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108人のその他大勢  作者: ゆうま
1年1学期
3/28

Ⅲ「存在」

 教室に入ると、教室には半分くらい生徒がいた。全員妙に良い姿勢で、パッと見て同じに見える姿勢で、じっと座っていた。

 なにこれ怖…

 でも同じようにしておこう。日本人は集団を演じるのです。


 私の後に入って来た人も戸惑いながら同じようにする人が多い。担任であろう先生も戸惑っている。


 「おはよう。ここは警察学校かなにかかな」


 その冗談であろう言葉にくすりとでも笑う人はいない。面白くなかったし、これは仕方がない。


 「入学おめでとう。Aクラスの担任を務める赤城(あかぎ)です。よろしく」


 最前列に座る、オーラのある人がお辞儀をすると全員がお辞儀をする。

 全員なので、もちろん私も。仕込みもなく出来てしまうのが日本人なのかな。違うよね。この集団、おかしいよね。


 「ポイントの制度については事前に資料を送ったし、支給した端末でいつでも見られるから割愛するね。不明な点があったらいつでも聞いて」


 1円と1ポイントがイコール。配布されたポイントは7万5千ポイント。つまり7万5千円の仮想通貨をなんの苦労もなしに手に入れた。

 他の人はこの事実をどう思っているのだろう。


 「君たちに配布されたポイントは、入学試験を突破してAクラスに配属された祝い金だよ。大切にね」


 確かに、苦労もなしに大金を手に入れれば金銭感覚が狂う人もいそう。


 「クラス委員を設けるんだけど、立候補や推薦ではなく学校側で決めることになっているんだ。鈴本くん、お願いね」

 「お断りします」


 はっきり、きっぱり。そう言われた。その物言いに、先生が少したじろぐ。先生もオーラにやられたのかな。


 「決まったことなんだ」

 「では理由を教えて下さい」

 「賞に応募したとする。絵でもなにかの文章でも良い。楽器だとコンクールかな。それの選考理由って、教えてもらえるの?」


 先生の例え話は、的を得ていた。


 「自分で言うのもなんですが、俺は性格に難があります。学校側はそれを理解していますか」

 「さてね。でも君なんだよ」

 「分かりました。引き受けます」


 その言葉は、深いため息と共に言われた。

 私はその背中が泣いているような気がして、抱きしめたくなった。もちろんしませんとも。


 兎も角、断った理由が面倒だ、なんて理由じゃない。それは多分、クラス全員が分かったと思う。


 「3年間クラス替えはない。全ての行事は、クラス単位で行われる。良いね」


 なにそれ億劫。このクラス、なんか変なんだよね。

 普通初めは、友達を作ろうと話しかける。話しかけてもらいたそうに振る舞う。気にせず自分の好きなことをする。大抵その3択じゃないの?

 集団から弾かれるのを恐れて同じようにするっていうのもある。分かる。実証済みだし。最初にやったの誰。


 「鈴本くんはクラス委員の集まりに。それ以外は解散。30分後、テレビの電源を付けるのを忘れないようにね」


 先生と鈴本くんが去った後も、誰も姿勢を崩さない。どうすれば良いんだろう。

 集団から弾き出されたくはない。だけど特別親しい友達が欲しいとも思わない。授業とかのときに余り者にならなければ、それで良い。


 5分が経った頃、ひとりの男子が教室を出て行った。何人か続けて出て行くとは思ったけど、出て行ったのは女子ひとりだけだった。

 これで誰か会話でも始めないかな。そう思った私が愚かでした。すみません。


 30分が経った頃、誰かがテレビの電源を付けた。


 映っているのは、鈴本くんを含めて4人。多分全員クラス委員。ネクタイの色が全員違う。クラスで別けられていることは明白。

 先生が持っていたファインダーにもクラスのネクタイの色と同じ、青が入っていた。担任ですら、クラスがそんなに重要なんだ。


 『各クラスのクラス委員、Aクラス鈴本、Bクラス吉江、Cクラス栗原、Dクラス佐々木。以上4名で勝負を行います』


 これからクラス単位でこういう勝負をするんだ。学校が選んだ各クラスのリーダーの勝負か。面白い。

 でもいざ自分がやるとなったら、心中穏やかじゃないよね。


 鈴本くんの顔を、初めて正面から見た。

 オーラがあるのはやっぱりそう。だけど背中だけじゃなくて、雰囲気まで今にも泣き出しそう。

 本当にやりたくなかったんだなって思う。でも私が代わりに出来ることじゃない。だからなにも言わない。


 クラス単位で行うってことは、指示出しをしなくちゃいけない。全員が思い思いに動いて良い結果が得られるはずがないから。

 この勝負で、クラスメイトの信頼を得なくちゃいけない。


 得られなくたって、誰か他の人がリーダーをやれば良いかもしれない。だけどクラス委員という役割に変更がないなら、それは難しい。

 クラス委員しか出来ないことが用意されているはず。


 勝てば信頼を得られるわけじゃない。負けたら信頼されないわけじゃない。クラスメイトが納得出来る勝負をしなくちゃいけない。

 30分の間になにがあったのかは分からない。だから多分だけど、3人はそれを理解している。


 頑張ってね、Bクラスのクラス委員。独りで踊ってて。


 『全員一斉に、使用するポイントを宣言して下さい』


 Aクラス3万、Bクラス5万、Cクラス2万、Dクラス1万…か。ほら、明らかに使用ポイントがおかしい。

 元手が多ければ勝てるってわけでもないけど、有利ではある。だけどこの勝負の目的は勝つことじゃない。


 勝とうとしているのは、ひとりだけ。

 この時点で誰がこの勝負の目的を達成出来ないかは明白。でも圧勝したらどうなるかは分からないか。

 だけどそれは無理じゃないかな。


 『第一ゲームを開始します。親から順にカードを引いて下さい』


 机の真ん中にぽつんと置かれた山札から引いたカードを額に当てる。


 『親、Aクラス鈴本。順位と賭けるポイント、カード予想を宣言して下さい』


 観戦している側からは全部見えているから当然分かる。だけど、鈴本くん視点では微妙なライン。

 どうするんだろう。


 『4位1万、♧5』


 Dクラスの使用ポイント全てか。思い切るね。それほど自信を持てるカードだって思わせたいのかな。


 Bクラス吉江くんは3位1万、♦7。Cクラス栗原くんは2位1万、♥J。Dクラス佐々木さんは1位1万、♧K。


 Cクラス栗原くんはどういうつもりだろ。

 鈴本くんがあまり大きい数を言えないのは分かる。まさか、4位で5と予想するならって乗せられたのかな。


 『全員一斉に、自分が引いたと思うカードを宣言して下さい』


 ――へぇ

Aクラスのテーマは「存在」です。

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