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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
112/227

 第39話【両親】3/4



 更に翌日の午後二時。

 凱は、ナイトシェイドに乗って単身とある場所へ向かっていた。


 江東区枝川二丁目。

 工場や中小企業と住宅が入り混じった、とても落ち着いた海に近いエリア。

 枝川橋東交差点を抜け、住宅街に入ったナイトシェイドは、とある白い壁の家に辿り着いた。


 表札に記された名前は、「猪原いのはら」。


 車から降りた凱は、サングラスを外すと、躊躇うことなくインターホンを押した。

 しばらく後、通話が繋がった音を確認すると、凱は相手より先に呼びかけた。


「恐れ入ります。先日連絡いたしました、北条と申します」


 インターホンからは、何の返答もない。

 だが、しばらくしてドアの鍵が外される音が聞こえて来た。

 顔を覗かせたのは、顔色の悪い細面の中年男性だった。


「お待ちしていました、どうぞ」


「はい、失礼いたします」


 想定以上に、スムーズに招き入れられる。

 玄関のドアが閉じたのを合図に、ナイトシェイドは、ひとりでに走り出した。



 猪原家では、リビングにもう一人、女性が待っていた。

 それが中年の妻であり、かなたの母親だろうことは直ぐに見当が付く。

 彼女もまた生気のない表情で、やや疲れた顔を向けてくる。

 軽く会釈をして、勧められた椅子に腰掛けると、凱は名刺を取り出し、二人に差し出した。


 そこには「株式会社LOADRING」営業二課課長・北条凱、と記されている。


「あの、娘のかなたについて、情報をお持ちと伺ったのですが」


「どのような情報でしょうか、襲えていただけないでしょうか」


 挨拶を交わすよりも早く、夫妻は本題を切り出して来る。

 凱は、リビングの端にいまだに置かれている「子供用の本棚」やかばんなどを視界の端に見止めると、軽く頷いた。


「その前に、一つお約束をして頂きたいことがございます」


 凱は、そう言いながら一枚の書類を取り出す。

 そこには、表題に「誓約書」と書かれている。


「誓約書……これはいったい?」


「守秘契約書です。

 これからお話することは、弊社の企業秘密に大きく抵触する内容となりまして。

 大変申し訳ありませんが、まずはこれからお伝えする件について、決して口外されないように、とお約束願いしたいのです」


 書類の説明を聞いて、夫妻は少々退き気味だ。

 そんな二人に、凱は話を続ける。


「私共は、とある事情から、かなたさんご本人との接触に成功いたしました」


「えっ?!」

「かなたに、会われたんですか?!」


「はい、証拠もお持ちしています。

 事情を説明する前に、まずは――」


 そう言ってタブレットを取り出そうとした時、突然、夫が立ち上がり凱の胸倉を掴んで来た。


「お前……! お前が、かなたをさらったのか!」


「あなた、止めて!」


 今にも殴りかかりそうな態度だが、夫の拳が振り上げられることはない。

 それを察した凱は、無抵抗かつ冷静なまま、更に話を続ける。


「落ち着いてください。

 娘さんのご要望で、お二人を直接お連れしたいと思ったので、今回訪問させて頂いたんです」


「えっ」


「まず、これを見てください」


 そう言うと、凱はタブレットでとある映像を映し出す。

 先日、アンナミスティックが保存した動画だ。


 やや見上げるような角度で、一人の少女が、こちらを向いている。





『このまま喋ればいいの? お姉ちゃん』


『うん♪ そうだよー!』


『じゃあ、喋るね!

 えーと、パパ、ママ、見てますかぁ?

 かなたでーす!

 元気にしてるよー♪』





 タブレットの映像に、夫婦は目を剥いて見入る。

 そして顔を上げると、信じられないといった面持ちで、凱の顔を見た。






『えっとぉ、かなたはぁ、パパとママと、早く逢いたいです!

 逢いに来てください、待ってまーす!

