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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第一印 桜の社(やしろ) ✿
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第5話 伝説の縁結びルート

 スマートフォンでネット検索をし、『伝説の縁結びルート』なる情報をまとめたサイトを表示する月音。この伝説が今、ネット上で大きな噂となっているのだ。


「我が地元ながら上手い町おこしだね。その一社になってるうちもしっかりしてる!」

「おかげで観光客もだいぶ増えたみたいだしなぁ。海外の人も見かけるようになったし、全国的な御朱印ブームに上手く乗れたのかもしれないな」

「そうだね~。最近はアニメなんかとコラボして、立派な地域振興にもなってるところもあるから、うちでもさらに何かしようかってお母さんたちが話してたよ。学校でも『御朱印ガール』始めましたって、うちの御朱印帳を見せてくれる子も多いのっ」

「月姉のデザインした新しい御朱印帳が可愛いって、女の子にはかなり好評みたいだからね。すごいじゃん月姉。さすが巫女さんだ」

「えへへへ。褒められちゃったぁ~。でも、どうして最後の一社だけが見つからないんだろうね。記載忘れかなぁ?」

「いや、この伝説って実は結構古いものみたいでさ。今はなくなった神社があるんじゃないかって話だよ。ただ、それならそれでネットにくらいは情報が残りそうなものなんだけどなぁ。地元の人に訊いても、知ってる人が誰もいないのも妙だし」

「うんうんっ、なんだか不思議なお話だよね」

「ま、そのおかげで『隠された最後の一社を探せ』、みたいに盛り上がってるから、結果としては良い町おこしになってるんだけどね」


 話しながら、鞄から一冊の御朱印帳を取り出す凪。

 これは月音がデザインした『天乃湯神社』の御朱印帳で、温泉マークと桜の散りばめられた美しい装丁が人気だ。税込み千五百円。専用の収納袋は千円で、絶賛頒布中である。

 中を開いて軌跡を辿れば、各神社の鮮やかな朱色が記されている。元々、御朱印集めは凪の妹――汐の趣味だったが、ある理由によって凪はそれを受け継いだ。

よく見れば、車内にも御朱印帳を持つ観光客がちらほらといる。現代では誰でも気軽に始められる御朱印巡りではあるが、凪が御朱印を集める理由はだいぶ特別だった。


 幼い頃の夏祭りで出逢い、それからは夢の中でしか会えていない思い出の少女。

 あの子との『約束』を守るため。

 自分を救ってくれた彼女と再会を果たしたい。そのために、何年も掛けて御朱印集めを続けてきたのだ。


 ――と、そこで月音がじ~っとこちらを見ていることに気づく凪。自ら「じ~」なんて擬音を口にしているところから、気付いてほしいのがみえみえだった。


「はいはい、何ですか月姉」

「凪ちゃん、また〝思い出の子〟のこと考えてたでしょ。そこまでその子に会いたいの? お姉ちゃんよりも好きなのっ? ラブ度何パーセントですか!?」

「うわっ、月姉声が大きいって!」

「むう~。今日は生徒会のお仕事があるから一緒に行けないけど、お姉ちゃんがいないところでこっそり再会してお役所に婚姻届出したら許さないからねっ! 凪ちゃんはお姉ちゃんが幸せにしてあげるんだから!」

「このお姉ちゃんは今日も平常運転だな……ってうわっ!?」


 よくわからない怒り方をする月音をあっさりスルーする凪だったが、突如バスが揺れて体勢を崩す。その際、座っていた月音の上にもたれかかりそうになってしまったため、とっさに手を出して月音の豊満な胸を思いきり鷲掴みにしてしまった。


「ひゃんっ!?」

「ご、ごめん月姉! いやこれは不可抗力でっ」


 慌てて月音から手を離す凪。制服越しに感じられたその神秘的柔らかさが手に残る中、触られた方の月音はなぜか頬を赤らめてデレデレ喜んでいた。


「えへへ……揺れるからしょうがないよねぇ。あ、そうだっ。危ないから、凪ちゃんはお姉ちゃんの上に座っててもいいよ。はい、どうぞ~」


 ポンポンとタイツに包まれたふとももを叩き、羞恥心もなく微笑む月音。


「はいっ? いやいやいいよ! ていうか人の目あるからっ!」


 周囲には観光客はもちろん、同じ学校の生徒たちもチラホラといたため、凪は慌ててその申し出を断った。だが、もはや学校で噂されるのは避けられないだろう。

 すると月音は、頬をフグのようにぷくりと膨らませた。


「む~。小さい頃は素直に乗ってくれたのにっ。お姉ちゃん柔らかくて良い匂いがして好きって言ってくれたのに! お姉ちゃんと結婚してもいいよって言ってくれたのに!」

「うわあああそんなこと覚えてないって! こんなとこで俺を辱めないでくれっ!」

「若者のお姉ちゃん離れだよぉ……!」


 両手で顔を覆う月音の仕草に、周囲からさらに奇異の目が向けられる。

 凪は感情豊かな従姉妹に長いため息をつき、目の前のブラコンすぎる若者も弟離れしてくれないかと願うばかりだった。

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