●第56話 【激戦】
司は、目の前の光景に思わず目を疑った。
否、司だけではなく、匂坂も同様だろう。
誰も居ない、不思議な程に人も車も通らなくなった、新宿・公園通り。
その路上に放り出された匂坂は、四つんばいの姿勢のまま、あんぐり口を開けている。
そしてすぐ脇の都庁敷地内に降ろされた司は、そんな匂坂の様子も含め、あまりにも非現実的過ぎる様子に目を剥いていた。
獅子の身体と蝙蝠の羽根、蠍の尾を持つ怪物と、その傍に立っている女性を取り囲むように、天空から五つの光が降臨する。
青、緑、橙、赤、そして桃色。
真っ直ぐに屹立する光の柱の中から現れたのは、五人の――少女。
それぞれ、光の色に合った髪の色、コスチュームをまとっており、全身がほのかに光っているようにも見える。
彼女達は、目の前に巨大なバケモノが居るにも関わらず身じろぎ一つせず、それどころか真っ向から睨みつけているようだ。
そしてその中には、先程司を助けたあの少女の姿もある。
「あんた、早くあっちへ!」
「は、はい!」
髪の短い赤い服の少女に促され、匂坂は慌てて司の居る方へ走り出す。
それに反応して身構えたバケモノに、赤い少女は拳を向けて立ちはだかった。
「おっと、行かせねぇよ」
カシャッ、という音と共に、少女の拳に真っ赤なナックルガードが装着される。
「パワージグラットっ!」
突然、緑色の髪の少女が、左手をかざして叫ぶ。
次の瞬間、彼女達の周囲が一瞬青白い光に包まれたかと思うと、まるで大気に溶け込むように消滅した。
五人の少女だけではなく、あのバケモノと女性も含めてだ。
あっという間に、公園通りには静寂が戻った。
「消えた……だと?
何が起きたんだ?」
「さ、さぁ……」
あのバケモノに押し潰された車の残骸が、道路の真ん中に放置されている。
司は、ひとまずこれの処置をしなければと思いスマホを取り出すが、そこでようやく、周囲の違和感に気付いた。
「なんで、こんなに車が来ないんだ?」
「え?」
「さっきから、妙に静かだなと思ったんですよ。
この時間なら、ここは車がかなり多い筈ですし、人も結構通ります。
なのに、どうして今日に限って、こんなに?」
「言われてみれば、不自然ですね」
まるで深夜二時や三時頃のような、副都心部に訪れた不自然な静寂。
司は、それでもとスマホで島浦に連絡を取ろうとするが、何故か電話が通じない。
否、それどころか電波が発信すらされていないようで、アンテナ表示が「圏外」になっている。
「どういうことだ? これは」
「わ、私の携帯もです!」
「妨害電波か何か出てるのか?!」
周囲を見回すが、特に怪しげなものはない。
そう思った司の耳に、突如、耳障りな“羽ばたき音”が聞こえて来た。
「な……?!」
公園通りの上を跨ぐようにかかる、南通りの陸橋。
その真上に、何か巨大なものが浮いている。
それは、とてつもなく巨大な「翼」を羽ばたかせながら、こちらを凝視している巨大な影だった。
街灯やビルの光を反射しているのか、夜の空にありながら、その目は煌々と輝いている。
「これは……まさか、栃木県警の……?!」
影は、ゆっくりと降下を始める。
街灯の光で、その姿がようやく明確化する。
全身緑がかった灰色の鱗で覆われ、金属の鱗をまとっているような姿、そして身も凍るような恐ろしい形相。
横に裂けた大きな口を開き、無数の牙を見せ付けながら、その竜は、まるで確かめるように二人を凝視した。
自分の脚が普通に動くようになっている事を確認すると、司は叫んだ。
「逃げろ!」
咄嗟に、匂坂の腕を掴んで走り出す。
すぐ脇の都庁の敷地に入れば、身体が大きい竜は入り込めないと踏んだのだ。
歩道の脇に立つ無数の街路樹や甲州街道・首都高の入り口を示す看板等が邪魔で、竜は確かに追って来れない。
司は、そのまま都庁の敷地を突っ切り、都庁の建物沿いの細い通路を選んで逃げようと考えた。
だが――
「ひっ?!」
突然、匂坂が足を止める。
