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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第4章 XENO編
132/226

●第51話 【情報】

 


 その日の晩。

 司は新宿に戻り、先日とは違うホテルに桐沢を宿泊させた。

 ホテル側には、桐沢を訪ねてくる人間は自分以外全て断るように、またルームサービスは決まった人物だけに対応してもらうよう、依頼を行った。

 また、引き続き高原を警護役として同室にて宿泊させる。

 桐沢は、到着するなり高級なステーキとワインを注文し、色々文句を言いながらもそれを美味そうに平らげた。

 高原は、どん兵衛一杯だけだったようだが。

 

 そして司は、署に戻る前に、とある場所へと車を走らせていた。

 行き先は、三軒茶屋方面。






 美神戦隊アンナセイヴァー


 第51話 【情報】







 ここは、ラーメン屋激戦区環七通りに面した店「大黒屋」。

 とんこつベースの濃厚スープと、本来それとは不釣合いとされる太麺をあえて組み合わせ、その上しつこくなくさっぱりとした仕上げのラーメンが好評で、もう三年半以上注目を集めている名店だ。

 更には、“中華を基本とした料理”もオプションで注文出来る為、男客が中心というイメージが強い環七激戦区にありながらも、女性客やリピーターも多い。


 もう深夜に差しかかろうという時刻、司は、この店にやって来た。

 疲れた店員の挨拶の声を聞きながら、カウンターの端に腰掛ける。

 客は、自分以外にはもう誰も居ない。


「あら、随分とお久しぶりじゃないの」


 店長の鴇小路瞳ときのこうじ あきらが、お冷の入ったコップを置きながら声をかける。

 司は、無言で右手を軽く挙げた。


「ご注文は?

 サブメニューは、いくつか終わっちゃったけど」


「ああ、餃子とビールでいいや」


「あんた、車でしょうが」


「おっと、今日は運転手がいないんだったな。

 じゃあ、餃子と極厚チャーシュー麺」


「はーい」


 この店の新作メニューで、とろとろに煮込まれ、厚みが約2.5センチもある直径約12センチ級の超巨大チャーシュー。

 これが二枚も乗っている上に、オプションで更に肉を追加出来るという、極悪級の超カロリー且つ魅力的な重厚ラーメン。

 しばらくの後、運ばれて来たこのラーメンをどこかうっとりした顔で見つめながら、司は箸を取った。


 美味そうにチャーシューを一口齧ると、恍惚の表情を浮かべる。


「おお……これだ、これこれ。

 たまらんなあ~」


「あんた大丈夫なの?

 その年で、そんなこってりなの食べちゃってさ」


「店員が言う台詞じゃないな、それは」


「ま~確かにね。

 はいよ、餃子お待ち」


「ん? なんだか数が多くないか?」


「あたしの驕りよ。

 ど~せあんた、しばらくろくなもん食べてなかったんでしょ?

 顔に出てるわ」


「鋭いな、相変わらず」


「こういう仕事をね、長年してると、な~んとなくそういうのがわかっちゃうのよ」


「とんだ職業病だな」


 あっという間にチャーシューを一枚平らげ、餃子を頬張ると、司は今まで見せた事のないような喜びの顔になる。

 それを横目に見ながら、瞳は、帰宅準備を始めるバイト店員達に手を振った。


「これからしばらくはワンオペなのよね~」


「そいつは大変だな」


「まあ、この時間はエアポケット状態だからね。

 次のバイトが来るのがあと二時間後だし。

 人件費の節約も兼ねてるのよ」


「なるほど、大変なんだなラーメン屋も」


 あっという間に麺を平らげた司は、替え玉を追加注文する。

 少し呆れ顔をそれを受けると、瞳は、溜息交じりで司に離しかけた。


「で、今日は何?」


「ああ、力を貸してくれ」


「内容と報酬によるわよ、それは」


「そうだな、ちょっと厄介な仕事だ」


 餃子を食べ尽くした司は、中休みと言わんがばかりに顔を上げ、息を吐く。

 替え玉を載せた皿を差し出しながら、瞳は、鋭い目つきで彼を見つめて来た。


「説明してくれる?」


「ああ、吉祥寺龍利きちじょうじ たつとしという、生物学の研究者を知っているか?」


「生憎存じ上げないわね、そんな偉そうな人は」


「その人物が立ち上げた、吉祥寺研究所という施設があるようなんだが。

 そこに勤務していた経験のある人物を、探して欲しい」


「それだけ聞くと、随分簡単そうに感じるけど?」


「下手すれば、命に関わる」


「……マジで?」


「マジだ」


 替え玉を即食べ尽くし、更にお代わりを要求する。


「人探しで命に関わるなんて、そのお捜しの人物は、どんだけ危険人物なのよ?」


「いや、そういうわけではないな。

 その人物を追っている連中が居て、コイツらがなかなか危険なんだ」


「いったいどんな連中?

