花祭り その一
その後編第二弾です。
全4話のお話になります。
今日はジークと共にジークの故郷の街まで!
初めて違う街に行ける! しかも花祭りって! めちゃくちゃ楽しみ! 楽しみなんだけど……、ラズがやたらと不機嫌なのが鬱陶しい。
「そんなに気に入らないならラズは王都に残ったら良いじゃない」
「そんな訳いくか!!」
「じゃあそんな不機嫌でいないでよ!」
「そ、そんなの仕方ないだろ! どうやっても嫌なもんは嫌なんだよ!」
はぁぁあ、やたらとジークに敵対意識を向けるのはやめてもらいたい。
以前、日本へ帰るかもしれない、と話しをしたときにジークに告白された。
「好きだ」と真っ直ぐに想いを伝えてくれた。物凄く恥ずかしかったけれど嬉しかった。でも私はラズが好きだったから受け入れることは出来なかった。
そのことも正直に話すとジークはその答えを素直に受け入れてくれた。
ジークは本当に優しい。いつも優しい。私が困らないように、次に会うときは友達だと言ってくれた。
そんな優しいジークを困らせたくない。ラズには悪いけど、ジークは大事な友達だから。
「ラズ……」
「な、なんだよ」
「ジークは私にとったら大事な人なの。喧嘩売ってばかりなんだったらラズは王都に置いていくから」
「だ、大事な人……」
ラズが涙目になった……。ちょっと私が泣かせたみたいじゃない、やめてよ~。
「分かった……大人しくしてるから……一緒に行かせてくれ」
「ラズは……特別な人だよ」
「!!」
そう言うと一気に表情が明るくニコニコになったラズだった……うん、お馬鹿だけど素直で可愛いのよね。
「おはよう、ヒナタ」
「おはよう、ジーク」
「…………」
王都の外で停車していた乗合馬車の前でジークと待ち合わせた。ジークは私の荷物を持ってくれ、馬車に乗り込む。こちらに振り向き手を差し伸べてくれ、ジークの手を取り馬車に乗り込んだ。
氷の切り出し依頼のときの馬車よりも、もう少し豪華になった感じの馬車。他にも何人かの乗客がいて、それぞれ荷物を置くと腰を落ち着けた。
ジークが先に座るとその横に促される。ジークが座り、私、ラズの順に座る。
馬車に揺られながら、景色を眺めていると王都から離れて行くほど、段々と木々が生い茂り、そして街が近付くとまた切り開かれた平地が現れていた。
ジークの街へは同じ馬車で行けるわけではないらしい。二度ほど乗り換えて進む。乗り換えのため立ち寄った街では休憩がてら街を少し散策したり、昼食を取ったりと、初めての街に浮かれてしまった。
「ヒナタが楽しそうで嬉しいよ」
ジークはそんな私をニコニコしながら眺めていた。なんだか恥ずかしいわね。
ラズは何も言わなくなったけれど、片時も側から離れない。ちょっと鬱陶しい。はぁあ、でもまあそれは仕方ないか……。
二度目の乗り換え、あとはジークの街までこの馬車で進むだけだ。そしてその道中、ジークの家族について話を聞いた。
ジークの家はジークが十五歳のときに父親が亡くなっているらしく、母親と幼い妹の三人で暮らしていたそうだ。
父親が亡くなったとき妹は五歳でまだまだ幼く、母親は父親の代わりに仕事をせねばならなくなり、必然的にジークが妹の面倒をよくみていたそうだ。
ジークが十八歳になった頃家族を支えるために、割のいい仕事を求めて王都へ来た。そして今のような力仕事を請け負うようになったらしい。今も毎月仕送りをしているそうだ。
「そうなんだ……大変だったんだね……」
「い、いや! そんなしんみりする程じゃないぞ!? 俺が王都に出て来たかったのは母親も知っていたし、出稼ぎのためというより、俺のために母親は王都に送り出してくれたんだ」
ジークの育った環境にしんみりとしていると、ジークは慌てて否定した。その姿がなんだ可愛くクスッと笑うとジークはホッとしたような表情をした。
「でも妹さんは寂しがったんじゃない?」
ずっと側にいてくれたお兄ちゃんがいきなり遠いところへ行ってしまったなら、きっと寂しい思いをしたんじゃないかしら。
「うーん、まあ最初出るときは泣かれたけどな。いまや帰ってくるたびに王都の土産をせがまれるよ」
そう言ってジークは笑った。ハハ、仲の良い兄妹なのね。
それからも他愛のない話をしている間に、ジークの街へと馬車は到着した。
馬車から降りて街へと入ると……
「わぁ、なにこれ! 綺麗!!」
街は一目で分かるほどに色とりどりの花がそこかしこに飾られ、街中に花の香りが漂い、風が吹くたびに花弁が舞っていた。
「明日はもっと凄いぞ」
ジークは嬉しそうな顔で私の荷物を持つと歩き出した。
「あ、あぁ、ジーク! 荷物! 自分で持つから!」
慌ててジークに駆け寄るが、ジークは片手でまとめて荷物を持つと、もう片方の手で私の手を掴んだ。
「!! だぁっ!!」
驚く間もなくラズに思い切り手刀で引き剥がされた。
「調子に乗るな!!」
ラズがその手を取ると力いっぱい握り締めて来た。
「ラ、ラズ、痛い」
「お前も油断するな!」
「はぁ!? 油断ってジークに警戒なんてしないでしょ!」
「誰が相手でも警戒はしろ!」
ラズと二人で言い合っているとジークが呆れたように笑った。
「ハハ、まあラズが言うことも一理ある。ヒナタは俺のことを信頼してくれてるみたいで嬉しいけど、俺も男だしな。まだそんなすぐには吹っ切れていないしな。警戒したほうが良いかもしれないぞ?」
そう言いながらジークは真っ直ぐ見詰めニッと笑った。
吹っ切れていない、というのは……、えっと、きっとあのことよね……。その、私を……好きだと言ってくれたやつよね? 勘違いじゃないよね……、これ、勘違いなら物凄い恥ずかしいじゃない。
ということは今もまだ私のことが好きってこと? え、ジークが、私を? まだ好き? え、そうなの? え、いや、まあそうなの……かな? そんな簡単には好きじゃなくならない、よね、確かに……。
ジークはまだ私のことが好き。
ボンッ!と音が出るのではという勢いで顔が火照ったのが分かった。
あわわ、ど、どうしよう。
どう答えたら良いのか分からずあわあわしているとジークはブッと吹き出した。
「ブフッ。アハハ! やっぱりヒナタは可愛いな! ハハ」
頭を撫でられジークは盛大に笑った。
うーん、これってなんだか好きというより幼い子を相手にしているような気も……。
そんなことを考えていると、ジークは優しく微笑み撫でていた手で耳をそっと撫でた。一瞬の出来事にビクッとしたが、そのままジークは手を離し、
「やっぱりまだ好きだよ。もうしばらくだけは好きなままでいさせてくれ、ごめん」
少し寂しそうな、しかしとても優しい笑顔でそう言うとジークはそのまま背を向け歩き出した。
ラズは怒り心頭といった様子でジークに詰め寄り、ジークは笑いながらそれをあしらっている。
私はと言うとそんな二人を後ろから見詰め、高鳴る心臓をなんとか落ち着かせようと必死だった。