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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第六印 春雪の例大祭 ✿
53/72

第53話 新たな神朱印

 こうして、祭りは無事に開催。異常気象などの困難を皆で乗り越えたという達成感にくわえ、テレビの取材も押し寄せて、例年よりさらに盛り上がる例大祭となった。


疲労困憊であった凪と月音は、イコナとククリから神通力を借り受けることで一時的に体力を回復。そのおかげで、沙夜と色葉に引っ張られながら祭りを楽しむことが出来た。もちろん、サクラたち神様もすぐそばで見守っていてくれていた。


 そして日が落ちかけた夕暮れ時。

 旅館に戻ろうとする凪たちを、ククリが鳥居の前まで見送りに来ており、凪はその場で彼女の『神朱印』を授かることになった。


「あの、ナギさん。今日は……本当に、あ、ありがとうございました……なのでっ!」


 ククリはキュッと目をつむり、足を伸ばして凪の頬に口づけをする。

 するとイコナのときと同じように、ククリの『神紋』が宙に浮かび上がり、それが凪の胸元に吸い込まれていき、身体が淡く光る。

 凪が早速その場で『神朱印帳』を開いてみると、三ページ目にしっかりとククリの朱印が刻まれていた。その鮮やかな神紋は見る者を魅了する。


「へぇ、雪の結晶みたいな押印もあって綺麗だなぁ……ありがとうククリ! けど、や、やっぱり神朱印は何度貰っても慣れないもんだな」


 凪が多少照れた様子でそう言うと、ククリはうつむき加減に縮こまる。 


「あ、あのっ、あ、あ、あんまり、こっちは、見ないで、ください、ね……」


 ササッと前髪で目元を隠しながらつぶやくククリ。その耳は真っ赤になっていた。また、イコナも何かを思い出したのかむずがゆそうな表情をしている。


「よし。これでまたあの子に会うために一歩前進だな。本当にありがとう、ククリ」

「い、いえ、そんなっ。お礼を言うのは、こちらなので、ですっ……」


 凪が握手のために手を差し出すと、ククリは慌ててそれに応え、凪の手を両手でそっと包みこみながらつぶやいた。


「……ナギさんは、とっても、あったかい、ですね」

「え? そうかな。俺って体温高いのか」

「ふふ……。サクちゃんが、一緒に頑張る理由が、わかる、気がします……。約束の人に、また、お会い出来ると……良いですね」


 顔を上げ、穏やかな笑みを見せてくれるククリ。だから凪も笑顔でうなずき返した。


 イコナが腰に手を当てながら言う。


「さーて、これで二人目の顕現神から神朱印を貰ったわけだけど、どう? なにせ神階の高いククリの力を授かったのよ。そろそろナギくんもあたしたちの力も感じ取れるくらいにはなったんじゃない?」

「ああ、うん。イコナも……サクラもククリも、こう、柔らかい光に包まれてる感じだ。それに、神社が薄い膜みたいのに覆われてるのも見える、かな?」


 イコナやククリの助力もあり、徐々に神通力をコントロール出来るようになってきたのか、凪は意識的に不可視のモノを視認出来るようになっていた。


「それはここの『神域』ね。神通力がより身につけば、そのうちもっといろんなモノが視えたり聞こえたりするわよ。例えば幽霊――なんて人もいるけど。いずれ、あたしたちみたいに神通力で奇跡を起こすことも出来るわ」

「ゆ、幽霊はちょっと嫌だけど、それは楽しみかもな。あ、それじゃあサクラやイコナがやった瞬間移動みたいのも出来たりするかな?」

「『神足通(じんそくつう)』のことね。ちゃんと修行を積めば出来るんじゃないかしら。ああ、ちなみに離れた場所から会話するのは『天耳通(てんにつう)』と呼ぶのよ。ともかく、このまま上手く行けば他の神の御利益だって満足に得られるでしょうし、縁結びも叶うでしょ」

「うんうんっ! すごいねナギ! サクラも早く力を取り戻せるようにがんばるから、そうしたらナギの縁結びさせてねっ!」


 凪の成長を自分のことをように喜んでくれるサクラの純粋さに、凪は嬉しくなる。


「ありがとう、サクラ。だけどさ、今回のことで俺、ちょっと反省したんだ」

「はんせい?」

「ああ。みんな普段から何気なく神様にお願いするけど、きっとそれだけじゃダメなんだ。神様に背中を押してもらったら、ちゃんと自分の足で前に進まなきゃいけない。ククリや町のみんな、沙夜ちゃんと色葉ちゃんを見ていてそう思った。だから俺も、サクラたちに縁結びを頼るだけじゃなくて、自分の力であの子と再会出来るように進んでいくよ。縁は、自分で守っていくものだからさ」


 感じた気持ちを素直に語る凪。それもまたサクラと共に旅を始めた凪の成長であり、そのことに月音やイコナ、ククリも得心したようにうなずいていた。



 だが――唯一サクラだけが暗い瞳で言葉をなくしていた。



 凪がサクラの異変に気付いて声を掛ける。


「……サクラ?」

「……え? ――あっ、ご、ごめんなさい! えと、やっぱりナギはすごいね! うんうんっ、サクラもそれが良いと思う! エライです!」


 パチパチを手を叩き、笑顔で称えてくれるサクラ。


 凪は確かに見た。先ほど、サクラの身体を覆う微量の神通力がざわっと一瞬だけ波を打ったところを。

 サクラは凪のためにいつも全力で、自分のことは後回しにしている。だが、彼女がとても大切な何かを隠しているのではないか。それを今、訊くべきなのではないか。

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