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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
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 第39話【両親】4/4


「――というわけだ。

 これから、猪原さんご夫婦を連れて中野新橋方面へ向かう。

 ANX-06Rは実装後に待機、02Wや03Mと合流次第、向かってくれ。

 以上だ」


『わ、わかりました!』


 愛美との通信を終えると、凱はサングラスをかけ、ステアリングを握る。

 後部座席には、猪原夫婦が座っている。

 枝川東交差点を横切り、ナイトシェイドは、新宿方面を目指して走り出した。


 二人は、ナイトシェイドの狭い車内で身を寄せ合い、不安そうにしている。

 途中での休憩を提案したが、拒否してきた。

 

「あの、本当に、かなたに会えるのでしょうか?」


「大丈夫です、それは約束いたします。

 このまま、中野区のとある場所に移動します。

 そこでとある手順を踏みますが、その時点から一時間だけ、この車は並行世界へ移動します。

 かなたさんは、そこでお二人を待っています」


「か、かなた……」


「異世界なんて、そんな映画みたいな話が本当にありうるんですか?」


「それについては、私も完全な知識を持っているわけではないので――」


 凱は、夫に聞きかじりの知識を伝える。

 ただ自分達がそういった知識を持つ理由については、「行方不明者捜索目的」と「異世界調査」であると嘘をついている。

 さすがに、今ここでXENOの存在と実態を伝えることは出来ないからだ。


「猪原かなたさんの事件については、私も後から調べて知りました。

 失礼ながら十年も前の事件とは思ってなかったもので、かなたさんのご年齢の事も、後から知って驚いたのです」


「そうですか……」


 それ以上、夫婦は殆ど喋らなくなった。

 凱は、限られた時間内で出来るだけ無駄を省くため、坂上のことも軽く説明をした。

 彼が誘拐犯的な見方をされないようにという配慮だったが、リアクションがないので、どう解釈したかまではわからない。



 首都高速を抜け四十五分程、ナイトシェイドは山の手通りから本郷通りを突き抜けて弥生町二丁目交差点を左折する。

 洋食屋のある交差点から少し進んだ辺りで路上駐車すると、凱は通信を繋げた。


「ANX-02W、03M、06R。

 NS1目的地に到着。施策を頼む。指定範囲は半径10キロ。

 今から三分後に実行」


『了解!』


 猪原夫婦に配慮し、出来るだけコードネームを使わず最小限の連絡に留める。

 凱は、三分後に異世界に突入する為、決して車外には出ないようにと忠告した。


 しばらく後、一瞬窓の外が青白く変色した。


「さぁ、降りましょう。

 並行世界に到着しました」


「え、何時の間に?」

「本当に、かなたのいる世界に来たのですか?」


 うろたえる夫妻に、凱は力強く頷く。

 車外に出た三人は、全くの無音と化した世界に降り立つ。

 夫妻は、車も人も居なくなってしまった世界に戸惑い、辺りをきょろきょろ見回した。


「すごい、あんなに居た人や車が、全部消えた」


「本当に、異世界ってあるんですね」


「さあ、時間がありません。

 目的地は、すぐそこのマンションの二階です。

 急ぎましょう」


 三人は、小走りで道路を横断する。


 その様子を、三つの影が静かに見下ろしていた。


「あれが、かなたさんのご両親なんですね」


「うん! ちゃんと逢えるといいねー」


「二階の部屋に明かりが点いています。大丈夫ですよ」


「そっか、やったぁ!」


 微笑む二人に向かって、アンナローグはシュタッと右手を挙げた。


「あの、それでは私は、調査活動に向かいます!」


「お願いしますね、ローグ」


「ところで、調査って、いったい何処で何をするの?」


「はい、まずば渋谷に向かいます」


「渋谷? そんなとこで何をするの?」


「ええ、まあ色々。

 後でまとめて報告しますね。

 それでは、時間がないのでまた! シュワッチ!」


 謎の言葉を残して、アンナローグはあっという間に南東の方角へ飛んでいってしまう。

 それを見送ると、残された二人は思わず顔を見合わせた。


「何処で覚えたんでしょうね、あれ」


「ねえお姉ちゃん、メグ達はこれからどうする?

