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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
139/226

●第58話 【月夜】


『どうした、桐沢に何か起きたのか?』


「どうやらそうらしいんだが――」


 司の声が、止まる。


 ホテルの室内には、誰の姿もなかった。



「これは……」


『おい、何があったんだ?!』


「桐沢が居ない。いなくなってる!」


『――わかった! すぐにホテルの客の出入りを止めろ!

 応援を向かわせる!』


「頼む!」


 島浦の迅速な判断により、司は、ホテルを一時閉鎖し人の出入りを停止させる指示を依頼する為、動き出した。

 


 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第58話 【月夜】

 






 十分程後、新宿ワシントンホテルには大勢の警察官が集まり、出入りが禁止された。

 時間的に、出入りはそこまで多くはなかったものの、やはり一階の出入り口付近は慌しい状況である事が、傍目からでも良く判る。

 そんなホテルの状況を、離れた場所から窺っている者達がいた。


「何か、大騒ぎになっていますね」


「まさか、あのホテルの中にもXENOが出たのか?」


「確か、勇次さんのところに入った通報によると、そういう事になるみたいね」


 顎に指を充てながら、アンナパラディンが呟く。

 その言葉に、アンナミスティックがパニクった。


「ええっ?! どどど、どうしよう?!

 ねぇ、パワージグラットかけた方がいい?」


「落ち着いて。

 XENOか判らない状況で使っても意味はないわ」


 パラディンの言葉に、ウィザードが付け足す。


「そうですね。

 でも、勇次さんが仰っていた通報の件は、果たして先程のXENOだけなのでしょうか」


「このままじゃ、何も先に進まないわね……どうする?」


 ワシントンホテルを見下ろすように、NSビルの屋上に佇む五人の少女達は、神妙な表情で状況を窺う。

 やがて、アンナウィザードが右手をそっと挙げた。


「あの、潜入して中の様子を確認して来るのはどうでしょうか」


「ええ?! そんな事出来るの?」


「で、でも、あんなに警察の人がいっぱいいるんだよ? 無理じゃない?」


 驚くアンナブレイザーとミスティックに対し、変わらず冷静なパラディンが尋ねる。


「なにか手段がある? ウィザード」


 心配する皆をよそに、アンナウィザードは自信たっぷりに頷く。

 するとウィザードは、自分の耳に付いているイヤリングに手をかける。

 金色の菱形が二つ重なったような形状のイヤリングは、下半分が外せるようになっているようだ。

 それを指で摘み上に翳すと、なんとそれはひとりでに浮き上がった。


「ふえっ?! な、なんですかこれ?」


 驚くアンナローグに、ウィザードは軽く微笑んで答える。


「これは“ウィザードアイ”という装備です。

 これを使えば――」


 やがてイヤリングの一部は、空中を滑るように飛行し、ホテルの方角へ飛んでいく。

 五人は、無意識にその軌跡を目で追いかけた。


「……って、これで終わり?」


 しばしの沈黙を破るように、アンナブレイザーがつまらなそうに呟く。


「はい、これで終わりです」


「なんだぁ、つまんないなあ。

 これが爆発して、ドーンと行って、その間に潜入するとかないん?」


「こここ、壊しちゃ駄目じゃないですか、ブレイザー!」


「そうだよー、それにここ、パワージグラットの世界じゃないんだからぁ」


「わーってるって、わーってる!

 でも、本当にこの後どーなんのよ?」


 ブレイザーの言葉は、ほぼ全員の総意でもある。

 そんな彼女達に、アンナウィザードは髪を手でとかしながら語る。


「ウィザードアイは、ウィザードロッドのAIによって自動操作されます。

 自己判断で映像や音声情報を記録して、それを転送してくれるのです」


「ひぇっ! 思ったよりずっと凄い装備だった!」


 驚きの声を上げるアンナブレイザーに、ウィザードは更に補足する。


「これ、今川さんが製作された装備なんですよ。

 本当に凄いですよね」


「えーっ! よっしーさんが?!」


「ミスティック、あっきーさんです!」


「あややや……また言っちゃった」


「うへ、あの人が?

