第54話 輝き出す糸
「……なぁサクラ。何か、俺に話したいこととか」
「あっ! ねぇねぇナギ! ほらあっち! サヤちゃんたちだ!」
「え? あ、ああ」
しかし、サクラに途中で話を切られてしまう。
そして駆け寄ってきた沙夜と色葉の登場で、もうその話を続けることも出来なくなった。二人の後ろには、色葉の母親の姿もある。
「お兄ちゃんお姉ちゃんっ! ま、待ってよ! もう帰るのっ!」
「気付いたら、いなくなってしまってて……あ、慌てて追いかけて、きました」
沙夜も色葉も息を荒げており、背後で母親がペコリと頭を下げる。凪と月音も、揃って頭を下げておいた。当然ながら、彼女らにはサクラたち神の姿は見えていない。
どこか落ち着かない様子のククリを見て、凪が言う。
「今日は一緒に遊べて楽しかったよ。二人とも、ありがとう。それから……ククリヒメ様も、二人には感謝してるってさ。ありがとうって言いたそうな顔してる」
「「え?」」
沙夜と色葉が声を揃えてぽかんとする。ククリは赤くなっておじぎをしていた。
続けて月音が膝を曲げ、目線を二人に合わせて話した。
「沙夜ちゃん、色葉ちゃん。これからも二人で仲良くね。離れていても、お互いを想い合っていれば、ずぅっと大切な友達でいられるはずだよ」
月音が二人の頭を撫でると、沙夜と色葉は顔を見合わせてうなずいた。
「うん! それとさ、お兄ちゃんとお姉ちゃんともトモダチ、でしょ?」
そう言った沙夜と色葉が二人してスマートフォンを取り出し、笑う。
凪と月音は、その場で二人と連絡先を交換。高校生の友達なんて普通は出来ないと嬉しそうにする沙夜と色葉の間には、強い縁の糸が繋がっている。凪の目にはそれがしっかりと視えていたから、もうこの子たちは大丈夫だと強く安心出来た。もちろんククリも、そしてサクラやイコナも、喜んで二人を見守ってくれている。
色葉がスマートフォンを握りしめ、なんだかそわそわとしながら上目遣いに言う。
「あの……お、お兄さん! 連絡しますねっ!」
「うん。だけど、俺には女の子の話題はわからないと思うけど大丈夫かなぁ」
「いいんです! あの、本当に……本当にありがとうございましたっ。おかげで沙夜ちゃんと仲直りができて……。それであのっ、お、おんぶしてくれて、励ましてくれて、がんばって走ってくれたとき……と、とってもかっこよかったですっ!」
手を握りしめながらそう言って、頬を赤らめる色葉。
「お兄さんも会いたい人に会えるように、わたし、ひめさまにお願いしておきます!」
色葉の勢いにちょっぴり戸惑った凪だが、すぐに笑いかけて「ありがとう!」とお礼を返す。すると、色葉は眩しいくらいに目を輝かせた。
続いて沙夜も凪の前に立ち、クリッとした瞳でこちらを見上げる。
「お兄ちゃん、ホントにかっこよかったよ。まさか色葉を連れてきてくれるなんて思わなかったもん。サヤ、なんかお姉ちゃんのキモチわかっちゃったな~」
「え、月姉の気持ち? どういう意味かな?」
「ナイショ。ただね、サヤも色葉もお兄ちゃんとお姉ちゃんにはすっごく感謝してるの! だから、これはお礼ねっ」
沙夜と色葉が凪を挟むように両隣へつく。そして、同時に凪の頬へとキスをした。
「これだけでごめんね。サヤたちにあげられるものって、他にないからさ」
「い、いきなり驚かせてしまってごめんなさいっ、お兄さん」
「あ、いや……あ、ありがとう。二人とも」
それから二人は呆然とする凪を挟んでスマホを取り出し、記念撮影を開始。
月音がたまらずに叫んだ。
「う、うわぁ~ん! 凪ちゃんが神様だけじゃなくて、小学生の女の子にもモテだしちゃったよぉ! もう私も今日から御朱印巡り始める! 御朱印ガールになって縁結びする! ククリ様~! どうかお願いしますぅ~~~!」
「はぁ!? ちょっと月姉何言ってんの!? は、恥ずかしいからやめてくれ!」
「やだやだやだもん! どうか凪ちゃんが年下に浮気せず、ちゃんとまっとうに健全に年上のお姉ちゃんと結ばれますように~~~!」
「姉と結ばれることが健全なのか!? とにかく落ち着け月姉ーっ!」
神にも祈りたい月音は手を組んで必死になり、凪が慌てて彼女をなだめる。当の祭神であるククリはすぐそばでキョトンとしていた。サクラはケラケラと笑い出し、イコナは呆れてため息をつく。沙夜と色葉も揃って笑い出した。
「ぷっ、あはははっ! やっぱり変なカップルだよね。――あれ?」
笑いすぎて涙が出てしまっていた沙夜が、凪たちの後ろに視線を向けて目を擦る。
「今、そっちに和服の女の子たちがいたような……んん、気のせい……?」
こうして凪たちは沙夜と色葉、そしてククリとも別れを済ませ、イコナも『神足通』を使って自分の神社に戻っていった。
残ったのは、いつもの三人。
月音が凪にお守りを返却した後、月音は頑張った凪をおんぶしてあげようとしたが、凪は遠慮して逃げようとする。
「ねぇねぇ凪ちゃん、帰ったら一緒に温泉だよ! 楽しみだねぇ!」
「だから一緒には入らんて! ああもう、サクラー助けてくれー!」
そんな二人の後ろ姿を、サクラはニコニコと見つめていた。
凪と月音。二人の間には、太く、大きな、清らかな、強い〝縁の糸〟が輝く。
最初から存在していたその縁は、凪がサクラと共に旅を始めてからより強く、美しくなった。それは、二人の関係性がより深まったことを意味していた。
「……いいなぁ」
神様のつぶやきは、夜闇に吸い込まれていく――。




