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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
106/227

●第38話【神隠】1/4



 美神戦隊アンナセイヴァー


 第38話 【神隠】





 “神隠し”

 普段と変わらない生活をしていた人が、ある時忽然と姿を消し、そのまま行方を眩ませてしまうことを、人々は古来よりそう呼んでいる。


 ある場所に立ち入ったまま戻って来なかった者、山の中などで単独行動を取ったまま帰らなかった者、はたまた日常生活のほんの一瞬の間に、その場から消えた者。

 そのパターンは様々だが、所謂「失踪」とは状況が異なる行方不明事件を指して呼称される場合が多く、何百年もの昔から世界各地で記録が存在し、また現代に於いても尚実際に起きている事案である。


 無論、その幾つかは現実的な理由が存在し、数年の時を経て原因が判明、解決に至る場合もある。

 だが同時に、何年、何十年、はたまた何百年経っても原因が特定出来ない例もあるという。






 アンナセイヴァーが異世界デュプリケイトエリアで遭遇した中年男性と少女は、はじめこそ戸惑っていたものの、アンナパラディンによる丁寧な説明を受け、直ぐに話を聞いてくれる様になった。


 中年男性は自身を「坂上」と名乗り、少女の名前は「猪原いのはらかなた」と教えてくれた。

 一方、アンナパラディンは自分達を“科学的調査活動をしている非営利組織”と名乗り、詳細の公開は控えた。

 無論、坂上は若干怪訝そうな態度を見せはしたが、それより久しぶりに出会う人との接触の喜びが先に立ったようだ。


「いやぁ、それにしても、この世界で他の人に出会えるなんて、本当に夢のようです!

 どうぞどうぞ、狭いところですが、ご遠慮なくお上がりください」


「どーぞぉ☆ おうち入ってー!」


「お邪魔しまーっす!」


「わはー♪ お邪魔しちゃいまーすっ」


 それぞれ元気に挨拶し、玄関をくぐる。

 坂上は、マンションのリビングに五人を招き入れると、自分達の事情を語り出した。


 彼らは、ある日突然誰もいない世界に迷い込んでしまい、そのまま戻ることが出来ず、今に至っているのだという。


「原因は、全くわかりません。

 ただ、家族旅行をしていて、国道を車で普通に走っていただけなのですが」


「そうなのですか……何と申し上げたら良いか。

 ところで、この世界での生活などは、どうされているのですか?」


 アンナパラディンの質問に、坂上は「よくぞ聞いてくださいました」とばかりに語り出した。


「ええ、話すと長いのですが、なんとか上手くやれております」


 坂上によると、この世界にはやはり住人は居ないらしく、基本的に生物は一切いない世界らしい。

 人間だけでなく、犬や猫、果ては虫のような小動物も一切おらず、その為蚊等による被害もなければ、夜に虫の鳴き声を聞くこともないという。

 当然、人間が居ることで初めて成り立つものはだいたいが利用できず、テレビやラジオ、各種通信設備や電話は完全に使用不可能。

 だが不思議なことに、内容の更新こそないもののインターネットの一部サービスが利用可能で、サブスク等も問題なく閲覧可能という、非常に謎の多い環境のようだ。


「恥ずかしながら、この世界に来てからインターネットを覚えたのですが、どのページも何時の頃からか情報が止まったままになってるみたいなんですよ」


「そういう事ですか!

 時間が止まっているような感じなんでしょうか」


「そうそう、そういうイメージですね!」


 アンナパラディンの丁寧な話し方に気を良くしたのか、それとも大勢の若い女の子がやって来てテンションが上がってきたのか、坂上は話す度にどんどん上機嫌になっていくようだ。


 一方、生活インフラは幅広く利用可能で、尚且つ、スーパーやコンビニ、百貨店などにはふんだんに商品が置かれている為、生活必需品の調達に関しては一切の不都合がない。

 

 ただ、とにかく人が他に居ないという、ただそれだけの事が、この世界で暮らす上での一番大きな問題なのだと、坂上は熱弁を振るう。


 久々に外部の人間と遭遇したせいなのか、坂上は急に饒舌になり、聞きもしないことまで色々と語り出す。

 そしてアンナセイヴァーも、そんな彼の言葉に真剣に耳を傾けた。


「ふやぁ~、なんだか夢の世界みたいだねえ」


「夢ですか、確かにそうかもしれません。

 寂しい夢には変わりありませんが」


「あ、あわわ、ご、ごめんなさい!