 見かけによらねぇもんだなあ」


「あの人凄いのよ、本当に」


 それからしばらく、五人はその場で待機してウィザードアイからの情報を待つ。

 アンナミスティックとブレイザーは夜景を見ながらやいのやいのと楽しそうに話をしており、ウィザードはホテルをじっと見つめている。


 一人だけ空を見上げているアンナローグに、パラディンは声をかけた。


「どうしたの? ローグ」


「あ、パラディン……いえ、何でもないんです」


「それは、何かあった、という顔ね」


「あうっ」


 心中を見透かされたアンナローグは、顔を赤らめて縮こまる。

 そんな彼女の頭を優しく撫でながら、アンナパラディンは無言で微笑みかけた。


「パラディン、状況報告がありました。

 ホテル内は、どうやら警察によって閉鎖されているようです。

 何があったのかは、さすがにわかりませんが」


「ウィザードアイの映像は、地下迷宮ダンジョンにも直接送られるの?」


「はい。

 ですから、ウィザードアイをこのまま稼動させ続けて、私達は解散しても問題はありません」


「わかったわ。

 今回のXENOについて分析をするから、今日は解散しましょう」


 アンナパラディンの指示で、皆が散開するため上空に移動する。

 しかし、アンナローグだけ、まだぼんやりと新宿の街を見下ろしている。


「どうしたの? ローグ」


「あ、ええ、なんでもないんですけど」


「じゃあ、早く行きましょう」


「あっ、はい!」


 アンナローグ――愛美は、不思議な思いに捉われていた。

 XENOと闘っていた時に聞こえた、あの声。

 

(少しくぐもっていたから、自信はないけれど……

 あの声が、もし、私の思っている人のものだとしたら……)


 頭を何度か振ると、アンナローグは四人の後を追って上昇した。






 ホテル内では、重要人物が行方不明になった、との触れ込みで、いささか横暴とも云えるレベルでの警察介入調査が行われていた。

 施設内の客や店員、ホテルマンやその他関係者が複数のフロアに集められ、大勢の警察官達によって事情聴取が行われた。

 任意である為、室内から出ようとしない客についても、ホテルマン同行の下、聞き込みが実施される。


 それと同時に、桐沢の滞在した部屋の徹底調査も行われた。

 特に何者かが争ったような痕跡はなく、なんと彼の外出着や財布、手荷物などはそっくりそのまま残されており、その中には靴まで含まれていた。

 反面、室内着としてホテルが用意していたバスローブが一着紛失しており、桐沢は、室内着で寛いでいるところ忽然と姿を消した、と判断せざるを得ない状況だった。


 ホテルを閉鎖してから約一時間半、桐沢の行方はおろか、彼の姿を見た者すら現れなかった。


 匂坂と、彼を警護する事になった高原は、緊急で同ホテル内に宿泊する事になったものの、相変わらず高原は心ここにあらずといった状態で、匂坂も聊か情緒不安定なようだ。

 現場に赴いた島浦は、ここまでの報告を受け、眉間に深い皺を寄せる。


「高原の件はともかくとして――仮にも警護対象だった者を見失うとは、何たる失態だ」


「ああ、返す言葉もない」


「XENOとの入れ替わりを警戒して、ごく限られた人員しか配備出来なかったのが、裏目に出たか」


「そうだな、俺と高原だけしか、奴の傍に居られなかったというのは……うん?」


 ふと、司は違和感を覚え、視線を虚空に漂わせる。


「どうした、司?」


「あれだけ用心深い桐沢が、どうして単独で部屋を出たんだろう? と思ってな。

 しかも、ろくに服も着ない状態で」


「ふむ。誰かに呼び出されたとか?」


「いや、そうであっても俺か高原を同行させるだろう。

 しかし今回に限って、高原は別な場所に居て……いったい、何が起きたんだか」


「高原にも、詳しく事情を聞く必要がありそうだな」


「そういえば、高原はどうなった?」


「匂坂と共に既に我々と合流済みだ。

 どうしたんだろうなアイツ。やたら動揺していたが」


「さぁな……」


 窓の傍に立ち、夜空を見上げる。

 司は、一度に起きた数多くの出来事に混乱し始めた頭脳を休めようと、深呼吸を一つした。


(そういえば、あのピンク色の娘……いつの間にかいなくなっていたな。

 それに、他にも四人……いや、五人か。

 あの子達は、いったい何者なんだろうか?)