 きっと来てね、待ってるからね~!』



『もういいの、かなたちゃん?』


『うん、なんか照れくさくって♪』





「か、かなただ……本当に、かなただ!」


「こ、これは! いったい、何時何処で撮影されたのですか?!」


「かなたは、今はもう高校生くらいの筈だ!

 どうして子供の頃の動画など――」


「それについて、詳しく説明します。

 ですが、まずは先程の書類にサインを。

 これが、唯一の条件となりますので」


「……」


 夫は、渋々書類を取ると、内容を読み込む。

 続けて妻も目を通し、目配せした後、ペンを取った。


「念のため、金銭目的での契約などでは一切ありませんので、ご安心ください」


「サインはした。

 それじゃあ、娘のことについて教えてくれ」


 突然態度が豹変した夫と、申し訳なさそうな顔でそれを見つめる妻。

 その態度に何のリアクションも示さず、凱はビジネスライクに淡々と語り出した。


 動画は、つい先日撮影されたものであること。

 かなたは、行方不明当時の姿のままであること。

 こことは異なる並行世界に迷い込んでしまい、脱出することも、させることも困難なこと。

 今は男性と一緒に、平和かつ健康に生活していること。


 そして、自分達はその世界に渡ることが出来ることを、説明した。


「――おおまかな説明は、以上です。

 私自身、かなたさん達と会ってお話しましたが、お二人にとても逢いたがっております。

 どうか、私達と共に並行世界に渡って、かなたさんに逢ってあげて欲しいのです」


「かなたが、まだ、子供のまま……?」


「どうして、どうしてそんな?!」


「それについては、私達も詳細はわかりません。

 かなたさんとの出会いは、本当に偶然だったのです。

 ただ、その出会うきっかけに、弊社の企業秘密が関わっておりますので、今回このようなお願いもする必要がありました」


「……」


 まだいくらか疑問が残っているといった雰囲気だが、おおむね凱の言う事を受け入れようとしているようだ。

 タブレットを二人に預けると、夫婦は何度も動画をリピートし、やがて涙を浮かべ始めた。


「尚、かなたさんの居る世界の滞在限界時間は、一時間だけとなります」


「い、一時間?! そんな少しなのですか?」


「連れて帰ることは出来ないのか?!」


 二人の言葉に凱は首を振り、その理由を説明した。

 まだ納得が行かない様子だったが、それでも、それ以上大きな反論はして来ない。


「もうまもなく、私達は再度、向こうの世界へ転移します。

 宜しければ、お二人とも、ご一緒にどうでしょうか」


「え、今からですか?!」


 突然の申し出に、夫婦は戸惑う。

 この急な話には、凱なりの考えがあった。

 もし、考慮する時間を与えてしまった場合、夫婦は凱に対する猜疑心を高め、警察や第三者に通報してしまうかもしれない。

 そうなってしまうと、もはやかなたの願いを叶えてやることは不可能だ。

 だからこそ、彼らが決断をする前に引っ張り出す必要がある。


(これ、完全に詐欺師の手口まんまなんだが……そんな事、言ってられねぇからな)


「ここからは、もう信じて頂くしかありません。

 かなたちゃんは、ご両親に逢いたいと泣いていました。

 ご不安な点があることは、重々承知です。

 ですが――お願いします」


 

「――わかりました」


 しばしの沈黙を破り、返事を返したのは、妻だった。

 

「待てよ、こんな話、絶対におかしいよ!

 だって、もう十年も経ったんだぞ?! それなのに――」


「だったら、私一人だけでも行くわよ!

 それなら問題ないでしょう?」


「何言ってんだ、一人で行かせるなんて、出来るわけないだろう!」


 言い争いを始める二人に、凱が無理やり割り込む。


「お二人の安全は、必ず保障いたします。

 その点は、どうかご安心を」


「う……うう……」



 五分ほどの長い沈黙の後、夫の方も、やむなしといった態度で同行を決意した。

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