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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第1章 アンナローグ起動編
11/225

●第5話【実装】1/2



「だが今は、何より君の――って、おい、何を?!」


 愛美は、突然車のドアを開けると、館に向かって駆け出した。




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第5話 【実装】




 雨は更に激しさを増し、雷も容赦なく轟音を響かせる。

 荒れ狂う天の音にかき消されてしまうのか、館の中がどうなっているのか、外からでは全くわからない。

 愛美は、更にずぶ濡れになりながらも必死で走り、玄関を目指した。


(奥様! 先輩達! どうか、どうかご無事で!)


 非力な自分が向かったところで、何の助けにもならない事くらい、とうに気付いている。

 それでも、愛美は必死で彼女達を助けたかった。


 あの巨大な怪物は、自分を見ていた。

 自分を見て、大きな声を上げた。

 ――もしかして、自分があの怪物の気に止まったのでは?


 最悪の場合、愛美は、怪物の注意を自分に引き付けてでも皆を逃がそうと考えていた。

 だが、あともう少しで玄関に着くというところで、ぬかるみに足を取られ、派手に転倒してしまった。


「あっ!」


 手の中でずっと握り込んでいた何かが、コロコロと転がる。

 それは、金色の金属に縁取られた、半円形の宝石。

 宝石の中で、何かが輝いている。

 ゆっくり立ち上がった愛美は、それを恐る恐る手に取った。


「さっきの――これは、何だろう?」


 痛む膝や顔もよそに、宝石から放たれる不思議な光に魅入られていく。

 だが、すぐに思い返し宝石を握り締めると、愛美は玄関へ飛び込む。


 それと同時に、鼻を突く、しかして覚えのある異臭が漂ってきた。



 ――ブモオォォォオオオオオ!!!



 最悪の、事態だ。

 なんと先の影……豚と人間を掛け合わせたような巨大な人型の怪物は、玄関前に居たのだ。

 それが愛美に反応し、歓喜の声を上げている。


 怪物との距離は、僅か1メートル強。

 反応は、怪物の方が早かった。


「きゃあ―――っ!!!」


 怪物の巨大な手が、愛美を掴み上げる。

 凄まじい力が、肉体を締め上げ、ミシミシという異音が耳に届く。

 愛美は、自分を頭から被りつこうとする怪物の顔を、真正面から見てしまった。


 だが、その瞬間。

 突然、愛美の身体から目も眩むような閃光が迸った。


 驚いた怪物は、愛美を解放してしまう。

 2メートルくらいの高さから落下し、一瞬呼吸が詰まった愛美は、先程の宝石からとてつもない輝きが放たれている事に気付いた。

 怪物は、眩しさに目をやられたのか、苦しみ悶えている。


 恐る恐る宝石に手を伸ばした愛美に、視力を奪われた怪物が踊りかかる。

 愛美の身体の上に、倒れこんだ怪物の巨体が、重なった。


「ひ……!!」



 

"Due to an emergency, we will determine that a special matter is applicable and

 forcibly start the system.

 In order to give priority to pilot protection, ANNA-UNIT will be transferred and

 OUTER-FRAME will be formed."




 愛美を中心に、突風が巻き起こり、更に怪物を遠ざける。

 天を切り裂くような閃光、大気を振るわす轟音。

 その中に、愛美はいた。

 身に付けた衣服はすべて細かな光の粒子となって溶け始め、一糸纏わぬ姿となる。


(あ……暖かい)


 真っ直ぐに屹立する光の帯は天使の羽を思わせる細やかな光の粒を撒き散らし、愛美を覆い尽くした。

 直視など不可能な程の光量は、やがて少しずつ集束し始める。

 

 鈍い音が響く。

 光の竜巻が消え去った後、愛美は、その場に立ち尽くしていた。

 だが、どこか様子がおかしい。


 束ねられた髪には、金色の髪飾りが装着され、そこから左右二本ずつのリボンが伸びている。

 ブラウスの肩の形状は変化し、半袖だった上腕はひらひらしたバタフライスリーブへと変化。

 スカートは極端に短くなり、長い脚がほぼ露出している。

 更に手袋とショートブーツを身に着け、胸元には先の宝石が収まっていた。

 そして、茶色がかった頭髪と黒かったメイド服は、グレーに変化している。


挿絵(By みてみん)


 目を閉じていた愛美は、ゆっくりと瞼を開く。


 エメラルド色の瞳の奥で、幾重もの光が迸り、機械の起動音のようなものが唸りを上げる。

 額に施されたグリーンの模様が点灯した途端、髪とメイド服の色が、鮮やかなピンク色に染まり始めた。

 身体全体が僅かに光を帯び始め、暗がりの中でもその姿をはっきりと浮かび上がらせていく。



"Voice authentication registration completed.

 shift the system and release the original specifications completely.

