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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-05
105/226

 第37話【異界】3/3



 午前11時、東京中野区弥生町二丁目・本郷通り。

 その上空に辿り着いた五人は、インヴィジブルビジョンで姿を消した状態のまま、すぐに目標のマンションを発見した。


「よーし、じゃあ行くね!

 ――パワー・ジグラットっ!」


 アンナミスティックが左手で印を結び、それを道路に向かって翳す。


“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 500 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.”


 一瞬視界が青白くなるが、すぐに元に戻る。

 行き交う人々や車、バイクなどの姿が消滅し、辺りは、小鳥の鳴き声すらしない程の完全な静寂に包まれた。


「もういいよぉ!

 じゃあみんな、がんばっていこー!」


 アンナミスティックが気合の声を上げ、ローグだけが腕を挙げて応じる。


 マンションは、鉄筋コンクリートの七階建て。

 通りに面した向かって左手側には大きな自動ドアがあり、ここがマンション全体の玄関のようだ。

 一階中央には大きく開口した駐車場入り口があり、右手には駐輪場がある。

 黒い鉄柵状の扉に覆われたドアの向こうには、エントランスが広がっている。

 一度ここに入り、それから各階に移動するという、スタンダードな構造のようだ。


 少女が居たのは、二階だ。

 マンションの入り口は、特に何の問題もなく自動ドアが開き、中に入ることが出来た。

 左手にある管理人室の窓から中を覗くが、誰の姿もない。

 少々古い造りではあるものの、上品なレイアウトでまとめられたエントランスは高級感が漂い、かなり凝ったものだ。

 右手側通路の先にはエレベーターがあるようで、覗き込んだアンナミスティックが、両手を広げて何かを伝えようとしている。


 周囲をきょろきょろ伺いながら、メンバーは恐る恐る奥へと進んだ。


「この前の廃墟マンションみたいにさ、突然ユーレイとか出て来たりしてな♪」


「ヒィ! じじじじ、冗談は止めなさい、ブレイザー!」


「こんなんで真っ青になってて草生える」


「仮に幽霊が本当に居たとしても、ここは異世界ですから、さすがに存在していないのではないでしょうか?」


「そ、そそそ、そうよね~、ウィザード!

 あなたの言う通りだわっ!

 そうよねぇ、そうよねぁ~♪」


「あのー、その件なんですけど。

 実はこの前、未来さんの後」

「やめてローグ! 何も喋らないでっっ!!」


「ねーねーみんなぁ!

 早く二階に上がろうよぉ!」


 奥にある階段で待ちくたびれたアンナミスティックが、頬をぷぅっと膨らませながら呼びかけてきた。


 マンション内にエレベーターがあり、通電もしているようだったが、五人はあえて階段で移動することにした。

 二階に上がると、通路を挟んで片側四部屋、併せて八部屋分のドアが並んでいる。

 

「さて、と。

 一軒一軒声かけていくしかねーのかな」


 ふぅ、と息を吐きながら、アンナブレイザーが呟く。

 

「ここは基本的に誰も居ない世界ですし。

 呼び鈴を押して、ごめんくださーい、と言っても、応じてくださるでしょうか?」

「こんにちはーっ!」


 ウィザードが言い終わるよりも先に、奥の方から元気な声が響いて来た。

 アンナミスティックが、先行で呼び鈴を押しに向かっていたのだ。


「あわわ! ミスティック、行動早すぎです!」


「えー? だってぇ、時間ないんだよ?

 だったらぐずぐずしてられないしー」


「そ、それはそうですけど」


「それに、あの子が居た部屋、ここだよ?」


「え? そうなんですか?」


 アンナミスティックとローグが、ドアの前で問答する。

 しかし、案の定、ドアの向こうから反応はない。

 

 これがきっかけになり、五人は手分けして各部屋の呼び鈴を押してみることにした。



 ――どの部屋からも、反応は、ない。

 


 階を間違えた可能性も考慮し、もう一度映像を確認するが、少女は間違いなく二階のバルコニーに居る。

 

「ということは、もしかして、色んな建物を行ったり来たりしてるのかな?」


 アンナミスティックはそう呟くと、パワージグラットのユーティリティをモニタ内で展開し、確認する。


「こりゃあ、のっけから躓いたな。

 おいパラディン、どーする? なんかいい手はない?」


「そうね、こういう時は――ねえ、ミスティック、あなたならどうする?」


 ふと、何かに閃いたような顔で、アンナパラディンはミスティックに尋ねる。


「ふえ? えーっと、そうだねえ。

 じゃあ、こういうのはどうかなー」


 廊下の端にある避難用非常口を開き外に出ると、アンナミスティックは、ふわりと外に飛び出した。

 しばらくの間を置き――




『すみませぇ~~~~ん!!!

