第40話【齟齬】2/4
地下迷宮にいつものメンバーが集合したのは、午後10時を回った頃だった。
研究班エリアのいつもの場所に、いつもの面々が勢揃いしている。
それぞれ思い思いの席に着き、一部はミーティングルームから椅子を借りて来て座る。
「こんな時間なので、手短に済ませたい。
まず、向ヶ丘と石川のチームから報告を頼む」
「え? 未来ちゃんとありさちゃん、何かしてたの?」
「ひっどいなあメグ、あたしら休んでたわけじゃないぞ」
「ひーん、ごめんなさいー!
だってぇ、最近あんまりお顔見てなかったからぁ」
「それを言ったら、あたしらだってメグ達見てないじゃん。
あ、でもお疲れ。
あれから色々大変だったのは聞いてるよ」
「うん☆ありさちゃん、ありがとー」
いきなり仲良しトークに突入する二人を無視して、未来が咳払いをして報告を始める。
「例の件ですが、環状八号線の用賀付近、駒沢通りでの報告が多いです。
残念ながら、本日の調査でも有力な情報は得られませんでした」
「肝心のXENOが、全然見当たらないんだわ。
ニアミスすらもないんだよねー」
未来の報告に、ありさが補足する。
その発言に、舞衣と恵は驚きの声を上げた、
「な、なんですか、そのお話は?」
「ちょ、いきなり何? メグ達全然知らないんだけど?」
「お前達にはあえて話をしていなかったんだ。
実は、この二日間でXENOによる新たな事件が発生した。
それも、複数個所でな」
勇次の言葉に、二人は目を剥いた。
「ど、どうしてそんな大事な話を、伝えてくださらないのですか?!」
「そうだよ! 第一、XENOと闘うことになったら、パワージグラットだって――」
「そのパワージグラットを使って、かなたちゃん達の世界にXENOを送り込んでしまったらまずいから、今回は別行動にしたのよ」
恵の言葉を遮るように、未来が言い放つ。
「あう」
「で、でも、事情くらいは」
「まあ結局、それを伝えなきゃならない事態にまで発展しちゃったんだけどね」
「そんな……」
勇次は、冷静な口調で概要の説明に入った。
今回のXENOの情報を、“SAVE.”はまだ一切得ておらず、あくまでネット上に出回っていた「SNS投稿者による情報」からしか、概要が掴めていない状況だ。
その情報の内容もまちまちで、大きな人型だの、四つんばいの中型動物だの、大きな腕だけが現れただの、統一性がまるでない。
あまりの神出鬼没ぶりに、今川も含め様々な考察が行われたが、時間と資料が足りず概要すら掴めていない有様だ。
「あんだけ過疎ってるSNSが、この件でまた盛り上がってるってのが皮肉だね。
でも、そのおかげでこっちは今回の事件を知ることが出来たんだけどさ」
少し呆れたような口調で、今川がボヤく。
「ちょっとアレな表現で悪いけど、事件現場の様子がぐっちゃぐちゃの酷いことになってるって状況がなかったら、XENOとは違う事件かなって思っちゃうくらいだよ!」
今度は、ティノが困り顔で首を傾げる。
そんな事態が発生していた事に全く気付けなかった姉妹は、思わず青ざめながら顔を見合わせた。
「そんな状況でしたら、私達にも……」
「いや、お前達は引き続き、並行世界の調査を続けて欲しい」
「でも、そんなこと言ってたら! 被害者が増えちゃうじゃない!」
「気持ちはわかるが、今後もパワージグラットを使用していけるかどうかを見極める為の調査だ。
ここは分担作業だと割り切って、お前達は今の任務に集中してくれ」
「う……」
物凄く辛そうな顔をして黙り込む恵を、舞衣が優しく抱きしめる。
そんな彼女も、複雑な表情だ。
舞衣の視線が、先程から黙っている凱に向けられる。
「お兄様は、このことを――」
「おおまかな話だけは聞いていた。
だが、そこまで厄介なことになってるとは知らなかった」
「そうですか……」
「ひとまず、XENOの調査は続けるわ。
でも舞衣、メグ。
もしかしたら、あなた達の力も借りなければならない事態が発生する可能性もあるわ。
その時は、悪いけど――こっちの手助けを頼むわね」
未来の言葉に、舞衣はかろうじて頷きを返す。
だが、相当なショックを受けたのか、メグだけは無反応だ。
「あの~、そろそろ、私も報告して宜しいでしょうか?」
同じく、今までずっと黙ってやりとりを聴いていた愛美が、手を挙げる。
「そうそう、愛美も単独調査お疲れ様。
それで、どうだった?」
「ええ、例の雑居ビルなんですが。
勇次さんの予想通り、全く壊れていませんでした!」
愛美のその報告に、舞衣と恵が揃って顔を上げた。
「愛美ちゃん! そのビルって、もしかしてあの時の?!」
「あ、ハイ! お二人と行ったあのビルのことです。
科学魔法で、舞衣さんが壊しちゃった、あの」
「……!」
一瞬、舞衣の顔が険しくなる。
初めて見るその形相に、愛美は、思わずゾクリとした。
「では、私達が今通っている、かなたさんたちの居るあの世界は……」
舞衣の声が、震えている。
その質問には、誰も反応しようとしない。
もう、答えは出ているのだから。
舞衣を引き剥がし、恵がいつもと違う大きな声で吼えた。
「ちょっと待って!
それじゃあパワージグラットは、使えば使うほど違う世界に移動しちゃうってことなの?!」
しばしの沈黙の後、勇次が、重苦しい声で答えた。
「その通りだ。
愛美の報告で、それがはっきりした。
パワージグラットを使い続けることで、お前達はまた別な並行世界へ飛ばされていくだろう」
「それじゃあ、それじゃあ……かなたちゃん達は、どうなるの?!
せっかく、パパやママと逢えたのに!
また逢おうって約束もしてたのに!」
今にも泣き出しそうな顔で、恵が叫ぶ。
彼女のそんな態度を見たことがなかった面々は、驚いて顔を上げた。
そして舞衣と凱だけは、逆に顔を伏せる。
「酷いよ……どうして、どうしてそんなことになっちゃうの?
かなたちゃんも、坂上さんも、好きであの世界に行っちゃったわけじゃないのに……」
雫が、床にポタポタと落ちる。
恵の頬を、涙が伝う。
手が震え、肩も大きく揺れている。
愛美は、初めて見る恵のそんな態度に、ただ呆然とするしかなかった。
「相模、残酷なことを言うようだが――」
「勇次、もういい」
話し始めた勇次を止め、凱は恵の肩を抱いた。
「そこから先は、俺から話す。
すまないが、俺達は今夜はこれで失礼する」
「うむ」
「そ、それでは皆様、おやすみなさい」
舞衣も、慌てて席を立つ。
凱は恵と舞衣を伴い、そのまま静かにエレベーターの方へ向かって行った。
その後姿を見送った一同は、どう間を繋げばいいのか、戸惑った。
「なんか、あったの? メグ」
沈黙を破り、ありさがひそひそ声で未来に話しかける。
「私も話を聴いただけだけどね。
昔ちょっと色々あって、あの子、トラウマを抱えてしまってるの」
「トラウマ……」
「今回のかなたちゃんの件も、それがあるから、あんなに一生懸命なんだと思う」
「そっか」
それ以上、言葉が続かない。
打ち合わせの流れが途切れてしまった為、これ以上は無意味だと感じた勇次は、解散指示を出す。
全ては明日に持ち越しになった。