 Each part functions normally,

 support-AI all green.

 ANX-06R ANNA-ROGUE, system restart."


挿絵(By みてみん)


「ま、愛美ちゃん?!

 これは……いったい?」


 そこに、ようやく凱が駆けつける。

 何が起きたのか、咄嗟に判断が出来ない。

 凱は、ポケットに入れておいた筈の宝石が、愛美の胸元に着いている事に気付き、慌てて手を突っ込んだ。


「あ、あれ?

 いつの間に?!」 


 と、その時、


「きゃっ!」


 バランスを崩した愛美が、突然倒れた。

 彼女が尻餅を突いた床板は激しく砕け散り、大きな破片が周囲に飛び散った。

 お尻を床に突っ込んだままの体勢で、愛美は目をパチクリした。


「痛たた……

 って、きゃっ?! な、何ですか、コレ?!

 ああああ! 床に穴がぁっ!!」


「すごいお尻の……じゃねぇ!

 比重が、狂ってる?!」


 立ち上がろうとするが、身体の調子が先程までとは違い、上手く動かせない。

 戸惑っていると、突然髪から伸ばしたリボンが伸び、床を押さえて彼女の身体を引き起こした。

 と同時に、足首から光が発生する。

 愛美の身体は、ほんの僅かだけ宙に浮かび上がった。


「フォトンドライブが作動してる?

 ってことは、これが……アンナユニット?!」


 予想外の展開に戸惑ったのは、豚顔の怪物も同じだったようだ。

 だが、状況への対応が一番早かったのも、この怪物だ。

 呻き声を上げながら、突っ立ったままの愛美に突進していく。

 その気配に気付き振り向いた愛美は、怪物に真正面から向かい合うような形になってしまった。


「ひぇっ?!」


「待て、愛美ちゃん! 下手に動くな!」


 と、凱が叫ぶよりも早く、愛美の姿が消えた。

 耳をつんざくジェットエンジンのような推進音が、ホール内に木霊する。


「えっ?!」


 続けて、激しい激突音。

 遠ざかっていく、怪物の叫び声――いや、悲鳴だろうか。

 激しい空気の流れが生まれ、西の方へ凱の身体を圧す。

 それが、猛スピードで愛美が飛び去った影響だと気付くのに、若干の時間を要した。




「ひえぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!」


 ブモオォォォオオオオオ?!?!



 愛美は、怪物にタックルした体勢のまま、凄まじい速さで西棟の廊下を移動していた。

 身体は数十センチ浮いた状態で、背中と腰から光の粒のようなものが噴き出し、これが彼女に推進力を与えていた。

 猛スピードで流れていく廊下の床に驚愕するが、今の愛美には、前が全く見えていない。

 やがて二体は、最西端の外壁に突進し――


「きゃあああぁぁぁぁぁ?!?!」


 グエェェェェ?!?!


 激しい激突音、何かが割れ砕ける音、愛美と怪物の悲鳴が交錯する。

 続けて、叩きつけるような雨音。

 愛美は、外壁を破壊して怪物ごと庭を突っ切り、更にその先の林の中へと飛び込んでしまった。

 何本かの木が、なぎ倒されていく。


「ひ……きゃあっ?!」


 状況に気付いた愛美は、すぐ傍で倒れている怪物に恐れおののき、その場にうずくまる。

 だがその時、髪から伸びたリボンが突然動き出し、旋回した。


 グボオォォォッ?!


 大型の刀が肉塊を斬るような音と怪物の悲鳴が、雨音に混じり響く。

 気が付くと、怪物は数メートル彼方に吹き飛ばされていた。

 ブスブスと耳障りな音を立て、何か腕のような物体が崩れていく。

 それが、あの怪物の腕だと、愛美は一瞬遅れて気付いた。


「ひぇ……?!

 な、な、何が、何が起きてるの?!」


 顔を上げた愛美が見た光景は、惨憺たるものだった。

 大穴の空いた館の外壁、抉り取られたような庭、途中からボッキリ折れている木々、小さなクレーターを思わせる、陥没した地面、そして散乱する不気味な肉片……

 それが、自身のパワーによって引き起こされた影響だと、にわかには信じがたい。


「わ、私……なんてことを!」

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