 司は、気分転換に外へ出ると、あまり人が居ない所に移動し、スマホで検索を始める。

 もしかしたら、あの娘達について何か情報があるのでは、と思ったのだ。


「おっ、思ったよりもあるな」


 適当に思いついた言葉で検索してみると、想像以上に多くの写真や情報がネット上に上がっている。

 基本的に、話題はXENO中心のものだが、その現場に現われた謎の少女グループということで、一部から注目を集めているようだ。

 司は、いずれこちら方面の情報も別途収集することを考え、ひとまず画面を閉じる。


(それにしても、桐沢はどうなったんだ?

 殺されたというのなら、何かしらの痕跡が部屋に残っているだろうに、それもないとすると。

 ――誘拐? こんな状況で? どうやって?) 


 司は、またも頭が混乱して来た。






 肌寒さで、意識が戻る。

 桐沢は、空気の冷え切った大きな暗い空間で、目が覚めた。


「ここは、どこだ?!」


 バスローブだけをまとった自分の身体を見て、状況を思い返す。

 身体が異様に冷えており、なんとか暖を取りたいが、周囲には何もない。

 しばらくして、ここは何処かの工場の中らしいことに、桐沢は気付いた。


「な、何故だ、何故俺はこんな所に居る?!

 おーい、高原ぁ! どこに行ったぁ?!」


 大声を出すが、幾重ものエコーになって返って来ることから、ここが相当広い空間だという事を察する。

 自分の身に、これまでにない異常な事態が起きている事を悟った桐沢は、慌てて立ち上がると身を隠せそうな物陰がないか、或いは外へ出られそうな出口はないかを模索する。

 しかし、何一つ明かりらしきものがないため、それすらもままならない。


(まずい、まずいぞこれは!

 奴らだ、間違いなく、奴らの手の者が動いたんだ!!) 


