表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

第8話 OVERTURE〜不良への序曲

校則、

それは“拘束”であり

中世ヨーロッパにおける

魔女狩りと同義語であった



我が校では近年

総合選抜制という悪しき制度の影響もあって

校則、とりわけ生徒の身嗜みや服装についての締め付けが激化していた



総合選抜制というのは簡単にいうと

一定区内の公立高校の学力レベルを均等化するのが目的である



たとえば

Aランク校とBランク校があるとする


今までなら生徒はA校かB校を選んで試験に臨めば良かっただけだ


この制度では

A校B校をひとつにまとめて入試を実施

2校分の定員に達した合格者らを各校に平均的に振り分けるというもの


A校かB校の希望は出せるが

必ずしも希望の学校に入れるわけではない



この場合のランク付けや受験生の志望理由の大半は

総合選抜制が導入される以前の大学進学率がベースになっている


合格後“均等に振り分けられる”とするなら

一見公平のようだが

実際は入学した後が大事なのだ


その高校の方針や実績

大学受験に対する取り組み方(要するにノウハウ)

設備や施設を含めた教育環境に差があるから


なんとなく

A校に入ればラッキー

B校ならハズレみたいな感じになった




よりにもよって

僕たちが高校受験したその年に

その制度が導入されたのだ



新しい制度というやつは

目的通りに機能するまで時間がかかる


新制度の問題点や方向性について

それぞれの学校が足並みを揃えるには

それなりの時間を要するだろう


そんなの

新一年生にだって理解できる話しだ



総合選抜制については

多少の語弊もあるけど

おおよそこの認識で間違ってはいなかったと思う


僕や僕の友達

そして父兄たちも

似たりよったりの理解で高校受験に臨んだはずだ


しかし一番のくせ者は

僕たちの親だったこともまた事実だ



受験ノイローゼなんて言葉も

流行り始めていて

まだまだ高学歴社会というくだらない幻想に取り憑かれた大人達で

世の中は一杯だったのだ



そんな大人達は

内ゲバに明け暮れる若者達なんかを

いったいどんな目で見ていたのか


爆弾を作ってハイジャックに走るような誇大妄想狂達を



敷かれたレールの先には愛も平和もないことが実証された


それでも大人達は口を揃えて言った


良い学校に入れ

そうすれば

苦労はしない、と


ナンセンスだ

何の根拠もない



格差を作っているのは大人達だった




イメージというものは

実態がないだけに厄介だ


そして一旦染み付いたイメージを払拭するには

かなりの努力を要する



何が言いたいかというと

それまでA校には地域一番校という

絶大なるイメージがあった



一方B校はA校よりランクは下


たいした大学には入れないし

生徒達のガラも悪い

問題児も多い


それが世間一般の

イメージだった



しかし新制度になれば

B校にとって劣勢のイメージを変える絶好のチャンス


誰だってそう考える


B校の

トップたちが目の色を変えたのも頷ける


職員たちも

一斉に入れ替えられ巻き直しの準備が進む


偏差値重視

これがB校の新しい方針だ


良い大学を目指し良い生徒を作る



落ちこぼれに対する風当たりも

当然強くなった



生徒指導部という

熱血教師らによる編成チームが

日夜学校内を監視し始めた


悪い芽は早いうちに摘まなければならない


生活態度

服装、頭髪

成績の悪い奴は誰だ!



