ――」


「何処だ! どこにいるんだ?!」


「ひぃっ! あ、あああ、あっちぃ!」


 鬼のような形相で叫ぶアンナブレイザー。

 その迫力に気圧され、ミスティックは、ついゴーゴンが走り去った方向を指差した。

 だが、またこっちに走り寄って来ているようで、アスファルトを砕く音が響いてくる。

 もはや、十二社通りの路面は破壊尽くされており、平坦な箇所はほぼ見当たらない状態だ。


 アンナブレイザーは、ミスティックの肩を借り、よろよろと立ち上がる。


「あ、ありさちゃん!」


「じ、実装してる時は……コードネームだろ、ミスティック」


「あ、ご、ごめんなさい!

 で、でも、でも!」


「いいか、ミスティック。

 あたしが合図したら、アレを使うんだ……あの、なんつったかな。

 あの、科学魔法ってヤツ……」


 左手で、装甲の割れた胸を押さえつつ、ゆっくりと路上に向かって歩き出す。

 そんなブレイザーを、ミスティックは制止しようと立ち上がった。


「だ、ダメぇ! ぶ、ブレイザー! お願いだから、傷を治させてぇ!」


「いや……ヤツとの決着をつけるのが先だ」


「え……?」


「あのヤロウ、散々調子に乗りやがって……もう許さねえ!

 一気にぶっ潰してやる!」


「ぶ、ブレイ……な、何をする気なの?!」


 道路の真ん中に辿り着いたアンナブレイザーは、晴れ渡った空を見上げる。

 そして、ゴーゴンが向かってくる方向を強く睨みつけた。


「ほら、前に……三人でXENOと闘った時に使った、バリヤーみたいなの、あっただろ?」


 ブレイザーからの通信が、ミスティックの耳に届く。

 溢れる涙を拭きながら、以前の戦闘を思い返す。




『な、なんて奴だ! このまま押し潰すってか?!』


『だだだ、大丈夫だよ! フォトンディフェンサーは、よほどの事がない限り割れないから!』


『で、でも、このままじゃ、私達何も反撃出来ないのでは?!』


『へ?』


『だってホラ、これ、なんかカプセルみたいなもんじゃん?

 外出なきゃ攻撃できねーし!』


『あーっ! そっかあ!

 これ普通の人を被害に巻き込まないようにする科学魔法なんだ!』


『惜しくも適材適所ならず!』


『わぁ~ん、どどど、ど~しよう!』




 以前、この西新宿で“老人の顔に獅子の身体と蠍の尾を持ったバケモノXENO”と闘った際、咄嗟に使ったもののあまり良い効果が出せなかった科学魔法があった。

 ミスティックは、それを思い出した。


「フォトン……ディフェンサー……?」


「そ、それだ……。

 ミスティック、あたしが合図したら、それを使うんだ。

 ――自分に、な」


「な、何をするつもりなの?!

 ねえ、もう、闘いはやめて! 大変なことになっちゃうよぉ!

 メグが、メグが応急処置するから、お願いだからぁ!」


 嫌な予感に捉われ、アンナミスティックはブレイザーを止めようと、路上に出る。

 だがそんな彼女を、ブレイザーは、怒りの表情で押し留めた。


「来るな! あたしはヤツを倒す!」


「で、でも……」


「その気になりゃ、あんな奴、あたし一人で充分なんだ!

 いいなミスティック! 絶対に、約束守れよ!」


 そう言い放つと同時に、アンナブレイザーは、全ての推進力を解き放ち、まるでロケットのような勢いで飛び立った。

 マッハコーンをまとい、あっという間に雲間に消えていく。

 遅れて突風が吹きつけられる。


「ぶ、ブレイザー?! どこ行くのぉ?!」


 ただちに追いかけようとするが、視界の端に、ゴーゴンの巨体が写る。

 よく見ると、身体のデコボコも既に完治しているようで、殆ど完全にダメージが治癒している。


 その瞬間、ゴーゴンはヒットアンドアウェイの攻撃を繰り返している理由が、理解出来た。


(あのXENO、回復する為の時間を稼ぎながら、メグ達と闘ってたんだ……)


 ゴーゴンと、真正面からの睨み合い。

 アンナミスティックは、ごくりと喉を鳴らし、千切れたアンナブレイザーの腕を抱き締めた。


(こ、怖くなんかないもん……ぶ、ブレイザーが戻ってくるまで……絶対に持ち堪えるもん!)


