表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
144/226

●第63話 【屋敷】



 地下迷宮(ダンジョン)のミーティングが済んだ日の晩。

 “SAVE.”専用の連絡コミュニケーションアプリを通じて、凱のアカウントにメッセージが届けられていた。


 差出人は、「鷹風ナオト」。


 それを見た凱は、細目で画面を睨み付けた。


(何処を本拠地にしてるのか知らんけど、マジで行動早いな)


 早速メッセージのアイコンをクリックし、内容を確認する。

 だが、内容は拍子抜けするほど簡単なものだった。

 よく言えば無駄のない、悪く言えば素っ気無い。




“明日午前10時、井村邸に来られたし。

 尚、別件の用がある為、自分は参上せず。

 当日は本件に重要な関わりを持つ人物が出向く為、対応を宜しく”




「重要な関わりを持つ人物? いったい誰のことだ?」


「どうかなさったのですか? お兄様」


 独り言を呟いていると、風呂上りの舞衣が、少し火照った顔でこちらにやって来る。

 薄暗い室内灯の明かりに照らされて浮かび上がるその姿は、どこか妖艶な色気を感じさせる。


「さっきの、鷹風ナオトからの連絡だよ。

 明日、早く出かけなければならなくなった」


「そうなんですか?」


 少し不安げな表情を浮かべながら、舞衣は凱の膝の上に座る。

 両腕を凱の首にかけ、抱きついてくる。

 湯上りの温かさと、髪の香りが鼻腔をくすぐった。


「井村邸って、もしかして」


「ああそうだ、愛美ちゃんが居たところだよ」


「私達が、初めてXENOの存在を認知した場所ですよね?

