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第29話 母よ!

母は自分の左脇腹に当てられた俺のブレイドを見て目を見張ると、次いで面白そうに笑い出す。


「ふふっ、まさかアレが抜かれるとはね」


いや、笑い事じゃない。あんな一撃をまともに食らったらオークキングだって真っ二つだ。多分。


「母さん、あんなの人に繰り出す技じゃないでしょ?俺を殺す気ですか?」


「あなたならどうにか出来たでしょ?現に大丈夫だったじやない?」


俺の抗議もどこ吹く風、つくづく理不尽だ。


「それで、母さんから見て俺はどうだった?」


「まぁ、ちょっと甘っちょろい所はあるけど、合格よ」


「甘っちょろいって、母親を殺す事は出来ないよ」


俺がそう言うと、母は浮かべていた笑みをけし、真剣な眼差しとなると、しっかりと俺を見据える。


「いいえホルスト。例え親兄弟であろうと自分を害する者に甘さや迷いを見せてはダメ!相手はあなたを殺す気で来ているの。あなたより実力が劣っていても、そいつはあなたの甘さや迷いを見抜いてその隙を突くわ。泣いて憐れみを乞おうが、命乞いをしようが非情にならなければ、自分ばかりかあなたの大切な人も死ぬわよ?」


確かに前世で観た銀河鉄道の映画でも盗賊の頭領が主人公の少年にそう警告していた。ここは前世の世界ではない。剣と魔法、弱肉強食な非情な世界。ぼやぼやしてたら後ろからバッサリだ。


「わかったよ、母さん」


「ホルスト、私はあなたに母親らしい事は殆どしてこなかったわね。あなたはいずれここを出て行く身。だからあなたには厳しく、辛く接して来た。申し訳なかったと思っているわ。でもね、それでもやっぱり私はあなたの母親。あなたは私が産んだ紛れもない私の息子。母親として不器用な私には息子にこういう形でしか大切な事を教えられなかった…」


おそらく、母は俺を本当に殺す気であの一撃を振るったのだ。自分も俺に殺される覚悟で。そうしてまで、これから一人でこの世界を生きて行かなければならない俺にこの世界の厳しさ、理不尽さを伝えようとしたのだ。


「母さん。母さんの伝えたかった事は十分伝わったよ。俺も自分に力があるばかりに世の中を舐めていたのかもしれない。だから、有難う、母さん」


俺は母にそう礼を述べた。母は少し泣き笑いの表情となり剣を鞘に戻す。俺も持っていたラジャータを元に戻した。


「ホルスト、しっかりやるのよ?今言った事を決して忘れてはダメ。わかるわね?」


「あぁ、忘れないよ、決して」


そうして母は俺を抱きしめ、俺も母を抱きしめた。


「ほら、忘れちゃダメだって言ったでしょ」


俺の首筋にはそう言う母の持つ短剣が当てられている。


「忘れないって言ったじゃないか」


そして、俺も母の右脇腹に短剣を当てている。


「文句無しの合格ね」


「そりゃ良かった」


俺と母はひとしきり笑い合う。そして母は腰のベルトから鞘ごと愛剣を引き抜くと、俺に押し付けた。


「餞別よ、持って行きなさい。魔鋼の結構な業物だし、ヴィンター家の紋章も入っているから」


押し付けられた剣を持ったまま、思いがけない出来事に俺が戸惑っていると、母は話を続ける。


「ホルスト、あなたはこの家の籍からは抜けるけど、それでもあなたが私とオーギュストの子供である事には変わりはない。私達はあなたにあまり親らしい事は出来なかったけど、せめてこれだけは受け取ってちょうだい」


うちの紋章が入った剣か… ちょっと複雑だけど、受け取らないのも変かな。


「有難う、母さん。有り難く受け取るよ」


俺が母の剣をそう言って受け取ると、母は少し照れ臭そうに笑った。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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