見ると、前方十メートル辺りの位置に、黒いドレスのようなものを着た女性が、唐突に姿を現した。
匂坂の怯え方から、その素性は容易に想像がつく。
司は、迷うことなく銃を構えた。
「申し訳ないな、お嬢さん。
今は取り込み中でね、何も言わずにそこをどいていただけないかな」
銃口を向けながらも、穏やかな口調で告げる。
だが、女性はそんな司に対し、微笑みを返した。
「どうぞ」
「ん?」
「どうぞ、撃ってください」
「その前に伺いたいが、よろしいかな」
「ええ、なんでしょう?」
「先程、お空の彼方よりお越しになられたのは――」
「はい、この私です」
その言葉を聞いた瞬間、躊躇わずに二発撃つ。
弾丸は、先日宮藤を撃った時のもので、当たれば、XENOであれ一時的に大ダメージを与えられる筈だ。
だが――女性は、微動だにしていない。
それどころか、微笑みすらも途切れない。
すっ、と右手を差し出すと、パラパラと何かが落ちる。
それが今撃った弾丸だとわかった瞬間、司は、今度は頭に向かって二発撃つ。
しかし――彼女の微笑みは止まない。
脇で、匂坂の短い悲鳴が聞こえた。
美神戦隊アンナセイヴァー
第56話 【激戦】
ここは、異世界。
本当に誰も居なくなった新宿副都心に降り立ったアンナセイヴァー五人と、二体のXENOが対峙する。
バケモノの傍に立つ女性は、その姿こそ普通の人間だが、明らかにXENOであろう。
サングラスに青いスカーフを巻いた細身の女性に、アンナパラディンが呼びかける。
「あなたも、XENOの一人なのね」
「フン、馴れ馴れしく口を利いて欲しくないわね」
「それは失礼。
でも大事なことなので、確認させて欲しいのよ」
「あぁ、そう。
だったら、判りやすくしてあげるわ」
そう言うと、女性は突如身体をぶるぶると震わせ始める。
あまりにも異常なその振動の末、彼女の身体は突然背中から肥大化し、長い尾のようなものが路面を叩いた。
続けて、鋭い槍のような鰭、太い四肢が生え始め、身体全体がどんどん膨らみ出す。
最後に、醜悪な蜥蜴の頭がボコン、と飛び出し、女性はあたかも「オオトカゲ」といった風情の姿に変貌した。
だが、その大きさが尋常ではない。
ライオンボディのバケモノの大きさは、推定約五メートル。
対してこの巨大トカゲは、尾を含めると軽く十メートルは行きそうだ。
頭の大きさに対して異常に巨大な眼をクワッと開いたかと思うと、巨大トカゲはアンナパラディンに突進して来た。
「くっ!」
頭からの突進、推定速度80キロの衝撃を、アンナパラディンは両手で受け止める。
ずりずりと、数メートル引きずられるが、何とか動きを止めた。
だがその間隙を突くように、今まで静聴していたライオン型のバケモノが、唸りを上げて襲い掛かった。
目標は、アンナローグ。
「たぁっ! ――ショートソード!」
左上腕のリングを取り外すと、アンナローグはそれを右手に翳す。
閃光を放ち変型したリングは、刀身約80センチほどの片手用の剣に変形した。
徐にそれを構えると、落下の勢いを活かしてバケモノに斬りつけた。
だが、信じられないような高速で振り回された尾が、剣を弾く。
鋼鉄の塊に斬りつけたような衝撃を受け、アンナローグは一瞬怯んだ。
「か、硬い! 素早い!!」
バケモノの蠍型の尾には、鋭い毒針の他に、無数の細かな棘が生えている。
そのうちの一部が、まるでミサイルのように射出され、アンナローグに襲い掛かった。
「きゃあっ?!」
「てぇいっ!! ――タイプ2・スティック!!」
そこに、アンナミスティックが飛び込む。
全長ニメートル程の棍を回転させ、棘を全て弾き飛ばす。
そして一切の隙を見せず、そのままバケモノの顔面に攻撃を加えた。
「たぁっ!」
グウォッ?!
棍の先端がバケモノの右目を貫き、一瞬怯む。
その間に、アンナミスティックはアンナローグを抱え、一気に飛び上がった。
「ローグ、大丈夫?」
「は、はい!
