第1話 「アクションヒーロー」ここに誕生!
新作を投稿致します。宜しくお願いします。
「ホルスト・ヴィンター。お前は何故ジードを挑発する様な真似をしたんだ?」
「いいえ、執事様。先に彼が私を侮辱しました。謂れのない侮辱を受けて黙っている訳には参りません。私に対する侮辱は両親、ひいてはヴィンター家に対する侮辱でもあります。それに私は"かかって来い"とは言いましたが、剣を抜けとまでは言っていません」
俺の返答を聞いて、そこにいた大人達は一様にう〜んと悩み込む。それはそうだろう。俺は事実と正論しか言っていないのだからな。
〜・〜・〜
ここはジギスムント王国はラース辺境伯爵領、その領都ラースブルグ。俺はラース辺境伯爵の居城内に幾つかある辺境伯の執務室、その一室で辺境伯直々の事情聴取を受けていた。何についてかといえば、先程俺とカルスト男爵家の長男ジードが起こした決闘騒ぎについてだ。
この世界では13歳になると神殿で元服の儀を受ける事となっている。その際に信仰する神々から「能力」を授かる者が出るのだ。
「能力」とは神々からの祝福と考えられ、授けられた者は「能力」により様々な特殊な力を顕現させる事が出来るようになる。その割合は300人に1人ほどと言われてるが定かではなく、また、自分が欲する「能力」が授かるとも限らない。騎士や剣士になりたい者に「主婦」の「能力」が授けられる事もあったりもある。
俺の名前はホルスト・ヴィンター。ヴィンター騎士爵家の三男だ。俺の実家であるヴィンター家は寄親であるラース辺境伯爵領から更に山を二つ越えたマッキリー川を遡った盆地を領地としている。
そして、数えで13歳になった俺は夏至の日の今日、実家の寄親であるラース辺境伯爵の居城に他の寄子の同い年の子弟達と共に集められ、城内の神殿で元服の儀を受けたのだ。
その決闘騒ぎ(俺は一方的な被害者なのだが)が起こった経緯とは、俺とジードの2人がそれぞれ「能力」を授かった事に端を発した。
この日、元服の儀を受けたのは50人の数えで13歳になった寄子の子弟達。この50人の中から2人も「能力」を授かったのは極めて稀な事だった。本来なら喜ばしい事であり、1人でも「能力」を授かればその後辺境伯主催のパーティーで辺境伯直々に祝って貰える程なのだ。
ジードが授かった「能力」は「剣士」であり、俺が授かった「能力」は「アクションヒーロー」という物だった。
「剣士」はわかるにしても、「アクションヒーロー」なる「能力」は前代未聞で、どのような「能力」となるのか誰もわからず、神殿の神官すら初めて聞くと言う始末。だが、「能力」は神々が授けたものなので、どのような「能力」が授けられたとしてもそれを祝福するのが習慣となっているのだが…
ジードは体格と腕力に秀でたカルスト男爵家の長男で、奴は剣士となる事を望んでいたため「剣士」を授かった事を非常に喜んだ。喜びに喜んだジード。奴は「剣士」を授かった事に優越感を持ち、更に増長したのか「アクションヒーロー」という訳の分からない「能力」を授かった俺を揶揄い始めたのだ。
「ぷっ、ホルスト、何だよお前の「アクションヒーロー」ってよ。何が出来るんだ?意味わかんねえよ」
取り巻き連中と一緒になって俺を馬鹿にして大騒ぎ。このジードという奴は男爵家の長男である事を鼻にかけた嫌な奴だ。ジードの実家であるカルスト男爵はラース辺境伯の寄子の中でも最大の家であり、領軍が編成されればラース辺境伯を補佐する副将となる家だ。そんな家の長男であるジードは、体格も大きくて腕っ節も強い粗暴な性格であった。奴に強く出られる者が大人も含めて少なかったためそれがジードを増長させ、更に横暴な性格にしてしまっていた。
そして、奴は何故か昔から俺を目の仇にして、機会がある毎に何かと言いがかりをつけて絡んで来ていた。まあ、その度に返り討ちにしてはいたが。きっとあのブサイクな間抜け面は文武両道に優れ、クール系黒髪イケメン男子の俺が羨ましく、妬ましかったのだろう。
この時も俺はジードとその取り巻き共をスルーしていた。祝いの日に寄親の元で騒ぎを起こす訳にはいかない。しかし、「剣士」の「能力」を授かって有頂天となっていたジードは、今日こそ今までの屈辱を晴らすチャンスと見たのだろう。執拗に絡みに絡み、その祝いの日に大勢の参加者を前にして遂には貴族の子弟として言ってはならない事を口にしたのだ。
