表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108人のその他大勢  作者: ゆうま
1年1学期
19/28

19「――Just kidding①」

 最悪だ。インディアンポーカーに出なくてはならない。しかも初日。

 宝箱の問題は過去を蒸し返すようなもの。そしてプールサイドに立たせる。極めつけにインディアンポーカー。泣きっ面に蜂とはこのことだ。


 あんな問題がなくとも、忘れたりはしない。忘れられるはずがない。

 弟が元気に走り回れるようになったのは、あの子のおかげ。そして、そうさせてしまったのは俺なんだから。


 「村瀬くん」

 「なんだ」


 無言で向けられた視線の先を見る。認識した瞬間、手首を掴まれてトイレに連れ込まれる。


 「なんだよ」

 「分かってるはずだよ。約束、したんだよね?」

 「秦くんもか…」


 俺には契約という言葉を使った。

 人や場面によって言い方や言葉、話し方を変えることはある。だがそれには限度というか、出来る範囲がある。


 井上くんが見てる子は、ただの女の子ではない。


 俺が契約を交わしたのは、いや、交わしてしまったと言った方が正しい。

 宝探しゲーム開催の2日前で、1ヶ月も経っていない。一体、なにが分かる。そのとき初めて会話したくらいだ。なにかが分かってたまるか。


 「正直、これで良いのか迷ってる。俺たちは目立ってる。“たち”に含まれる井上くんが告白でもしてそれが知られたら、彼女は目立つ。約束は守れねぇよ。けど、それは本当に正しいのか?」