ありがとうございます、ミスティック!」
「続けていくよー!」
「はいっ!」
一旦距離を取って、再びバケモノと対峙する。
既に眼の負傷は治癒しているようで、改めて二人に向かって威嚇してくる。
そこに、赤色の光が飛び込んで来た。
「よっとぉ! おいらも入れてー!」
「ブレイザー! ええ、どうぞ!」
「三人で、行こうねっ」
アンナブレイザーの両拳から、炎が吹き上がる。
その様子に興奮したのか、バケモノは天を仰ぎ、おぞましい大声で啼いた。
一方、巨大トカゲと対峙しているアンナパラディンの許に、青色の光が接近した。
「加勢いたします!」
「あリがとう、ウィザード!」
ウィザードロッドを携え、科学魔法の詠唱段階に入るアンナウィザードと、ホイールブレードを構えて柄の高速ホイールを猛回転させるアンナパラディン。
巨大トカゲの目がカッと開かれた瞬間、まるでゴングでも鳴ったかのように、三者は同時に動き出した。
「マジカルショット!」
「パワースライドっ!」
科学魔法と、横殴りの剣戟が、同時に襲い掛かる。
だが巨大トカゲは、その体躯からはとても信じられないような高速で動き、一瞬視界から消えた。
「な?!」
虚空を斬ったホイールブレードの軌跡を縫うように、マジカルショットが上空へ向かう。
見ると、高速道路への誘導看板を掲げる為のガード上に飛び移っていた。
マジカルショットが追尾し、命中する。
破壊の閃光と爆発音に包まれた巨大トカゲは、全く怯むことはなく、それどころか大口を開けて威嚇した。
だが、次の瞬間――
「うっ?!」
「きゃあっ?!」
巨大トカゲは、なんと口から火炎を吐き出した。
その炎の量は凄まじく、片側四斜線ある路面を対向車線側まで含めて包み込み、あっという間に街路樹や草木を炎上させた。
その攻撃に怯み撤退した二人を嘲るように路上に降り立つと、巨大トカゲは更なる変型を開始した。
両脇腹からは、更に脚が生えてくる。
加えて、頭上にはとさかのような、王冠のような不思議な部位が伸びてくる。
計八本の脚になった巨大トカゲは、先程を上回る高速移動で、一気にアンナウィザード、パラディン達との距離を詰めて来た。
「は、早い!」
「え、詠唱が、間に合わない!!」
想定外の瞬発力に圧倒され、二人は突進をモロに食らって、遥か彼方まで吹き飛ばされた。
「「 きゃあっ!! 」」
アンナウィザードは、咄嗟に路面に手を付くが、勢いを止めるには至らなかった。
そこに追い討ちをかけようと、巨大トカゲは更に距離を詰めようとする。
だがその瞬間、路面の一部が、急に光を放ち始めた。
それは、先程アンナウィザードが手を付いた場所。
“Execute science magic number M-014 "demonish-summoner" from UNIT-LIBRARY.”
「デーモニッシュ・サモナー!!」
巨大トカゲの足元に、大きな光の魔法陣が一瞬で形成される。
次の瞬間、そこから、猛烈な光のエネルギーが吹き上がった。
それはまるで間欠泉のようであり、高さ約十五メートル程にまで達する。
ギャアァァァァァ!!
激しい衝撃音の連発に、光の中の巨大トカゲは悲鳴を上げた。
光の間欠泉はおおよそ三十秒程の間噴き出し続けた。
続いて、彼方から低空ホバーダッシュを掛けながら、アンナパラディンが突進して来る。
その両手には、激しい雷光をまとったホイールブレードが握られている。
「――ライトニングソード!!」
バチッ! という激しいスパーク音を響かせながら、超高速で接近する雷の大剣が、黒こげになった巨大トカゲのボディに炸裂する。
アンナパラディンは、そのまままっすぐ北に向かって突き進み、ふれあい通り交差点の辺りまで巨大トカゲを引きずった。
青白い電光が、道路に沿って一直線に駆け抜けていく。
だが――
『なかなかやるじゃない、アンタ』
「えっ?!」
突如、女性の声が聞こえてくる。
一瞬意識が逸れた瞬間を突き、巨大トカゲは身をよじって、巨大な尾でアンナパラディンを激しく路面に叩き付けた。
ボゴッ! という鈍い音と共に、交差点のアスファルトが陥没する。
そこに、畳み掛けるように片側四本足で連続ストンピングをかける。
ガコン、ガコン、と、まるでボーリング機のような打撃音を立てながら、巨大トカゲはアンナパラディンに連続攻撃を掛け続けた。
「パラディン!!」
彼方から、炎の塊が複数飛来する。
それは連続で巨大トカゲの背中に命中し、怯ませた。
アンナウィザードのファイヤーボールだ。
ようやく駆けつけたアンナウィザードは、巨大トカゲの受けた傷がとっくに治癒しており、殆どダメージを受けていない状態であることに気付き、愕然とした。
「そんな……」
『私達を、普通のXENOと一緒に考えるからよ』
「えっ?! し、喋っ……」
カァッ!!
