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第56話 イコナとククリの神通力修行

「あ……ナギさん。あの、こちらなら読ませていただいても、いいでしょうか……?」

「ん? ああもちろん。俺の部屋、あんまり小説とかないからな。ごめんククリ」

「いえそんなっ。ナギさんの御朱印帳……すごく、興味があるので……!」

「でも本当は電子書籍の秘密の本が読みたいのよね」

「イ、イコちゃんはだまってお掃除していてっ!」


 珍しく大声を上げて怒るククリに、イコナがおかしそうに笑った。

 凪が手渡した古い御朱印帳を受け取ったククリは、そっとページに手を触れる。ごく普通の御朱印帳ではあるが、凪にとっては大切な思い出の残るものだ。


「わぁ……ナギさんは、こんなにたくさんの神様(かた)と、出逢ってきたのですね」

「初めの方は妹が集めたものだけどね。月姉たちと家族旅行するときは、不思議と近くに神社があることが多くてさ、それで自然と集まっていったんだよ」

「ナギくんには、神を惹きつける天性の神脈(じんみゃく)があるのよ。ああ、人じゃなくて神の脈って書くのよ。日頃から神域にいるとそういうモノが得やすいわ」

「へぇ……神脈、か。サクラやイコナ、ククリに会えたのもそのおかげかな。だとしたら、過去に俺を迎えてくれた神社の神様たちにも改めて感謝しないといけないな」

「あら、殊勝な心がけ」


 目の前で微笑む二柱の女神を見てそう思う凪。あの頃は、まさかこうして神様と会話が出来るようになるとは思ってもいなかった。


 イコナは頭巾を取り、胸を張って誇らしげに部屋を見渡す。


「――ん、今日のところはこのくらいでいっか。それじゃあナギくんの真摯な気持ちにお応えしまして、そろそろ今晩の修行、始める?」

「あ、うん。頼むよ。ククリも、いつも付き合ってくれてありがとな」

「いえ、わ、わたしなんてそんな。少しでもお役に立てたら、幸いなので……」


 正座し直して、イコナとククリに深く頭を下げる凪。


 ――修行。それこそが二人を部屋に招く一番の理由であった。


 ククリから『神朱印』を授かったことで、より自らの神通力を感じ取れるようになった凪は、その力をコントロールするため、相談ついでに二人から力の使い方を習っていた。初めはサクラにも教わっていたのだが、直感型のサクラは人に教えるのが恐ろしく下手だったため、イコナとククリが代わりに役目を担ってくれたのである。


 イコナが人差し指をピッと立てて言う。


「はい、じゃあ前回の続きからね。まずは意識を集中して、全身の神通力を感じとる」

「うん」


 目を閉じて、言われた通り瞑想状態に入る凪。最初は雑念だらけで瞑想することも難しかったが、この修行にかなりの時間を掛けたこともあり、神通力が血のように身体を巡る『光のイメージ』が徐々に作れるようになった。


 ――目を開く。


 その瞳には、先ほどは視えなかったものが視えるようになっている。

 例えば自らの身体を覆う淡い光。それはイコナとククリの周囲にもあり、この光こそが神通力の発する霊的なエネルギーの輝き。今までは不意にしか見えなかったものが、意識的に視認出来るようになった。そして、凪と二柱との間には光る糸が繋がっている。


「よし、準備OK。それじゃあ今日は、『神御衣(かむい)』でも作ってみよっか」


 そう言うイコナが拍手を打つと彼女のエプロンが消え、凪は「え?」と驚く。


「『神御衣』って、イコナたちが着てる服のことだよな。俺にも作れるのか?」

「それだけの神通力があれば余裕よ。『神御衣』は身体から漏れる神通力の消費を抑えてくれるし、外からの神通力による影響も遮ることが出来るの。そのうえ丈夫で寒暖にも強いわ。神にとっては必須スキルで、学校でまず教わることの一つよ」

「はい。わたしたちにとっては……最も基本的な力の一つなので」

「へぇ~……あ、だからサクラたちはククリの神社でも平気だったのか。それに俺も、あのときイコナに羽織を借りてからすごく楽になったんだよな」

「そういうこと。そうね、じゃああの時みたいな羽織り物でもイメージしてみて。神通力の薄布が身体を包むような感覚。で、拍手を打つことでその神通力を具現化するの」

「わ、わかった。やってみる!」


 また目を閉じて、和服の羽織を想像する凪。神通力に意識を残しつつ、拍手を打つ。


 目を開けると、Tシャツ姿だった凪は渋めの羽織を着用していた。


「おお! で、出来たっ!」


 自分のしたことに驚く凪。その『神御衣』はほとんど重さを感じない軽さで、不思議と全身が温かい。手で触れると、サラリと心地良い絹のような感触があった。


「上出来ね。やっぱりナギくん才能あるわよ。ますますうちに欲しいわ」

「一度目でなんて……ナギさん、す、すごいです。すごいのでっ!」


 小さく拍手(はくしゅ)をしてくれるククリ。褒められて照れる凪をイコナが小突く。


「ハイ調子に乗らない。じゃあ次は他人にその力を〝流す〟応用の練習ね。さっきと同じ感じで、あたしたちに『神御衣』を着せてみて。拍手を打ったら、あたしたちに触れてこっちに神通力を流すの。ただし、訓練としてさっきとは違う服にすること」

「え、イコナとククリに? で、でもどんな服を着せたらいいんだ?」

「なんでもいいわよ。誕生日プレゼントってわけじゃないけど、ナギくんの好きな服を着てあげる。ふふ、ナギくんのセンスが問われるわね。楽しみだわ」

「わ、わたしもなんでも着ます! お手伝いがんばります、なので……!」


 からかうような微笑のイコナと、真面目に背筋を伸ばすククリ。


「ええええ……俺のセンスって言われても」

「いいからさっさとやる。時間は有限なんだから効果的に使う!」

「は、はい!」


 そうは言われても困ってしまう凪だが、せっかく協力してくれる二人に申し訳がないと慌てて目を閉じ、集中する。


 だが、女性モノの服など凪にはまったくわからないため、身近な月音のことをイメージして拍手を打ち、目を開けて二人の手を握った。

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