 背筋が凍りつくような感覚と、全身に冷水を浴びせられたような寒気が同時に襲い掛かる。

 今まで、XENOに追跡され、命を狙われて来たどの時よりも、この状況に感じる危険度は高い。

 桐沢は、出来るだけ冷静であるように自身に言い聞かせはするものの、やはり生命の危機を目の前にしている事による膨大な不安を拭うことは出来なかった。


 しかし、いつしか暗闇に目が慣れてくると、工場内に置かれている機械や床の形状、窓の位置などがおぼろに判って来る。

 桐沢は、ひとまず外に出て更なる状況判断を行おうと、裸足のまま駆け出した。

 途中、小石や何かの破片を踏みつけ、痛みが走ったが、それどころではない。

 幸い、数分程度迷うだけで、桐沢は建物の外に出ることが出来た。


 真っ青な光が、敷地内を照らしている。

 それはまるで淡いライトを点けているかのようで、一瞬、雪が降り積もっているのかと誤認するほど、周囲は蒼白の輝きに浮かび上がっていた。

 それが、冴え渡る程に美しく輝く月によるものだと、咄嗟には気付けない。


 そして、そんな月明かりを背に受け、建物やガードの上に佇む幾人かの影があった。


 桐沢の、全身の血が凍る。

 影の数は、八つ――


「ひ、ひぃっ?!」


 桐沢は、思わずその場にへたり込んでしまった。


「初めまして、桐沢博士」


 突然、背後から声をかけられ、振り返る。

 そこには、場違いとも思える見事なスーツを着こなし、眼鏡をかけてハイヒールを履いている女性が佇んでいた。

 顔に、見覚えはない。


「だ、だ、誰だ?! 何故、俺を知っている?!」


「愚問ですわ。

 あなたがここに連れて来られた以上、関係者各位は全てあなたの事を存じています」


「な、なんだと?! それはいったい――」


「吉祥寺博士が最初に研究していた、“人造育成生体”のプラント開発。

 あなたが居なければ、XENOVIAの初期実験と試験体の存続は、適わなかったことでしょう。

 吉祥寺博士も、その点は高く評価をしておられます」


「ふっ、“その点は”か。

 いかにもアイツらしい、遠回しなイヤミだな!」


 無様に身悶えても仕方ないと観念したのか、桐沢は立ち上がると、眼鏡の女性に向き直る。

 襟をぐっと引くと、震える脚に力を込め、ありったけの虚勢を張ることにした。

 そんな彼の姿を、八つの影は微動だにせずに見つめている。


「――そのプラントを、あなたは作り変えた。

 しかも、吉祥寺博士に無断で。

 そうですね?」


「いや? そんな話は知らんなあ」


「この期に及んでとぼけても……」


「いや、吉祥寺は誤解をしているのだ。

 俺は、ヤツが生み出した人造育成生体のプラントなんぞには興味はない。

 俺が目指したのは、あんなクローン人間の出来損ないを量産するようなシロモノではない。

 ――お前達の母体となる、XENOそのものを生み出すプラントだ!」


 精一杯の気合を込めて、眼鏡の女性に叩き付けるように言い放つ。

 その言葉に、女性は僅かに表情を歪めた。


「XENOを――生み出す、ですって?」


「ははは、そうだ、その通りだ。

 俺と吉祥寺は、それについて意見が割れ、袂を分かった。

 俺には絶対の自信があった。

 しかし、XENO自体の可能性とやらにしか目が向いていなかったあの老害には、XENOの更なる発展性のきっかけを掴めていなかったんだ!」


「――その、証拠は?」


「お前達が回収したんだろう? あの、冷凍カプセルを。

 あそこに入っていたのが、そのXENOだ!」


「意味が、良く判らないのですが。

 それはどういう――」


 動揺する女性に追撃を食らわさんといった勢いで、桐沢は、ニタリと笑いながら大きな声で吼えた。


「そのXENOは、俺が作り出した完全新規体のXENOだ!

 ハハハハ! そうだ、ヤツが作り出せなかったXENOの幼体は、俺の手で量産化に成功したんだ!

 しかも、あんな小さな隠れ施設でな!

 どうだ! 俺の偉大さが理解出来たか! XENOVIAども!!

