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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
153/226

●第72話 【装甲】


 アンナローグがベヒーモスとの戦闘を繰り広げている一方で、凱や司達五人は、なんとか“縦穴”まで辿り着く事が出来た。


 天井を見上げると、直径八メートルはあろうかという程の大穴がポッカリ空いており、その周辺には大量の瓦礫が積み上げられている。

 穴を見上げると、遥か彼方にポツンと光の点が見え、ここが如何に深いところであるかが大まかに実感出来る。


「こんな足場最悪なとこ、さっきはよく問題なく移動出来たもんだよなあ」


「ああ、そうだな。

 恐らく、こりゃあ相当な運を使い果たしたと思うぞ」


「司さん、物騒な事言わないでくれよ」


「恐らく三ヶ月間くらいは、ソシャゲのガチャで星5が出なくなるだろうな」


 司のその言葉に、何処かから悲鳴が聞こえた。


「そ、そんなぁ~! 私、もう三ヶ月も引けてないのにぃ!!」


「メ……ミスティック……」


「それより、通信状況は」


「ああ、そうだった」


 アンナチェイサーに促され、凱は、腕時計からナイトシェイドに呼びかける。

 だが、相変わらず反応がない。

 アンナユニットの三人も、やはり未だに転送兵器が呼び出せない模様だ。


「穴が空いてるだけでは、電波は届かないみたいですね」


「となると、やはり一旦地上まで出るしかないか」


「うん、そだね!」


「であれば、すまないが我々飛べない勢を引き上げてもらえないだろうか?

 私も、そろそろ東京に戻らなければならない頃合だ」


「そうか、じゃあ急ごう。

 誰か、司さんを頼む」


「はーい☆

 じゃあ、私が連れてってあげるね!」


 そう言うと、アンナミスティックは、ひょいっと司を抱き上げた。

 だが、


「お、おおおおお?」


「メ……ミスティック、おま、それは」


「ふにゅ? 何か変?」


「そ、その体勢は……お姫様抱っこ」


「もう自由過ぎるな」


「ふにゃあ、ダメかなぁ?

 じゃあ、えっと、司さん!

 おんぶしてあげるからね?」


「い、いや、まず、降ろしてからにしてもらえないかな?」


「はーい♪」


「フォトンドライブは、発生装置を中心に半径50センチ程度なら、他の者にも効果が及ぶ。

 ミスティックにしがみついていれば、問題なく上昇は可能だろう」


 冷静な口調で、アンナチェイサーが伝える。

 だが、何故かその顔は少し赤らんでいる。


「そっかぁ、ありがとうチェイサー!

 じゃあ司さん、私にしっかり掴まっててね!」


「あ、ああ……だがその、いささか抵抗があるな」


 ようやくお姫様抱っこから解放された司は、顔をしかめながら周囲を見回す。


「んー? どしてー?」


「いやその、な。

 大人になるとだな、色々と難しいことがあってな」


「ふにゅ?」


「いいから、とっととしがみつけ」


 司の背中を、アンナチェイサーが人差し指でつっつく。

 顔を赤らめながら、司は、少し申し訳なさそうな顔で凱を見た。


「あ~、大丈夫。気にすんなって」


「すまない、じゃあお嬢ちゃん、頼むよ」


 そう言うと、司はかなり遠慮気味に、アンナミスティックに抱き付いた。


「……んむ?」


「どうしたの、司さん?」


「いやその、か、硬いなと思ってな」


「うん、そうだよー! これ全部“装甲”だからねー」


「見た目は普通の身体と服ですが、実際は弾丸も通さない重装甲ですので」


 アンナミスティックとウィザードの説明に、司はハッとする。


「なるほど、見た目に騙されちゃいけないんだったな。

 じゃあ、改めてよろしく」


 先程、アンナローグに触れた時のことを思い出して、司は、改めて覚悟を決め、しがみつく。


「そ、それでは参りましょう。

 あの、ミスティックが先に上がって頂けませんか?」


 スカートの端を押さえながら、アンアウィザードが頼む。

 ミスティックは、笑顔で頷いた。


「いーよー!

