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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第六印 春雪の例大祭 ✿
52/72

第52話 想いを括る力

 凪はククリの頭に積もりかけていた雪をぱっぱと払う。


「ククリは優しいな」

「ナギ……さん……」

「確かにククリは、少し怖がりなのかもしれない。けどさ、それは常にみんなの気持ちを考えている優しい子だからなんじゃないかな。俺は、参拝者のために泣いてくれる神様なんて、なんだか身近に感じられて好きだけどな」


 凪が笑いかけると、ククリの頬がじんわりと赤く熱を持った。


「縁を結ぶことが神様の役目なら、結んでもらった縁を守っていくことは(俺たち)の役目だよ。もしも縁が途切れたなら、また新しく始めればいいんだ。俺は、そんな大切なことをみんなに教えてもらった。だからククリも、もっと俺たちを信じてほしい」

「しん……じる……」

「そうですよククリ様っ。ほら見てください、沙夜ちゃんと色葉ちゃん、笑ってます」


 月音の言葉で、ククリはゆっくりとそちらに顔を向けた。


 二人の小学生は、手を取り合って泣きながら笑っている。


「色葉! あのねあのねっ、サヤ、毎日ひめさまにおねがいしてたの! また色葉と一緒にお祭り来られますようにって! ずっとだよ! そしたら叶った!」

「うん! わたしも引っ越しする前にひめさまにお願いしてたんだよ。また、沙夜ちゃんと一緒に今年のお祭りに来られますようにって!」

「そっか! それじゃあやっぱり、ひめさまがサヤたちのおねがい叶えてくれたんだ!」

「うん! そうだよきっと!」


 沙夜と色葉は笑いあい、二人揃って御社殿の方角に向けて拍手を打った。



「「ひめさま! おねがいを叶えてくれて、ありがとうございました!」」



 笑いあう二人の姿に、ククリの頬を一筋の涙が流れていく。

 サクラが勢いよくククリに抱きついてきた。


「そっか……そっかそっか! ククリはすごいもん! すごい神様だもんね! だから、ククリは弱くなんてないよ! かわいそうじゃないっ! サクラ、まちがってた! ククリなら、きっとなんでも出来るよ! サクラもククリのこと信じてるもん!」

「サクちゃん…………わた、わたし……」


 堪えきれずに泣き出すククリの頭を、サクラが優しく撫でていく。ククリもまた、サクラの背中に手を回して抱き合った。


 そこでサクラが「あっ」と閃いたように言う。


「そっかぁ! イコナはククリのことを信じてたからあんなこと言ったんだね! すごーい! 厳しいのに優しいママみたい! イコナママー!」

「誰がママよッ!? ちょ、やめてったら! ママ言うな! ひっつくなぁっ!」


 そんなやりとりに一斉に笑いだす凪たち。イコナが顔中真っ赤になっていった。

 凪に寄り添う月音がつぶやく。


「ふふ。だから凪ちゃんはイコナ様の味方をしたんだねっ?」

「ああ。友達のために本気で怒るのって、すごく難しいし怖いことだろ。嫌われるかもしれないし、友達でいられなくなるかもしれない。だからこそ、そういうことがちゃんとできるイコナはすごいと思ったんだ。それに、サクラみたいにどこまでも友達に寄り添えることも必要だと思うし、尊敬する。二人とも、すごい神様だよ」


 凪の言葉に、月音は大きくうなずいた。

 ククリはこぼれ落ちる涙を拭い、震えた涙声でつぶやく。


「わたしの、わたしのしてきたことは……無意味じゃ、ないよね? 喜んでくれる人も、いるんだよね。わたし、みんなに、必要と、してもらえてる、かな?」

「うん! もちろんだよククリっ! だから、みんなで一緒にお祭り楽しもっ! みんな、ククリのためにお祭りをがんばろうって思ってるんだよ。それに応えなきゃ!」


 太陽みたいに明るく笑うサクラ。凪たちもうなずく。

 するとククリは、ようやくしっかりと前を向いた。その足に震えはない。


「……うん。サクちゃんがそう言ってくれるなら、そう、だよね。みんながこんなにしてくれてるのに……祭神のわたしがうじうじしてたら、だめ、だよね……。だって、わたし、神様(ククリヒメ)、なので……!」


 そこでククリが見せてくれた前向きな姿と発言に、凪たちの顔は晴れる。

 イコナが呆れたように笑い、降ってくる雪を手の平に乗せて言う。


「かなりキツいだろうけど、あなたの力ならこれくらい一人でやれるわよね」

「……うん! イコちゃんが、そう言ってくれるなら……!」


 大きな返事に、もう凪たちの心配は消えていた。


「わたしは、ククリヒメ。人を、縁を、絆を――括る」


 ククリの身体から、強い神通力の光が溢れた。


「《白き雪、清らかに心染めて。我が御魂と言霊により結び、清め祓う》」


 ククリは綺麗な音を立てて拍手を打ち、長い袖を振って両手を空へと広げた。



「――《祓・天ノ白雪(アメノシラユキ)》!」



 その身体から放たれた白光は境内を――神社全体を包んでいき、やがて街にまで広がって、天高く大空にさえ届いた。


 立ちこめていた暗雲が吹き飛び、現れた太陽が神社を目映く照らす。


 また、晴天の空からひらひらと白雪が舞い降りてきた。


 凪が手で触れてみると、その雪は不思議と温もりを感じるものだった。

 温かな雪は、街を埋め尽くしていた冷雪を優しく溶かし、世界が輝きを取り戻す。


 さらに、神社の上空に美しい虹が架かった。

 この奇跡に凪たちは目を見張り、境内の方からも喜びの声が上がる。神職も、氏子も、近くで店を営む人も、避難していた人々も、皆が空を見上げた。中にはありがたそうに手を合わせる人もいる。


 そこにひときわ大きい声を上げる者がいた。


「よっしゃあっ! これがオレらのククリヒメ様のお力だぜ! オイお前ら! 今年の祭りもバッチリ始められんぞ! その前にあの虹に手ぇ合わせとけ!」


 氏子総代のあの男性である。その声に皆が手を合わせ、ククリへと感謝を捧げた。


 凪も、月音も、サクラも、イコナも、沙夜も色葉も、すべての人々が笑顔になる。


 清らかで温かなこの神通力こそ、ククリヒメが持つ本来の力。

 想いを括る力。


 凪たちの笑顔を見て――ククリもまた、心から嬉しそうに破顔した。


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