(9)「I want to meet you」
『第六ゲーム勝者、Aクラス鈴本。親が二巡したため、クラス委員によるインディアンポーカー対決を終了します』
負けたこと自体は私の狙い通り。私の方が数が大きい確率が高いのに2位予想をしたんだから。
そして、中間の数を宣言すると怪しまれると思って小さめの数を宣言した。なのになんで私の宣言♦4に近い♥6を宣言したの。
「何故わざと負けた。第六ゲームは利益を見込めるから終わりにしたかった。そう納得出来る。続けたらポイントが0になる可能性もあるからな」
「真剣勝負で、不愉快だったよね。ごめんね」
「いや、それも戦略だ」
それなら、なんでそんなに怒ってるのかな。怖いよ。
「この説明は最終ゲームしか出来ない。何故第三ゲームでわざと負けた」
「分からなかったから、吉江くんを嵌めようって思っただけだよ。鈴本くんは♥7だったけど、私そんなに大きな数だったっけ?」
「いいや、佐々木さんは♧8だった」
2位って予想したよね?なんで5と8の間に自分の数があると思うの?しかも賭けたのは3万。
「一応納得出来る。だが、ひとつ疑問が残る」
なになに怖いよ。なんで私がクラス委員なの。本当に嫌だ。
「栗原くんがわざと早々に負けたことには理由がある。分かるか」
わざとなんだ。それなら、分からなかった信頼を得るための他の方法も分かる。
この勝負で勝つ。それよりも、負けた自分を受け入れてくれるように操作する方が簡単だと思ったから。
「わざと負けたんだって、鈴本くんが思ってるだけだよね。そうだったとしても、私には分からないよ」
「自信のあるやつは傲慢になっていく。傲慢なやつは大抵、答え合わせをしたくなるものだ。自分が正しいと証明したいものだ」
傲慢って良いことではないから、違うならそれで良いと思う。なんでため息を吐かれたんだろ。
「君は本当に、佐々木さんなのか」
酷い寒気がした。
「どういう意味…?」
「リーダーってのは、多少傲慢でないと出来ない。こういうゲームなら尚更な。相手を自分の思い通りに動かそうとするだろ」
自信が足りないって言いたいの?そんなの、あるわけない。
「見舞いはここまでだ。気を付けろよ」
呼び止める私には応じず、部屋を出て行ってしまう。
見舞いってことは、なにか知ってることがあるの?気を付けろって、なにを?私が本当に佐々木なのかって、どういう意味?
端末には佐々木だって書いてあった。私が佐々木でないのなら、一体誰が佐々木なの。誰がリーダーなの。
「佐々木さん、お帰り。すごかったよ」
「ありがとう」
本当は教室に戻りたくなかった。けど、鞄を置きっ放しだったから取りに来た。
信頼してもらう必要がある。それと同じように、私も信頼する必要がある。なにも疑いたくなかった。
あれよあれよという間に、カースト上位っぽい見た目の人に囲まれる。中学の頃、私をいじめてた人たちに似たり寄ったりの人たち。
あの人たちとは違う。そう頭では分かってても、怖かった。
凛ちゃんに視線を向けると、数人の女子と話し込んでた。私のことはもうどうでも良いの?ねぇ、凛ちゃん。
もう助けてはくれないの?
「鵜野さん、佐々木さん見てない?」
「え…なんででしょう…」
なに、その口調。よく見たら、周りの女の子は大人しいグループに入りそうな子たち。なにがあったの。
あとで2人で話そう。今は、念のためあのことを説明しないと。
「あのね、ポイントのことなんだけど…」
実際はなにも賭けてなかった。その理由は、嘘っぽかった。
自分のポイントを賭けてるって思わないと真剣にやらないかもしれない。だから実際は誰のポイントも、増えてもないし減ってもない。
簡単な説明が終わるのは、早かった。私の心臓の鼓動も、早くなってた。
なんて言われるのか、怖かった。あの人たちならなんて言うか分かるから。もう十分分かってるから。
「学校マジ最低。舞台立ち損じゃん。あれ、絶対プレッシャー半端ないっしょ。せめてご褒美ポイントくらいあっても良くない?クラス委員可哀想」
――あの人たちとは違う。違うんだ。
「え?なに?アタシ変なこと言った?」
「ううん。怒ってくれると思わなくて。ありがとう」
「別に。いくらだって代わりに怒るし、泣くし。けど、笑うのは自分でやってよ。時化た顔でリーダーやられちゃ、気分上がんないっしょ」
そういえば私、ここに来てから一度も笑ってない。
「うん」
精一杯笑った。でも、無理はしてなかった。
***
Dクラスは27人でなんとなく仲良くやれてた。仲良しグループは当然あるけど、目立ったカーストはない。
私は初日に怒ってくれた、平松さんたちと仲良くしてる。
凛ちゃんとは話せてない。鵜野さんとは話してない。
手芸部に入ってAクラスの佐藤さんと仲良くしてる。そう人伝に聞いた。クラスでは入学式の日に一緒にいた大人しいグループの感じの人と3人でいる。
「3人1組になって」
すぐに決まった。それが逆に、私を不安にさせた。
平松さんが目立つタイプの子だから、私が知らないだけかも。本当は、私が思ってるよりも如実にカーストがあるかも。
私はあの人たちと同じことを、知らない内に…
「あの3人さ、マジ仲良くない?全員顔面偏差値高いし、福眼としか言えないっしょ。正直、噂はちょっと気になるけどさ」
平松さんの視線の先には、秦くんたちがいた。
入学式の日、早々に3人で出て行ったと聞かされた。それを知らなくてもあの3人はすごく仲が良いように見える。
「鶴見もさ、初日から友達作り失敗した。みたいな顔してたけど、友達出来ててアタシも嬉しいし。でもさ、仲良しグループで良いの?」
平松さんは本当に、あの人たちとは違う。クラスの様子を良く見てる。それに、他人のことで喜べる。
これから始まるのがクラス委員でやったゲームみたいなのだって、気付いてる。
「分からない。だけど…」
「なにが起こるが分かってんならアタシはなにも言わない。好きにやれとか信頼してるとか責任転嫁っしょ」
そう。だから私はあの人たちが嫌い。いじめられてたから怖いとか、そういうのだけじゃない。
「大丈夫。なにがあっても、アタシは佐々木をひとりにしない。なんにも自信ないけど、それだけは信じて」
「うん。ありがとう」
その言葉だけで、私はきっと何倍も強くなれる。
「もう良いね?」
代田先生の問いかけに頷く。
「これからクラス対抗、宝探しゲームを行います。ルール説明してやるから、有難く聞けよ」
でもね、そんな言葉がなくても大丈夫。孤独には慣れてるから。