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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第八印 約束 ✿

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第67話 結びの口づけ

「ここで出逢ったんだ。それから一緒に暮らすようになって、月姉と一緒にいろんなところに行ったよな。桜餅やまんじゅうが好きで、よく月姉にねだっては怒られてた」

「ナギ……どう、して……どうして……!」

「言っただろ。忘れてなんかないんだ。これが……俺をちゃんと守ってくれた」


 凪は、手の中で淡く光るお守りをサクラに見せた。

 そっとお守りに触れたサクラへ、イコナが言う。


「わかるでしょう、サクラ。そのお守りの中には、あなたの『神朱印(たましい)』が刻まれている。以前、サクラが縁結びの神様だったときのね」

(まえ)の……サクラの?」


 うなずくイコナ。今度はククリが続いた。


「サクちゃん……それは、サクちゃんの心、なので。サクちゃんは、縁を切りたがってなんか、ないよ。わたしたちだって、そうだよ。だから……どんなに細くても、今にも途切れそうになっても、ちゃんと、最後の一本は繋がってる、ので」

「サクラの……こころ……」


 サクラは手元のお守りを見つめ、そこにサクラの涙がぽつぽつと落ちていく。

 しゃがみ込んだ月音が、両手でそっとサクラの手を包み込む。


「サクラ様。本来、『縁切り』は悪縁を切って良縁に繋げるための、立派な御利益の一つなんですよ」

「……立派な……?」

「そうです。確かに、縁切りには悲しい願いが込められることも多いと思います。けれど、それはわたしたちが人間だから。心が弱ったときには、神様に助けを求めてしまうものだから。サクラ様は、そんな人たちの心を救ってきたんですよ。神様らしくてすごいことじゃないですか。それに、サクラ様は前にククリ様へこう言いましたよね? 自分のことを否定したらいけないって」

「サクラの……力でも……みんなの、ために……」


 うなずく月音。

 今度は、イコナがサクラの手に自分の手を重ねる。


「神なんて万能じゃない。すべての人を幸せに出来るわけじゃないのよ。だからあたしたちは学校でたくさんのことを学ぶし、独り立ちしてからも人と協力するんじゃない。古くから神と人はそうやってきたのよ。あなただってわかってるはずでしょ。なのに……」


 イコナは落ち着いて語っていたが、やがてその眉尻が高く上がっていく。


「――ホンットに馬鹿ねあなたは! あたしたちとの(きおく)を消そうだなんて何を勝手なことしてくれてんのよ! もしまた同じようなことしようとしたらそれこそ絶交よ! もう一生許してやらないからね! 本気で言ってんのよあたしはッ!」

「イコナ……」


 今までにないほど激昂するイコナは、その目に大粒の涙を浮かべていた。

 さらに、ククリも自分の手を重ねる。


「サクちゃんは……わたしのために、たくさん、がんばってくれたよね。サクちゃんは……いつも、みんなのために懸命で……。わたしとは違って、明るくて、優しくて、あったかくて……。そんなサクちゃんが……嫌われてるはず、ないのでっ!」

「……ククリ」

「わたし……サクちゃんのおかげで神になれたんだよ? サクちゃんのこと、大好きなのに……忘れたくないよ。おねがいだから、もう、つめたいことは、しないで……」


 ククリもぽろぽろと涙を流し、悔しげに声を震わせながらサクラに訴えかけた。

 凪は、最後に自分の手を添える。


「サクラ。俺、みんなと一緒にいてわかったんだけどさ、たぶん、神様も人間も、そう変わらないんじゃないかな」

「……え?」

人間()たちはさ、きっと一人じゃ生きていけない。俺は、月姉やサクラたちにたくさん助けてもらってきたから、そのことがよくわかる。でも、それは神様(サクラ)も同じだろ? めちゃくちゃ食いしん坊だったり、やりすぎなくらい潔癖だったり、驚くほど本の虫だったりして、サクラもイコナもククリも、みんな、俺たち人間と同じように生きて、悩んでた。だからきっと人も神様も同じで、一緒に支え合っていくことが大切なんじゃないかなって、そう思うんだ。それこそ、『神人和楽』ってやつだよ」

「……いっしょに?」


 凪は笑顔で、ハッキリと、確かな意思を持ってうなずく。


 それでも。

 それでもサクラは、目を伏せた。


「……でも、サクラ……サクラは……」


 自分がしてしまった事の大きさに、サクラは押しつぶされていた。凪たちが彼女を許そうとも、桜大刀自神(サクラ)彼女(サクラ)を許してはくれない。


 そのこともよくわかっている凪は、続けて話しかける。


「サクラ。サクラの今の『神朱印』を俺にくれないか」

「……え?」

「このお守りが、小さかった俺をずっと導いてくれた。俺を守り続けてくれた。それは、サクラが守ってくれていたってことだと思う。だから、ちゃんとサクラの『神朱印』を貰いたいんだ。今のサクラの『神朱印』を」

「ナギ……でも、今のサクラの印なんて……っ」

「関係ないよ。俺は、『サクラの朱印』が欲しいんだ。サクラが持ってる、サクラだけの(しるし)がさ。その印がきっと、俺を前に進めてくれると思う。そう信じられるんだ」

「……ナギ」

「俺と初めて会ったとき、サクラは約束してくれたよな。俺が、思い出の子と会えるようにがんばるって。だから俺も、サクラとここで約束するよ。俺は必ず、またあの人と出逢う。だからサクラ。もっと一緒に御朱印巡りしよう。そのために、またここからサクラと一緒にスタートしたいんだ」


 凪が笑う。

 月音は「仕方ないなぁ」と微笑み。

 イコナは「さっさとしなさい」と呆れ顔を浮かべて。

 ククリは「素敵なので」と涙を拭った。


 そしてサクラは――。


「……うん、わかった。サクラも約束します。これからも――ナギと一緒にいるっ!」


 凪へと抱きついたサクラは――そのまま、凪の唇に自らの唇を重ねた。


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