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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
110/226

●第39話【両親】1/4


「なんてことを言っちまったんだ、メグ!」


「ひゃん!」


 車内に、凱の怒号が響く。

 後部座席で半泣きになっている恵は、頭を抱えてうずくまった。


「二人とも、完全にその気になっていたじゃないか!

 もし、叶えることが出来なかったら、どう責任を取るつもりなんだ」


「で、でもぉ……」


「メグの気持ちはわかる。 

 だがな、考えてもみろ。

 かなたちゃんをご両親に逢わせるってことは、パワージグラットに巻き込む必要があるってことだぞ?

 俺達の素性も明かさなきゃならないんだ」


「あ、あわわわ……」


「それに、ご両親に逢えたとしても、果たして信用してもらえるかどうか」


「お、お姉ちゃんまでぇ~。

 うえぇぇ……」


「――まあ、言ってしまったのは、もうしょうがない。

 こうなった以上、勇次達に相談して、出来るだけのことはしよう」


「私も協力します。

 メグちゃん、一緒に頑張りましょう」


「う、うん! ありがとうマイちゃん!」


「あ、もう、メグちゃんったら」


 後部座席から、助手席に座る舞衣を抱きしめる。

 そんな恵の態度に、凱はほくそ笑んだ。


(マイちゃん呼びってことは、相当堪えてるな。

 まあ――こうなったら、行けるとこまで行くしかないか)


 環七を走るナイトシェイドの車内で、その時、突然“腹の虫”が鳴った。

 それも、ステレオで。

 

「やん!」


「ふわぁ、お腹空いたね~。

 ねえお兄ちゃん、どこかでご飯食べて行こうよ」


「ああ、そうだな、もうこんな時間だし」


『舞衣様、恵様。

 先日ご登録されました、食べ放題のあるレストラン一覧を表示いたしますか?』


「「 はーい♪ 」」


 いきなり反応したナイトシェイドの呼びかけに、姉妹は笑顔で応えた。


「ちょっと待て! 何時の間にそんなの登録したんだ?!」





 美神戦隊アンナセイヴァー


 第39話 【両親】





  


 その後、相模姉妹を自宅に送った凱は、その足で地下迷宮ダンジョンに向かい、事の経緯を伝えた。

 アンナウィザードやミスティックの記録映像はナイトシェイドを通じて報告され、それを見た勇次と今川、そしていつの間にか常駐するようになったティノは、興味深そうに唸った。


「――なるほど、実に興味深い内容だ。

 時間の概念が異なる、か」


「驚いたね!

 まさか人が生活できる環境だったなんて。

 ガイ、向こうの環境はどうだったの? 体調悪くなってない?」


「……なんかアイツらにつられて、焼肉食い過ぎた……ううっ」


「アンタの劣化始まった胃袋の話なんか、どーでもいいのさ!」


「お、おま、言い方」


『ティノ様。

 環境測定結果を先程メインサーバの共有に転送しました。

 人体に有害な情報は検出されませんでしたが、詳細は後ほどご確認ください』


「おっ? ナイトシェイドありがとう♪」


 凱の腕時計(シェイドII)から聞こえて来た声に、ティノが反応する。


「なんにせよ、よく素のままで異世界の外に出られましたねー凱さん」


「いや、前からちょくちょく向こうで外に出てたぜ俺?

 この前の向坂の件でも出たし」


「あ、そーでしたっけ」


 今川の今更な話に適当な相槌を打つと、凱は勇次に本題を切り出すことにした。


「それで、かなたちゃんのご家族の件なんだが」


「相模恵も、とんでもない約束をしたものだな。

 まあ、連れて行っても身体的な問題はないだろうが、いったいどうやって事情を説明するつもりだ?」


「そこは考える。

 それより、この件で俺達が気付いてない問題点などはないか?

 科学的な見地で」


「うむ、それについてだが。

 先の報告で、少し気になった点がある」


 そう言うと、勇次は手元のキーボードを操作し、自席のモニタに何かを映し出した。

 表示されたのは、パワージグラットの実施回数と解除までの時間を表したグラフのようだ。


「それにしてもお前、いつまでこんな古臭い端末使ってんだよ。

 他の研究班の子達、みんな空間投影型のモニタとかキーボード使ってんじゃん」


「うるさい黙れ」


「あー、勇次さんもオレと同じ旧世代PCフェチだから、それは酷ですよ」


「お前も黙れ!」


「わかるわー、キーボードに指が沈む感覚がないと、打った気がしないのよね」


「とんだPC老人会だな、ここは。

 どうりで古い端末が多いわけだ」


「ゴホン!