 そんなつもりじゃなかったんです!」


「あは☆ 赤いおねーちゃんカワイイ♪」


「おう、ありがとよ!」キラーン


 かなたとおバカな会話をするアンナブレイザーを横目に、アンナパラディンが更に尋ねる。


「ところで、かなたさんは苗字が違うようですが、ご家族ではないのですか?」


「うん、かなたね、おじちゃんに助けてもらったの」


「えっ? 最初から一緒じゃなかったの? かなたちゃん」


「うん、そうなの!」


 いつものノリで“お友達になろう作戦”を行ったアンナミスティックは、かなたにすぐ受け入れられ、あっという間に仲良しになっていた。

 かなたを膝上に乗せながら、不思議そうな表情を浮かべている。


「かなたちゃんは、たった一人でこの世界に迷い込んでしまったそうです。

 ご家族と離れ離れになって泣いていたところを、たまたま私が見つけて保護しました」


「そうなのですね。

 それで、坂上さんの他のご家族は、今は――」


 その質問に、坂上の表情が曇る。

 

「ええ、妻は何年か前に他界しました。

 無論、この世界で」


「そ、それは、大変失礼しました」


「いえいえ、構いません。

 不思議に思われるのも当然ですから」


 口元を押さえるアンナパラディンに、坂上は柔らかい笑顔を向ける。

 どうやら、この人物はとても穏やかで優しい性格のようで、かなたも相当懐いていることが窺える。

 続けて、坂上が尋ねてきた。


「ところで、あなた方はどうやってこの世界に来られたのですか?」


「はい、それについてなのですが。

 いささか、現実離れした話になってしまいますが――」


 アンナパラディンが自分達の事情を説明しようとした時、突然、ミスティックが声を上げた。


「みんな! パワージグラットの制限時間まで、あと五分だよ!」


「ええっ? もうそんなに経った?」


「それでは、もうおいとましなくては……」


「すみません、坂上さん。

 実は――」


 アンナパラディンは、事情を説明する。

 自分達はパワージグラットというものの力によって、並行世界に滞在出来ること、その限界は一時間で、それを過ぎると強制的に通常の世界に引き戻されてしまうことを伝えた。


「えーっ! せっかく逢えたのに!

 もう帰っちゃうのぉ? かなた寂しいよぉ!」


「ごめんね、かなたちゃん!

 でも、必ずまた遊びに来るからね♪」


「約束だよー、じゃあ指きりげんまんして!」


「はーい☆」


 かなたが小指を出して、アンナミスティックに指きりをせがむ。

 その様子を眺め、アンナローグは少し胸がうずいた。



「それでしたら、皆さんにお願いがあるのですが」


 帰還の挨拶をしようとした時、坂上が懇願した。


「はい、どうか、私達を――いえ、かなたちゃんだけでも、元の世界に戻して頂けないでしょうか?!」


 両手を組みながら、坂上がすがるような目で見つめてくる。

 だが、アンナパラディンは申し訳なさそうに首を振った。


「申し訳ないのですが、私達には、そういった力はありません。

 ごめんなさい、お力添えになれなくて――」


「そ、それではせめて、元の世界で私達がどのような扱いになっているのかを、教えてもらえませんでしょうか。

 それから、この子のご家族のことも――」


 途切れた言葉から、察する。

 まだ幼いかなたと離れ離れになってしまった両親は、きっと絶望のどん底に居るに違いない。


「わかりました、出来るだけの協力はいたします。

 ただ、次にいつ来られるかはわからないので、もし行き違いになった時は――」


「このマンションの入り口のとこに、ノートを置いておくね!

 そこに、伝言を書いておくから」


「うん、わかった!」


 アンナパラディンの言葉を遮るように、アンナミスティックが勝手にかなたと話を進めてしまう。

 パラディンと坂上は、苦笑いを浮かべながらその様子を見つめた。


 坂上の名前と住所を読み上げてもらい、その映像を記録したアンナセイヴァーは、リミット一分前という際どいタイミングで、ベランダから外に出た。

 ふわりと宙に舞う五人の姿を、坂上とかなたは不思議そうな顔で見上げていた。


「さよーならー! またねー!」


 かなたが、大きな声で呼びかけ、手を振る。

 五人は、それに手を振り返しながら、更に上昇した。


「坂上さん、いい人だな」


「突然どうしたんですか? ブレイザー」


「あたしらが飛んでからすぐ、ハッとして奥に戻っていったよ」


「?」


「あー、わからなかったらいいや別に」


「??」


 アンナブレイザーとウィザードは、そんな会話をしながら、更なる上空を目指す。


 それから数時間後、ブレイザーの言葉の意味にようやく気付いた舞衣は、声を上げて赤面した。


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