泣く子も黙る生徒指導部


その情報収拾能力と汚いやり口は

秘密警察並だった



まず標的になったのは

成績が下位の連中だった



公然の差別がまかり通ることになった




僕はB校を希望し

思い通りB校へ入学することができた


同級生の中には

A校を希望したがB校に振り分けられた連中

志望通りA校に入れた連中等がいた



A校の場合は入試の間口が広がったので

その分

“あまり来て欲しくない”生徒が大勢入り込んだと思う


“振り分け”が公正なものなら

学力の高い順に

A校へ入学させることは出来なかったはずだ


A校が従来の進学率を維持するのは

これで困難になった


そればかりでなく

落ちこぼれ

いわゆる“不良予備軍”への対処も必要になる


進学率は落ちるは

退学率は上がるはじゃ、A校にとっては何のメリットもない



僕が

B校を希望した理由は

遠慮と甘えからである


いくら総合選抜だと言っても受かる見込みはない

と中3の担任からは言われていた


だからA校を希望するのはあまりにも図々しいと考えたのだ


それに、やはり

今までのB校のイメージがあったから

入学後もA校みたいにガリ勉せずに済むとタカをくくったのだ


その考えの愚かしさには

入学してすぐ気付かされたが



勉強しない奴に生きる場所はない


この点において

確かに格差はなくなったのだ




僕が入学した高校が

Bランクのイメージを払拭しようとした意気込みは

大いに結構である


向上心のないところに未来はない



B校は一念発起した


A校はA校で

長年つちかってきたエリートイメージを

死守しなければならない


落ちこぼれを

出さないのも簡単なことではないし


入学してきた生徒らの期待を裏切るわけにもいかない



でもそれってかなり変だ


希望は出させておいて

振り分けるなんて‥



結局、学校同士の競争に巻き込まれたも同然だった


前と何にも変わっちゃいない


生徒達の気持ちや個性はないがしろ


のんびり行きたい連中の居場所を取り上げる形にもなったのだから

むしろ前より悪い



僕たちは親の

身代わり人形じゃないし


仲間同士で

あいつは上だの

こいつは下だのと

お互いの格付けをしに学校に来てるわけじゃないのだ


格差をなくすための

総合選抜制が

より生々しい格差意識を僕たちにもたらした



大袈裟かも知れない


でも僕は

学校のそういう所があまり好きじゃない



体裁や立場を優先して

人に物を教えられるとは僕には思えなかった


すべては茶番劇だ




不良って何だろう


その定義は?



親の言うことを

きかないこと?


奇抜な恰好をすること?


センター街で

喧嘩することかな?



女の子を泣かせたり


弱い者いじめも?



それじゃあ

聞くけど


不良じゃない時代を

過ごした人っているの?



どうして

なんでも決め付けてしまうの?


決めつけて

それで

終わりにしたいから?



何世紀もそうやって

物事の本質から逃げているのは


誰?



それに

不良ってモテるんだよ

みんな知ってる



過ちに気付いて

ひとは大きくなる


人生は

映画や小説とは違う



映画や小説には

終わりマークが出たら

それで

ジ・エンドだけど


僕たちは

ずっとずっと

生き続けなきゃなんない



勝ち負けは

重要じゃない



いったい誰が

僕たちの人生に

責任を持ってくれるって言うんだい?



僕たちはみんな

自身の人生の主役なんだ



ジェームズ・ディーンだけが

ヒーローじゃない


僕たちから

自由を奪おうとするもの


それが“敵”だ



僕たちは

転がる石


転がって行く方向までは

コントロールできない



それがスリル


それが青春




こうして僕は

高校3年にして

不良への道をまっしぐら



日頃の何気ない鬱屈に

幾つかの条件が重なって


とんでもない方へ

転がっていく


よくあることだ




幾つかの条件



煙草

飲酒


それに斉藤広美


不良の三種の神器は揃いつつあった



遅かれ早かれ

僕はドロップアウトしていたと思う


それは僕の宿命みたいなものだ


そのことを

受け入れるまでに

たくさんの人を傷つけ

たくさんの後悔をした



それだけのこと



社会に出れば

能力で判断される


そのことに

不平をこぼす者もいるがある程度は致し方ない



学校って何だろう


友情って何だろう



恋人って何?



道に倒れて

呼び続けること


巡る季節の中で

何かを見つけること



かもめになって

飛んでいくこと


稲妻のように

傷つけること



引っ越しの

お祝い返しをすること


びしょ濡れの

トレーナーが乾くまで

抱き合うこと



飛んで飛んで飛んで



飛んで火に入る

夏の虫



イスタンブール?

クアラルンプール?

何処だって良い



本当のものを

探していた




ホンモノの何か

生きてる証



僕は探していた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