 そんな所へ、危険ではありませんか?」


 舞衣の言う通り、この件にはかなりの危険が伴うだろう。

 事実、凱は一度ここを訪れ、窮地に立たされた事がある。


 千葉愛美がかつて住み込みで働いていた、赤城山の山中奥にあった邸宅は、井村大玄という人物の妻・依子を主とする「井村邸」と称されていた。

 そこに潜入調査で潜り込んでいた“SAVE.”のメンバー・元町夢乃からの報告により、愛美の存在を知り、凱が迎えに行ったのだ。

 しかし、その館は謎の出火により火災が起こり、加えて突然XENO“オーク”が出現したため、凱と愛美は必死で脱出して来たのだ。

 尚、その際、夢乃の安否は確認出来ていない――


 無意識に苦々しい顔になっていたのか、舞衣が心配そうに覗き込んでくる。


「お兄様……」


「ああ、あの時の失敗を、今度こそ挽回しないとな」


「……」


 凱の言う“失敗”は、夢乃を救えなかった事を指している。

 それは、舞衣にもすぐ理解出来た。

 いつしか、彼女表情も暗くなっていく。


「しかし、井村邸は火事で燃えてしまった筈だ。

 今更そんな所に行って、何になるってんだろうな」


「お兄様は、鷹風さんのことはご存じないんですか?」


「実は、昔一度だけ逢ったことがあるんだ。

 もう十二年くらい前だけどな」


「十二年前……」


 まだ仙川博士が生きていた頃。

 凱は、当時まだ残っていた仙川の研究所内にて、少年と少女に出会った。

 少年の、まるで射抜くような眼差しと、今にも泣き出してしまいそうな少女の表情が印象的だった。


 その時に紹介された名前が、鷹風ナオトと、宇田川霞。


 彼らの素性、何処から来たのか、何故仙川に保護されていたのかなど、事情は全く知らない。

 しかし、その時仙川が言っていた、どこか含みのある言葉が、妙に記憶に焼きついていた。



『この二人は、いずれ我々の目的を完遂する為に、欠かせない重要な役割を担う。

 北条君――やがて時が来た時、この子らと共に……頼むよ』



 当時既に“預言者”として名高かった仙川が何を思い、そして何を見据えていたのかは、もはや知る術はない。

 だがそれ以来、凱は、心のどこかで、彼らの存在を常に意識し続けていた。


「お兄様、もう十一時です。

 そろそろ休まないと、明日に差し支えます」


「そうだな、もう寝るか」


 抱きつく妹の頭を優しく撫でると、頬に唇が触れる感触が伝わる。


「お兄様……」


 艶っぽい表情で、舞衣が呟く。


「寝室に、行きましょう」


「ああ」


 舞衣を膝から降ろすと、肩を抱いて寝室へ向かう。

 暗い部屋の明かりも付けず、凱は、掛け布団をまくると舞衣をそっと抱き上げた。


「あっ」


 ベッドに静かに横たえると、自身もその脇に横たわる。

 掛け布団をかけてやると、舞衣がまた抱きついて来た。


「お兄様……大好き」


「ああ、俺も大好きだよ、舞衣」


「ああ……お兄様。

 私、どうしてこんなに、お兄様のことが大好きなんでしょう……」


「ずっと一緒に居たから、な。お前が小さい時から」



「愛してます……お兄様」


「ああ」



 ふっと微笑み、愛しい妹に腕枕をしてやる。

 豊満な身体が密着する感触にひたすら耐えながら、凱は、もう一方の手で舞衣の頭を何度も撫でる。

 それが、小さい頃からの、彼女の好きな寝付かせ方だ。


 ものの数分もしないうちに、舞衣が軽やかな寝息を立て始める。

 それを確認すると、慣れた動きでベッドから抜け出す。


(まったく、幾つになっても、甘えん坊だけは変わらねぇんだからなあ)


 ベッドの脇で跪き、舞衣の寝顔を眺める。

 もう一度目を細めると、凱は、音を立てないように気遣いながら、リビングへ戻って行った。

 

 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第63話【屋敷】

 






 関越自動車道を北上し、二時間以上。

 県道四号線に入り、くねくねと曲がりくねった山道をひたすら登っていく。

 そこから脇に伸びる獣道のような小路に入り、未舗装の道をひたすら登っていく。


 ナイトシェイドは、僅かに車高を上げ、四輪駆動を駆使してこれを登坂していく。

 高速道路を走っている時は、まだ世間話などでそこそこ盛り上がっていたのだが、助手席の愛美は、いつしか口数が少なくなっている。


「ごめんな、愛美ちゃん」


「え? 突然どうされたのですか?」


「出来る事なら、君をまた連れて行くなんて避けたかったんだが。

 単独で実装出来るのが、君しか居ないからな。

 それに、周辺状況に明るいのも君だけだし」


「そんな! もうお気になさらないでください。

 私は、平気ですから」


「ありがとう、愛美ちゃん」


 会話が滞ったことで、愛美が気にかけていない筈がないことは、凱には痛いほど良く伝わる。

 だが今は、その気持ちが嬉しく思えた。




 約束の時間を僅かにオーバーしたものの、ナイトシェイドは、井村邸の敷地近くに辿り着く。

 良く見ると、少し離れた場所に、グレーのセドリックが停められていた。

 今のところ、辺りに人の気配はない。


「どうやら、先客は既にご到着のようで」


「あの、これからお会いになる方、本当に凱さんはご存知ないんですか?」


 不安そうに尋ねる愛美に、凱は無言で笑顔を向ける。

 だが実は、彼自身かなりの不安要素があった。

 鷹風ナオト自身の能力の高さ、判断力についてなどの分析情報は、相模鉄蔵を介して得てはいるものの、彼がどのような策の基に動いているかなど、そういった方針はまるで見えていない。


