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第57話 月音のお願い

 すると次の瞬間、イコナが高校の女子制服であるセーラー服姿に。脚もタイツに包まれて、普段とはまったく印象が違う完全な女子高校生となった。


 一方、ククリは白いニットと軽く透けたチュールスカートの女の子らしい私服ファッションに変貌。ガーリーな装いがよく似合っていた。


「ふぅん、ナギくんはこういうのが好きなんだ? ま、及第点かな」

「このお洋服……あったかくて……と、とっても可愛いです……♪」

「あはは、よ、よかった。なんとか出来た……」


 妙な疲労感にぐったりする凪。

 二人は普段着ることのないだろう洋服にはしゃぎ、お互いの服を弄り合う。そんな二人があまりに年頃の女の子らしかったため、凪は少しだけ見惚れた。


 イコナはどうやら気に入ったらしい制服に目を落としながら言う。


「うん、それじゃあ後は『神御衣』の解除だけど、こっちはまとまった神通力をパンと泡みたいに弾けさせるイメージね。作るよりは簡単よ」

「ああ、さっきイコナがエプロンを消したやつだよね。じゃあ早速解除してみるよ」

「ただ一つ注意があって――あっ、ちょっと待ってナギくん!」

「ナ、ナギさんだめなのでっ!」


 手を叩こうとする凪を止めようと、慌てて押しかけてくるイコナとククリ。


 時すでに遅し。

 凪の軽快な拍手の音が響いた次の瞬間、凪の羽織は粒子となって消える。


 同時に、イコナとククリが全裸になっていた。


「――え?」


 凪が短い声をあげたとき、彼は二人に押し倒されもみくちゃな状態で布団へ。

 凪の顔には自称ほぼCカップと推定Fカップ以上が思いきり押しつけられ、右手はイコナのくびれた腰を、左手はククリの豊かな胸をしっかりと掴んでいた。それぞれ柔らかさや匂いが異なり、どちらも夢心地になるほどの滑らかな感触。


 凪はそんな自らの現状をしばらく理解出来ず、完全に思考が停止していた。


 ゆえに、先に思考を取り戻したのは二柱の神様である。


「いったぁ……ってぇ!? ああもうやっぱりこうなったぁ!」

「あう……ご、ごめんなさっ……え? ……ひゃあああっ!?」


 イコナとククリは凪の上から身を起こし、己の状態に気付いて甲高い声を上げ、身体を手足や掛け布団で隠す。しかし、その状態がより扇情的さを際立てていた。


「ナギくん見るなぁっ! もう、だから止めようとしたのにっ! あたしたちの服は全部あなたが作った『神御衣』だって忘れてたでしょ! バカァッ!」

「ナ、ナナナナギさん、だ、だめ、だめなので……っ!」

「うわホントごめん! そんなつもりじゃなくて! すぐ別の服用意するから!」


 凪は急いで手を叩き、二人の手に触れる。

 だが慌てるあまりろくなイメージが練られていなかったせいで、イコナはなぜか透け感のあるセクシーな下着姿に。ククリはなぜか布面積の少なすぎるマイクロビキニ姿へと変化。またもや彼女たちの悲鳴が上がり、余計に混乱した凪が拍手を打ったことで再び全裸に。もはや場は混沌を極めた。


 さらにその最悪のタイミングで、廊下の向こうから甘い声が聞こえてくる。


「な~ぎ~ちゃぁ~ん? 何が物音がしたけど、どうかしたの~~~?」


 三人は揃って慌てだし、バタバタと動き出した。


「げぇっ!? つ、月姉だっ! やややややばい! こんなとこ見られたら終わりだぁぁぁ!」

「ああもうっ! あたしたちこのまま帰るからっ! お、覚えてなさいよっ!」

「ううぅぅぅ~~……ご、ご迷惑おかけしました、のでっ……」

「こっちこそホントにごめん! 今日はいろいろありがとイコナ! ククリ!」


 乙女な神様たちはそれぞれに小さな拍手を打ち、全裸のまま『神足通』で光の中へ消え、それぞれの神社へと戻っていく。


 直後、本当にギリギリのタイミングで襖の戸が開いた。


「凪ちゃん? 慌てたような声が聞こえたけど、何かあったの?」


 現れたのは、フリル付きのキュートなルームウェアに着替えて、金髪をシュシュで一つに結んだリラックスモードの月音の姿。

 ここで凪はハッと気付く。先ほど凪がイコナとククリに着せてしまった下着や水着のデザインは、以前月音と買い物に行ったとき彼女が試着で見せてきたものであったと。そのときのことを思い出すとさらに慌ててしまう。


「いや、ちょ、ちょっと修行でごたごたしちゃって! それでイコナもククリももう帰っちゃったからそろそろ寝ようかなと! あ、あはは!」


 嘘ではないが真実は伏せて説明する凪。

 月音は静かに部屋の中を観察していたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「そうなんだね。私も凪ちゃんと神通力の修行してみようかなぁ。あ、それでね、洗い物も終わったし、お風呂も準備できたよ~」

「あ、それで呼びに来てくれたのか。ありがと月姉、それじゃあ――」

「うん、だから一緒にお風呂入ろ♥」

「へ?」


 思わず間の抜けた声を上げてそちらを見る凪。月音は平然と微笑んでいる。

 それはかつて、月音が毎日のように言っていた定型句のお誘いだったが、凪が中学生の頃にがっつりと拒否して以来、鳴りを潜めていたものであった。だから久しぶりに堂々と誘われてしまって、凪は軽く驚いてしまったのだ。


「ほら、前にちゃんと一緒に入る約束したよね? ねっ?」

「あっ。いやそうだけどさっ。でもさすがに高校生にもなって――」


 以前のやりとりを思い出して固まる凪。そこで言葉が止まった。

 なぜなら月音がその場で正座をし、凪の目をじっと見つめて、


「お願い、凪ちゃん」


 真剣に、そう言ってきたから。


 月音はすぐに微笑むが、その笑顔が普段とどこか違うことに凪は気付く。彼女が『お姉ちゃん特権』を使わないことからも、何か特別な意図があるのだと感じた。


 だからもう、観念するしかなかった。


「……はぁ。おっけー、覚悟決めたよ。その代わり、水着着用でね!」

「……! うんっ、ありがとう凪ちゃん! じゃあ早速水着取ってくるね!」

「あっ! ちゃんと学校用のやつだぞ! 露出少ないやつにしてよ!」

「もぉ、凪ちゃんのしっかり者~~~!」


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