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第9話 冒険者ギルドラースブルグ支部

領都ラースブルグの冒険者ギルドでは問題無く登録する事が出来た。受付の美人女性職員に惚れられたり、酔っ払いのムキムキ先輩冒険者に難癖付けられて絡まれるなどというテンプレな展開も無かった。


そもそも俺は登録条件を満たしての登録なのだ。誰に何を言われたり、咎められる謂れなど無い。受付のお姉さん達は確かに美人揃いで愛想も良かったけど、前世で言うなら銀行の窓口と一緒でビジネススマイル。


そして、冒険者ギルドに飲み屋なんて併設されていなかった。考えてみれば当然の事で、ギルドでは大量の現金を扱う訳だし、冒険者の館内での武器所持も認められている。そんな場所で酒を飲ませるとか無いからな。


〜・〜・〜


俺はカウンターで職員から登録に当たっての説明を聞き、書類を書いて提出して登録料を支払う。これで俺も晴れて下位青銅級冒険者だ。


壁に掲載された依頼書にざっと目を通す。商隊護衛に魔物駆除、薬草などの素材採取などこれぞ冒険者といった感じの依頼書が壁狭しと貼ってあった。今日の俺は飽くまで登録に来たので参考までに流し見てから俺はギルドを後にした。


冒険者ギルドを出る頃はもう昼時。ギルドに飲み屋の併設は無かったが、ギルドの周辺には宿屋兼飲み屋が多く営まれている。俺はせっかくだからラースブルグ孤独のグルメと洒落込みたかったけど、こうした宿屋兼飲み屋で新人冒険者が酔っ払い先輩冒険者に絡まれるのも鉄板なのでやめておいた。


しかし、このパターンを最初に考えた作家って誰なんだろうな。


〜・〜・〜


ギルド周辺の飲み屋での昼飯を諦めた俺は、ならば広場で串焼き肉だ!と一路広場へと向かう。このラースブルグには子供の頃から何度も訪れているので地理も大体わかっている。


ラースブルグはデーサント平原の東側、イリア川の左岸にある丘陵に築かれた城塞都市だ。


円形に築かれた城壁の中は、中心に辺境伯の居城があり、その周辺に官庁街や金融・商業街がある。街区は4つに区切られ、下町はあるけど歴代辺境伯の内政が良く貧民街は無い。


俺は以前に行った事のある噴水を中心とした広場で昼食を摂ることにした。一応、水筒のハーブティーと黒パンに腸詰、チーズを持参していた。だけど、やはり俺としては久々の街歩きなので買食いがしたいのだ。



「お姉さん、串焼き肉を2本ください」


俺は屋台でアラフォーと思しきふくよかな女性に串焼きを2本注文すれと、屋台のお姉さんは大喜びで芋のフライを一つおまけしてくれた。


噴水の縁に座り、俺は購入した串焼きを頬張ると、口の中に塩とピリ辛の香辛料、アツアツの豚肉(多分)の脂がじわーと広がって実に美味い。


「ん?」


ふと足元を見ると、一匹の白い猫が擦り寄って来ていた。真っ白な白色の柔らかそうな毛にしなやかそうな肢体、ピンと立った形良い両耳。スラリと伸びた尻尾。そして瞳の色はアイスブルーでとても美しい。この白猫はきっと猫界でも超絶美人、いや美猫と言えよう。


「にゃあ」


白猫は俺を見上げて鳴くと、足元に体を擦り付ける。


(か、可愛い…)


この白猫、野良猫ではあり得ない。こんな綺麗で可愛い野良猫がいる訳ないんだ。どこか裕福な家の飼い猫だろうか?もしかしたら辺境伯家の猫、という可能性もある。


「にゃお」


また実に可愛い声で鳴き、上目遣いで俺を見上げる白猫に、思わずとっておきの腸詰を与えてしまった。


白猫は差し出された腸詰をガブリと咥えると、その場でガツガツと食べ始めた。腹が減っていたのか、なかなかいい食べっぷりだ。


俺も冷めないうちに串焼きを頬張り、黒パンとチーズを咀嚼してハーブティーで胃に流し込む。


腸詰を食べ終えた白猫は、ごちそうさまとでもいうように「にゃあ」と一声鳴くと、そのまま俺の膝の上に飛び乗って来た。


その人懐っこさに毛並みの良い背中をよしよしと撫でる。暫くそうして背中を撫でていると、ふと思った。こいつ雄かな?雌かな?と。


「ど〜れ、お前は男の子かな?女の子かな?」


「にゃ?」


俺は膝の上ですっかり丸くなって喉を鳴らしていた白猫を抱え上げると、後脚の間を覗き見る。


「おぉ、お前やっぱり女の子だったか」


「!!」


次の瞬間、俺は抱え上げられたまま暴れ出した白猫に顔を引っ掻かれてしまった。間一髪避けて右頬だけですんだけど、下手すりゃ目もやられたかもしれない。まぁ、そのくらいだったら回復魔法で直ぐに治せるにしても危なかったな。


「何するんだよ、危ないじゃないか!」


俺が文句を言うと、白猫は俺に抱き上げられたまま、フンっ!といったように顔を背け、俺の腕の中から抜け出して地面に降りて行った。


「何だよ、全く!」


いつの間にか姿を消した白猫に俺は一人毒付いた。


〜・〜・〜


冒険者ギルドで登録を済ませ、昼飯も食べ終えた。まぁ、ちょっとしたハプニングはあったものの、後はエミリーとマリーに土産を買えばこの街での用事もお終いだ。


2人には何を買おうかと迷い、マリーには指輪なんかどうかなと思いつつ、生憎現金はあまり持っていなかったという懐事情もあり、結局飴玉に決めた。


とはいえ、飴玉もこの世界では贅沢品と言っていい。この世界には菓子の類が少なく、一般に広まっていない。庶民は一年に二、三回お祭りや冠婚葬祭で口に出来るかどうかという代物だ。


下級貴族もそう事情は変わらないけど、我がヴィンター騎士爵領は山深い田舎だけに蜂蜜やドライフルーツの類は豊富にあり、甘味にはあまり不自由していない。でも、普段口にしない都会のお菓子を食べたいと思うのが人情というものだろう。それに、飴玉なら別の誰かに分け与えられるからね。


菓子屋で買った飴玉の袋を肩掛けバックにしまうと、俺は領都を出るため城門を出た。



「にゃあ!」


街道を急ぐ俺の後ろから少し焦ったような猫の鳴く声が聞こえた。振り向いて見ると、領都の広場にいた白猫が駆け寄って来ていた。


え?俺を追いかけて来たのか?


俺が立ち止まってしゃがむと、白猫はそのままぴょんと跳ねて俺の腕の中に飛び込んで来たのだ。


俺はうまうまと俺の腕の中に収まった白猫を抱いている。


「お前、俺と一緒に来たいのか?」


「にゃっ」


それは「そうよ」とでも言うようで、白猫は俺の腕の中から動く気配は無い。


(う〜ん、どうしようか…)


そう考えている間にも白猫は俺の胸に頭を擦り付けている。


この白猫、俺の何が気に入ったのか、結局腕の中から動かず、そしてここまで懐かれてしまうと憎がらず思うのが人情というもの。


「お前、うちの子になるか?」


「にゃあ〜」


袖擦り合うも他生の縁とも言うしな。


俺は白猫を抱いたまま街道を一路故郷へと急いだ。




いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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