 スパイとか、殺し屋? 運び屋とか、反社の……とか」


「そのどれでもない。

 この先の説明は、宛を見繕ってからだ」


「――わかったわ。

 とりあえずいくつか宛を辿ってみるけど」


 そう言うと、瞳は一度司に渡した会計明細を取り上げ、ボールペンで何やら追記した。


「こりゃあまた、随分高くついたなこのラーメン」


「何言ってんの。

 あたしだからその値段で済むのよ。他の情報屋だったら、もっと足元見られるわよ」


「はあ、こんなとこまで値上げか。

 物価高はいつになったら治まるのかな」


「さぁね。

 まあ、これ以上は請求されないように頑張ってあげるから、感謝しなさい」


「へいへい」


 運ばれて来た替え玉の皿を受け取ると、司は、先程よりも時間をかけ、じっくり味わうように食べ始めた。




「――明日の午後四時、新宿中央公園のナイアガラ。

 大丈夫?」


「随分早く話が決まったな」


「あんたからまず話を聞きたいんじゃないの?

 知らないけどさ」


「わかった、了承しておいてくれ。

 助かるよ。

 相手の特徴は?」


「いつものように、向こうから声を掛けてくるんじゃないかしらね」


「そんなもんか」


 司は、本来の金額の二十倍以上の金額を支払うと、小声でご馳走様と呟き、店を出る。

 その後姿を見守りながら、瞳は、そっとスマホを取り上げた。


「まぁた、危ない橋渡ろうとしてんだから……」


 呆れた溜息を吐きながら、スマホを操作し、誰かに連絡を繋いだ。

 





 新宿署に戻ると、もう遅い時間だというのに、刑事部屋では島浦が待ち構えていた。

 司の顔を見るなり、顔をしかめながら近寄ってくる。


「遅いぞ、司!」


「申し訳ありません」


「……大黒屋か」


「良く判りましたね」


「その、ラーメンの匂いですぐわかる」


「さすがは、鋭い推理で」


「新作メニュー、なんかあったか?」


「ああ、極チャーシュー麺、ありゃあオススメだ。かなりのな」


「お、おお! わかった情報サンキューな……って、違うそうじゃない!」


「課長はノリがよろしくて、本当に草ですな」


「やかましい! こっちへ来い!」


 怒ってるのかそうでないのか良く判らない態度で、島浦は自室に司を呼び寄せる。

 机に座ると、重い溜息を吐いて、事の報告を求めた。




 司による説明の後、もう一度、溜息を吐き出す。


「もう、何がなんだかわからんな」


「全くだ。

 思うんだが、これはもう、警察の手に負えるもんじゃない気がするぜ」


「俺もそう思う。

 だがまあ、現状はやっぱり警察がなんとかせにゃならんようだ。

 捜査本部にも、お前の提供した情報は共有したんだが……あの、宮藤女史の件は、相当響いたな」


「だろうな」


 島浦によると、宮藤が自宅で家族を惨殺した上に死体損壊まで行っていたという件は、警察が報道規制を行い、今のところ真実は一般には広まっていない。

 もっとも、住宅街に沢山の警察関係者が集まり、また家が閉鎖されている事は既に知られているだろうから、これも何処まで有効か知れたものではない。

 だがそれよりも、捜査本部の一員としてピックアップされた人物が、連続殺人犯と同じような手段で被害者を生んでいる以上、このままの流れでは、宮藤が全事件の真犯人として片付けられ、結果的に全ての事件が無理矢理な形で解決になる可能性も見えて来たという。


「――実際、捜査本部のメンバーの中には、それで手打ちにしようという意見も散見され始めている」


「警察の悪い体質だな。

 そんな単純に解決する話じゃないってことは、誰もわかってることだろうに」


「だから、だよ。

 だからこそ、彼らは早急にこの事件を“終わったことに”したいのさ。

 今後続く事件については、模倣犯によるものだ、などと定めてな」


「頭が痛いな。

 エリートさん達の考えることは」


「だが、光明は見えたぞ。

 それも、お前達が見つけて来てくれた情報のおかげでな」


「ほぉ?」


 島浦の口調が、若干明るくなる。

 現在、捜査本部の主旨は真っ二つに割れており、片や宮藤犯人説で幕にしようとする勢力、片や、更なる調査を続行し、恒久的な対策を検討するべきとする勢力となっている。

 このうち後者の勢力が、司の持ち込んだXENOの情報に注目しているというのだ。


「桐沢、だったかな。

 彼の持つ情報は、少しずつ裏付けが取れ始めている。

 明日、栃木県警が金尾邸の調査に入ることになったが、その際、君と桐沢にも同行して貰いたい。

 ここで、XENOとかいう物を無事回収出来れば、我々の動きはガラリと変わるだろう」


「今、あの廃墟はどうなってる?」


「ああ、栃木県警によって24時間体勢の警備が行われている。

 表向きは、廃墟でのボヤ騒ぎになっているがな」


「賢明な対応だな」


 島浦の指示に同意すると、司は踵を返し、退室しようとする。

 だが、すぐに呼び止められた。


「待て司! まだ話は終わってない」


「まだあるのか。俺は眠いんだが」


「まあ聞け!

