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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-04
100/226

 第36話【食神】2/3


 45分経過。

 威張田チーム 合計69ポイント。

 ありさチーム 合計39ポイント。

 勝負は、完全に決していた。


「残念だったわねー、やっぱり、その道のプロには勝てなかったという事なのかしら」


 店長が、すでに悶絶状態となったありさ達のテーブルから皿を下げつつ呟く。


「あ、あんたが勝負をたきつけたんでしょうが~」


「せ、せめて40ポイントは超えたかった……」


「ガハハハ、ではお前達、今日一日だけ人間としての自由をやろう。

 明日からは我等の肉奴隷よ!」


 あれだけ食ったのにまだ全然ゆとりの威張田兄弟が、揃って腕組みをしながら見下ろしている。


「と、ところでありささん、ニクドレーって、なんですか?」


「な、何よ愛美……。

 そんなのも知らないの?」


「は、はい……うっぷ」


「未来、せ、せ、説明してやって……」


「な、なんで私が……?」


 突然振られた未来は、しばらくの沈黙の後、蚊の鳴くような声でレクチャーを始める。


「それはね……。

 どこか訳のわからない洋館でメイド服着せられて、なんでも言う通りに奉仕させられる人間の事よ」


「そ、それでは……私は元々ニクドレーだったのですか?」


「い、いや……そうじゃないでしょ」



「いい? それじゃあ、ここで勝負を締め――」


 そう店長が言いかけた時、




「待ってーッ!」





 突然、どこかから大きな制止の声が響いた。




「むうっ、何奴ぢゃ?」


 マンナッカーが入り口の方に視線を向けると、そこには、やっと人だかりを乗り越えてきた少女二人の姿があった。

 清楚な服装に豊満な肉体を包んだ姿と、生足全開のショートジーンズを履いた肉体美は、三兄弟の邪な肉欲を一気にかき立てた。


「ぬぬっ、巨乳再び!」


「むむううっ、へ、ヘソ出しぃ! ホットパンツぅ!

 た、たまらんっ!!!」


「思わずマニアックっ!」


「突然欲望を口に出しなさんな、このエロ兄弟。

 って、あ、あんた達は!」


 驚く店長を尻目にありさ達に駆け寄った二人は、彼女達の惨状を眺めて眉をしかめ、そして男達の方を睨みつける。


 相模舞衣、相模恵。

 駆けつけたのは、蒼い魔女と緑の戦士だった。


「ま、愛美さん、ありささん、未来さんまで」


「ひどい、どうしてこんな事を?!」


「ぐへへ、なんだ?

 お前達も肉奴隷になりてぇっていうのか、ぜえいっ!」


「おい、今のセリフは無理があるだろう」


 新たな美少女二人の登場に、勝利に酔いしれる男達のド失礼な言葉が炸裂する。

 そのあまりの侮辱に、二人は、怒りと恥ずかしさにぷるぷると身を振るわせた。


「な、なんて破廉恥な!」


「この人達が、愛美ちゃん達をこんな目に?!」


 三人の筋肉と、二人の美乳が真正面から激突の火花を散らそうとしている中、店長・瞳だけは、一筋の冷や汗を垂らしながら、この状況に別な意味で感嘆の念を示していた。


「まさか、この子達があんたらの知り合いだったなんてねー。

 世の中狭いわ」


「瞳さん!

 私達が、ありさちゃん達のチームに助っ人として参加するよ!」


 恵が、珍しくギラついた視線を向け、はっきりと言い放つ。

 その言葉と態度に、場の人々はさらなる動揺の声を上げた!


「め、メグちゃん。

 それはいいけど、とても勝負にならないわよ?!」


「大丈夫!

 ルール読んだけど、要は一人ひとりのノルマがクリアできてればいーんだよね?」


「いや、そうじゃなくて、ね」


「おいおいお嬢チャン。

 気は確かか?!

 その上で、俺達のポイントを今から抜かないとならないんだぜ?」


「ましてや、そこで沈没している者達がこなせなかった分まで上乗せされる。

 もはや並の人間には果たせぬ事道理よ」


 威張田達の挑発が浴びせられるが、舞衣も恵も、まるでそれが聞こえていないかのように、平然とした態度で席につく。

 手前のテーブルの上の皿をどけ、隣で突っ伏している三人を軽く一瞥する。


 そして舞衣が、「ビシィッ!」という効果音付きで、威張田三兄弟を激しく指さした。


「私達、今から勝ちます!