 じゃあ行くね、ぴょーん☆」


「って――うわわっ?!」


 激しい噴射音が響き渡る。

 返事をしてから間髪入れずに、アンナミスティックは司の身体を支えてジャンプした。

 あっという間に飛び上がり、消えていく。


「メグちゃん……は、早すぎます!」


「余韻もへったくれもないな。

 よし、じゃあ次は俺が行く」


「お兄様も、私に掴まりますか?」


「ああ、じゃあ――」


 アンナウィザードに近付こうとするが、無言でこちらを見つめているチェイサーに、凱の動きが止まる。

 チェイサーは、無表情で、右手を上に向ける動作をしてみせる。


「どうぞ、お先に」


「え、あ、うん」


「何を遠慮している?」


「あ、いやな、その……じっと見られていると、なんかな」


「……」


 年甲斐もなく恥ずかしがる凱の様子に、アンナチェイサーはぷいっと背を向ける。


「すみません、霞さん。

 さぁ、参りましょう、お兄様」


「ああ、ゆっくり頼むな」


「お任せください」


 まるで凱と抱き合うように、身体を支えると、アンナウィザードはゆっくりと浮上を始める。

 二人の姿が小さくなったのを確認すると、アンナチェイサーは周囲の様子を窺い、再び姿を消した。


 それからしばらく後、誰もいなくなった空間を、小さな光る物体が横切り、地上へ向かって飛翔した。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第72話【装甲】

 





 東京・西新宿。


 アンナパラディンとブレイザーによる、対ゴーゴン戦は、いまだ決着が着いていない。

 否、それどころか、完全な膠着状態に陥っている。


 全長約六メートル、全高約三・五メートル強程の大きさ、一メートルを越える巨大な角を頭に携えている“牛のバケモノ”。

 その全身は硬い甲羅で覆われており、しかも打撃を弾き返すような形状のようで、二人のあらゆる攻撃は全て通じていない。


 反面、ゴーゴンの攻撃も、今のところアンナユニットに損傷を与えてはいない。

 とはいえ、このまま戦闘が続くことは、明らかに二人にとって不利だ。


「くっそ……今更ながら、パワージグラットの有り難みがよくわかるぜ」


「同感だわ。

 こちらも、決め手になる技が出せない……正直、今までの戦闘で一番きついわ」


 アンナミスティックが居ない現状、バトルフィールドを隔離する事が出来ない二人は、周囲への影響を考慮しながら戦闘しなければならないというハンディが生じる。

 だが、仮に周囲を気にせず必殺技を出したところで、ゴーゴンの超装甲を貫通できるかは怪しい。


 その上、更に戦闘をやりにくくしている要因があった。


 現場周辺は、警察が交通規制を行ったのか、現状車が入り込んでくることはない。

 しかし、事件発生前から各施設に居た人達は、そのまま建物のなかに残っている。

 中には地下道を経由して避難した人もいるのだろうが、各建物の中からこちらを眺めている野次馬達も多い。

 その上、スマホで動画撮影していると思しき者達までいるのだ。


「ねえパラディン、科学魔法であたしらの姿、消さないのか?」


「真っ先に考えたわよ。

 でもね、この状況で私達の姿が消えたら、誰かここまで入り込んでくるんじゃないかって」


「あ、そうか!

 絶対様子見に来る奴居そうだもんな」


「待って、来るわ!」


 数メートル先でこちらを睨みつけていたゴーゴンが、動き出す。

 またも、角を前方に翳しての突進。

 その速度はかなりのもので、あっという間に距離を詰められる。


「ヤロウ、このまま積み潰す気だ!」


「くっ! プリズマティック・イージス!!」


 アンナパラディンが左手を翳し、七色の輝きを放つ光の盾を生み出す。

 直径五メートル程の円状の障壁に激突し、ゴーゴンの動きが鈍る。

 しかし、その反動はしっかりアンナパラディンに跳ね返ってきた。


「ううっ……!!」


「くっそぉ! オラアァァァッ!!」


 ファイヤーナックルを装備した両拳で、アンナバトラーはゴーゴンを乱打する。

 しかし、相変わらず攻撃が効いている兆しはなく、それどころか拳が横に逸れてしまい、ダイレクトヒットしない。

 装甲ごと叩き潰そうとするも、それすら適わない。


「ゆーじさん! あいつらとは、まだ連絡がつかねーのか?!」


『まだだ!』


「くっそぉ! どうすりゃあいいんだ?!」


 戸惑うアンナブレイザーには目もくれず、ゴーゴンは尚も突進を繰り返す。

 やがて、少し後退してから反動をつけ、再度突っ込むという揺さぶりまで掛け始める。

 その度に、アンナパラディンへの負荷が増大していくようだ。


 だが、その時――



「……!! ………!」


 耳に届く、微かな会話の声。

 それに反応したアンナブレイザーとパラディンは、百数十メートル程離れたところに、数名の人間が現われたことに気付いた。


「え? あ!!