巨大トカゲは、大口を開くと、アンナウィザードに火炎を吐き掛けた。
「ファイヤー・パァ――ンチ!!」
「てやぁっ!!」
「たぁっ!!」
炎の拳と棍、そして小剣の刃が、連続でバケモノを攻撃する。
しかし、鬣の一部こそ焦がしたものの、彼女達の攻撃は殆ど通用していない。
否、通じても即座に回復してしまうので、決め手にならないのだ。
連続攻撃に疲れ、一瞬の隙を見せたその時、アンナローグに向かって、バケモノは棘ミサイルを発射した。
「きゃぁっ!」
「ま、間に合わないっ!!」
「ローグっ!!」
しかし、アンナローグの頭から伸びている四本のリボンが自動的に動き、彼女の前に重なってシールドを形成する。
棘ミサイルは、エンジェルライナーを刺し貫きはしたものの、アンナローグの身体にまでは届かなかった。
バケモノは、攻撃が防がれたと見るや背中の羽根で飛び上がり、そこから地上に向けて数え切れない程の棘ミサイルを射出してきた。
その範囲には、三人全員が含まれる。
「な?!」
「ふ、防ぎ切れません!」
「もぉっ!!」
“Execute science magic number C-011 "Photon-Defenser" from UNIT-LIBRARY.”
「フォトン・ディフェンサー!!」
アンナミスティックが咄嗟に放った科学魔法により、三人は半球状の光の壁に包まれた。
無数の棘ミサイルが、壁に激突して周囲に散らばっていく。
一本たりとも光の壁は貫通出来ず防げたが、今度は、バケモノ自体が上空からそのままストンピングをかけてきた。
ドズン、という鈍い衝撃音が、壁の内部に木霊する。
「な、なんて奴だ! このまま押し潰すってか?!」
「だだだ、大丈夫だよ! フォトンディフェンサーは、よほどの事がない限り割れないから!」
「で、でも、このままじゃ、私達何も反撃出来ないのでは?!」
「へ?」
「だってホラ、これ、なんかカプセルみたいなもんじゃん?
外出なきゃ攻撃できねーし!」
「あーっ! そっかあ!
これ普通の人を被害に巻き込まないようにする科学魔法なんだ!」
「惜しくも適材適所ならず!」
「わぁ~ん、どどど、ど~しよう!」
戸惑うアンナミスティックを見たアンナローグの頭上に、電球が浮かんでパリンと割れた。
「ミスティック!
以前、リザードマン戦で使用された、めちゃくちゃ速くなる科学魔法ありましたよね?」
「アクセレートのこと?」
「多分それです!
それ、全員にかけられますか?」
「出来るけど、その分効果時間が減っちゃうよ?」
「いいさ、それでコイツを解除した瞬間、三人で飛び出して反撃だ!」
「そうです! それで参りましょう!」
「わかった! じゃあ行くよっ!」
“Execute science magic number C-016 "Accelerate" from UNIT-LIBRARY.”
「アクセレートっ!!」
科学魔法の詠唱が始まると同時に、三人の袖とエプロン、スカートがたなびき始める。
身体の色が明るくなり、瞳の色が黄金色に変化した。
“Confirmed the execution instruction of ACCELERATE.
From this, switch to HIGH-SPEED MODE.
Changed the arithmetic processing function to 100 multiply.
Connect the adapter for heavy acceleration to GRACE-RING.
Forced cooling and forced exhaust heat of each joint are performed in parallel.”