 あなた達に!!」


 高らかな宣言が、店内に響き渡る。


「こ、こいつら正気か?!」


「我々は、全員各自23ポイント稼いでおる。

 対して奴等はこれまで平均13。

 あの二人は、今から30ポイント以上稼いだ上に、自分たちのノルマをこなさなければ我々に勝てないのだが」


「むふふ、しかし我々はまだ食べられる、ぜえいっ!」


「確かに!

 五人総肉奴隷化の野望は、ひるむ事はない!」


「兄者達、提案なのだがな。

 あの二人は、我々共用の玩具として」


 なんだか勝手に盛り上がっている三人を完全に無視して、舞衣と恵は、店長に目配せを施す。

 それを見た店長の顔はなぜか青ざめ、思わず数歩後ずさってしまった。


「あ、あんた達、まさかアレを?!」


「はい、いつもの“お忍び”で。

 その代わり、本気、出します」


「よろしくお願いしまーす♪」


 元気な返事とは裏腹に、あからさまな店長の動揺はギャラリーにも伝染する。

 何だかよくわからないが、舞衣と恵のあまりに自信たっぷりの態度は、かえって周りに戦慄を振り撒き始めているようだった。

 ふと、どこかから声が上がった。


「あ、もしかして、“チャンプ”?!」


 その言葉は、一瞬静まり返った店内に響き渡る。

  

「チャンプ?!」

「あ、あの伝説の?! どこだ、どこにいるんだ?!」

「俺、まだ実物を一度も見た事ねーんだ!」

「実在したのかよ! チャンプって?!」



「ち、ちゃんぷ?

 み、ミキ、ちゃんぷって何?」


「“ちゃんぷ”って言ったら……野菜ののった、な、長崎名物の……麺類」


「嗚呼、アレの事かぁ」


「ニガウリがおいしいんですよ……こ、今度作ってさしあげますね…けぷ」


「それ、ちゃんぷるじゃなかったっけ」


 すでに脳の支配権をラードに奪われた者達は、眼前に展開する事態を正確に捉える事すらも出来なくなっていた。




 相模姉妹 VS 威張田三兄弟!





 ずももと音を立てて、達筆で書かれた文字が背後にそそり立つ。

 新たな闘いの火蓋が、切って落とされた。


 すでに自分たちの絶対的勝利を確信した三人組に、相模姉妹の鋭いまなざしと、観客達の好奇の目線が集中する。

 だがそんな中、店長の瞳だけが、口笛まじりで厨房内の調理人達に指示を与えていた。


「あんた達、それぞれ麺を三玉ずつくらいゆで始めなさい」


「はあ?! い、いくら何でも、今からゆで始めたら、一杯目はともかく三杯目は…」


「だーいじょうぶ!