 そんなことより、先の話の続きだが――」


 勇次の話が始まると、凱・今川・ティノの三人は会話を止めて聞き入る。

 

「気になるのは、“いつの間にか入れ替わっている”という点だ」


「意外なとこに注目したもんだな。どういうことだ?」


 凱の質問に、勇次は落ち着いた口調で説明する。


 これまでの想定では、異世界デュプリケイトエリアはあくまで現実世界のコピーのようなものであり、パワージグラットを行った時点での環境がそのまま転移するものと考えられていた。

 すなわち、元々存在している世界にアクセスするというよりは、“新しい並行世界を、パワージグラットを使用する度に毎回生み出している”という認識だ。


「――しかし、坂上氏は“新聞や食料品、衣料品は気付くといつの間にか新しいものに変わっている”と言っている。

 ということは、あの世界には情報が更新される何かしらのシステムが機能している筈だ」


「すまん、ちょっとわからん。

 つまりどういうことだ?」


「あ~それって、こういう事っすか?

 並行世界で変化が起きるってことは、こっちの世界から何かの刺激みたいのが行ってる筈って?」


「ああ、その通りだ」


「ぬぬ、益々わからなくなったぞ?」


「意外と頭固いよね、ガイって」


「外部の世界からの情報更新がなければ、食料品は腐ったままだし、坂上氏がインターネットを覚えることもなかっただろうが」


「ああ、なんか少し判ってきたかも……」


 異世界デュプリケイトエリアが変化するということは、その“変化を促す情報”というものが、よその世界から送り込まれている必要がある。

 それがなければ、そもそも変化が生じる筈がないのだ。

 それはつまり、異世界デュプリケイトエリアは常にどこかしらで変化を続けているということになる。

 勇次は、そういった説明を補足した。


「で、結局のとこ、何が言いたいんだ?」


「あくまで想定でしかないが。

 常に変化を起こしているということは、その並行世界は、高頻度で“別な世界化”を果たしていることになる」


「お、おう」


「あ、これは理解してない顔だ」


「そしてパワージグラットには、そういった“変化”まで補正する性能はない。

 しかし、今回の件で並行世界へのアクセスを重ねるということは、それだけ向こうの世界に変化を促すことに繋がりかねない。

 ――要するに、動くなら早急に動けということだ」


「あん? ま、まあ、そうするよ」

(おかしいな、てっきり反対されて止められると思ったんだが)


「それと、言うまでもないとは思うが。

 この件、ちゃんとオーナーには話をつけておけ。

 俺の権限で勝手に了承することは出来んからな」


「ああ、それはぬかりない。

 明日アポを取ってる」


 それだけ言うと、凱は腹を抱えながら退席する。

 その後姿を見ながら、三人は複雑な表情を浮かべる。


「ねえユウジ、アッキー。

 本当に、あっちの世界に居る人を助けることって出来ないの?」


 ティノの呟きに、勇次と今川は揃って首を振る。


「並行世界から何かを持ち帰るには、そのものを、こちらの世界に合わせてフォーマットする必要が生じる」


「フォーマット?」


「要するに、その世界の法則に則った調整を行わないと、転移した際にどのような事故が起こるかわからないってことだ」


「向こうの世界に存在出来るように、坂上さんやかなたちゃんは、もうフォーマットされちゃってるわけです。

 だから、こちらの世界に戻るには、もう一回フォーマットし直す必要があるって事っす。

 って解釈でいいですよね? 勇次さん」 

 

「おおむねそういうことだ」


 頷く勇次に、ティノが数センチ手前まで顔を近づけて迫る。


「じゃあ、アンナセイヴァーはどうなんの?

 あの子達は平気じゃない! ガイだって」


「近すぎだっ!

 だから、そのルールを無理やり捻じ曲げてるのが、パワージグラットなんだ!」


「だったら、同じようになんとかすればいいじゃない。

 アンタ達、考えなさいよ」


「そんなのどうしろっていうんだ!

 本来ならこれは超自然現象の領域なんだぞ?! 冷静に考えろ!」


「このままチュウしてやろうか」


「するなっ!」


 離れ際、ティノは、勇次の鼻の頭にキスした。

 途端に、勇次の顔が真紅に染まる。


「ティノさん、そもそも異世界転移なんて、オレらの認識を超越した超常現象ですよ?

 そんなの、今の人間の科学でハイそうですか、なんて簡単に対応できるわきゃないっしょ」


「うぐ、でも、仙川ノートにもしかしたら何か記載があるかもしれないじゃない!」


「そんな都合のいいものはない!

 もしあったら、それを活用したもっと別な有効な発明が記述されている筈だ」


「まったく、これだから理系は! 融通が利かないんだから!」


「それ、理系の人全般Disってません?!」


「とにかく、今回は想定外の出来事が多すぎる。

 もしかしたら、あまり良い方向に転がらずに終わるかもしれんな」


 勇次が、その場を締めるように呟く。

 その言葉には、今川もティノも異論を唱えなかった。


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