 あんのバカ!!」


「ま、まずいわ!!」


 どうやら一般人のようで、特殊な装備など一切持たず、手にはカメラやタブレットらしきものを抱えている。

 こちらを向いているところを見ると、現場に突入を図った野次馬か、或いはSNSのバズり狙い、ないしはYOUTUVERだろうか。

 幸い、ゴーゴンの背後に居るので今は気付かれてはいないが、非常に危険だ。


「バッカ野r――」


『ゴーゴンに気付かせちゃダメ!』


 叫び出そうとしたブレイザーに、通信で呼びかけ制止する。

 

「おっぷ、危ねぇ!」


 しかし、このやりとりで気を抜いた一瞬を突くように、ゴーゴンはその場で大きく口を開けた。

 と同時に、アンナパラディンの身体に強烈な電撃が発生する。


「きゃあっ?!」


 一瞬の衝撃で、アンナパラディンは数メートル後方に吹き飛ばされる。

 それを皮切りに、ゴーゴンが突進を再開する。


「あ、こ、この野郎!!」


 即座にしがみつくが、アンナブレイザーの重量が加算された程度では、止まらない。

 ゴーゴンは、そのままアンナパラディンに向かって一直線に突っ込んだ。

 彼女が、立ち上がるよりも早く――


「きゃ……」


「ぱ、パラディ――ン!!」


 バゴンッ! という、激しい音が鳴り響く。

 ゴーゴンの巨体は、アンナパラディンを踏み潰し、そのまま十二社通りを突き抜けていった。

 濛々と立ち込める粉塵が晴れると、アスファルトに深々とめり込んでいる、アンナパラディンの姿が見える。


「お、オイ! 大丈夫か?!」


「う……かなり沢山、アラートが出てる……無事ではないわね」


「い、生きてるだけでもまだいいや!

 しかし、なんださっきの……で、電気?!」


「わからない……けど、かなり強い衝撃だったわ」


 アンナパラディンは、どうやら胸部と背面部、そして左腕部に大きなダメージを受けたようで、自力では穴から脱出出来ない状態になっている。

 アンナブレイザーが必死で抱き上げようとすると、なんと、先の者達が距離を詰めてこちらに近付いて来るのが見えた。


「な……バ、バカ! こっち来んな!」


 片手で追い払うようにジェスチュアをするが、四人程の若い男達は、気付いていないのか更に距離を詰めてくる。


「え~、ご覧になってる皆さん! 遂に、あの“バケモノと闘う女の子達”にここまで接近出来ました!

 こんなに間近で彼女達を撮影したのは、俺達が初なんじゃないでしょうか!

 では、早速インタビューしてみたいと思いまぁす!」


 一人の男が、カメラを構えている別な男に向かって嬉しそうに話している。

 そんな彼らのやりとりを、アンナブレイザーは、信じられないといった顔つきで眺めた。


「あのーすみません! あなた達は何者ですか?

 なんでこんな所で、バケモノと闘っ――」


「バカ! 早く逃げろ!

 死にたいのか?!」


「え、なんですか?

 バケモノ向こうに逃げて行ったじゃないですか。

 もう大丈夫でしょ?」


「んな訳あるかぁ!

 早く逃げろ! アイツが戻って来るぞ!!」


 必死の形相で男達を追い払おうとするが、そんなブレイザーの態度が興味を引くのか、彼らは益々つけ上がる。


「赤い人、なんだか怒ってるみたいですねー、どうしましょう?

 あ! なんかもう一人、道路に埋まってます! ナンカウケる☆」


「邪魔だ、どけ!

 どうなっても知らねぇぞ!!」


「あ~、ちょっとだけインタビューに答えてくださいよぉ、そしたら帰りますって!