 十分後には、そんな事言ってられなくなるわよ。ホラ、早く早く!」


 パンパンと手を叩き、状況を飲み込めていない調理人達を急かす。


「あのっ、すみません」


「メニューの右端から、順番に全部持ってきてくださーい!」


 相模姉妹の声が、一瞬静まり返った店内に響き渡る。

 その言葉は、その場にいた全員の思考を、一時的に停止させた。


「な、なんだと?!」


「ガッハッハ、そんな事して虚を突こうったって、まったく意味はない、ぜえっ!」


「そなた達、気は確かか?」


 威張田達の、嘲笑を含んだ罵声が響く。

 だが、そんなものどこ吹く風といわんがばかりの態度で、舞衣と恵は鎮座し続けている。

 あまり大した時間を置かずに、舞衣の元に「高菜ラーメン」、恵の前に「特製大黒ラーメン」が配られる。


 辛すぎない、程良い味わいの高菜が、醤油とんこつベースのスープとよくなじみ、常連を惹きつけている人気商品。

 そして、すべての基本を押さえたもっともベーシックなスタイルの商品だ。

 ちなみに、半熟なのにも関わらずたっぷりとダシが染み込んだ味たまごは、ラーメン通でも思わず声を上げてしまうほどの絶品だ。

 その、どんぶりの中央に丸ごと一個乗せられた味たまごをしばし凝視すると、恵は、すぅぅぅ~…っと息を吸い込んだ。


「うーん♪ こういうの久しぶりだね、お姉ちゃん」


「そうですね。

 今日はお兄様もいらっしゃらないから、 遠 慮 な く 行 き ま し ょ う 」


「? あいつら…今、なんて?」


 ウヨッカーがそう呟いたのとほぼ同時に、店内に大きな歓声が響き始めた。





 ず る る っ ×2


 ごっ く ん ×2


 ぱ く ×2


 も ぐ も ぐ  ×2


 ゴトン×2





 一瞬、だった。


 時間にして、数十秒たらず。

 大黒屋自慢の二大メニューは、相模姉妹の胃袋の中に、すべて収められてしまった。

 電光石火とは、まさにこのためにあるような表現だった。


「次、お願いしまーす」


 恵が、明るい声でそう申告する。

 すると、待ってましたとばかりに店内から次のメニュー・特上チャーシュー麺と、生のりラーメンが届けられる。

 そのあまりのタイミングの良さに、サヨッカーは、“すでに店側も知っていた”という事実を悟った。


「しまった、謀られた!」


「あ、兄者! こ、このままではまずい!」


「な、な、何を言ってやがるんだ、ぜえいっ!

 これだけの大差が付いているんだから、俺達の勝利が揺らぐ事は……」


 そんな会話をしているうちに、



 ず る る っ ×2


 ごっ く ん ×2


 ぱ く ×2


 も ぐ も ぐ ×2


 ゴトン×2



 さらに、一セット聞こえてきた。


「よ、妖怪か、あの娘達は?!」


「あ、兄貴……こ、これは一体……」


 硬直するサヨッカーは、姉妹が食べる様を一部始終見てしまい、恐怖で震えていた。


 熱い湯気をたっぷりと漂わせたどんぶり。

 それを、突然ガシッとつかんで持ち上げ、一気にスープを飲み干してしまう。

 テーブルに戻されたどんぶりの中には、麺と具だけが点在している。

 徐に箸を入れると、一瞬、それが視界から消える。

 常軌を逸したスピードで箸が旋回している事に気付いた時、彼は……とても文章では表現できない驚異の映像を眼に焼き付ける事になる。



 先ほどまでの可愛らしい仕草からはとても想像できない、大口を開けて麺をすすり込む舞衣と恵。

 ほぼ一口で麺の塊を「呑み干して」しまった二人は、軽く一息つくと、吸い込み切れなかった具を箸でつまみ上げていた。

 これが、あの会話の間にすべて行われたのである。


「ふう♪ やっぱり、久しぶりに食べるとおいしいよね、お姉ちゃん?」


「そうですね!

 たまにはこうやって好きな物を思いっきり食べないと」


 彼女達の前に、三杯目のノルマが置かれた時、三兄弟の背筋に冷たいものが走り始めていた。


「ゆとりだ! あいつら、ゆとりで食ってやがる!!」


「まずいぞ兄者!

 奴ら、本当に自信があったから、我々にあんな宣戦布告を!!」


「ぐ、ぐううっ?!」


 危機感を覚え、壁に貼り付けられたメニューの短冊に目線を送った直後、三人は再び硬直した。


「し、しまったっ!」


「時間があっ!?」


「ぐうっ?! ぐ、ぐおおぉぉぉぉっっっ、こ、これは……っ?!」


 みるみる青ざめていく三人の態度は、戦況を見守る者達にとって奇異に映る。

 先程までの余裕がなくなり、突然動きがぎこちなくなり始めた様子を見て、瞳は、何かを思いだしたかのように時計に視線を飛ばした。


「開始後、50分か。なるほどね」


「て、店長、彼らどうしたんですか?」


「限界が来たのよ」


「限界?」


「そう、いままで一気にまくし立てていたのに妙な休憩時間を入れちゃったから、胃袋の中で膨らみ始めた具や麺に圧迫されちゃったのよ。

 ここからが、彼らにとっての正念場でしょうね」


 瞳の言葉に納得したのかしないのかよくわからない表情を向ける店員は、テーブルに突っ伏してほとんど意識をなくしているありさ達を見つめ、そして次に…一番元気な「チャンプ」達を見つめた。


「すみませーん」


「おかわりお願いしまーす♪」


 申告が聞こえたのは、それとほぼ同じタイミングだった。


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