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108人のその他大勢  作者: ゆうま
1年1学期
15/28

15「One step with me!①」

 今日も学食は大勢の生徒で溢れている。当然騒がしい。だけど、一角だけ急に静かになった。そんな気がして、顔を上げた。

 Dクラスの3人が先輩に絡まれている。遠くて会話までは聞こえない。


 「あの3人って、あの噂の3人だよね?」

 「多分」


 Dクラスなのに部活創設の基準を満たした3人がいる。それはこの学園にいる生徒なら、誰でも知っていた。

 ただ、意味を正しく理解している生徒はいないと思う。


 私たちはクラス分けの方法をまだ正確には知らない。

 なんとなく想像は出来ていた。そうでなくとも、先輩の物言いや部活での態度の違いから分かる。


 成績優秀者からAクラスに振り分けられている。


 学力だけなら、部活創設の基準のひとつを満たすことは出来ない。Dクラスのあの3人は、あの3人しか部員がいない部活を創設したのだから。

 でも本当にその振り分けが正しいのかは、聞いた先輩は誰も知らなかった。


 「誰が部長か知ってるの」

 「イケメンはチェック済みだからね、もちろん知ってるよ。胸ぐら捕まれてる子だよ。井上くん。おろおろしてるのが副部長の村瀬くん。もうひとりが秦くん」


 並んで座って、真ん中にいる子が役職なし…。


 「あの3人が話題なのって、顔が良いからっていうのもあるみたい。西尾さんは誰が一番好み?」

 「興味ない」

 「人は中身派?それでも醤油派ソース派はあると思うな」


 どんな顔だっけ。興味ない。だけどそれくらいは答えないと面倒かも。基本的に馬は合うんだけど、こういう話題が少し好きな気があるのが難点。

 無理に話題を作ったり話を持って行ったりしないから、今は良い。だけど3年は長いかも。


 「醤油かな」

 「じゃあ秦くんだ」

 「それはない」

 「なんで?」


 反射的に言ってしまった。強く言い過ぎたかも。


 「あ、待って、当てるから」


 気にしてなさそう。良かった。


 「話し方が子供っぽい」

 「そうなの?それにそれ、内面の要素だけど」

 「外見から分かることなんて少ないよ。ある程度好みで、身だしなみとか悪くないなって思ったら内面を知る努力をするの」

 「流石恋愛マスター」


 自分もそういう目で見られているかもしれない。恋愛には興味がないから、恋愛的な意味ではない。人として。

 例えば今そう言った相手だって、いつ私に愛想を尽かすかなんて分からない。今は多分、内面を知る努力中。


 「じゃあ、次ね。背が低い」

 「悪いんだけど、そういう感じではない」

 「じゃあなに?」


 そうだって言っておけば良かった。誤魔化す方法が思い付かない。


 「…真面目な話。噂に話を戻す」


 少し不満そうな顔をしながらも、聞く姿勢を取ってくれる。


 「座学の試験が40位以内なのにDクラス。明らかに3人の中心なのに副部長でもない。面接等の試験の結果が悪い。学校に烙印を押されている」

 「この学校の敷地って、東京ドーム何個分っていう広さだよね」

 「え…うん」

 「すごく広そうだけど、日本のたった一部なんだよ。日本だってアメリカにいくつ入るのって感じだし、そのアメリカだって地球の極一部」


 急になに。どうしたの。


 「小さな世界の“みんな”を気にしてないで、自分のこと大切にしようよ。気にする必要があるときもあると思うよ?でも今は違うと思う。それにわたし、西尾さんのことが好きだから一緒にいるんだよ」


 照れたように笑ったかと思うと、不満そうな視線を向けられる。

 親愛という愛の告白の返事を聞きたい。そういうことだと思う。


 「ありがとう。…今はまだ、好きではない。だけどもう少し一緒にいてあげても良い。きっと、私もそう言えると思う」

 「じゃあ予告状。貴方のハートを頂戴しに参ります」

 「…写真アート部ってなにするの。写真がアートなのに」


 咳払いをして言った私の心を見抜いたかのように、近い将来友人になるであろうクラスメイトは微笑んだ。


 「一緒に友人っていう関係を、作っていこうね。写真アート部は――」




                  ***




 中間テストが返却された。

 入学のワクワク。ゴールデンウイークのウキウキ。人間関係。それらが落ち着いた頃やって来る。どんよりとしたあの定期的な行事。

 それが初めて行われた。


 「中間試験お疲れ様でした。この結果を使って、ゲームを行います」


 月末にやる。月に一度。そんなこと、誰も言っていない。ゲームが行われること自体は、そんなに驚くことではない。


 「ルールは簡単とっても簡単です。自分より総合点数が低い生徒を同学年である107名の中から選ぶだけ。正解すれば5千ポイントを獲得することが出来ます。不正解のペナルティなし、参加費なしのボーナスゲームです」


 そんな旨い話があるはずがない。それに、順位がある以上は最下位は必ずいる。その生徒はどうするの。


 「自分が最下位だと思う生徒はBANして下さい。最下位の場合は正解とします。ただし、最下位でなかった場合は5千ポイントを失います」


 やっぱり。

 写真アート部の3人のこともある。Dクラスを選べば安全とは言い切れない。授業の様子を見る限り、Cクラスの中では悪くない点数だと思う。


 「自分を選んだ相手と、その結果は相手に通知されます。十分気を付けて選んで下さいね」


 下手にクラスメイトなんて選べない。勝つならまだ良いかもしれない。でも負けたときには、目も当てられない。


 宝探しゲームのせいで仲間以外は排除、みたいな流れがある。

 坂本くんは何気ない発言だったみたいだった。実際本人には具体的なプランがなくて、聞かれたときに戸惑っていたから。


 なにがきっかけだったのか、何故か火が点いたみたいに盛り上がった。妙な雰囲気の中に自分だけがふわふわと浮いている感じ。

 例えるなら変な宗教団体に初めて行った、あの感じ。


 本当、あれは驚いた。まさか両親があんな嘘っぱちの宗教団体に、娘の将来のためのお金をつぎ込んでいたとは。

 両親のお金だし私が迷惑しなければ構わない。だけど、預けていたお年玉は返してほしい。


 今はそれより、誰を選ぶか考えないと。

 私は自分が出来た人間だとは思わない。面接等の試験がなにを基準にされているのかは分からないけど、自信がない。学力も大したことがない。

 Dクラスの中から選ばないと。でも、誰を選べば良いの。


 「残り10秒です」


 ええい、もう適当だ!普通っぽい名前の人にしよう。中村(なかむら)さんとか。うん、中村さんだ。そうしよう。間違えても失うポイントはない。

 あ、でも内情をどれだけ把握しているか想像されるのかも。


 結果が表示される。勝ったみたい。でも素直に喜べない。


 「アンタも行くわよね、打ち上げ」

 「行かない」


 その一言に、クラス全体が敏感に反応した。


 「…こともない。すぐ帰るけど少し」


 両親も初めはこうだったのだろうか。私も、Cクラスという宗教にハマっていくのだろうか。

 怖い。でも、嫌ではない。

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