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第8話 マリー・マイルスター

実家の館は盆地を縦に貫くマッキリー川の右岸にある。盆地全体を見渡せる小高い丘の上に築かれていて、騎士爵だから"館"だけど、造りは実質小振りな城と言っても過言ではない。


俺の実家、ヴィンター騎士爵家が有する騎士爵領は辺境にあるものの領地の面積はやたら広く、農業、畜産業、林業が盛んで、領都内には村が4つ。人口は600人程で、下級貴族としては比較的実入りが良い豊かな領地だ。そのあたりも他の寄子から妬まれる所以なのだろう。


ただ、俺が見たところ領内の産業には改善すべき点が多々ある。だけど三男ごときが内政に口なんか出せる訳もなく。領民達も特に不満も無さそうに暮らしているので、それはそれで良いのだろう。


〜・〜・〜


館のある丘を下れば城下町的な存在でもある本村へと至る。のだが、その前に俺は背後の館のある方から声をかけられた。


「ホルスト兄さま〜、待ってぇ〜」


振り向くと、館から赤髪をポニーテールにした女の子が駆け寄って来ていた。


彼女の名はマリー、マリー・マイルスター。ヴィンター騎士爵家の家士長ジョルジュさんの長女だ。歳は俺より2歳下で、妹エミリーと同い年となる。


マリーと俺は主筋の三男と家来の長女という関係になる。しかし田舎の下級貴族の事、歳が近く、ほぼ一緒に育った幼馴染みでもある。館と本村も含めて歳が近い子供は少ないので、俺は妹のエミリーとマリーと3人で遊ぶ事が多かったのだ。


マリーは生意気で遠慮の無いエミリーと違い、幼いながらも身分差や立場を弁えていたのかとても素直で、俺の事を「ホルスト兄さま」と呼んで懐き、実に可愛いかった。


因みに辺境という土地柄か、辺境伯領も含めてこの辺りの女性は勝気で男勝りな力強い女性が多い。元上級冒険者だった母は言うに及ばず、俺の亡くなった祖母は女傑と言って良かった。前世で例えるなら上州気質ってところかな?


因みに母は冒険者だったと言っても平民ではなく、没落した男爵家の出身だそうだったから、無爵位貴族として騎士爵の父との結婚には問題無かったそうだ。


マリーもこの土地で生まれ育っているからご多分に漏れず気が強くって男勝り。そして武張った事が大好きという三拍子揃った辺境気質の女の子だ。


だから幼い頃からマリーも俺の後をくっついて来て領内の探検や冒険に明け暮れ、現在も俺と一緒にデミレル爺さんやヴィリーさんから冒険者と猟師のイロハを教えて貰っている。


そうした感じで俺は物心ついた頃からマリーと一緒にいて、幼馴染みの妹分から気が強そうで赤髪の美少女に育ったマリーの事をいつしか好きになっていた。なので、俺は13歳の時にマリーに好きだと告白した。


よく考えたら、前世で22歳だった俺は、現在14歳で、通算したら36歳であるとも言えた。そんな俺が12歳の女の子を好きとか、お巡りさ〜んこの人です!となりそうで、後になって一人悶絶したのはまた別の話し。


俺の告白にマリーは驚いていたけど、


「実は私もずっと前からホルスト兄さまの事が大好きです」


なんて嬉しそうに言われちゃって。気が強いマリーの恥じらう可憐な姿に思わず抱き締めてしまった俺だった。


とはいえ、俺が14歳で王都の王立学院に入学したら俺とマリーとはそれまでだっただろう。そうした場合、俺は貴族として貴族社会の中に身を置く事となり、配偶者も下級だろうけど貴族の娘という事となるからだ。だから俺が貴族社会からドロップアウトとなると、俺とマリーは密かに喜びあったものだった。


だから、俺はその勢いでマリーにプロポーズした。「結婚して欲しい。そして一緒に冒険者になって領都や王都で暮らそう」と。


マリーの返事は勿論「はい、喜んで」だった。その後、俺とマリーは抱き合って初めてのキスをして互いへの愛を誓い合ったのだった。てへっ。


〜・〜・〜


「ホルスト兄さまひどいです。黙って行っちゃうなんて!」


12歳になったマリーは色白で二重まぶたに大きく青い瞳が映え、スッと伸びた鼻梁に小さな小鼻、血色の形の良い唇の美少女に成長していた。まだ子供っぽさを残しているけど、この先更に成長と共に女性らしさも増して美人になる事間違い無しだ。この娘が俺の恋人で婚約者かと思うと本当嬉しくなってくる。だけど今は「怒ってますよ」とばかりにせっかくの可愛い頬を膨らましていた。


