第35話 白姫神社
カレンダーは五月に移り、世間はゴールデンウィークへと突入。
その連休を利用して、凪たちはいよいよ石川県へ出発。新幹線を乗り継ぐ長旅が始まっていた。
「『えきべん』っておいしいねー! ツキネ、おかわりください!」
「もうありませんよ。旅の貴重なお金なんですから節約ですっ。節約した分で良いお宿に泊まれるんだから我慢してくださいね」
「はぁ~い。イコナとも一緒にきたかったなぁ。ねーナギ!」
「そうだな。にしても、今度はサクラと新幹線に乗るなんてなぁ」
移り変わる車窓の眺めを子どものように楽しむサクラ。
前回、イコナの『蒼静神社』へ向かったときもそうだったが、どうやらサクラは電車が好きなようである。もちろん彼女の分の運賃が掛かることはなく、端から見れば凪と月音の二人旅であるのだが、サクラと共に進む道中はなんだか新鮮で楽しい気持ちになる凪であった。そして、そんな凪よりもずっとテンションが高いのが月音で、朝からずっとニッコニコである。
「月姉、今日はなんだか一段と楽しそうだね」
「うん! だって凪ちゃんと二人でラブラブ温泉旅行なんだもん~! それに石川は美味しい物がすごく多くてね、本場の加賀棒茶を飲んでみたいし、能登牛やハントンライスも食べてみたいなぁ。何より、凪ちゃんと温泉に入れるの楽しみなんだぁ!」
「まるで二人で入るのが当然のような言い方ですね!」
「え? それ以外にないよね? のんびり混浴だ~うふふ~楽しみ~♥」
「こ、このお姉ちゃん本気だ……!」
ピンクな世界に浸りきっている月音には、もはや何も言い返せない凪である。
そんなこんなで、夕方頃には無事に石川の老舗温泉旅館へと到着。神社だけが目的ならば一泊でも十分なのだが、せっかくの旅行なのだから観光してきなさいと朔太郎と初音から援助を受け、なんと三泊四日の贅沢な旅程となっていた。
日本三霊山の一つである『白山』を望める部屋は見晴らしが良く、海と山の幸がふんだんに使われた料理も豪勢。何より貸し切り可能な混浴の家族風呂が備わっていることがサクラと月音を大いに盛り上げたが、旅の疲れもあり、三人はなんら色っぽい展開を迎えることもなく、朝までぐっすりと熟睡したのだった――。
翌朝からは早速目的の神社へ向かい、旅館からバスで十分ほど揺られて到着。
残念ながら天気は崩れはじめており、厚い雲が空を覆ってしまっている。そのせいなのか妙に肌寒く、次第に雨が降る可能性も高いとのことだった。
「う~。せっかく凪ちゃんと温泉お泊まりだったのに、ぐっすり寝ちゃったよう」
「まだ言ってるの月姉。しかしあんな良い宿に泊まれるなんて、朔太郎さんと初音さんに改めて感謝だな……。って、おお~立派な神社だな!」
「わぁ~! サクラ、ククリの神社にくるのはじめて! イイところだねー!」
美しき霊峰白山に鎮座する加賀一の宮――『白姫神社』。
その『一の鳥居』から始まる表参道を進み、濃い緑の杉並木を横目に緩やかな坂を上っていく凪たち。白山信仰の地である本神社は北陸でも屈指のパワースポットとして大変に有名で、恋愛成就のイベントが多く行われてきた歴史ある名社である。そのため、若い女性を中心に全国から多くの人々が縁を求めてやってくる。
三人はそのまま境内を進み、神聖な空気に浸りながらまずは参拝を済ませる。凪はもちろん、思い出の子と再会できるようそれはもう熱心に手を合わせた。
「それにしても、なかなかすごい人の数だなぁ」
改めて境内を見回す凪。ゴールデンウィークということで非常に多くの参拝客が訪れており、御朱印やお守り、絵馬、自由に汲める白山の霊水も大人気の様子。豪華な装飾の神馬舎の前で写真を撮る子どもたちなどもいる。
また、翌日に行われる『例大祭・夕御饌祭』に向けて、氏子たちが最終準備を進めている最中であり、それがこの賑やかさに拍車をかけているようだった。
「凪ちゃん凪ちゃんっ、やっぱり社格の高いお社はすごいね! お姉ちゃんも、凪ちゃんとの子どもは娘二人がいいですってお願いしたから叶うよねっ!」
「もう結婚飛び越えてるお願いやんけ! ――ん? あれ、そういやサクラは?」
そこで凪は、サクラが絵馬掛けの近くにいることに気付いた。