 最近、ネットで噂のコスプレ戦闘集団の方々ですよね?

 今、何をされてるんですかぁ?」


(こ、コスプレ戦闘集団!?

 あたしら、そんな認識のされ方なんか?!)


『無視して、ブレイザー。

 反応すれば、益々調子に乗るわ。

 私を救い上げたら、すぐに離脱して』


 アンナパラディンからの通信を受け、ブレイザーは男達から顔を背けると、再びパラディンの救出を始める。

 ようやく身体を抱き起こしたところで、男達が一瞬歓喜の声を上げるが、すぐに止める。


「ん? どうしたんd――って、げっ?!」


 助け上げられたアンナパラディンは、胸部装甲が大きく破壊され、内部のメカが少し露出していた。

 具体的には、左乳房の部分が割れ、そこを中心に肩の辺りまでヒビ割れている。

 そして、割れた装甲にはスパークが発生している。


 良く観ると、左腕も少し割れており、前腕の一部が欠損している状態だ。

 それを見たアンナブレイザーの顔色が変わる。


「おい、大丈夫かパラディン?!

 つか、中身は――」


「いいから早く! 上昇!」


「え、あ、でも」


「ヴォルシューターを破損したわ、飛べないの!」


「わ、わかった!」


 アンナブレイザーは、アンナパラディンを抱き上げると、男達を一瞥して上空へジャンプした。

 あっという間に数十メートル上空まで飛び上がった二人を見上げ、男達は、呆然とその場に立ち尽くした。



「えっと、あの」


「飛べるって話、マジだったんかぁ」


「あれ、ロボットなのか? なんか機械みたいなのはみ出てたよな?」


「え、あ、おい、ところでカメラ回ってるの?」


「あ、ゴメン! つい」


「うあああ、マジかぁ?!」


 困惑する男達は、すごすごと歩道の方へ歩いて行く。

 地響きのような足音が響き出したのは、その直後だった。




「おい、本当に、中身にはダメージ行ってないんだろうな?!」


「大丈夫みたい。

 特に私自身の身体が痛むことはないわ」


「で、でも、こんなに壊れて……。

 いったいどうなってんだよ、アンナユニットの構造って?!

 あたし達の身体、こん中でどういう風になってるんだよ?!」


 今まで見た事もないような心配そうな顔で、アンナブレイザーが覗き込む。

 右手で破損部分を押さえながら、アンナパラディンが優しく微笑む。


「心配してくれて、ありがとう。

 でも、今は私より、あの人達を」


「あんな奴ら、あのままXENOに食われちまえばいいじゃんか!」


 ブレイザーの言葉を遮るように、パラディンの右手が頬を軽く叩く。

 カツン、という軽い音が鳴る。


「私達が、そんな事を言っちゃダメよ」


「で、でもさ!」


「たとえ相手が親の仇でも、XENOに襲われたら護らなきゃ。

 それが、私達の使命よ」


「……」


「大丈夫、私は科学魔法で応急処置をするから、直ったら追いかけるわ。

 さぁ、先に行って」


 そう言いながら、ブレイザーの肩を叩く。

 新宿中央公園、ナイアガラの滝の前で横たえられたアンナパラディンは、ふっと笑うと、早速科学魔法を施行し始める。


 

“Execute science magic number C-002 "Cure-spark" from UNIT-LIBRARY.”