「ごめん、マリー。領都に行ってもギルド登録して夕方までには帰るつもりだったからさ」


「え、領都までって馬車で片道3日かかるんじゃ、そっか、兄さまにはアレがあるもんね」


「そういう事だ」


寄親であるラース辺境伯領は北海道くらいもある広大領地だ。なのでこれまたそこそこ広いヴィンター騎士爵領から領都ラースブルグまではマリーが言ったように馬車で片道3日もかかる。飼葉代も馬鹿にならず、マッキリー川を舟で下れば半日で着けるけど、船賃も割と高い。どちらも手持ちの現金があまり無い俺にはハードルが高い。しかもこれは俺自身の用事だから親に船賃や飼葉代を出して貰う訳にもいかない。


となれば必然的に領都までは徒歩で行くしかない。徒歩ともなると一週間近くかかるのだけど、何と言っても俺には「アクションヒーロー」がある。飛行能力がある変身ヒーローもいるので、その能力を使えば領都までなんてひとっ飛びの日帰り旅行だ。


俺の能力「アクションヒーロー」について、俺は家族には今も殆ど本当の事を教えていない。両親は貴族としての将来を失った俺にも俺の能力にも興味を示さないし、もう俺はヴィンター家では半ばいないものと扱われている。貴族社会から爪弾きされた俺はどんな能力があったとしてもこのヴィンター騎士爵家には必要無い存在だ。だけどマリーにだけは「アクションヒーロー」の能力の一端は教えているし、実際に見せてもいる。何と言っても恋人であり、婚約者だからね。


「すぐに戻るからさ」


「私も一緒に行けたらいいのに」


そう言って拗ねるマリーも可愛い。


「お土産買って帰るからさ」


「本当ですか?楽しみ!」


マリーは嬉しそうに微笑んだ。


そうして俺達は一緒に本村を抜け、マリーは街道まで見送ってくれた。


朝方なので途中仕事に出かける村人達とすれ違う。彼らは俺に気付いても頭を下げる事も無くなっていた。俺に向ける視線もどこか馬鹿にしているようなものを感じるし、蔑んだような表情を浮かべてもいた。恐らく、俺をこの領内に居辛くさせるための工作として父が俺について良からぬ噂を広め始めたのだろう。


(ご丁寧な事だ)


かつては剣豪としてその名を天下に響かせた父を俺は尊敬していた。だけどあの事件以来殆ど会話する事も無くなっている。しかもこうしたやり方を見るに、立場が人を変えるという事だろうか。今では変にみみっちい人間に見えてしまっている。


どの道、一年後に俺は貴族籍が外されて家を出る事となる。そうすれば俺はこの家にも領地にも戻る気は無い。それぐらいの目には既に合わされている。


「ホルスト兄さま、気を付けて行ってらっしゃい」


マリーは本村の外れにある郷門まで来ると、そう言って大きく手を振って見送ってくれた。この大事な恋人のためにも早く一人前の冒険者にならなければならないな。


〜・〜・〜


マッキリー川沿いの街道は馬車が通れる程の道幅で、所々に馬車が擦れ違えるように待避所が設けてある。たけど、辺境故に往来が少なく、何も手入れをしなければすぐに草木に埋もれてしまうから定期的な道普請が欠かせない。


そんな往来が少ない街道でも、全く人通りが無い訳じゃない。油断して下手に能力を見られても面倒なので、俺は暫く歩いてから枝分かれする小道へと分け入る。そして人目の無い山中から9番目の昭和ライダーの重力制御能力を使って上空へ飛び上がり、一気に領都ラースブルグに向かって飛翔。


飛行はマッキリー川や街道の直上は避け、山々の上空を飛び続けること一時間弱。俺は山地の二つの尾根を越えるとラース辺境伯領に進入し、やがてやはり人目の無い山中に降り立った。


その山中には沢が有り、沢を下ればマッキリー川の本流に合流して街道に出られる。そこからは徒歩で街道を行き、一時間もすれば領都ラースブルグの城門に至る。


俺は城門の番兵に帯剣にあるヴィンター騎士爵家の紋章を見せると、口頭で身分、姓名、要件を伝えてラースブルグの門を潜った。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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