「重要な人物だとは言われてるけど、具体的に何にどう詳しいのやら」


「ホントですね、そもそも、“SAVE.”のメンバーの方なのでしょうか?」


「それもわからん。

 もしかしたら、鷹風みたいにまた新キャラクター登場、とかだったりしてな」


「ふふっ、どんどん人が増えて行っちゃいますね」


 ようやく、愛美に笑顔が戻る。

 凱は、ナオトの指示内容に全面的な信頼は置かず、あくまで現場判断で対処して行こうと決めた。


「これからどうしますか? 凱さん?」


「そうだな。

 ナイトシェイド、あの車の運転手を捜してくれ」


『了解。

 ――発見しました。井村邸付近で、男性が一人立っております。

 距離は、北北東に約200メートル』


「は、早い!」


「意外に近くに居たな」


 凱は、懐のブラスターキャノンのチャージを確認すると、ホルスターに戻す。

 一方の愛美は、不安げにサークレットを手で握り締めている。


「行こう」


 車外に出ると、陽気に反していささか肌寒さを感じる。

 愛美は、懐かしい場所に来たせいか、きょろきょろと周囲を眺めている。

 ここから先は、車で進むには少々難のある悪路だ。

 周囲は木々に囲まれていて、見通しも悪く、当然のようにガイドレールもないため、路から外れたら真っ逆さまだ。

 古砂利を踏み締めてしばらく歩いていくと、ようやく林が開け、敷地が見えて来た。


「着いたか――って、えっ」


「?!」


 井村邸の方を向いた途端、凱と愛美は、思わず足を止める。

 そこには、想像もしなかった光景が広がっていた。


「なんだこりゃ」


「お、お屋敷が……ない?!」


 火災に見舞われた、巨大な屋敷・井村邸。

 しかし今、ここにはその建物の痕跡は、全く残されていなかった。

 焼け跡は綺麗に片付けられており、建物のあった場所には定礎の痕跡すらも見当たらない。

 まるで、あの事件そのものが最初からなかったかのように思える程だ。


「いったい誰が、こんなことを?」


「お庭の物干し台とか、物置も撤去されています!

 ああ、なんてことでしょう……」


 愛美は、口元を手で押さえながら、敷地外の林の方を指差す。

 そこは、愛美が初めてアンナローグを実装した際、オークを吹っ飛ばした時に突っ込んだ場所。

 何本かの木がへし折れたのだが、なんとそれも片付けられていた。

 正しくは、折れたと思しき木の切り株だけは残されているが、折れた木は見当たらなさそうだ。


「随分と徹底的に証拠隠滅したもんだな」


「なんだか、思い出まで全部消されたみたいで、とってもショックです……」


「気持ちはわかるよ。

 だが、あれから山火事にはならなかったみたいで、それだけは良かった」


「そうですね、それだけでも――」


「君達かね、同行者というのは?」


 突然、背後から声をかけられる。

 凱は咄嗟にジャンプして距離を取り、懐に手を入れる。

 一方の愛美は、驚いた顔で振り返るのが精一杯だったようだ。


 彼らの後ろに居たのは、髪をオールバックにまとめ、薄手のジャケットをまとった中年男性だった。

 その口元には煙草が咥えられており、その匂いに、愛美は無意識に顔を顰めた。


「おっと、脅かしたか。

 こりゃあ失礼」


「あんたか? アイツの言っていた……」


「鷹風ナオト、の事か?

 であれば、そういうことだ」


 男は、凱の方を向いて静かな口調で語る。


「私は、新宿警察署刑事課の、(つかさ)という。

 君達は?」


 そう言いながら、警察手帳を掲げる。

 それを見た凱は、思わず目を剥いた。


「警察?! どうしてこんなところに?」


「まあ色々あってね。

 それより、どうやら今日は君達と同道のようだからね。

 名前くらいは、聞かせてもらえないかな」


「――北条凱」


「なるほど、君が。

 名前は鷹風から聞いているよ。

 それで、そこの娘は?」


「は、はい!

 私は……」


 顔を上げて、真っ直ぐに司の方を向く愛美。

 だがその顔を見た途端、司は顔色を変えた。


「――こりゃあ、驚いたな」


「え?」


「まさか、こんなサプライズがあるとは」


「あんた、この娘を知っているのか?」


「えっと……あっ! 貴方は、あの時の?!」


 愛美も、ようやく思い出す。

 あの新宿での出来事の時、自分が救った男性だ。


「君とは初対面だと思うが、私を知っているのか?」


「はい! 先日新j――モゴッ?!」


「ハハハ! 愛美ちゃん、今はちょっと黙ってようね!」


 横から飛び出した凱が、慌てて愛美の口を手で塞ぐ。

 司は、マジマジと愛美の顔を見ると、続けてスマホを取り出し、画面と見比べ始める。


「全くの想定外だったが、これはありがたい。

 ――ようやく見つけたよ、千葉真莉亜(ちば まりあ)


「え?」


「君は、千葉真莉亜さんだね?

