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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第六印 春雪の例大祭 ✿

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第50話 主人公にはなれない


 そんな二人を見つめていた神様――ククリもまた、泣いていた。


 沙夜のことは、よく知っている。いつも自分に温かい信仰をくれた。どうにかしてあげたい。彼女の縁を結んであげたい。いつもそう思っていた。けれど、未熟な自分ではどうすることも出来なかった。ククリにも、結べない縁があった(・・・・・・・・・)


「わたしは…………きっと、主人公には、なれない、ので…………」


 ククリがよく読む本の世界では、主人公は勇気を持って困難に立ち向かい、最後にはそれを打破する。みんなが笑顔になる。幸せになる。ハッピーエンドが好きだった。自分もそんな勇気ある主人公になりたいと願ってきた。


 そして願うたびに、現実の自分が嫌いになる。


 神様なのに。


 みんなを幸せにしたいのに。


「サクちゃん……イコちゃん…………たすけて……」


 ククリは自らを恥じた。


 自分は、あの頃から何も成長していない。

 弱く、惨めで、力が無い。そのせいで悲しい思いをする人たちがいる。


「寒い……寒いよ……たすけて、たすけて……たすけてよぅ…………」


 立派な主人公になりたくても、情けない自分を変えたいと思っても、何かあれば友に頼ってしまうだけの自分が、一番、大嫌いだった。


 ククリの胸元の神紋がまた変化を始め、乱れた神通力がさらに天候を急変させ、猛吹雪が世界を白に染めていく。月音は沙夜を守ろうと必死に抱えていた。


 ククリは叫ぶ。



「もうやめてっ! やっぱり……わたしなんて、わたしなんて、いらない……!」



『自分なんて、要らない』


 ククリがとうとう自らを完全に否定してしまおうとした、そのとき――



「――沙夜ちゃぁんっ!!」



 女の子の高い声が響いた。


 その声にククリと月音――沙夜も振り返る。


 瞬間、吹雪が止んで視界が確保された。

 月音はそっと沙夜にマフラーを巻き返し、微笑んで軽く背中を押す。

 沙夜は月音の顔を見てうなずき、ゆっくりと、歩き出した。


色葉(いろは)……色葉ぁっ!」


 走る。


「沙夜ちゃん……沙夜ちゃん!」


 色葉もまた走り出して、二人は転びそうになりながら抱き合う。

 沙夜はぽろぽろと涙をこぼし、声を詰まらせながら言った。


「いろはぁ、ごめん、ごめんね。ごめんねごめんねごめんね! ごめんなさいっ! サヤがバカだから、ケンカしたままで、もう、会えないって、思って」

「わたしもごめんねっ! 沙夜ちゃんにもっと早く相談して……それで、また一緒にお祭りこようねって約束すればよかったのに……嫌われるのが怖くて、何も話せないまま引っ越しちゃったの。ごめんね、ごめんね沙夜ちゃん」


 抱き合う二人は身を離し、お互いに泣きながら笑った。降り積もる雪や寒さなどまったく気にせず、長い間離れていた距離を埋めるように話し始める。


 一方、色葉を無事に送り届けた凪とサクラ、そして帰り際に合流したイコナの三人は月音の元へと駆け寄る。


「月姉っ、沙夜ちゃんを見つけてくれたのか!」

「うん、おかえりなさい凪ちゃん。サクラ様も。それに、イコナ様まで?」

「途中で助けてもらってさ。サクラとイコナのおかげだよ。それより月姉、体調は?」

「大丈夫! 凪ちゃんのお守りのおかげかな、本当に元気になったんだよ!」

「はいはいツキネさんも無茶しない。これ着て休んでなさいな!」


 その場でイコナがもう一着分の羽織を用意し、月音にかけてくれる。


「まったく。それで? これからどう責任取るつもりなのよ――ククリ」


『え?』と凪たちの声が揃う。


 イコナの視線はある木の方に向いていて、そこからククリがそっと姿を現す。

 彼女の存在に気付いていなかった凪や月音が驚愕した。


 ククリの胸元――浮かび上がる彼女の『神紋』が不安定にうねり、形を変えようとしている。そしてまた空から大雪が降り始めた。

 ククリは何度も目元をぬぐい、嗚咽を漏らしながら口を開く。


「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……。ぜんぶ、わたしのせいなので……」


 その切ない泣き声を聞いて、サクラが駆けた。


「ちがうよククリっ!」


 サクラはククリの手を強く握りしめ、目を見つめて伝える。


「ククリが悪いんじゃないもん! ククリはいつもみんなのためにがんばってて、みんなもそんなククリが好きなんだよ! だってサクラがそうだもん! たくさんの縁を結んで、みんなを幸せにしたんだよ! なのに、そうやって自分を悪く思ったらダメなの! ダメなんだよっ!」


 必死に語りかけるサクラに、ククリはまた涙をにじませる。


「でも……わたしは、だめなの。みんなに、すごく迷惑をかけて、もう、むりだよ……。わたし、わたしなんて…………サクちゃん……イコちゃん……たすけて……」

「ククリ……」


 サクラはただ、震えるククリを優しく抱きしめた。安心させるように。ククリが心身共に弱り切っているのは、誰の目にも明らかであった。

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