 秦くんは、恵比寿様のような満面の笑みを浮かべた。だがそれは、木で彫られたように作り物だとはっきり分かるものだ。

 それに、目が笑ってない。


 「それは言い訳だよ。本当は嫌になっただけ。やらないことの言い訳に井上くんを持ち出して、道徳的なことをさも正しいかのように言うのは止めて」

 「少しも迷わねぇのか」

 「井上くんのことは好きだからねぇ、少しもってことはないよ」


 瞬きをした瞬間に表情が変わる。いつもの表情に思えるが、やっぱり目が笑ってない。


 「でも約束を守ることより大切なことなんて、僕にはない」


 この約束は彼女との、という意味ではないだろう。約束って言葉に、秦くんは縛られてる。


 「約束のためなら、人も殺せるよ」

 「お前…まさか、」

 「――なぁんてね。それくらいの覚悟ってこと。冗談が過ぎたとはいえ、そんな顔しないでよぉ」

 「…だな」


 今のは本気だっただろ。




                  ***




 『Aクラス佐藤、Bクラス加藤、Cクラス高橋、Dクラス村瀬。以上4名で勝負を行います。使用可能なポイントが画面に表示されます』


 佐藤さん3.1万、加藤くん3.3万、高橋さん2.5万。俺は4.3万。元手が一番多いだけじゃない。冗談みたいなポイントの量だ。


 『第一ゲームを開始します。親から順にカードを引いて下さい』


 知識に基づかない決断をしなければいけないものが一番苦手で、こればっかりはどうしよもねぇ。負けられないプレッシャーで押しつぶされそうだ。


 『親、Dクラス村瀬。順位と賭けるポイント、カード予想を宣言して下さい』


 また微妙な数字だな。


 「2位1万、♧10」

 『Aクラス佐藤、宣言して下さい』

 「1位1万、♤K」


 大外れだが、考えなしだとも思えねぇな。


 『Bクラス加藤、宣言して下さい』

 「3位2万、♦5」


 上げてきた…!勘弁してくれ。なんでだ。


 『Cクラス高橋、宣言して下さい』

 「1位2.5万、♧10」


 いきなり全部かよ。この微妙な数字を見て?しかも俺が宣言したカードだ。なんかヒントになったのか?訳分かんねぇ。


 『勝負を降りる生徒は挙手をして下さい』


 挙手をしたのは、佐藤さんだけ。


 『勝負に参加する3名は一斉に、自分が引いたと思うカードを宣言して下さい』


 加藤くんが♤5、高橋さんが♤10、俺は♧9


 『Aクラス佐藤♥4、Bクラス加藤♥6、Cクラス高橋♤10、Dクラス村瀬♧8。第一ゲーム勝者、Cクラス高橋』


 第一ゲームから大敗だな。降りておけばよかったか。だが、逃げ腰になるのはどうなんだろうな。

 けど、そうか。彼女との契約にも、このゲームにも、逃げ腰だった。こんなところまで来て、今更なにやってんだか。


 『親をAクラス佐藤に交代し、第二ゲームを開始します。Aクラス佐藤、宣言して下さい』

 「2位0.8万、♤9」


 2位で9…

 加藤くんと高橋さんの数は小さい。俺の選択肢の幅を広げるためか。それか、俺が9を持ってるか。2人の数が数だ。有り得る。


 『Bクラス加藤、宣言して下さい』

 「4位0.8万、♤A」


 いくらでも選択肢があるのに、なんでそこに辿り着けるんだよ。


 『Cクラス高橋、宣言して下さい』

 「3位0.8万、♥4」


 降りる宣言ってことで良いのか?圧倒的に勝ってるところを、微妙な少額の勝負なんてしない。そう考えて良いだろう。


 『Dクラス村瀬、宣言して下さい』


 俺は…どうする。ヒントになるようなものは、佐藤さんの宣言だけ…ってわけでもないか。高橋さんが微妙な勝負だと思って宣言をしたとする。その理由は?

 俺の数が、極端に大きいから。違うだろうか。


 「1位0.8万、♦K」

 『勝負を降りる生徒は挙手をして下さい』


 誰も挙手をしなかった。高橋さんは降りないのか?


 『全員一斉に、自分が引いたと思うカードを宣言して下さい』


 佐藤さんが♥J、加藤くんが♥A、高橋さんが♥3、俺は♦K


 『Aクラス佐藤♧J、Bクラス加藤♥A、Cクラス高橋♥3、Dクラス村瀬♦Q。第二ゲーム勝者、Bクラス加藤、Cクラス高橋』


 マズい。今の勝負で、俺が一番ポイントが少なくなった。そして次の第三ゲームで負ければ、この勝負自体に負ける。

 せめて3万までは取り戻させてくれ。


 『親をBクラス加藤に交代し、第三ゲームを開始します。Bクラス加藤、宣言して下さい』

 「3位1万、♧5」


 …そうか。余程勘が良くない限り、親は今回勝てない。親の次も難しいだろう。だが、可能性に気付いて勘が当たればまだある。


 『Cクラス高橋、宣言して下さい』

 「1位1万、♥J」


 気付いたか?微妙だな。もし気付いたなら、賭けに出たな。


 『Dクラス村瀬、宣言して下さい』

 「4位1万、♧5」


 佐藤さんは気付いてる可能性が高い。だがもし気付いてなければ、気付かれないためにはこれが良いはず。


 『Aクラス佐藤、宣言して下さい』

 「1位1万、♧Q」

 『勝負を降りる生徒は挙手をして下さい』


 加藤くんと高橋さんが挙手をした。気付いたのだろう。


 『勝負に参加する2名は一斉に、自分が引いたと思うカードを宣言して下さい』


 佐藤さんが♧K、俺は♤A


 『Aクラス佐藤♦K、Bクラス加藤♦A、Cクラス高橋♤K、Dクラス村瀬♤A。第三ゲーム勝者、Dクラス村瀬』


 危なかった。今回は運にお礼を言うしかねぇな。


 『親をCクラス高橋に交代し、第四ゲームを開始します。Cクラス高橋、宣言して下さい』

 「4位0.8万、♤A」


 出たカードを宣言するの好きかよ。それも作戦だけど。

 確実に自分が4位だと思う数なんだろう。そして、具体的な数を推察されないために敢えて。


 『Dクラス村瀬、宣言して下さい』


 決勝には行きたくない。このままなら高橋さんが行くはずだ。でも大きく負けたくない。よし、やるか。

 どうして面接等の試験の成績が悪いのか、ちゃんと分かってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