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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第1章 アンナローグ起動編
10/225

 第4話【探索】3/3

 ここは、北棟。


 凱ともう一人の影―― 夢乃は、目の前に突如現れた存在に喫驚した。


「なん、だ、コイツは?!」


「ぶ、豚……人間?!」


 夢乃が呟く通り、「それ」は豚であり、人間であった。

 否、もっそ正確表現するならば、豚の頭と体型、そして人間の手足を持ち、二足歩行する「巨人」だった。

 その身長はおおよそ2メートル半、黒目のない白濁の眼でまっすぐにこちらを睨むつけている。

 だらだらと粘液のようなものを口から垂らし、全身にはまばらな毛と不気味な皺が広がる。

 そしてその口からは大きな牙が上に向かって伸びており、紫色の気味悪い舌先が覗く。


 豚の断末魔を数倍大きくしたような、おぞましい鳴き声を立て、その異形の怪物はゆっくり二人に近付いて来た。


「まるでRPGに出てくるオークじゃねぇか、このバケモノ」


「ど、どうしてこんなのが、ここに居るのよ?!」


「知るか!

 逃げるぞ! 走れ、夢乃!!」


「あ、ちょ、待って!

 凱、フォトンドライブ!」


「あ、そうか!」


 足首に装着された球型の機器が光を放ち、二人の身体を宙に浮かばせる。

 その直後、凱と夢乃の身体は何かに撃ち出されたように滑空し、廊下を高速で移動し始めた。

 その様子に、突如豚顔の巨人は怒り出し、更に声を荒げた。


「追ってくる! 早く、ドアを!」


「このまま蹴破るぞ!」


 滑空しながら、凱は飛び蹴りの態勢になり、そのまま東棟へのドアへ突進する。

 ドン、という大きな鈍い音と共に、観音開きのドアは勢い良く開かれた。


「きゃあっ?!」


 と、その時、誰かの短い悲鳴が聞こえた。


「えっ?!」


 何者かの影が、数メートルほど廊下を滑っていく。

 もうもうと埃が舞い上がり、ゆっくり立ち上がった影が咳き込む。


「び、びっくりした……な、何が起きt――」






「び、びっくりした……な、何が起きt――」


 突然襲い掛かった風圧に吹き飛ばされ、愛美は誇りまみれの廊下を数メートルほど滑走してしまった。

 身体がところどころ痛むが、幸い、怪我はなさそうだ。

 立ち上がろうとした時、何かが膝の上から転がり落ちる。

 何だろう? と手を伸ばした視界の端に、逆光で佇む何か巨大な「影」が見えた。


 ブモオオオォォォォオオオオオ!!!


 地を揺るがすような、今まで聞いた事もないような「こえ」。

 影は、ありえない程の巨体を振るい、明らかに身の丈より低い廊下を、かがむ様な姿勢で無理やり突っ込んできた。

 ごりごりと、天井が削られていく。

 床に跪いたままの愛美は、状況が飲み込めず、ただ目の前の異様な光景を見つめるしかなかった。

 思考は、完全に停止している。


「愛美! 何してんの! 逃げるよっ!!」


「え――きゃあっ?!」


 突然、誰かに引っ張り上げられ、愛美は拾おうとしていた「何か」を、反射的に掴んだ。

 気付くと、愛美は数十センチほどの高さに浮かんでおり、南棟の方向に後退させられていた。

 

「だ、誰?! 誰なのですか?! いったい、何が――」


「話は後だ! 今は脱出する!」


「が、凱さん?!

 夢乃さん?!」


 驚いて何度も顔を見返す愛美を抱え、凱は南棟の扉をも蹴り飛ばす。

 バキッ、という凄まじい音がして、扉が蝶番ごと吹き飛んだ。


「どうする?! このまま脱出するか?!」


 愛美の頭上で、凱の叫び声がする。

 

「凱は、愛美と一緒に外へ!」


「お前はどうすんだ?!」


「あの人達を放っておけないでしょ! 逃がさなきゃ!」


「了解!」


「ちょ、ちょっとお! ですから、一体何がどうなってるんですか?!」


「あ~もう、黙ってて!」


 尚も、「影」はこっちに迫っているようで、壁やら天井を破壊しながら迫ってくる音が聞こえる。

 夢乃はホバリングしながら振り返ると、ボール型の装備のピンを引き抜き、東棟の廊下に投げ込んだ。

 数秒後、何かが吹き出すような音と共に、白色の煙が漂ってくる。

 と同時に、苦しむような叫び声が響いて来た。


「今のうちに!」


「わかった、後は頼む!

 ナイトシェイド!」


 玄関ホールまで達した凱は、腕時計に向かって叫ぶ。

 すると、なんと玄関のドアを突き破り、漆黒のスポーツカーが館の中に飛び込んで来た。


「ひえっ?! く、車?!」


「乗り込め!」


 車のドアが、左右同時に開く。

 凱は愛美を助手席に放り込むと、自身も運転席に飛び込んだ。

 と同時に、漆黒の車はその場で180度ターンし、今来た方向に向き直った。

 シートベルトなどしていない二人は、当然、遠心力で体勢を崩してしまった。


「きゃあっ?!」


「一旦出るぞ、ナイトシェイド!」


"了解"


 女性の声が突然車内に響き渡り、愛美は、思わずきょろきょろと見回してしまう。

 車はすかさず館を飛び出し、庭先を滑るように駆け抜ける。

 表門を通り過ぎ、山道に出た時点で、ようやく停車した。


 その間、凱は、ハンドルに触れていない。


「あの、凱さ――」


「悪いが、愛美ちゃん。

 今は、俺の話を聞いてくれ!」


 言葉を遮り、少し焦った口調で、凱が話し出す。

 いつもの癖が出て、愛美は、つい押し黙ってしまう。

 ぐっと握った手の中で、先程拾った物が存在感を示している。


「今から、このままここを脱出する。

 愛美ちゃんにも、同行して欲しい」


「昨日のお話ですか?!

 ですから、私には――」


 そこまで話して、言葉が止まる。


「俺達の素性は、後で説明する。

 だが今は、ここから逃げ出すことが最優先だ」


「あのバケモノみたいなのは、何なのですか?!

 あのままでは、夢乃さんが――いいえ、他の先輩達は?!

 奥様は……」


「君には申し訳ないが、他の皆は連れて行けない」


 愛美の必死の言葉は、冷酷とも云える一言に切り捨てられる。

 凱がシートベルトを締めたのと同時に、再びエンジンが動き出した。


"千葉愛美様、シートベルトをお締めください"


 どこからともなく、女性の声が聞こえてくる。

 だがそれより、愛美は、先の凱の言葉に耳を疑い、そのまま硬直していた。


「大丈夫、そこは夢乃がなんとかする。

 だが今は、何より君の――って、おい、何を?!」


 愛美は、突然車のドアを開けると、館に向かって駆け出した。

 外は雨の降りが未だ激しく、叩きつけるような雨粒が車内にも飛び込んでくる。


「馬鹿、なんで開放した?!」


"マスターの指示で、愛美様をサブマスター登録しておりました為……"


「くそっ!!」


 凱も、大急ぎで雨の中へと飛び出した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 化けものの恐ろしさがよく分かりました。
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