ドン! という加速音が鳴ったと同時に、フォトンディフェンサーが解除される。
足元が不安定になり、よろめいたバケモノの隙を突くように、赤と緑と桃色の光が上空へ飛んだ。
「ファイヤァ――キィィック!!」
「「 アンナキィィック!! 」」
足首から爆炎を噴き出し、巨大な炎の槍と化したアンナブレイザーと、光の槍のような緑とピンクの閃光キックが、バケモノに襲い掛かる。
だが、キックが正に命中するというその瞬間、なんとバケモノは、その場から忽然を姿を消してしまった。
「えっ?!」
「ちょ、ちょっ!」
「と、止まりませ~ん!!」
「「「 きゃあ~~!! 」」」
三人のキックは、凄まじい爆発音と地震のような振動を伴い、道路のど真ん中にとてつもなく巨大な陥没穴を生み出してしまった。
と同時に、科学魔法の効果が切れる。
コスチュームのたなびきが止まり、瞳の色もエメラルドに戻っていく。
「あ、あたた……ひぇっ?! どどど、道路がこんなに?!」
「な、なんかアイツ、いつも闘っているXENOと全然違くね?」
「つ、強いよ! 比べ物にならないくらい強いよ!」
「む、むしろ、私達が翻弄されているみたいです……」
穴の中から這い出してきた三人は、周囲を見回しながら感想を述べる。
バケモノの姿はどこにもなかったが、遥か遠くで、激しい激突音が響いているのに気付く。
『期待外れもいいとこだね、愛美』
「えっ?」
突如、何者かの声が、アンナローグの耳に届く。
それは、どこか聞き覚えのある――
「向こうがやばそうだ!
あたし、ちょっと行って来る!」
「ああっ、ブレイザー!」
ミスティックの制止も聞かず、アンナブレイザーはパラディンとウィザードの居る方向へ飛んでいく。
その場に取り残された二人は、背中合わせになって、周囲に気を配った。
「まだ、いるよね。
パワージグラットの効果時間まだあるし」
「え、ええ……」
「どうしたの? ローグ。
なんか元気ないよ? どこか痛い?」
「い、いえ! そうじゃないんですが……」
アンナローグは、先程聞こえた声が誰のもので、何処から聞こえたものなのか、頭の中で必死で考えていた。
頭に向けて発射された弾丸は、女性の頭の上半分を撃ち砕いた。
鼻先と口だけが残った状態でも、女性は笑っている。
やがて、断面から不気味な組織が湧き出てきて、瞬時に頭の形を整える。
ものの十数秒程度で、女性の頭は、まるで何事もなかったかのように元通りに復元した。
「さすがはXENO、凄い回復力だな」
「生憎、私はXENOとは違います」
「違う? どういうことですかな」
「まあそれは、いずれ。
――それよりも、そちらの殿方を、こちらにお譲り戴きたく」
そういうと、女性は右手を匂坂の方に伸ばす。
途端に、腕が竜の尾のように変型し、離れた位置に居る匂坂の身体を絡め取った。
「うごぉっ?!」
「匂坂さん!!」
司は、すかさず銃を連射するが、もう弾は女性の身体に当たりもしない。
全て左手で弾かれ、一部は兆弾して何処かの窓を割ったようだ。
女性の眼の色が紅く輝き、司を睨みつけた。
「この男を殺した後、あなたと、後ろでこっちを見ている方も、皆まとめて……頂きますね」
「後ろ?!」
反射的に振り返った司は、思わず目を疑った。
そこには、ここに居るはずのない者――高原の姿があった。
驚愕の表情で、こちらを見つめて硬直している。
さすがの司も、これには困惑するしかなかった。
「高原ぁ! どうしてここに?!」
「ぐ、ぐえぇ……」
ギリギリ、と締め付ける音が鳴り、匂坂の呼吸が弱まる。
司は、意を決して女性に飛びかかろうと、ダッシュをかける為に姿勢を落とした。
ボンッ!!
突然、女性の腕――尾が、爆裂した。
「くっ?!」
「な、なんだ?!」
千切れた尾はみるみる崩壊し、匂坂も解放される。
ゲホゲホ、と咳をしながら倒れ込む匂坂を庇う司は、自分達と女性の間に、もう一人誰かが立っていることに気付いた。
そこには一人の、見たこともない少女がいる。
紫色のセミロングの髪、黒一色のコスチューム、黒いグローブとブーツ。
そして、ところどころに輝く金色のライン。
先程見た五人の少女達と同じような姿だが、何処か異質な印象を与える。
機械の起動音を鳴らしながら、黒い少女は、真っ向から女性を睨みつけていた。