 愛美ちゃんと合流するまで」


「アンナローグは、このまま合流しないで帰還するそうです。

 さあ、私達はどうするべきでしょう」


「そうだねえ、このカッコであのお二人の前に出て行くのもなんだしぃ」


「……ですもんね」


 仕方ないので、二人は自主的に周辺の調査を行うことに決める。

 凱の腕時計(シェイドII)を通じて、会話は常に届くようになっている。

 何かあったらすぐに駆けつけられる範囲で、アンナウィザードとミスティックは早速行動を開始した。





「こんばんは、北条です」


 インターホン越しに名乗ると、ドアの向こうからドタドタと足音が響いてくる。

 カチャリ、と開いたドアの隙間から、小さな女の子の顔が少し覗く。

 屈んで視線を下げた凱は、軽く挨拶をすると、背後に立つ二人を見るよう促した。


 しばしの、沈黙。


「パパ……ママ……?」


「か、かなた……?」


「かなちゃん? ほ、ホントに、かなちゃんなの?」


「パパ? ママ? 本当にパパとママなの?!」


「本当に居た……本当に逢えた!!」


「うえぇ~ん、パパぁ、ママぁ!!」


「かなたぁ!」

「かなちゃぁん!」


 三人の泣き声と嗚咽が、静かなマンション内に響き渡る。

 ドアから飛び出したかなたを、夫妻はしっかりと抱きしめた。

 少し遅れて、坂上が何事かと顔を出すが、凱が目配せした事で、即座に理解したようだ。


 坂上に招き入れられるまでの数分間、三人は、十年ぶりの再会を喜び合った。




 鼻をすする音と、小さな嗚咽が室内に響く。

 リビングに通された猪原夫妻は、かなたと三人揃ってソファに座った。

 父の膝に乗り、母に頭を撫でられる。

 その仲睦まじい様子から、相当愛されていただろうことが窺える。

 いつしか坂上も涙ぐみ、そして凱も、目頭が熱くなるのを感じていた。


「ありがとうございます、北条さん。それに、坂上さん。

 あの、特に北条さんには、大変失礼なことをしてしまって」


「お気になさらないでください。

 こちらこそ、ここへ来てくださって感謝しています」


「坂上さん、今までかなたを保護してくださって、本当にありがとうございました!

 なんとお礼を申し上げたらいいのか……」


「いえ、そんな奥さん、もったいない」


「パパ、ママ!

 かなたね、このマンションに住んでるんだよ!」


「そうなの、でもお友達もいないし、寂しくない?」


「大丈夫! おじちゃんもいるし、お姉ちゃん達も遊びに来てくれるからー」


「お姉ちゃん達?」


「あ、うちのエージェントです」


 コホン、と咳払いをして、凱がフォローを入れる。

 茶も出せず申し訳ない、と詫びを入れた後、坂上は、かなたとの出会いの話を始めた。


 当時、坂上は息子と二人で都内各地を車で巡り、自分達以外の人間が居ないかを捜索していた。

 そして江東区を巡っていた時、枝川の小さな公園で泣いているところを偶然発見出来たのだという。


「――失礼ながら、その際、猪原さんのお宅に勝手にお邪魔させて頂きました。

 もしかしたら、私達家族と同じように、お二人も転移しているのではないかと思いまして。

 申し訳ありません」


「いえ、そんな! 私達のためにしてくださった事なのですから」


「坂上さんのような良い方に助けて頂けて、本当にありがたいです」


 どうやら、猪原夫妻は坂上にとても好意的な様子だ。

 坂上はそこから、かなたとの普段の様子や、いつもやっている事などを紹介した。

 最近では、かなたも家事を手伝っているとの事で、夫妻は驚いていた。

 得意げなかなたに、彼女を褒める両親。

 とても微笑ましい光景に、凱は静かにほくそ笑んだ。


 腕時計を見ると、凱は軽く手を挙げて、四人の会話に割り込んだ。


「申し訳ありませんが、あと二十分程でこの世界から出なければなりません」


「えっ、もうそんなに?!」


「はい、しかも、この部屋は現実世界だと全く別の人が生活していますので、車まで戻って頂く必要があります。

 リミットになったら声をかけますので、その際はご退席をお願いします」


「で、でも……」


「わかりました、では、かなたを連れて行きたいのですが――」


 猪原父が、突然、場の雰囲気を変えるような言葉を放った。





 ここは、渋谷ランプリングストリート。

 きらびやかな街の明かりに照らされながら、静かに降り立ったアンナローグは、眉間に皺を寄せてとある建物を見上げた。


 ゴールデンウィーク中に、相模姉妹に連れられてやって来た、パンケーキ屋の入っている雑居ビル。

 そこに潜んでいたXENO・ジャイアントスパイダーの襲撃を受け、酷い目に遭わされたのだ。

 正直二度と来たくない場所だったが、勇次の指示で渋々やって来たこの場所で、アンナローグは呆然とした。




「……元に、戻ってる……」



 彼女の目の前には、あの雑居ビルが、そのままの姿で残っていた。



 ジャイアントスパイダーとの対戦でパワージグラットで転移した際、アンナウィザードの科学魔法で吹き飛ばされた筈なのに。


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