第11話 白猫のプロジェクト
その少女は白猫が人の姿となったものか、透き通るような白い肌に腰まで流れる艶やかな銀髪。二重の大きな瞳にすっと伸びた鼻梁、少し薄めでぎゅっと結ばれた形の良い唇。正に輝かんばかりの美少女。まぁ、身体はスレンダーではあるけれど、だがそれがいい。
少女の服装はというと、襞があしらわれた裾が踝まで長い白い袖の無いワンピースのようだ。大腿までスリットが入っていて、白い太ももが時には見えてしまいそう。
まぁ、よくギリシャ神話の女神が着ているような感じだな。という事は、この少女は女神なのか?いや、どうだろうな。
確かにこの世界には神々が存在している。いや、前世の世界にも滅多に顕現しないし、人間のやる事に干渉してこないってだけで存在はしていたけどね。それに対してこっちの神々は人々に「能力」を授けたり、加護を与えたり、神殿を通じて人の社会にあれこれと口を出してくるのだ。俺に言わせれば出しゃばりのトラブルメーカー以外の何者でもない。
少女から発せられていた光が完全に消えると、少女は俺を睨み腰に両手を当て少し前屈みになって口を開いた。
「あんたねぇバカじゃないの?何なのシロとかタマとか、センスが無いにも程があるわよ!暫く猫の姿でいようかと思っていたのに、こんな早々に正体明かす羽目になったじゃない!」
白猫が姿を変え、いや、白猫に姿を変えた少女というべきか?随分と口が悪いみたいだ。どうしよう?面倒くさいな、見なかった事にしてこのまま寝てしまおうか。朝になったらいなくなっているかもしれないし。
俺がベッドに横になって徐に毛布に潜り込もうとしたところ、白猫の少女が怒ったようにがなりたてる。
「ちょっ、ちょっと失礼すぎない?何寝ようとしてるのよ!黙ってないで何か言いなさいよ、ホルスト・ヴィンター。いえ、神崎拓人!」
白猫だった少女から突然前世での俺の名前が飛び出した。すーっと冷静になる己を自覚する。
「俺の前世での名前まで知っているって事は、この世界の何れかの神、その眷属ってところか?猫に化けてまでご苦労な事だ。で、お前が何者で、俺に近づいた目的は何だ?」
俺に冷静に詰められて「うっ」と呻き、さっき迄の勢いは何処へやら、少したじろいだように名乗りだした。
「何よ、急にそんな言い方して(猫の時はあんなに優しくて可愛い可愛いって言ってたくせに、ブツブツ)。わ、私の名前はメルダリス。愛と癒しの神ナルディア様の眷属で、主神様のご命令であなたの監視に来たの」
「俺の監視?」
そう言えば弁天様も俺にこの世界の神々が監視を付けるって言っていたっけな。
「ええ、あなたがこの世界で馬鹿な事しないようにってね。そのお役目に私がナルディア様から直々に指名されたって訳」
なんかドヤ顔で言われたけど、俺の監視がそんなに名誉な事なのかね。よくわからん。だけど監視というからには少しはヨイショしておくか。
「俺が監視されるって事は弁天様からうかがっている。それがまさかこんなに美しい女神様とは思わなかったけどね」
「う、美しいとか、まぁ、そうだけど。それと、私は女神じゃなくて神使よ」
メルダリスと名乗った俺の監視役だという少女。彼女は女神ではなく神使だと言う。神様ではなくてその使い、というか事か。仏教での飛天や童子、神道の神使、キリスト教の天使、そんなところだろう。
「それでメルダリス様はどうして化けていた猫からその姿で現れたんだ?」
「あんたが私に変な名前を付けようとしたからでしょ!本当はあんたの事をもっとじっくり観察してからにしようとしてたのに、シロとかタマとか付けられたんじゃ堪んないわ」
「そっか、それは悪かったな。この世界じゃ猫に名前なんて付けないし、前の世界ではシロ、タマは猫の名前の定番だったもんでね。じゃあ、メルダリス様って呼べばいいのかな?」
「メルでいいわ。猫にメルダリスじゃ大袈裟でしょ?私もあんたの事ホルストって呼ぶから」
「それは構わないけど、俺の監視っていつまでするの?」
「それは、その、ずっとよ!」
「ずっと、って?」
「それはホルストが死ぬまでかもしれないし、ナルディア様から別命があるまで監視するから」
何か適当だな。一生って可能性も大だな、こりゃあ。
「俺は別にこの世界で悪さしようとか、神々に楯突こうとか、そんな気は更々無いんだけど?」
「そんな事わかんないじゃない!ホルストが今はそう思っていたって、何かの切っ掛けで心変わりするかもしれないし。それだけあんたの「アクションヒーロー」は強力で危険なのよ!」
能力自体の制限と俺の口約束だけでは信用ならんという訳だな。
「じゃあ、仮に俺が乱心して「アクションヒーロー」で神と敵対したらメルはどうするんだ?」
「私にはホルストの能力発現を止める能力が付与されているの」
メルはドヤ顔で胸を張ってそう言った。そこは俺の生死が関係する大事な所だから、もう少し詳しく訊いておこう。
「例えば、どんな感じで?」
「だから、ホルストが能力を発現させようとしても私がその場にいれば私の判断で発現を止められるの」
という事は「アクションヒーロー」を無効に出来る訳じゃなく、一回の能力発現を止められるだけのようだ。つまりメルが俺の能力発現を止めても、すかさず別の技を繰り出せば問題無いという事だな。
「なるほど。それでメルは今後どうするんだ?」
俺はさりげなく能力発現止めから話題を逸らす。
「もちろんホルストの側で監視を続けるわ」
「その姿で?」
「そんな訳無いでしょ?これまで通り猫の姿よ」
う〜ん、俺としては美少女のままでいて欲しいのだが…
「夜寝る時だけその姿でいるってどう?」
俺は努めてさりげなく(でも本気で)提案すると、メルは「なっ」と絶句。そして顔を真っ赤ににして「ダメに決まってるでしょ!」と叫んて猛然と食って掛かってきた。
「大体、あんたはこの前だっていきなり私のま、ま、」
「ま?」
「私の股を覗き込んだでしょ!いい加減にしなさいよ、このスケベニンゲン!」
それは多分ラースブルグでの事だろう。だって猫なんだから雄か雌か調べるには股ぐら覗くのが手っ取り早いだろうに。いや、もちろん人にはやらないよ?
そんな訳でラースブルグから俺に着いて来た白猫の正体は、この世界の神、愛と癒しの女神ナルディアが俺に付けた監視役だった。今後もずっと俺に付いて来るらしい。それは別に構わないのだけど、白い猫連れたヒーローとか、どうなんだ?俺は金星の美少女戦士じゃないんだけどな。
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それでは次話もお楽しみに!