 ただこの件、一つだけ引っかかることがあってな」


「聞こう」


 急に不安げな表情を浮かべた島浦は、司の前に立ち、何故か声を潜めつつ囁いた。


「あの桐沢という男なのだが、何故、命を狙われているのだ?

 そこが解せんのだ」


「――お前もか」


「ああ。

 はじめは、XENOの秘密を知っている者を口封じする為にと思ったんだが、よく考えたらどうもおかしい気がしてきてな」


「たとえば?」


「やり方が必死過ぎる。

 単に口封じするだけなら、わざわざ自分達の正体を晒しつつ、あんな派手な立ち回りをするものかね?」


 島浦が、宮藤の転じたXENOのことを指していることは、すぐに理解出来る。

 実際、彼の疑問には司も同意だった。

 XENOがあのような性能を持っているのであれば、もっと秘密裏に桐沢を処分出来た筈だ。

 だが、それが出来なかったということは、何か事情があるのだろう。


「あの、黒いロボットに助けられているという話は?」


「そこだ、俺が疑問なのは。

 そのロボットがどういう存在なのかは知らないが、守る以上、そいつも桐沢が殺されたらまずいと考えている筈だ。

 そうでなければ、ここまではやるまい」


「それだけ、桐沢の持っている情報が重要ということなのか」


「ああ。

 だが彼の切り札である情報は、ここまででほぼ全て出切ってるんじゃないのかね?」


「……」


 司は、思い返す。


 連続猟奇殺人事件の犯人が、XENOという未知の生物であること。

 XENOは他生物を捕食した上、その能力や姿を用いて擬態が可能。

 その上、策略を巡らせたり、機械を操る高い知性も持ち合わせている。

 それは、吉祥寺研究所という、赤城山のどこかにある施設にて研究されていた。

 サンプルとして冷凍保存されていたXENOは、佐野市の廃墟の地下に隠されており、その所在はXENOに突き止められてしまった。


 ――桐沢が持っている切り札のカードは、後は井村邸という場所についてくらいだ。


「そうだな、ここまでの情報が桐沢の持ち札全てなら、それを共有した我々警察組織全体が、口封じされなければおかしいな」


「だろう?

 俺はな、司……桐沢は、まだ他にも切り札を持っているんじゃないかと思っているんだ」


「……」


 目をキラリと光らせ、島浦は司を上目遣いで見る。

 自分の抱く疑問が、核心を突いているという自信を抱いている時に見せる、彼特有の癖だ。

 それを見て、司は小さく鼻で笑った。


「探れるか?」


「ああ、なんとかしよう」


「頼んだぞ。

 それ次第で、俺達の今後が大きく変わるだろう」


「違いないな」



 その時、突然、司のスマホが鳴った。

 見覚えのない番号からの連絡。

 無言で島浦に手を挙げると、通話ボタンを押す。


「もしもし?」


『司さんって人?』


 声は、若い女性だ。

 聞き覚えはない。


「そうだが、君は?」


『ラーメン屋のオカマに頼まれたんだけどさ』


「ああ、それか。

 明日の約束は聞いているが」


 そこまで話すと、司は軽く頭を下げ、退室する。

 誰も居なさそうな通路まで移動すると、司は通話に集中した。


『吉祥寺研究所って言ったよね?

 それ、結構ヤバい話だってこと、あたしもう知ってんのよ。

 この仕事、高くつくの確定だけど、イイ?』


「もう情報を知っているということなのか?」


『そうだよ、ちょっと前に、アンタと同じような事聞いて来たヤツがいてさ』


「ほぉ?」


 謎の女性の言葉に、興味が芽生える。

 司は、金額については同意した上で、更に話を聞くことにした。


「報酬については、保証するよ。

 だが、その話を聞いて来た人物についても聞きたいもんだな」


『それって、追加の依頼になるけど、いいの?』


「ああ、構わんさ」


 司は、既に聞いた事のある人物の名前が挙がるだろうことを予測していた。

 だが、その期待は大きく裏切られることになる。




『じゃあ、二枚追加ね。

 ――タカカゼ、って男だよ』



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