 良かった、出会えて本当に良かったよ」


 緊張感が緩んだのか、司は、ほっとした表情になり、優しい眼差しで愛美を見下ろす。

 だが凱と愛美は、怪訝な顔つきになるばかりだ。


「さて、と。

 こうなると……ええと、北条君、でいいかな。

 彼女について、少し話を聞かせて欲しいんだが」


「あの、すみません!

 人違いではないでしょうか」


 妙な雰囲気を感じ、愛美が二人の間に割って入る。


「人違い?」


「そうです、私の名前は千葉愛美です。

 マリア、という方ではございません」


「えっ」


 愛美に否定され、改めてスマホの写真を見る。

 それは、先日情報屋のクインビーから転送された、千葉真莉亜とされる人物の写真。

 司は、何度も何度もその写真と愛美を見比べた。


「失礼だが、ご家族かご親類に、マリアという人は?」


「私には、家族はおりません」


「……そうか。

 ちなみに、年齢を尋ねても?」


「え、あ、あの、それは……」


「おい、ちょっとアンタ。どういうことだよ」


 訝しげな目で睨む凱に、司は、全く平静さを崩さずに対応する。


「これは失礼をした。

 実は、千葉真莉亜という女性の捜索願が出ていてね。

 これが、その人の写真だ」


 そう言いながら、二人にスマホの画像を見せる。

 途端に、目が点になった。


「え? これ、愛美ちゃんの隠し撮りじゃないのか?」


「人聞きが悪いな。これは資料として提供されたものだ。

 それに、思い切りカメラ目線じゃないか」


「た、確かに、隠し撮りにしちゃ堂々としてるな」


「自分で言うのもどうかと思うんですが、本当にそっくりですね……ふやぁ」


「……」


 思わず、三人は互いの顔を見つめ合った。


「世の中には、そっくりな人間が二、三人は居るとは言うけど。

 顔がそっくりで、おまけに苗字まで同じとは、恐れ入った」


「なんだか、あまり信用してもらえてない気がするな」


「さぁ、どうかな。

 それよりも――」


 これ以上千葉真莉亜の話を続けても無駄と判断したか、司は話題を切り替える。

 その視線は、かつて屋敷があったところに向けられた。


「この場所について何か知っているようだが、教えてもらえないか?」


「いや、ちょっと待ってもらおうか、司さんとやら」


 凱は、愛美の前に立ち塞がり、司をじっと見つめる。


「その前にあんた、本当に警官なんだろうな?

 いや……本当に、本人なのか?」


「それはどういう意味だ?」


「俺達は、あんたが重要な関わりを持っている人物だと紹介されている。

 それならそれでいいが、もしもあんたがニセモノだとしたら。

 俺達はこの場で、それなりの行動を取らなきゃならなくなる」


「言ってる意味がわからないな。

 警察手帳なら見せたが」


「中身がすり替わってたら、えらいことだからな」


 少々カマをかけてみる。

 本当に重要な関わりを持つ人物だというなら、今の問いかけに何かしらのリアクションを返す筈だ。

 そう期待していると。


「ほぉ、俺がXENOだとでも?」


 その呟きに、凱と愛美は、眉をピクリと動かす。


「それなら心配ない。

 生憎証明書の類は持ってないが、私は正真正銘ただの人間だ」


 司は、少しおどけたような態度で身を翻す。

 それは明らかに、XENOの事を知っていなければ言えない台詞だ。

 凱は、そう確信した。


「君らが、“SAVE.”とかいうXENOに対抗しているグループなのだろう?」


「――どこから、その名を?」


「ああ、鷹風ナオトが置いていった、これから」


 司が取り出したのは、彼の車内にナオトがあ置いていったタブレットだった。

 その裏面には、浮き彫りになった「SAVE.」の文字がある。

 凱の表情が、露骨に曇った。


(なんつうことをしやがるんだ……)


「そ、それは、“SAVE.”の備品のタブレットですね?」


(ああ、愛美ちゃん、君まで……)


 凱は、呆れ顔で思わず顔に手を当てた。

 