 俺はいわば、お前達の生みの親だ! 母であるとも云えるだろう!」


 両腕を広げ、邪悪な笑みを浮かべつつ、堂々と告げる。

 八体の影も、微妙に蠢いているように見える。

 しかし、眼鏡の女性だけは、表情を変えずに桐沢を睨みつけていた。


「――さすがは、桐沢博士。

 吉祥寺博士の読んだ通り、期待以上の成果を出しておられたようで」


「……読んだ、通り、だと?」


 桐沢の笑いが、止まる。


「そうです。

 吉祥寺博士が、あなたを追放した後、あえて放置していたのはそのためです。

 反骨精神の塊のようなあなたが、離反という形の末に生み出すのは、期待を超えるもの。

 吉祥寺博士がどうしても冒せなかったタブーも、あなたなら越えられる。

 その結果が、XENOのプラント――そういうことですね?」


「……馬鹿な! き、吉祥寺は、そこまで読んでいたというのか?!」


 桐沢の額に、冷や汗がにじむ。

 やがて、微かにどこからか女性の笑い声のようなものが聞こえてくる。

 それが、八体の影によるものだと気付いたのは、その直後だった。


 影が、一斉に飛び降り、着地する。

 眼鏡の女性の背後に整列した、八人のシルエット。

 その背後には、紫色のオーラのようなものが見えた気がした。


「そして、そのXENOプラントも、最初の実働試験後に死に絶えてしまったこともご存知です」


「ぐぅっ?!」


「――ですが、あなたは隠してますね。

 XENOプラントを再生する方法を。

 それが分かったから、量産性に乏しい実験体を、意図的に処分した。

 そうでしょう?」


「そ、そこまで分かっているなら、いったい俺に何を求めているんだ?!」


「それは――」

「あなたの“記憶”と“知識”です。

 桐沢大」


 眼鏡の女性の言葉を遮るように、八体の影の一人が前に出る。

 それは、黒いドレスをまとった女性だった。

 ハイヒールの音をカツカツと鳴らし、二人の間に立ち入って来る。

 暗闇でもはっきりとわかる程に、その目は爛々と輝き、爬虫類を思わせる縦長の瞳孔が、じっと見つめる。


「俺の……どういうことだ?」


「簡単なお話です。

 あなたの脳が蓄えている情報を、私達がそのまま戴くのです」


「な……!!」


「もう、意味はお分かりですよね?

 あなたを食べてしまえば、あなたの脳の記憶は全て私達で共有出来ますから」


「あ……ああ!!」


 黒いドレスの女性が、そっと右腕を伸ばす。

 すると、それは突如ぶるんと震え、肥大化し、極端な長さに伸びた。

 先端に鋭利な鍼を携えた、竜の尾のようなものに変型した腕は、するすると桐沢に迫っていく。

 だが桐沢は、何故か全く逃げることが出来なくなっていた。


「あ、脚が……なんだ?! 動かない!?」


「理沙?」


「いい加減、とっとと済ませましょうよ。面倒臭い」


「……」


 残った六体の影の一体が、悪態をつくように呟く。

 

「さようなら、桐沢博士。

 あなたの研究成果は、無駄にはいたしません」


「う、う、うわああぁぁぁぁぁ!!!」


 月夜の工場廃墟内に、男の無様な悲鳴が木霊する。

 それをあざ笑うかのような、複数の女性の声。

 大蛇のような動きで、目の前に迫る“毒針の尾”に、桐沢は完全に全てを諦めた。



 その尾が、爆発音を伴って粉々に砕け散ったのは、次の瞬間だった。


「な……?!」


「うわっ! げほっ、げほっ!!」


 濛々と立ち上る煙に咽びながらも、吹き飛ばされた桐沢は、腕の力でなんとか姿勢を戻す。


 彼が先ほどまで立っていた場所には、千切れて崩れていく竜の尾と、白銀の輝きを放つ長い何かを手に持った、長身の男性の影が佇んでいた。


 丈の長い黒いコート、銀色の得物、足首に機械のようなものを付けたブーツ、そして何もかもを射抜くような鋭い目。

 全く見覚えのない、謎の存在が、まるで桐沢を護るかのように、立ち塞がっている。


 そして、そこに更に、もう一体の影が天空より舞い降りた。

 黒いメイド服をまとった、一人の少女。


 背中合わせに立つ二人は、手に持った武器を構え、眼鏡の女性と八体の影を睨み付けた。



「誰? 何者なの?」


「貴様達に名乗るような名は、持ち合わせていない」 


 静かで、それでいてどこか優しさを感じさせる男の声。

 桐沢には、全く覚えがないものだった。


「アンナチェイサー……どうしてここが?!」


 右腕を破壊された黒いドレスの女性が、破壊された肩を押さえながら尋ねる。

 黒いメイド服の少女――アンナチェイサーは、無言で右手の指をくいっと曲げてみせる。


「ブラックブレード」


「ぬぐっ?! ――ぐ、ぐおぅっ?!」


 と突然、黒いドレスの女性が苦しみ始めた。

 腹を押さえて前のめりになると、彼女の身体を突き破り、何か金属片のようなものが飛び出す。

 くるくると回転しながら飛来するそれを右手で掴むと、それは突如変型し、漆黒の光を放つ刀に変型した。


「なるほど……泳がせていた、ということね。

 やるわね、贋作の分際で!」

 

 眼鏡の女性の顔が、憤怒に歪む。

 それと同時に、他の七体の影が、構えを取り始めた。


「な、何が起きようとしているんだ、いったい?!」


 桐沢の理解を完全に超越した状況に、彼はただ困惑するしかなかった。


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