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108人のその他大勢  作者: ゆうま
1年1学期
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Ⅳ「環境」

 高校生になった。でも、なにも変わらない。少しは自由になれるかと思ったのに、むしろ囚われている気がする。

 それはこの学校のシステムのせい。そういうことにしておこう。


 帰りたくない…いや、帰る場所がもうない。そう厨二っぽいことを言ってこの学校を選んだのは僕自身なのに。

 自分だけの部屋がある。自分だけになれる空間がある。それはひどく久しぶりで、望んだはずなのに少し寂しい。


 なにかがしたくてこの高校を選んだわけじゃない。

 全寮制の学校はどこも私立で、学費が高い。親のいない僕に、私立なんて行けるはずもなかった。

 寮に入るのが自由なら当然のように通うことになる。


 僕がこの高校を選んだのは、学費が無料で全寮制の学校だったから。


 偶然見つけたこの高校の資料を詳しく見て、受けるだけ無駄だと言われると思った。エリートの卵が通う学校に、受かるはずもなかった。

 けれど当時の担任や施設長は進学する気があったことを喜んで、高校についてはなにも言わなかった。


 合格通知を受け取ったことを報告すると、一応喜んではくれた。だけど、その笑顔はどこか浮かなかった。

 今思えば、この高校の資料を見せたときの笑顔だけが妙に明るかった気がする。理由は知らない。そして、全く見当が付かないことにする。


 そんなこと…これには語弊があるけれど、今真っ先に考えるべきことではない。そういう意味ではそんなこと、に間違いはない。

 僕には今、本当に今。困っていることがある。


 友達の作り方を忘れた。


 仲良さ気に談笑している生徒たちだけではない。大人しく自分の席に座っているだけの生徒もいる。

 ただし彼、彼女らはきっと、友達を欲していない。けれど僕は無難な高校生活を送るため、友達を欲している。

 決定的な違い。


 「席に着いて」


 タイムリミットだ。担任らしき人物が教室に入って来た。


 「入学おめでとう。お前らDクラスの担任をする代田(だいた)です。よろしくしてやるから、有難く思ってね」


 周囲を見ると、多くの生徒が同じようにしていた。担任のキャラに戸惑っているのは僕だけではないみたい。


 「お前らに配布されたポイントは、学校からの入学祝いだよ。入学試験を突破してDクラスに配属。おめでとーってことだね」


 学校のシステム的に多少のポイント配布があるとは思っていた。でも45,000円なんて多額のお小遣いを貰っても、逆に使い道に困る。

 エリートの卵たちは実はお金持ちばっかりで、少ないとか思っているのかも。贅沢な生活。


 どっちにしても、来月以降のお小遣いシステムを早く理解しないと。


 「佐々木さん」

 「は、はい…!」


 一瞬、担任の目が細くなる。


 「入試の様子を見て、クラス委員を任せることになったからよろしくね」

 「そ、そんな…私には…」


 いかにも気弱そう。大丈夫かな。


 「お前らが学校に意見出来ることなんてない」


 一喝されると、肩をびくりとさせて俯く。


 「3年間クラス替えがなく、全ての行事はクラス単位で行われる。よく覚えておいてね」


 お小遣いは連帯責任ってこと。

 気弱そうだからリーダーに向いていない。そう一概には言えないけど、無法地帯になる可能性は増す。大丈夫かな。


 「それじゃ、佐々木さんはクラス委員の集まりへ。他は好きにして良いよ。だけど30分後、テレビを付けて。これは担任からの優しさだよ」


 教室を出て行こうとした担任が振り返る。


 「そうだ、手伝ってほしいことがあるから…あなた。後で職員室まで来て」

 「分かりました」


 手近な生徒に声をかけると、今度こそ教室を出て行った。


 「可愛い顔して、妙に迫力のある先生だったねぇ」

 「だな。にしても、30分後になにがあるってんだろうな」

 「君も、一緒に部屋で見ない?」


 声がこっちの方を向いて、一瞬ドキりとした。でも声の主が見ていたのは、僕ではなかった。


 「もしかして俺か?なんで」

 「うーん…席が近いから?僕、(はた)。よろしくね」

 「ああ…井上(いのうえ)


 にこにこと笑って2人の手を取ると、歩き出す。


 「俺はなにも言ってねぇだろ。なんで勝手に入れてんだ」

 「一緒にお喋りした仲でしょ?村瀬(むらせ)くん」


 そう言う間にも、足は進む。


 「行く、行く。行くから鞄を持たせてくれ」

 「行くのか」

 「この流れで行かないのは、なんか無理だろ」

 「そうなのか」


 余程のことがない限り、この3人が仲良しグループになるのは間違いない。別に羨ましくない。


 「少し羨ましいな。僕たちも自己紹介しない?」


 少し日に焼けた肌で、髪を短く揃えている。スポーツ系好青年ってやつが、賛成の声を多く得て嬉しそうに微笑む。


 「渡部(わたなべ)っていいます。野球をやってて、帽子のせいで変に焼けてるけどからかわないでね。3年間よろしく。次はお隣さんで良いかな」

 「え、あ、はい。えっと、鵜野(うの)です。よろしくおねがいします」


 そうして順調に進んでいった自己紹介。

 僕は鶴見(つるみ)と名乗るだけの、無難な自己紹介をして着席。笑いのセンスはないし、トリッキーなことをする勇気もなかった。


 「そろそろ始まるね」


 出て行った数人を除いた全員が自己紹介を終えると、渡部くんがテレビの電源を付けた。

 映っているのは、ネクタイの色が違う生徒4名。佐々木さんもいる。クラス委員の集まりを映してどうするつもりだろう。


 『各クラスのクラス委員、Aクラス鈴本、Bクラス吉江、Cクラス栗原、Dクラス佐々木。以上4名で勝負を行います』


 これでお小遣いを決めるのか。でもこれではクラス委員への負担が大きい。グループに別れたりもするんだろう。

 どっちにしろ、クラス委員の役割は重要。


 この勝負に勝つ必要はない。


 俯き気味の3人は、多分それを分かっている。

 吉江くんは少し笑っている気がするけど、どういう心持ちなんだろう。それだけ自信があるのかな。


 『全員一斉に、使用するポイントを宣言して下さい』


 鈴本くんが3万、吉江くんが5万、栗原くんが2万、佐々木さんが1万、とそれそれ宣言をする。


 僕が持っているポイントは45,000。クラス内で統一されているとは限らないけど、大きく差があるとは思えない。

 その差が明らかになったとき、それを目安にクラスカーストが作られるから。


 Bクラスは5万ポイントを容易く使えるだけのポイントが配布されているんだ。

 じゃあAクラスは?Bクラスよりポイントが多いけど使わない?それとも、Bクラスよりポイントが少ない?


 『第一ゲームを開始します。親、Aクラス鈴本。順位と賭けるポイント、カード予想を宣言して下さい』


 今は見守ることしか出来ない。頑張って。

Dクラスのテーマは「環境」です。

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