「正直に言うと、私も、君達のことを本当に信じていいのか微妙な気分だ。

 だが、いつまでも疑っていても始まらん。

 取り急ぎ、君達の事はXENOではないと信用することにしよう」


 そう言いながら、不敵に微笑む。

 凱は彼の態度や口ぶりから、もしやこの男は、過去に何度もXENOに遭遇しているのではないか? という疑問を抱き始めた。


「OK、確かに、いつまでもここで議論してても始まらない。

 さて、どうしたものか」


 戸惑う二人に対して、司が話し始める。


「実は我々は、ある人物から、ここに「ある研究施設」が隠されていると聞いている。

 場所は、地下だ。

 しかし、見ての通りの有様で、地下へ入れるような所は何もない」 

  

 そう呟きながら、司は、以前桐沢が言っていたことを思い返していた。



『そうだ。

 ここよりもっと大きな洋風の屋敷があってな。

 ――井村邸と呼ばれているところだ』

 

『そこも当然擬装されているから、一目で研究所だとはわからんようになってる』



 随分と時間はかかったが、核心にかなり近付いている。

 司は、そんな実感を覚え始めていた。


「君達も、もしかしてその研究施設を探りに?」


「ああ、それは――」


 凱が答えようとした途端、愛美が、大きな声でそれを遮った。


「いいえ、違います!

 ここは、奥様のご自宅です!

 奥様と、私達五人のメイドが住んでいたんです!

 研究施設とか、そのようなものではありません!」


 珍しく、彼女の声が荒ぶる。

 その反応に、思わず凱は驚き、肩を震わせた。


「自宅? 奥様という人物の名前は?」


井村依子(いむら よりこ)様と仰います」


「井村……なるほど、そういうことか」


 何かに納得したような態度で、司は懐から煙草を取り出し、またしまう。

 行き場のなくなった手で顎を掻くと、視線を泳がせながら、話し始めた。


「自己紹介も済んだことだし、そろそろ次のフェーズへ移行しようか。

 すまないが、改めて君達に協力をお願いしたい」


「協力?」


「なんでしょうか」


「この下に潜る方法を、一緒に考えてはくれないか?」


 司は、屋敷のあった辺りを親指で指しながら、少し疲れたような声で唱えた。


「あの空き地を一通り回りながら、地面の状態を見てみたんだ。

 そうすると、土や草の状態に違和感のある部分が見えて来てね」


「違和感だって?」


「ああ、多分だが、ここが平地に見えるような偽装工作を行った様子は見て取れる。

 だとしたら、そこまでしちめんどくさい事をしてまで隠したい何かが、未だにここに眠っているという証明なんじゃないのかな」


「す、凄いです、司さん!

 そんな事までお調べになっておられたんですね?!」


 飛び跳ねん勢いで驚き、感嘆の声を上げる愛美に、司は少々引いている。

 凱は、屋敷のあったと思しき辺りまで駆け足で向かうと、地面に向かって腕時計を翳した。


「ナイトシェイド、地形分析を頼む。

 この周辺の地面や地形、あらゆるものをスキャンして、建造物の痕跡を洗い出してくれ」


 司に聞こえないような小さな声で、腕時計に呼びかける。

 しばらくすると、腕時計の表示板に文字が浮かび出た。

 ナイトシェイドからの、回答だ。


 凱は空間投影モニタでそれを閲覧すると、ニヤリと微笑んだ。


「司さん、あんたの思った通りだ。

 この周辺、新たに土が盛られてる」


「やっぱりそうか」


「この、広大な面積を、わざわざですか?」


「ああそうだ。

 それと、この位置から北に向かった辺りに、地下へ続く階段が隠されている。

 まずは、そこを目指そう」


 そう言いながら、凱は遥か彼方の林の方面を指差す。

 そこは、かつて「北棟」と呼ばれた立ち入り禁止エリアのあったところだ。


「それはありがたい情報だが、いったいどうしてそんなことを知ったんだ?」


 不思議そうな顔つきの司に、凱はフッと鼻で笑ってみせる。


「俺には、もう一人頼れる相棒がいるのさ」


「相棒?」


「ああ! ナイトシェイドさんのことですね?!」


 嬉しそうに、元気な声で発言する。

 そんな愛美の声に、凱は、またも頭を抱えた。






「ナオト、北条凱と千葉愛美、そして司十蔵の到着を確認。

 監視を続行する」



 三人の頭上、遥か100メートル程上空。

 そこには、黒いメイド服をまとった少女が、静かに滞空しながら地上を見下ろしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