 アンナミスティックは、再びグラビティジュエル射出の姿勢に移った。






 雲を突き抜け、青空を切り裂き、アンナブレイザーは真っ直ぐに上昇していく。

 

 千メートル、五キロメートル……どんどん上昇していく。

 AIが様々なアラートを出しているが、全て無視してぐんぐん飛翔を続ける。

 速度は、音速を遥かに超えている。


 やがて、アンナブレイザーは、眼下に拡がる青い空と雲のうねりを見つめ、次に、自分を包み込むような“宇宙空間”を眺めた。


「まさか、自力で宇宙の景色を見れる日がくるとはな……さて」


 高度十一キロ――アンナブレイザーが居るのは、所謂「成層圏」と呼ばれるエリアだ。

 宇宙と地球の境界に近い、人間が本来居る事が出来ない領域。

 そこまで上昇したアンナブレイザーは、ふう、と息を吐くと、表情を引き締めて下を睨みつけた。


「よぉぉし……行っくぞぉ!!」


 大きく絶叫し、アンナブレイザーは、今度は落下を試みた。

 否、正しくは、落下ではない。

 真っ直ぐ一直線に、地表へ向かって“飛び出した”のだ。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 成層圏からの加速落下により、アンナブレイザーの周囲が赤熱化を始める。

 彼女の周囲数十センチ辺りに、透明のシールドが形成されていることが分かる。

 アンナブレイザーは、飛び蹴りの姿勢のまま、先程の場所に向かって、そのまま一直線に突っ込んでいく。

 それはもはや、無謀な行為でしかない。

 しかし同時に、絶対的な破壊力を生み出す“炎の流星”でもある。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!

 ミスティック! 科学魔法だぁ―――!!」


 凄まじい速度での急速落下で、大気との摩擦熱が、ブレイザーとその周辺の大気を真っ赤に染め上げる。

 


「え? え? えぇ?!」


『いいから、早くしろ!!』


「ひゃあっ! わ、わかったよぉ!」


 ゴーゴンの突進攻撃を避けながら、再度グラビティジュエルを命中させることに成功したアンナミスティックは、急に飛んで来た通信に戸惑った。

 訳がわからないものの、素直に約束を守ることに注力する。


“Execute science magic number C-011 "photon-Defenser" from UNIT-LIBRARY.”


「フォトンディフェンサーぁっ!!」


 詠唱を終えた瞬間、アンナミスティックは、半球状の光の壁に包まれた。

 ふと見ると、上空に、真っ赤な炎の塊が見える。

 しかも、それが尋常でない大きさで、尚且つ凄まじい速度で落下しているのがわかる。


「ま、まさか……あれ、ブレイザー?!」


 ここに来て、彼女の真意をようやく理解したアンナミスティックは、目をひん剥いて空を見上げ続けた。


「ウソ……でしょ?」


 重力圏に捕らわれたゴーゴンは、まだ当面身動きが出来なさそうだ。






「――おおおおおおおおおお!!


 スーパぁ―――!!


 ファイヤぁぁぁぁぁぁ、キイィィィ―――ック!!!」




 超音速で飛来する、巨大な火球――否、神が撃ち下ろした「炎の矢」か。

 それはゴーゴンやミスティックの居る位置から微妙にずれ、新宿中央公園の「水の広場」付近に着弾する。


 大地が震えた。

 爆風が、西新宿のあらゆる物を、一瞬で吹き飛ばした。


 


「きゃあああああああっ?!」 


 アンナミスティックが、耳を押さえてうずくまる。

 それは、“爆撃”だった。

 とてつもない程巨大な爆弾が破裂したような、表現のしようもない程の轟音、衝撃波、そして純粋な破壊。

 着弾した新宿中央公園は当然として、十二社通りも、熊野神社も、それどころか西新宿のビル街も、全て巻き込んで押し潰していく。

 ゴーゴンの身体は一瞬で消し飛び、様々な色と光と瓦礫が飛び交い、フォトンディフェンサーに激突していく。


「ひ、ひいいいいっ!!」


 アンナブレイザーの放った“成層圏からの超音速キック”は、ゴーゴンはおろか、西新宿の一帯を全てなぎ払い、完全に消滅させてしまった。

 もし、ここに後年誰かが訪れたとしても、そこが超高層ビル街であったことなど、絶対に信用しないだろう。


 「スーパーファイヤーキック」は、それほどまでに徹底的な破壊をもたらしたのだ。




 新宿中央公園の“跡地”には、直径約一キロ、深さ約八十メートルほどの巨大なクレーターが出現していた。

 


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