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第69話 凪の想い

「――サクラ。ありがとう」

「え? 急にどうしたの?」

「六年前のお礼。言いそびれてたんだ。あのとき、サクラが教えてくれた。縁は途切れないって、また誰とでも縁を結んでいくことが出来るって教えてくれたから、俺が前を向けるように新しい『約束』をしてくれたから、俺は立ち直れた。自分の周りに大切な人たちがいることに気付けた」

「ナギ……」

「全部、あの日にサクラと出逢えたことがきっかけだと思う。だからサクラ……ありがとう! ずっと、ずっとこうやってお礼が言いたかったんだっ!」


 六年越しの再会。ずっと心に溜めていた言葉。

 晴れやかに微笑む凪に、サクラも明るく笑って返す。


「うんっ、どういたしまして! けどね、サクラもおんなじだったんだよ」

「ん? 同じ?」

「うん。あのときにはね、もう、サクラの神社に人は来なくなってたの。だからサクラ、さみしくて外に出てね、そしたら隣の山の神社でみんなが楽しそうにお祭りをしてたから、ついまぎれこんじゃったの。そこでね、ひとりだったナギを見かけたから、気になって近づいて……そしたらサクラのことが見えたから、すっごくびっくりしたの!」

「あ……それであのときはいきなり近づいてきたのか?」

「うん! 少しだけでも一緒に遊べて楽しかったなぁ。おかげでサクラもさみしくなくなって、またがんばるぞーって思えたんだよ。サクラもナギに助けてもらったの。だから、お互いさまだねっ!」


 サクラは笑う。だから、凪も笑い返すことが出来た。

 そして凪は理解する。サクラの笑顔で思い出の少女を思い出すことがあったのは、たとえ姿が変わっても、サクラという存在が何も変わらなかったことの証明なのだと。

 二人の縁の糸は温かく光り、その繋がりを確かなものにした。


 凪は――改めて、サクラの顔をじっと見つめる。


「んっ? ナギ? どうかしたの?」


 思い出の少女(サクラ)が、愛らしく首をかしげて微笑む。髪飾りの鈴がリンと鳴った。


 凪にとって、サクラは特別な女の子だ。

 子どものすることとはいえ、結婚の約束をした。今も好意はあるし、感謝もしている。会えただけで心が弾み、その笑顔を見ると幸せになれる。それは間違いない。


 なのに――告白しようという気持ちは、不思議となかった。


 好きという感情だけではない。いろんな、複雑な気持ちが交じり合っている。それを恋と呼び、彼女と結ばれることを自分は望んでいるのか。そう考えたとき、単純に告白することが答えとは思えなかった。


 振り返れば、月音が静かにこちらを見守っている。


「…………そうか。俺は、やっぱり……」


『約束』を果たし、サクラと月音の想いを知ったことで、凪は気付いた。


 今までの自分は――純粋に〝彼女(サクラ)〟と向き合っていたのではない。

『約束』を守ろうと、美しい思い出を守ろうとしていただけなのだと。


 それはきっと、サクラや月音が自分に向けてくれた恋い慕う気持ちではない。

 だから、いざ〝彼女〟と対面しても答えが出せない。ずっとそばにいた月音の気持ちにも気付かないふりをしてきた自分に、それができるはずなどなかった。本当の意味で彼女たちと向き合い、自分の想いを知らなければ、答えが出ることはない。そんな当たり前のことに、凪はここでようやく気付くことが出来た。


「……あのさ、サクラ。あのときの約束だけど……俺は――」


 そして何かを伝えようとした凪は、途中で我が目を疑った。


「……えっ? お、おい……サクラそれっ!」

「なになに? ――わっ!? わわわわーっ!?」


 困惑するサクラの身体が再び淡い光に包まれていき、胸元の『神紋』がまたも『縁切り』のカタチに反転してしまう。


 光が消えたとき、サクラの身体はあっという間に小さくなってしまっていた。


「え……ええーっ!? サクラ!? また元に戻ってるぞ!」

「あれぇーっ!? サクラまたちっちゃくなっちゃった! なんでなんでっ!?」


 混乱する二人に、イコナがふきだすように笑った。


「今のはたぶん、口づけによってナギくんの神通力がサクラの中に流れたことで、一時的に力を取り戻しただけよ。ナギくんの神通力には、お守りに込められていたサクラの本来の力が混じっていたからね」

「あ……なるほどぉ……!」

「本当の意味で本来の姿に戻るには、ちゃんとこの神社に信仰の力を取り戻さなきゃダメよ。まぁでも、副次的に神社だけでも綺麗に戻ったんだしいいんじゃないの」

「うん……少しだけでも、元のサクちゃんに会えて、嬉しかったな。それに……やっぱり、小さいサクちゃんも、とってもあったかくて、可愛い……♪」

「え~っ! そ、そんなぁ~~~!」


 ちっちゃくなったサクラが不満そうな声を上げたが、彼女以外の全員が笑い出す。凪も、サクラはやはりこの方がサクラらしいかな、とさえ感じてしまった。


 そのとき、月音がそっと凪の腕を掴んでこっそりと耳打ちをしてきた。


「――凪ちゃん。私、諦めないからね。今のうちに、恋の宣戦布告しておきます!」


 そう言って身を離す彼女の瞳は、輝いていた。

 凪はうなずき、そして、自分の心とも向き合うことを決めた。サクラや月音にちゃんと答えを伝えられる男になろうと決意した。


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