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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
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●第40話【齟齬】1/4





 美神戦隊アンナセイヴァー


 第40話 【齟齬】





  

「わかりました、では、かなたを連れて行きたいのですが――」




 あまりにも自然に飛び出した言葉に、凱は思わず面食らった。


「待ってください、猪原さん。

 残念ですが、それは出来ません」


「どうしてですか?

 こうしてやっとかなたと逢えたのに、また離れ離れになれと言うんですか?」


「それについては、先程何度も説明しましたが」


「ふええ、かなた、パパとママと離れたくないよ~!」


「北条さん、どうかお願いします!

 この子を、うちに連れて帰らせてください!」


 遂には、かなたと妻まで同じようなことを言い始める。

 突然の展開にうろたえる坂上に掌を向けると、凱は、一旦深呼吸して三人に伝えた。


「出来ることなら、私もそうして差し上げたいですが。

 かなたさんは、この世界に捕らわれている状態ですから、たとえあの車に乗せても時間が来れば消えてしまい、またこの世界に戻ってしまいます」


「そんな事を言って、かなたを帰らせないつもりなのか?!」


 いきなり、夫の口調が変わる。

 どうやら激昂すると態度が豹変するタイプのようで、凱は内心呆れたが、顔に出さないよう努めた。


「今の私達は、特別な技術で、無理やりこちらの世界に潜り込んでいる状態なのです。

 ですから、いつまでもここに居ることは出来ませんし、この世界にあるものを持ち帰ることも出来ません。

 それは、かなたさんや坂上さんであっても同じことなのです」


「そんなこと、やってみなければわからないじゃないですか!」


 妻の方も、だんだんヒートアップしてくる。

 凱は、やはりこの二人を連れて来たのは失敗だったかと、心底思った。

 長年離れ離れになっていた子供と再会し、気持ちが変わってしまったのは理解出来る。

 とはいえ、絶対のルールを捻じ曲げることは、不可能なのだ。

 だからこそ、事前説明をしておいたのに。


「あの、ちょっと宜しいでしょうか」


 申し訳なさそうに、坂上が手を挙げて会話に割り入って来る。


「以前、私も北条さんから詳しく伺い、元の世界に戻れないことを理解しました。

 お二人とも、お気持ちはお察ししますが、ここは一度お戻りになられてはいかがでしょう」


「……」


「北条さん、猪原さんご夫婦を、もう一度こちらにお連れ頂くことは可能でしょうか?」


 坂上の質問に、凱は一瞬戸惑った。


「ええ、可能です」


「どうでしょう、本日はここで一旦お開きにして、明日以降にでもまたお越しいただくというのは?」


「ええ~っ」


 不満そうな顔のかなたに、無言で佇む両親。

 何か言いたいが言葉に出来ない苦悩が感じられ、凱も言葉を失う。


「かなたちゃんは、私が責任を持ってお世話します。

 ですからどうか、お二人は安心して、本日はお戻りください。

 いつでもお待ちしておりますから、また是非いらしてください」


「……」

「……」


「さぁ、かなたちゃん、晩御飯のお手伝いをしてくれるかな?」


「う、うん」


「あ、そうだ、北条さん!

 あのお二人にお伝えくださいませんか。

 作って頂いた煮込みハンバーグ、とても美味しかったって」


「そうそう! とぉーっても! 美味しかったんだよ!

 かなたね、二つもぺろっと食べちゃったの!」


 そう言うと、かなたはVサインを翳して急に笑顔になった。

 凱はなんとも言えない表情でそれを受けると、静かに頷く。


 そして猪原の妻は、その言葉に再び涙ぐんだ。


「煮込みハンバーグ……かなちゃん、大好物だったもんね」


「ああ、二日か三日にいっぺんのペースで、いつもリクエストしてたからな」


 相槌を打つ猪原も、いつしか涙ぐみ始める。

 そんな二人の様子に、凱はただ目を閉じ、同情するしかなかった。


「ねえママ!

 今度来るとき、お弁当持って来てくれない?」


「えっ?」


「かなた、ママの作ったご飯、久しぶりに食べたいの!

 ねえ、おねがーい!」


「あ、う、うん、いいわよ」


「わぁい、やったぁ♪」


 かなたはゆびきりをせがみ、母と約束を交わす。

 その間に、凱は場の雰囲気を変えてくれた坂上に、無言で礼をした。

 時間は、もうない。


「もう時間です、ここを出ましょう。

 坂上さん、申し訳ありませんが、また寄せてください」


「はい、わかりました。

 いつでもお待ちしていますので、ご遠慮なくどうぞ!」


 

 その後、坂上とかなたに見送られ、凱と猪原夫妻はナイトシェイドに乗り込んだ。

 何度も振り返り、かなたに手を振る二人の姿に、凱はこみ上げるものを感じていた。

 車に乗り込んでものの一分も経たないうちに、リアウィンドウから見えていた二人の姿が消え、それと同時に周辺を歩く人達や行き交う車の姿が現れた。

 突然出現したナイトシェイドに驚いたのか、脇を通り過ぎる人々が、不思議そうにこちらを見つめている。


「車を、出しますね」


 それだけ呟くと、凱はステアリングを握り込む。

 二人の答えはなく、ただ、微かに嗚咽の声だけが聞こえた。


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