「キュア・スパーク……」



 詠唱と共に、アンナパラディンの右手が光り、全身をエメラルドの閃光が包む。

 と同時に、破損した部分に何から小型の投影映像のようなものが浮かび上がり、そこに細かな白い文字が表示され始める。


「さぁ、ブレイザー!」


「あ、う、うん」


「ここは、あなたに任せたわ」


「――おう!」


 真っ直ぐ見つめる眼差しに応えるように、アンナブレイザーは立ち上がり、再び空へ舞い上がった。






 アンナローグとチェイサーを除く四人は、全員地上に戻ることに成功した。

 外は薄暗くなり、やや曇り空になって来ている。

 時計を確認すると、司は四人に向き直る。


「それではすまないが、私はこれで失礼する」


「ちょっと待った、司さん」


 車へ戻ろうとする司を、凱が呼び止める。


「今日の事で、口外されては困る事が多々ある。

 それについては、くれぐれも」


「ああ、そうだったな。

 もっとも、話したところで誰も信じないだろうけどな」


「確かにな。

 だが、俺達との接触については頼む」


「――ああ」


 わざと間を置いて、返答する。

 司は、肩越しに三人を見た。


「北条君。

 俺も、君に持ちかけた提案の件、忘れずに検討して欲しい。

 俺が君達の秘密を守るための、最低限の条件がそれだ」


「ああ……そうだな」


「歯切れが悪いな。

 また、何処かで逢おう」


「あ、あの……」


 アンナウィザードが何かを言いかけるが、凱がその肩を掴み、止める。

 少しだけ丸めた背中を向けながら、司は、それ以上何も言わずに車へと向かっていった。


「司さぁ―ん! バイバーイ!!

 またねぇ――!!」


 と突然、アンナミスティックが大きな声で呼びかけ、右手をブンブン振る。

 凱とアンナウィザードは、突然のことにビクリと反応した。

 無論、司本人も。


 振り返ることなく、軽く手を挙げるだけで、司はそのまま姿を消す。

 ふう、と息を吐いたところで、何かが凱の手元にぶつかった。


「あ痛っ! な、なんだ?」


「あれぇ? これ、お姉ちゃんのイヤリング?」


「え? いえ、ウィザードアイは使ってませんけど……」


「って、あっ! これ、まさか!!」


 驚きの声を上げ、凱はそれを拾い上げる。

 それは間違いなく、約一年前のあの日、井村邸の中で放った「ウィザードアイ」だった。


「なんてこった! コイツ、生き残ってたのか!」


「ふえっ! これ、お兄ちゃんが飛ばしたヤツなの?」


「ああそうだ、まだこの地下の存在がはっきりしてなかった時に、偵察用に飛ばしたんだが、回収しそびれてたんだ。

 てっきり、あの火事に巻き込まれたもんだとばかり思ってたんだが」


「であれば、何か貴重な情報が記録されているかもしれないですね」


「ああ、そうだな。

 早速ナイトシェイドに分析を――っと、それよりも地下迷宮ダンジョンへ報告か」


 凱は、周囲をぐるりと見渡してから、腕時計の通信状況を確認する。


 その直後、彼らは、衝撃的な報告を勇次から受けることになるのだが――







「――ああ、俺だ。

 すまない、ちょっとトラブって連絡が遅くなった」


 車に戻った司は、運転席から島浦に電話をかけていた。

 少し怒り気味な口調で電話に出た島浦は、大きな溜息をつくと、早口で話し出した。


『お前と連絡が付かない間に、えらい事が起きまくった!

 急いで戻って来い!』


「えらい事? 何だ」


『新宿に、またXENOらしきバケモノが出た!

 大勢の一般人が巻き込まれて、甚大な被害が出とる。

 あとな、前にお前が言ってた、あのコスプレみたいな連中も現われて、交戦中だ』


「何だと?!」


 司は、車のエンジンをかけてBluetoothでスマホを繋ぎ直すと、運転しながら島浦の報告の続きを聞く事にした。


「さっきの口ぶりだと、それだけではないようだな。

 他に、何があった?」


『ああ、お前、“向井”という男を知っているか?』


「向井? 何処かで聞いた名前だな。

 それがどうした?」


『ああ、今日の午前中に、その男の捜索願が出されたんだ。

 アパートの大家からな』


「大家から?」


『何日も応答がなくてな、孤独死を疑って部屋を開けたら、遺言のようなものが出て来たんだそうだ』


「遺言? 遺書じゃなくてか?」


『内容は自殺をほのめかすもんではなくてだな、もうすぐ自分は殺されるから、という内容だったそうだ。

 それで、大家が慌てて通報してきたようだな』


「穏やかじゃないな。

 だが、それが俺達と何の関係が?」


『問題は、その男の元勤務先でな。

 ――さっきまで、お前が居た場所らしいんだ』


「何……?」


 一般道に下りた直後、司は、思わず急ブレーキを踏んでしまう。

 その時、不意に記憶が蘇った。


(向井……そうだ、桐沢や匂坂の同僚で、俺がアポイントを取ってなかった最後の一人だ!)



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