「俺の代になったら、お前の家なんて潰してやるからな。そんで、お前の妹も家臣の娘も娼館に売り飛ばして、さんざんに抱いてやらぁ」
ジードがそう言い放つと周りの取り巻き共も一緒になって俺と俺の家を罵った。しかし、奴のこの暴言にはその場にいた大人達も顔を顰め、元服の儀に参加した寄子の子弟達はドン引きしてしまっていた。
そして、俺もこうまで言われては黙ってはいられない。ここまで言われて何もしなければ、俺は自分の家をコケにされても何もしなかった臆病者となり、騒動はやがて子供同士のいざこざから寄子同士の諍いに発展してしまうだろう。
「おい、デクの棒。お前自分が何言ったかわかってるのか?」
「は?だから何だよ、アクションヒーローさん?」
わっはっはっはっは
何が面白いのか、馬鹿笑いするジードと取り巻き共。
「馬鹿が分不相応な能力貰って勘違いしたか?低脳のお前が剣士だと?笑わせてくれる。その足りない頭と無駄にでかいだけの体で何をふりまわすんだ?テメエの臭えいちもつか?この能無し野郎が!」
こいつは本当に馬鹿で、13歳にもなって満足に字も書けず読めず、計算もろくに出来ない。だから「馬鹿」「低脳」「能無し」と言われる事を病的に嫌がり、激怒する事を俺は知っていた。
先程まで得意満面で俺を罵っていたジードはこのジード禁句三連ちゃんを聞くと、途端に怒気を発し、俺を睨みつけた。
「お前、俺にそれだけの事を言ってただで済むと思うなよ?お前なんか親父に言いつけて「黙れ!何が親父だ、この能無し甘ったれ野郎が!でかい図体してとうちゃんがいないと何も出来ないのか、クソボケ!」
俺がジードの下らない御託を遮って言い返すと、ジードは更に怒気を強めた。
「後悔するなよ、ホルスト。ぶっ殺してやる」
「文句あるならさっさとかかって来い」
俺は既に知り尽くしているジードが嫌がる言葉を並べて軽く挑発すると、案の定ジードは俺に殴りかかって来た。俺はその大振りで、スロー過ぎて欠伸が出そうなパンチを軽く半身を切ったバックステップで躱すと、空振りして背中を晒したジード尻に思いっきり蹴りを入れてやった。
ジードはそのまま立食パーティーのテーブルに突っ込み、スープを頭からかぶり、その熱さに悲鳴を上げた。
その無様で間抜けな様に会場のあちこちから笑いが上がったが、立ち上がったジードが腰の剣を抜くと、それは悲鳴に変わった。
流石に寄親の居城内で抜剣するのは不味い。ジードは怒りのあまりそんな事もわからなくなっていたのだろう。奴は大きく剣を振りかぶると、気合いと共に俺に斬りかかって来た。
「剣士」の能力を授かっただけにその剣筋は鋭く、素人ならばそのまま斬り殺されていただろう。そのくらいジードの剣には殺気が込められていた。
だが、そんな殺気で見え見えの剣など俺には余裕で避けられる。俺は二撃目が来る前にジードの背後に回り込み、右腕を奴の頚部に回して頚動脈を締めると、ジードは暫くジタバタしたのちに意識を失った。
この頃になると、誰が呼んだか城内から騎士達が駆け付けて来た。俺が意識を失ってやたら重いジードの体をぶん投げると、騎士達は俺を取り囲んで辺境伯の元へと連行した。
〜・〜・〜
結果として辺境伯は俺をお咎め無しとした。何といってもジードが俺と俺の実家を侮辱した事については大勢の目撃者と証言があり、城内での抜剣と俺に斬りかかった事実は隠蔽出来なかったからだ。
それに対してジードは、祝いの日に辺境伯の居城で騒ぎを起こし、抜剣したにもかかわらず無手の俺に手もなくやられた事もあり廃嫡の上で奴隷として取り巻き連中と共に売却された。カリスト男爵もジードの馬鹿さ加減を庇う事は出来ず、息子を切り捨てるしかなかったようだった。
とはいえ、俺もすぐに無罪放免とはならず、翌日まで城内に留め置かれた。これは事情聴取だけでなく、カリスト男爵やジードに連座して子弟が奴隷となった寄子達の復讐から俺を守るための措置でもあったのだろう。
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