 こちらにお住まいの方、どなたかいらっしゃいませんかぁ~~???』



 物凄く大きな、恵の声が響いて来た。

 

「ひえっ?! み、ミスティック?!」


「す、スピーカーの音量を、最大にしたんです!」


「スピーカー?! 何時の間にそんなもん持ち込んだの?」


「ブレイザー、私達のこの声、スピーカーを通して出ているのよ?」


「え? あ、そうか! これ、アンナユニットだもんなあ」



 その後、アンナミスティックは五回ほど大声で呼びかけてみた。

 しかし、案の定、反応らしきものはない。

 このマンションだけでなく、他の建物からも、誰かが顔を覗かせることもなかった。


 ――が。


「えっ?!」


 突然、アンナローグが右耳を手で押さえた。


「どうされました、ローグ?」


 傍に居たアンナウィザードが、心配そうに尋ねる。

 ローグは、驚愕の表情を浮かべ、虚空を見つめていた。


「音が――聞こえます。

 これは……車の音?」


「「「 ええっ?! 」」」


「何ナニ? ローグ、どうしたのぉ?」


 少し離れた場所にいたアンナミスティックが、不思議そうな顔で呼びかける。

 アンナローグは、ある方向を指差しながら恐々答えた。


「あっちの方向……えっと、青梅街道方面、というのでしょうか?

 そちらから、車の音が――」


「えっ?」


 そう言い終らないうちに、マンションの左手方面から、確かに何かの走行音が響いて来た。

 やがてそれは徐々に大きくなり、静かな街中に反響し始める。

 数分後、一台の黄色いSV車が、こちらに向かってやって来た。


「おいおいおいおい……マジかよ」


「ほ、本当に、自動車が」


「ふわぁ」


「わーい☆ やっぱり、住んでる人いたんだねっ!」


 大喜びするアンナミスティックとは対照的に、呆然とする他の四人。

 車は、コンビニの手前辺りでキッとブレーキ音を鳴らし、停車する。


 運転席から降りて来たのは、一人の少女――ではなく、細身の中年男性だった。

 男性は、目を剥きながら五人を見つめていたが、やがて頬を赤らめ、少し視線を外しながら話しかけてきた。


「あの、あなた方も、もしかしてこちらに?」


「あ、はい。

 実は私達は――」

「こんにちはー! 初めましてぇ☆」


 アンナパラディンが話し出すよりも早く、アンナミスティックがホバー移動して男性のすぐ前に立った。


「ひっ?!」


「私達、普通の世界から来たんです!

 おじさんは、この世界の住人さんなんですかぁ?」


 顔をぐいっと近づけながら、中年男性に無邪気に尋ねる。

 だが、その美しい顔立ちで迫られたせいか、或いは大きく開いた胸元のせいか、男性はかなり話し辛そうだ。


「あ、あの、すみませんが、ちょっと近すぎで」


「にゅあー☆ ごめんなさい!」


 アンナミスティックがそう言って数歩下がった瞬間、車の助手席のドアが開いた。


「あーっ! あの時のお姉ちゃんだぁ!」


「へ?」


 その声は、小さな女の子の明るい声。

 アンナミスティックは、思わず凝視した。


「あっ! 居た!」

「あの子は!」

「本当に、いらっしゃいましたね!」

「おおお、遂に、感動の出会い!」


 後ろに控えている四人が、感嘆の声を上げる。

 車から降りて来たのは、アンナミスティックの映像に映っていた、あの少女だった。


「すごーい! お姉ちゃん達、カッコイイ!」


 少女は、アンナセイヴァーを見て、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んだ。




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